第三回Adobe Analyticsユーザー会2023セッションレポート①: Adobe Target / Adobe Analyticsを用いた3つの施策事例(ディップ株式会社様)
先日コロナ禍で活動休止していたAdobe Analyticsのユーザー会が2022年7月8日、3年ぶりに復活しました。10月26日に第二回を、そして2023年2月21日には第三回ユーザー会を開催し、Adobe Targetおよび Adobe Analyticsの活用事例をテーマに、ユーザー様による登壇セッションやクイズなどを交え、ご参加いただいたユーザー様と議論しました。
今回のセッションでは「Adobe Targetによるパーソナライゼーション施策とAdobe Analyticsの分析事例」と題して、ディップ株式会社様、パーソルキャリア株式会社様にご登壇いただきました。本記事では当日のセッションレポートの第一弾として、ディップ株式会社様(以下、ディップ社)が実際に実施された、Adobe Analytics/Adobe Targetを用いた3つの施策事例についてお届けいたします。
スピーカー:
ディップ株式会社メディアプロデュース統括部メディア編集部
浮田 和真 様
ディップとは?
ディップ社は、「Labor force solution company」というビジョンの元、人材サービスとDXサービスを提供し顧客企業の成長を支援しています。
Adobe Analyticsを活用している部門は現在2部門で、はたらこねっと課とバイトル課に分かれており、求職者からの応募最大化をミッションとして、現在全体で38名がAdobe Analytics/Adobe Targetを利用しています。浮田様は2020年4月に新卒でディップ社へ入社され、入社後から現在に至るまでWebディレクターとして、『バイトル』や『はたらこねっと』といった人材サービスサイトのUI/UXの改善に取り組まれています。
年間200施策、2年間の応募数CVR170%、Adobeアダプションスコアは世界TOP1%
ディップ社ではAdobe AnalyticsとAdobe Targetを契約しており、この2つを活用して課題発見から活用、施策実行、効果検証までを実施しています。
昨年度の実績で、施策は週4でリリースし、金曜日以外は何かしら施策を行うという驚異的なペースで改善を続け、コンバージョンレートはこの2年間で1.7倍となっています。またアドビカスタマーサクセスチームが提供しているアダプションスコアという活用度スコアに関しては世界トップ1%以内に入る活用体制を構築しています。
Adobe Analytics/Adobe Target活用事例①:EFO改善
そんなディップ社が実際に行った施策事例の一つ目としてご紹介するのが、『バイトル』を対象とした「入力フォームの最適化」です。
現在、バイトルではアルバイトへの応募時に必要な情報を、上図の様にユーザーに一問一答形式で入力してもらう様なUIになっています。
現在の形式になる以前は、一つの画面に全ての入力項目を表示させるUIでした。そこから入力項目の並び順を変えたり、チャット形式にしたりといった形で改善を繰り返し、現在の一問一答形式に至っています。
どのように改善してきたか
◎事前分析
入力フォームの改善に向け、まずはAdobe Analyticsによる分析を実施しました。具体的には、各入力項目の フォーカスイン(ユーザーがその項目を入力しようとしたか)と フォーカスアウト(実際に入力完了したか)をカスタムリンクで全て計測しました。その結果、入力フォーム画面にアクセス後、そもそも 一番最初の項目に入力しようとさえしないユーザーが大半 だということがわかりました。
◎改善へのステップ1:入力項目の並び順を変えてABテスト
分析結果から、そもそもフォーカスインしてもらえていないことが課題であるとわかったため、より気軽に入力してもらいやすいよう選択形式の項目を上に持ってきたパターンを作成し、まず1回目のABテストを実施しました。
その結果、一番上に並び替えた項目のフォーカスインが大幅に改善されました。しかしその一方、名前や電話番号などの個人情報に関わる項目の入力率は中々上がらないまま、という新たな課題が残りました。
◎改善へのステップ2:チャット形式に変えてABテスト
ステップ1で生じた新たな課題を踏まえて、個人情報に関わる項目に関してもコミュニケーションを取るような感覚で気軽に入力してもらえるよう、チャット形式にしたパターンを作成 し、再度ABテストを行いました。その結果、個人情報に関わる項目に関しても入力率が大幅に改善されました。
◎改善へのステップ3:一問一答形式に変えてABテスト
ステップ2ではチャット形式のUIが大きな改善効果を生みましたが、「ユーザーがさらに気軽に、サクサクと入力できる様な形式ははないだろうか」という思いがありました。そこで、当時リニューアルされたばかりのアプリ版では既に取り入れられていた、一問一答形式のパターンをWEBサイト版でも作成し、さらなるABテストを実施しました。
その結果、一問一答形式のUIの方がより高いCVRのリフトを獲得し、勝者となりました。こうして何度も改善を繰り返し、最終的に現在の一問一答形式にたどり着いたのです。
Adobe Analytics/Adobe Target活用事例②:新商品企画のPOC
続いて二つ目の施策事例としてご紹介するのは、Adobe Target / Adobe Analyticsを使用し、新商品企画のPOC(Proof of Concept=実証実験)を行った事例 です。
この施策の対象となったのは『こだわりリスティング』という新商品で、従来のリスティング広告とは異なり、ユーザーが実際に閲覧している仕事と同じ特徴(条件)が設定されている仕事を表示する、という様なリスティング広告になります。
背景
通常、新商品を本開発するとなると、非常に大きな工数がかかります。特に既存のリスティング商品と同じようなものを作る際には、別システムの入稿管理システムを改修する必要もあるなど、影響範囲がかなり大きくなってしまうという懸念がありました。
