継続的な成長のためのデザイン評価を考えよう | Design Leaders Collective

Design Leaders Collectiveは2022年4月からスタートしたエンタープライズで働くデザイナー向けのイベントです。スタートアップ、制作会社、代理店など組織体制や規模によって抱える課題は様々。本イベントでは、エンタープライズで働くデザイナーが直面する課題の情報共有とディスカッションを目的としています。

2023年 6月のイベントでは参加者の意見を交えながら、デザイナーとデザインの評価について情報交換しました。

もくじ

  • 多角的に評価を捉える
  • デザインの定義を狭めて素早く始める
  • 認識を深めることに時間を惜しまない

多角的に評価を捉える

McKinsey Designが2018年に公開したレポート「The business value of design」によれば、対象となった300のグローバル企業の経営陣のうち98%が自社のデザインを弱点と捉えていると述べています。その弱点と感じる理由は多種多様ですが、その中でも特に目立つのは、「客観的なデザイン評価手段を持っていない」と答えた企業が約半数を占めていたという点です。5年前と現在とを比較すれば、国内外のデザイン業界が進化していることは間違いありませんが、それでもなお、デザインの評価は容易ではありません。

DLC 参加者からも組織でどのようにデザインを評価しているのか意見を伺ったところ、いろいろなアプローチを既に実践されているのが分かりました。

事業組織内でのデザインの仕事は、単に物を作り出すだけで評価されるものではありません。それが事業の成長にどのような影響をもたらしたか、といった視点も重要でありますが、数値的な目標追求とデザインの品質向上は常に一致するわけではありません。事業への貢献が期待される一方で、現場で働くデザイナーが自分のデザインに自信を持ち、活動を続けられるような評価体制も必要です。

評価とは自己目標と他者の期待の組み合わせ

事業へのインパクトが期待されつつも、デザインの観点からの評価は不可欠です。「質が高い」「直感的」といった表現はよく用いられますが、これらは抽象度が高く、人によって解釈や評価が大きく変わる可能性があります。評価基準はマネージャーだけで決定するものではなく、現場のデザイナーが何を目指しているのかを明確にし、その上で共有し合える方法を見つけ出すことが求められます。そのためには、「納得のいくデザインを作る」といった表現にとどまらず、デザイナーが追い求める「良いデザイン」の具体的な定義を探求する時間を設けることが大切です。

デザインの定義を狭めて素早く始める

デザイナーの評価を多角的に行うことが理想ではありますが、あまりにも高い理想を掲げると、実際に取り組むスタートラインに立つことが難しくなることもあります。評価の仕組みを作ることはもちろん大切ですが、チームがどのように成長しているかを把握するためにも、前後の比較が可能な評価方法を用いることが重要です。そのため、評価の範囲が狭くても、早期に開始できる手段を模索すると良いでしょう。

例えば、ヒューリスティック評価のようにデザインの中でも特に使用性に焦点を当てたアプローチがあります。使いやすさは人や案件によって異なるという見解もありますが、ヤコブ・ニールセンによる「ユーザビリティヒューリスティックの10項目」を基に評価を行うことが可能です。この項目は定期的に見直されてはいますが、20年以上経つ今でもほとんど変わることのない定番の存在であり、ステークホルダーに対する説明も容易です。また、「我々にとっての使いやすさとは何か?」という議論を必要とせずに、すぐに評価を開始することができます。

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定期的に評価し続けることで、どこに課題があるか視覚化され改善の方向性が考えやすくなります。

ヒューリスティック評価は確かに計測や評価が容易な一方で、その手軽さだけを理由に選択するべきではありません。経営層の期待との関連性がなければ、ただ評価しているだけになってしまいます。たとえば、経営陣からプロダクトの品質に対する懸念が表明され、デザイナーが具体的に何をしているのかが見えにくいという課題がある場合、ヒューリスティック評価は有効な手段の一つとなるでしょう。

さらに、チームメンバーに対しても、評価の背景となる課題や、評価の結果を通じてどのような未来を追求しているのかを共有することも大切です。すべてが自動的に計測されるわけではないので、作業フローや時間の配分について調整が必要となります。そのため、評価を行うことは簡単な作業ではありません。半年や1年といった長期間にわたり評価を続ける必要があるからこそ、周囲の理解を得て共有する時間を設けることが重要となります。

認識を深めることに時間を惜しまない

今回はゲストで複数の企業に関わりながらディレクター教育を行っているプロジェクトマネージャーの江辺 和彰さんにデザイナーの評価についてお話していただきました。デザイナーの職務範囲や責任範囲は組織によって大きく異なり、その企業の文化、組織規模、あるいはそのフェーズに応じて評価制度も随時見直す必要があります。この課題は一瞥で解決するような単純なものではありません。

デザイナーに対する評価が難しいからこそ、多角的な視点での評価と、自己認識と他己認識を揃える必要性がある、というのが江辺さんの主張でした。上司から部下への一方的なフィードバックでは、自我と他者の認識が一致することは難しいだけでなく、評価の軸が評価する側の価値観に偏る恐れがあります。そうならないよう、多角的な視点からフィードバックを得ることが大切であり、その環境を整備することが求められます。その手段の一つとして江辺さんが紹介したのが、「ラブレター効果」を利用した1on1でした。フィードバックを行う場としてだけでなく、最近の行動や発言を評価できると思った点や期待する要素を明示することで、多角的な視点から評価について考える機会を作り出すことができます。

1on1用のドキュメントにラブレターを書き込む

デザイナーを含む全ての人材の評価は、理想的には公平であるべきです。しかし、全員が納得できるような公平な評価基準というものは存在しないのが現実です。その代わり、何を基準にどのように評価されているかが明確にわかる仕組みを通じて、自分自身とチームが目指すゴールへ向けた進歩が評価されていることを理解し、納得感を得ることもできます。評価の仕組みは組織によって異なりますが、自らそれを構築することで、組織におけるデザインが何を意味し、どのような役割を果たすのかが見えてくるかもしれません。