情報教育で表現の力を〜成城大学でAdobe Premiere Proによる動画編集授業

成城大学では、全学共通教育科目のIT科目の中で、Adobe Premiere Proによる動画編集を扱っています。コンピュータ・リテラシーとして動画編集の授業に取り組む成城大学 経済学部教授 阿部勘一先生と、受講する学生の皆さんにお話を聞きました。

情報教育の一環として表現の力をつける

成城大学の全学共通科目のIT科目「コンピューター・リテラシーE」の授業では、Adobe Premiere Proを使用して動画編集を行なっています。学部学年を問わず受講できる科目で、学生はBYODの個人PCを使用。同大が所有するアドビの学生用ライセンスパックのライセンスを、受講生に受講期間中貸し出すという方式を取っています。学生は授業時間外でも自宅でもいつでもアドビ製品を利用することができるのでとても便利です。

机の上に座っている人々 低い精度で自動的に生成された説明

授業の様子。学生のBYOD端末にライセンスが付与されているので通常の教室で授業を行うことができる

阿部先生は、「情報教育には、技術的な仕組みを知ったりスキルを身につけるということだけではなく、表現教育も含まれると考えています」と、授業の位置付けを説明します。映像編集の専門科目としてではなく、情報教育の一環として基本的な使い方を体験して、制作側の視点を習得することを目指しています。

映像を題材に選んだのは学生にとって最も馴染みのあるメディアだからです。「いつもなんとなく見ているものが、どういうふうに組み立てられていて、どのような意図が込められているのか、自分が表現の側にまわるとそれがいかにうまくいかないか……そのようなことを体感するのがメディア・リテラシーになると考えています」と阿部先生は話します。

学生の皆さんは、実際にどんな思いでこの授業を受講しているのでしょうか。

「動画編集をしてみたい!」が共通の思い

受講している学生の皆さんにお話を聞きました。経済学部4年生森田颯さん、法学部1年生小野薫さん、社会イノベーション学部2年生佐藤駿太郎さん、社会イノベーション学部1年生酒井颯太さんです。

白い壁の前に立つ男性たち 自動的に生成された説明

左から、森田さん、小野さん、佐藤さん、酒井さん

4人に共通するのは動画編集をしたいという具体的なイメージを持っていること。例えば酒井さんは、「ドラムをやっているので、“叩いてみた動画”を撮りたいと思っています」と明確です。まずはYouTubeにアップすることが目標ですが、将来的には「カメラの数を増やして多点動画を撮ってみたい」とイメージがふくらみます。

佐藤さんはすでにスマートフォンの無料アプリで動画制作を経験していて、所属する部の紹介動画を制作したこともあります。個人的にダンス動画を撮ってSNSでシェアすることも。パソコンで編集するPremiere Proはスマートフォンとは操作性が違うので少しずつ慣れているところです。授業だけでなく、「YouTubeにPremiere Proを使った動画編集の使い方が上がっているので、参考にしています」。

ゲームのプレイ動画を編集できたら、と考えているのは小野さん。良いシーンをつなげたり字幕をつけたりしてYouTubeやSNSでの公開も考えています。編集のスキルがついたら、所属する部の紹介動画などにも挑戦したいと思っています。「もし作る機会があれば、自分の力が少しでも足しになればと思います」。

森田さんはゼミでプログラミングやデータサイエンスなどIT系の技術を学んでいます。「パソコンを使うことが好きで、IT系とは別にパソコンでできることを増やしたいと思って授業を取りました」。ゲームのプレイ動画をまとめたり、所属するサークルの紹介動画を作れたらと考えています。プログラミングはコードと向き合う時間が長く成果物がすぐに見えないので、「動画編集は自分が作っている途中で進捗を確認しやすく、達成感が早く感じられてやっていて楽しいです」。

学生の皆さんにとってYouTubeや各種SNSで動画を発信するというのは非常に身近なこと。コミュニケーションの一部とも言えそうです。その一方で、実際に本格的に編集するきっかけは意外と少なく、Premiere Proのような十分なスペックのアプリを利用する機会もなかなかないため、この授業が一歩を踏み出すとてもよいきっかけになっていることが伝わってきます。

作り手の視点が身につき世界が変わる

動画編集を学び始めたばかりの学生のみなさんですが、世の中の動画の見え方が少し変わってきたようです。「今まで全くなんとも思っていなかったんですが……」「今まで全然気にしていなかったんですが……」と、動画への気づきを口々に語ってくれました。例えば動きのあるテロップの設定方法に興味を持ったり、音量の細やかな調整でシーンを際立たせていることに気づいたり、かっこいいと感じる部分はどうシーンを切り替えているのかを調べたりするようになったそうです。

これはまさに阿部先生の話にあった、表現の側にまわることで得られるメディア・リテラシーの姿そのもの。これまでは映像を消費する側の視点で見ていたのが、作り手の視点で見られるようになったことで、世界の見え方が確実に変化したことが伝わってきます。

動画が編集できるようになったら動画のサムネイルもこだわりたいという声や、iPad版のPhotoshopで画像編集や絵を描いているという声などもあり、Premiere Pro以外の他のアドビ製品の活用も広がりそうです。自分のPCでアドビ製品を利用できるメリットを活かして、学生の皆さんがクリエイティブな基礎力と視点を獲得していくのが楽しみです。

(文:狩野さやか)