苦労して学んだリーダーたちが語る、成功するデザインシステムのヒント | アドビ UX 道場 #UXDojo

近年、デザインシステムはごくあたりまえの存在になりました。大手ブランドは例外なく導入済みであるかのように見えますが、これにはちゃんとした理由があります。デザインシステムは、デザインに注力している企業が手作業に費やしていた膨大な時間を節約します。デザイナーはより創造的あるいは革新的な目標のための時間を与えられ、ブランドはユーザーのために一貫した体験を生み出せます。

ですが、正しく管理されていなければ、デザインシステムは容易に進むべき道を外れます。幸いなことに、ビジネスの成果を向上させるデザインシステムの構築と導入に関しては、すべきこととすべきでないことを、苦労して学んだデザインリーダーが増えています。

これからも、デザインシステムの重要性は高まり続けることが予測されます。アドビは、複数のデザインリーダーから、デザインシステムの課題にどのように取り組んでいるのか、真に利用しやすいデザインシステムの構築に必要なものは何か、そもそもデザインシステムが本当に必要なのかなどの話を聞きました。この記事は、彼らが実践から学んだいくつかの洞察を紹介します。

インクルーシブなデザインシステムの構築

Hayley Hughes は Shopify の UX マネージャーとして、同社の Polaris Design Language System の管理を支援しています。以前 Airbnb と IBM でデザインシステムに携わっていた彼女は、この分野の豊富な経験を持っています。彼女は、チームの協業を支援できるデザインシステムを所有することは、価値あるユーザー体験を生み出すために非常に重要だと考えています。「それがシステムの持つ力です。デザインシステムはデザイナーと開発者の間に構築される共有言語であり、最終的に、彼らが構築する製品や、それを提供する人々に影響を与えます」と彼女は語りました。

その一方で、デザインシステムが、解決する以上に問題を生み出すことがあると、彼女は身をもって学びました。アクセシブルではないデザイン要素やワークフローがデザインシステムに組み込まれていると、一部のユーザーを排除し疎外する製品を生み出す可能性があります。IBM に在籍していたとき、彼女と彼女のチームは、デザイナー、開発者、プロダクトマネージャーを対象に、インクルーシブ関連のベストプラクティスを伝えるハンドブックの作成に取り組みました。このハンドブックのアイデアは、IBM が新しくつくり出したデザイン言語を公開しようとしていたときの「見落とし」から生まれました。公開直前に、IBM のアクセシビリティ最高責任者が、サイトの主要な側面がアクセシブルでないことを指摘し、同社はそれを修正するために公開を延期したのです。

「それはチームにとって大きな失望でした」と Hughes は、彼女と彼女のチームがデザイン言語のウェブサイトを開発した際の出来事を振り返りました。「私たちは、アクセシビリティの専門家や障害を持つ人々と一緒に働いていませんでした。色のコントラストなど、いくつかのことについては考えていましたが、実際には、アクセシビリティについて知らないことがたくさんありました。修正作業を行い、失敗から学び始めると、私たちは、サイトだけでなく、私たちの考え方も刷新することを決断しました」

IBM アクセシビリティハンドブックの表紙のイラスト。

IBM のアクセシビリティハンドブックは Hayley Hughes と彼女のチームによって開発された 出典: Evan Maeda

Hughes と彼女のチームは、アクセシビリティデザインのベストプラクティスを収めたオープンソースのハンドブックを作成し、更新されたデザイン言語と共に発表しました。アクセシビリティを重要な事項として掲げ、アクセシビリティの専門家や障害者と話すことを最優先にして、同社は今日のデザインリーダーと認識されるほどの成功を収めたと Hughes は話します。

「デザインシステムを長期的に使用するには、インクルーシブな考え方を持つ必要があります。これは中途半端なものでは駄目です。そして、ハンドブックから、ワークフローに統合するプラグインまで、人々にインクルーシブに対する積極的な行動を促すツールが必要です」。彼女は、失敗がきっかけとなって、彼女と彼女のチームの考え方が根本から変えられたと付け加えました。

製品だけでなく、人にも焦点を当てる

デザインシステムは、制作物を中心に考えるべきであるように思えるかもしれません。結局のところ、構築するものは、製品の機能を構築するために再利用するデザイン要素のライブラリなのです。しかし、最終的には、デザイナー、開発者、経営陣などの関係者たちが、どのようにデザインシステムに接するかに注力することが重要になります。すなわち、彼らがより効果的に仕事をするために必要なガイダンスを、本当に提供できているのかを考えるということです。

「私たちは、製品だけでなく、人々にも配慮して、チームのミッションを再構築しなければなりませんでした」と Hughes は、Shopify での後期の仕事を振り返りながら言いました。「私たちのシステムを利用するコミュニティと信頼関係を築くために、私たちはどのように活動すべきなのでしょうか?」

その答えを見つけるべく、彼女のチームは、ステークホルダーがデザインシステムをどう思っているのかを把握するための活動を開始しました。ポジティブな部分とネガティブな部分を明らかにするため、デザインシステムに対してラブレターや別れの手紙まで書かせました。また、デザイナーが懸念を共有する場所として、オープンなフォーラムも設立しました。

「デザインシステムの価値は、それを使うチームとの関係性の強さ次第であると断言できます」。Hughes の考えでは、人々とデザインシステムとの関係を理解することは、デザインシステムがその目的を果たしているかを確認するための鍵です。それは、システムの開発に参加し、より良いものにしようと努力するチームや個人への報酬でもあります。