その様な背景から、まずはそもそも商品として本当に良いものなのかということを確かめるべく、Adobe TargetとAdobe Analyticsを使用し、簡易的に効果検証を行いました。
Adobe Targetでの実装
まずAdobe Targetで、入稿管理システムを通さずに疑似的にリスティング広告を出すような仕組みを、以下二つのポイントに注力し、実装しました。
・対象の仕事のみのコレクションを作成
・ユーザーの行動データ(検索条件など)を蓄積し、ユーザーにはその対象となる仕事の中でも よりパーソナライズされた仕事を表示
Adobe Analyticsでの計測
さらにAdobe Analyticsを使用し、以下の様な計測を行いました。
・計測用にイベント変数(eVar)を追加し、新商品による応募貢献がどれくらいあったかをマーチャンダイジング化して計測
・サイト内にある70以上の特徴すべてを網羅し、それらの内、表示する仕事を決めるキーとなっている特徴がどれかをカスタムリンクを使って計測
結果
これらの検証の結果が良かったこともあり、『こだわりリスティング』は最終的に無事商品化され、2023年1月に正式リリースとなりました。企画立案からPOCを実施するまでが約二ヵ月、最終的に正式リリースするまでがわずか半年という超特急のスケジュールでしたが、Adobe Targetをフル活用し 、本開発に踏み切る前に低リスクで素早く検証を行うことで、その様な短期間での商品化を実現 することができました。
Adobe Analytics/Adobe Target活用事例③:レコメンド改善
最後に三つ目の施策事例としてご紹介するのが、『バイトル』『はたらこねっと』を対象としたレコメンド改善の施策になります。
現在両サイトでは、ユーザーのニーズに合わせた条件軸に絞ったレコメンドが表示されるようになっています(例:見ている仕事の仕事場と同じ駅の仕事をレコメンド)。この状態に至るまでに、両サイトにて様々なABテストを実施し、改善を重ねてきました。
どの様に改善してきたか
レコメンドの改善に向け、『チューニング計画』と題し、Adobe Targetを使用してどの様な項目でチューニングができるかを洗い出しました。そのうえで、洗い出した各項目に関して順にABテストを実施し、最適化を図っていきました。今回はその中でも、「インクルージョンルール」の項目で行ったABテストについてピックアップしてご紹介します。
駅レコメンド/職種レコメンド/勤務地レコメンド/給与レコメンド、軸のABテスト
まずはじめに、『①駅』『②職種』『③勤務地』『④給与』という、それぞれ軸の異なるレコメンドを表示させ、どの軸に沿ったレコメンドを出すのが最も効果的なのかをABテストで検証しました。
その結果、職種レコメンドが最も効果的であるとわかりました。考えられる理由としては、職種に絞ったレコメンドの場合、表示率が非常に高いということが挙げられます(駅や勤務地に絞ると表示率が悪くなってしまうというデメリットあり)。また、バイトルのユーザーは若年層の方が多いため、アルバイトを探す上である程度のざっくりとした職種がすでに決まっているパターンが多い、といった背景もあると考えられます。
駅レコメンド・職種レコメンドの出し分け・表示位置のABテスト
続いて、「インクルージョンルール」の項目に「見た目」を掛け合わせたABテストを実施しました。先ほどのABテストで、職種を軸としたレコメンドが最も効果的だったという結果が出ましたが、実は駅を軸としたレコメンドも、表示されさえすれば非常に効果的だったことも同時にわかっていました(※職種レコメンドが表示された場合、駅レコメンドは表示されない)。そこで、どちらのレコメンドも表示させた場合はどうなのか、またそれぞれの表示位置をどうするかによって違いがあるのかを検証するべく、次のABテストを実施しました。
具体的には、『①職種レコメンドのみ』『②駅レコメンドのみ』『③両方表示(職種レコメンドを上に表示)』『④両方表示(駅レコメンドを上に表示)』という4つのパターンでテストを実施しました。
その結果、『④両方表示(駅レコメンドを上に表示)』のパターンが最も効果的だったということがわかりました。駅レコメンドは表示されにくい反面、やはり表示された場合はそれぞれのユーザーによりパーソナライズされた案件が表示されるため、このケースでは駅レコメンドが優先して上に表示される④のパターンが勝者になったと考えられます。
職種レコメンドの「職種カテゴリー」別のABテスト
最後に、同じ職種レコメンドでも、どのカテゴリー(大職種・中職種・小職種)に絞ったレコメンドが最も効果的なのかを検証するABテストを実施しました。
その結果、中職種で絞ったレコメンドが最も効果的であるということがわかりました。理由としてはやはり小職種では絞りすぎ、逆に大職種ではざっくりしすぎで探している仕事と違うものがレコメンドされることがある(コンビニの仕事を探しているのにアパレルの仕事がレコメンドされる、など)というケースが多いため、その中間の中職種が丁度良かったのではないかと推測されます。
まとめ
このようにしてABテストを繰り返し、改善を重ねていくことで、現在のレコメンド形式を実装するに至りました。Adobe Targetのレコメンド機能は、色々なカスタマイズが出来る機能です。だからこそまずはしっかりと計画を立て、「どこまで」「どのような順番で」検証していくのかを定めたうえでABテストを重ねていくのが非常に重要です
次回のレポートでは、パーソルキャリア株式会社様による登壇セッションについてお届けいたします。
≪Adobe Analyticsユーザーグループについて≫
Adobe Analyticsユーザーグループは、日本国内のAdobe Analytics、Adobe Target及びData Insightsに関連する製品のユーザーコミュニティです。 ユーザー同士のベストプラクティスの共有、問題解決、ネットワークの構築を行うことで、製品の知識や活用を高めましょう。各回では業界のリーダーであるユーザーの方々にお越しいただき、様々なトピックを取り上げ、専門知識を共有いただきます。
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