研究内容を視覚化する価値と効果〜「研究職×デザイン 視覚化スキルを磨いて、国内外の研究プレゼンスを向上!」セミナーを実施

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研究者にとって、専門性の高い研究内容を多くの人にわかりやすく伝えるということは、簡単なことではありません。研究活動を適切に視覚化するデザインの力があれば、より効果的に伝えることができます。アドビでは、オンラインセミナー「研究職×デザイン 視覚化スキルを磨いて、国内外の研究プレゼンスを向上!」を2023年6月6日(火)に開催し、デザインの専門家を招いて、デザインの価値や研究の視覚化事例についてのレクチャーと、アドビ製品の活用ヒントを提供しました。

[Agenda]

基調講演:筑波大学 名誉教授 山中敏正先生
「研究の可視化をめぐるジレンマについて〜世界で戦えるデザイン力とは〜」

セッション1:東海大学 准教授 富田誠先生
「Visualize (Y)our Research | 研究概念の視覚化」

セッション2:アドビ デザイナー 近藤祐爾
「研究職に役立つデザインスキル・すぐに使えるテクニック」

基調講演

はじめに筑波大学 芸術系 名誉教授 山中敏正先生の基調講演「研究の可視化をめぐるジレンマについて〜世界で戦えるデザイン力とは〜」が行われました。

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山中先生はまず、ハーバード大学、ケンブリッジ大学、東京大学など世界の大学のウェブサイトを取り上げてトップページのデザインを比較。それぞれのデザインにどのような特徴があり、見る人にどう作用しているのかを解説しました。

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山中先生の資料より。各大学のウェブサイトのトップページのデザインを比較。海外大の方が伝えることを絞り込めている

トップページの役割は、内容を説明することよりも、見る人にまず説明を理解しようというモチベーションを持たせること。見る人の心を動かし印象づけるには、「伝えたいことをただ並べる」のではなく、まず見る人の知識を想定して、「伝えるべき知らないことを絞る」ことが大切です。どんな人に何を伝えたいかが定まると、伝達効率が上がります。

研究においても、説明自体は文章でしかできないものですが、絵や図と組み合わせることで、魅力的な印象を持たせることができます。ただし、研究を可視化するデザインにおいては、その絵にも説明力が求められることがジレンマになると山中先生は指摘します。説明力のある絵は研究を理解している研究者自身にしか描けませんが、文章の説明と同等の説明的な図になりすぎてしまうこともあります。読者を惹きつけつつ説明力のある絵に最適化することが、デザインの担う重要な力になります。

研究を説明する図を、読者を想定してより魅力的にするには、研究者とデザイナーが協業することが大切なのではないかと山中先生は結びました。

視覚化することで理解を助ける

続いて東海大学 教養学部 芸術学科 准教授 富田誠先生より「Visualize (Y)our Research | 研究概念の視覚化」の講演があり、まさに研究者とデザイナーの協業といえる事例と、研究者自身による視覚化の事例が紹介されました。

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富田先生は、研究の視覚化の類型として、科学的な内容を説明する「研究図版(Science Illustration)」、論文などの要約を視覚的に表す「研究概要図(Graphical Abstract)」、個人やチームの研究概念を視覚化した「研究概念図(Research Concept Diagram)」の3つを示した上で、それぞれの視覚化の過程を見せていきます。

例えば研究図版では、加速器という実験機器を使った研究活動を、親しみの持てるイラストで視覚化した事例が挙げられました。

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富田先生の研究室で東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの研究内容を視覚化したプロジェクト デザイン:植田育代

視覚化するために行ったのは研究者とデザイナー間での「イラスト交換」という手法です。研究者から装置の説明を写真や図で説明を書いてもらった上で、デザイナーがイラストのラフを描き、そこに研究者からコメントをもらうというやりとりを重ねて精度を上げていくのです。

「研究者自身が手を動かして視覚化していく、デザイナーもきれいなものを一気につくるのではなく、できる限りラフな状態で仮説的な図を研究者に返すということをしました。行き来をすることで、間違いのない確かな図が作られました」。

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イラスト交換の手法で研究者とデザイナーが協業してイラストができた

写真や複雑な図を用いるよりも、シンプルでやわらかいトーンのイラストで表現した方が内容がわかりやすいのは明らかで、視覚化することの価値が伝わってきます。

研究者自らがワークショップを通じて研究概念を視覚化

研究概念図の例では、研究者自身が自らの研究内容を図式化するワークショップの様子が紹介されました。研究内容を図で表現する際の様々なハードルを、ワークショップを通して自然と越えられるよう導くのです。

「コレソレ Tangible Dialogue」というワークショップは、研究者が自分の研究内容を紙コップやスポンジなどの身近な立体物を使って説明することを通して、シンプルな図で表現する手がかりをつかみます。

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関西大学 研究推進部でのワークショップの様子。樋口 雄斗さん(関西大学 総合理工学専攻)が研究を身近なもので可視化して 説明したのちに (左)、端的な図の表現が導き出せた(右)

また、「Visualize (Y)our Research」というワークショップでは、研究者がまず、研究内容を平易で簡潔な言葉で整理した上で、等角投影図の図法を習得して、自ら実験機器などを視覚化します。図の作成を通して研究内容が明確になるだけでなく、図を研究グループごと、さらに組織全体でつなぎ合わせることで、研究組織全体の活動を俯瞰してつかむことができます。

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東海大学 マクロナノ研究開発センターでのワークショップの様子

これらのプロジェクトとワークショップの成果をふまえ、富田先生は、研究活動を視覚化することは、研究活動と成果を多くの人に的確に伝えるということだけでなく、研究者同士が分野を超えて対話することにもつながると指摘します。研究に関わる人が、考えを図にして話し合う「視覚的対話」を行えば、相互の考えや目的を寄せ合うような形で協働できるのではないかと提示しました。

研究職に役立つアドビ製品の活用ヒント

最後にアドビ マーケティング本部教育市場部 デザイナー 近藤祐爾より、研究職に役立つアドビ製品の活用ヒントが提供されました。特にAdobe Illustratorを取り上げ、画像トレース機能やシェイプの描画機能、シェイプビルダーなどで簡単に図を編集する方法をデモンストレーション。さらに多様な素材を購入できるAdobe Stock、生成AIで画像を制作できるAdobe Fireflyの機能を紹介し、手軽に印象的な画像を利用できることを伝えました。

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アドビ近藤がデモンストレーション。手描きのビットマップデータを画像トレース機能でベクターデータに変換できる

セミナー全体を通して、デザインの持つ意味、デザイナーと研究者の協業モデル、研究者自身がデザインすることの意義や可能性など、大きな視点でデザインの価値を捉えられる内容となりました。研究者の皆さんが、自らの研究を視覚化することの意義を感じられたのではないでしょうか。Adobe Fireflyのような新しい技術も気軽に試し、さまざまな視覚化に挑戦する研究者の皆さんが増えることを期待しています。

(文:狩野さやか)