デザインシステムが本当に必要かどうか評価する

多くのブランドや企業にとって、デザインシステムは意味のあるものですが、すべての状況で意味を成すわけではありません。Deloitte Digital UK の創設者でクリエイティブディレクターの Helen Wallace は、ある種の企業の場合、デザインシステムが生産性を低下させる可能性があることを指摘します。

「デザインシステム全体の目的は、再利用によって、それまでに行った作業を最大限に活用することです。もし、将来的に再利用する機会がないのなら、デザインシステムは不要かもしれません」と Wallace は語りました。彼女の意見では、デザインシステムを明確に必要とする企業は、特定の規制や法令に従う必要のある金融サービスや製薬会社などです。そうした企業は、ブランディング、メッセージ、各種タッチポイントにおける体験の一貫性を確保する必要があります。

それ以外のタイプの企業、例えば単一の製品を製造していたり規模が小さな企業は、デザインシステムへの多額の投資が、十分な見返りのないものになるかもしれません。その上、制約が多くなることで、デザイナーの革新する能力を妨げたり、新しいクリエイティブなアプリケーションを考え出せなくなる可能性もあります。

新しいデザインシステムを構築しようとしている企業に対して、Wallace のアドバイスは、ローマを一日で成そうと試みないことです。「まず、デザインチームが最もよく使用するコンポーネントや要素を確認しましょう。もしそれを知らなかったら、デザインチームに聞くべきです。デザインシステムは環境に応じて成長するべきもので、時間の経過とともに見直しと修正を繰り返す必要があります」

デザインシステムには支援者が必要

デザインシステムから利益を得られると判断したとき、そこから困難が始まります。ビジネスチームからデザインシステムに対する賛同を得ることは容易ではありません。説得するには、適切なステークホルダーに対して適切な言葉を使って彼らの参加を動機付けられる能力を持った、デザインシステムの支援者を組織内に見つける必要があります。

「クリエイターにとって重要なのは、時間を節約し、よりクリエイティブになり、あまりに多くのルールに束縛されないことです」と Wallace は言いました。「しかし、ビジネス側のステークホルダーと話すときは、ビジネスの成果に関する文脈で話すことが重要です」。この役割は、デザインシステムが確立された後も、長期的に必要になります。

「測定可能な成果を示す必要があるでしょう」と彼女は付け加えました。コスト効率や時間効率の改善、同じ規模のデザインチームでより多くのアウトプットを制作できたなど、デザインシステムがビジネスにどのように貢献したかを、支援者は提示できる必要があります。

「デザインシステムによる成功や影響について語れなければ、その活動を維持することはできないと思います。ポジティブな成果を維持することは、デザインシステムが成功するためには非常に重要です」と Wallace は言いました。

デザインシステム構築と維持におけるエージェンシーの役割

デザインシステムを構築するためのリソースや専門知識が社内にない場合、どうすればよいのでしょうか?多くの企業にとって、その答えはエージェンシーです。クライアントのためのデザインシステムの構築は、Publicis Sapient でクリエイティブディレクターとして働く Erik Norgaard の得意分野です。デザインシステムの構築には多くのリソースが必要になり、長い時間を要します。都合よくデザインチームの規模を拡大したり、再編成する能力を持つ企業はほぼありません。

「私たちのクライアントの多くは、広告のブランディングに必要なツールはすでに持っています。ても、デジタルツールは持っていません。もちろん、一般的なバナーやフォントなどは持っていますが、より複雑なコンポーネントは持っていません。私たちは、彼らが持っているものから始め、彼らの嗜好を調べてそれらを修正し、最終的にシステムを再構築します」と彼は言いました。

Publicis Sapient は、クライアントのブランドアイデンティティに注意を払うことを重視しています。この点について Norgaard は、エージェンシーがクライアントのアイデンティを変えてしまわないことを保障するために、過剰につくり替えないことが重要だと述べています。

彼がデザインシステム構築に関わってきた数年間に、デザインシステムを欲しいと思っていても、それを維持する能力がない企業を繰り返し見てきたといいます。クライアントのためにデザインシステムを構築した 1 年か 2 年後に、実装の継続を支援するため、何度か呼び戻されたこともあるそうです。

「あまりに分析しすぎると、感覚が麻痺してしまいます。これは、デザインシステムの設計や維持にも当てはまります。本当に良いものをつくり、それを共有したら、さらに改善しなければなりません。エージェンシーとしての私たちの役割は、そのプロセスを手助けすることです」と彼は述べました。

デザインシステム構築は良いことをする機会

突き詰めれば、デザインシステムとは、ワークフローへのより組織化されたアプローチです。構造を用意して、容易に要素を見つけて再利用できるようにすれば、チームは良い仕事をすることに専念できます。実際、デザインシステムの構築は、その「良い仕事」を正確に定義するのに役立つことさえあります。チーム内、そしてステークホルダーとの関係構築が必須になるためです。

「もし良いデザインが良いビジネスに通じるのならば、両者の間をつなぐのは、良いこと、すなわち役に立つ何かをすることです」と Hayley Hughes は言いました。

「覚えておきましょう。デザイン面が優れているだけでは十分ではありません。人々のために良いことをするという点において、世界に影響を与えることこそが大切なのです」

この記事は Secrets of Successful Design Systems: From Leaders Who’ve Learned the Hard Way(著者: Patrick Faller)の抄訳です