倫理的な判断をデザインチームの基礎に焼き付ける | アドビ UX 道場 #UXDojo
Avalon Hu によるイラストレーション
デザインにおける倫理、中でも特にプライバシー、信頼、責任に関わるものは、今日のほとんどのデザイナーにとって、最も重要な課題といえるものです。アドビと IxDA が IxDD のテーマに「信頼と責任」を選んだのもそのためです。では、実践の場では、これは具体的に何を意味するのでしょうか?また、倫理的な意思決定に関して、デザインリーダーはどのようにすればチームがそれを確実に実行できるよう導けるのでしょうか?
そこで、トロントの民間および公共部門で働くデザインリーダーを集めて、彼らが組織の中でどのように信頼と責任を実践をしているのか議論し互いに共有し合う貴重な機会を持ちました。その成果として、デザインリーダ達が様々な分野で遭遇した経験を知ることができました。この記事は、21 世紀のデザインの世界で倫理的な意思決定をするための戦略について、彼らが語った主要なポイントを紹介します。
デザインチームの中に安全な場所を用意する
企業や組織の一員として働く場合も、社外のクライアントのために働く場合も、デザイナーは頻繁にサービスの提供と成果物の提出を任されます。これらの仕事には要求や期待がつきものですが、中には倫理的な境界が曖昧なものもあるかもしれません。例えば、クライアントが導入を望んだものがダークパターンだったときは、どう対処すべきでしょうか?声を上げて、クライアントをより良い方向に導こうと試みますか?それとも、それが自分に期待されていることだと受け止めて従いますか?多くの場合に、それを決定する要因は、どのようなデザインリーダーが舵取りをしているかに依存します。
出席したすべてのリーダーが同意したのは、デザイナーの多くが、与えられた指示や決定に疑問を投げかけないことで、その理由は、デザイナー達が、疑問を呈しても良いとは思っていないからです。この点に関してデザインリーダーは、「模範を示す」必要があります。すなわち、チームの誰もが疑問を自由に表現できるオープンな対話を行うのです。
あるシニアデザイナーが指摘したのは、かつてはプロセスに従って意思決定が行われていたが、現在はデザインが重要視されるようになったため、クライアントが判断することが増えたという点です。これに対処し、デザイナーがより良い世界をつくるべく働くには、反対意見を持つ人がいたら、誰でも発言できるようにしなければなりません。クライアントに言われたことだからという理由だけで、物事を判断するのは避けるべきです。
リーダーは常にこれを思い出して、アイデア出しのセッション、顧客へのインタビューなどで、用心を怠らないようにする必要があります。リーダーは、自分自身を継続的にチェックし続けることを忘れてはなりません。これは一度だけの修正で解決できる問題ではなく、絶えず直面することになる課題です。
価値観に合わない仕事からは離れる
さて、こうしたデザイナーのための安全な場所を実際につくるには、どうすればいいのでしょうか?言うは行うより易しではありますが、デザインリーダー達が同意したのは、自分達がクライアントに率直な意見を述べて、正しい倫理的方向に舵を切ることによりトーンをつくれば、それがチームに伝わり、チームのデザイナーも批判的に考えて意見を表現するようになるということです。自分の価値観に合わない仕事にはノーと言うことさえ含めてです。
何人ものリーダーが指摘したのは、引き受けるプロジェクトとの整合性を取ることの重要さです。もしあるプロジェクトが、ユーザーとの信頼関係を築けなかったり、デジタルプライバシーに関するユーザーの騙されやすさを利用する体験の構築を要求するものであり、それでもそのプロジェクトを引き受けたとしたら、チームをやる気にさせることはできないでしょう。リーダーは、自分の意図をチームに伝えられなければなりません。
整合性のない、あるいはさらに悪いことに、自身の倫理観に反するようなプロジェクトであれは、チームにもそれが波及します。
デザインリーダーが、最終的に最善の決断に至るために役立つ方法があります。それは、多様な組み合わせのリーダー達の中に身を置くことです。リーダー達のチームを、様々な専門や個人的背景を持つメンバーから構成すると、プロジェクトやプロジェクトに関する意思決定についての健全な議論を確保できます。
大規模に行うのは難しいかもしれませんが、職場に適切な文化をつくり出すには多様性が欠かせません。結局のところ、デザイナーは、デジタル体験を通じて世界をより良い場所にするデザインをつくる立場にあります。数々の問題に対する適切な解決策を見つけるには、(友好的な方法で)クライアントに反発する覚悟が常に必要です。そのためには、デザイナーは互いを支えあわなければなりません。
より「リスク回避的」な公共部門のデザイン
招待したデザインリーダーの何人かは公共部門で働いています。必然的に、彼らが政府や官僚機構と仕事をする際に直面するユニークな課題にも話は及びました。民間企業のクライアントは、「信頼と責任」に影響を与えるデザインの決定に際しては、そのリスクに寛容で、将来的に修正が必要になるかもしれないデザインを公開しようとすることがあります。この点において、公共部門は異なります。公共部門で働くデザインリーダー達が言うには、政府やその他の公的機関は、委託するデジタル体験についてより高い倫理基準を求めます。しかし、国民あるいは市民と共にプロトタイプ作成を繰り返すことはほぼありません。そのため、何かが上手くいかなかったときには、体験をデザインしたベンダーが責を負うことになりがちです。
このように、公共部門で働くデザインリーダーは、イノベーションを妨げる障害に直面することがあります。完全にリスクのない状態になるまで公開したがらない公共機関を前にしたとき、デザインリーダーは、プロトタイピング及び反復デザインプロセスの熱心な提唱者でなければなりません。そもそも、大衆との信頼を築くことができる体験を構築する責任があるデザインリーダーが、デザインの方向性やそれに伴うメッセージをほとんどコントロールできないこともあります。こうした状況を乗り越えるのは必ずしも容易ではありません。
しかし、公共部門で働くデザインリーダーは、ポジティブな兆候を目にしています。公共の課題を解決するために、政府は、デザイナーにますます期待するようになっています。それに伴い、デザインプロセスにも改善の兆しが見えます。民間よりはゆっくりかもしれませんが、デザイナーは徐々に重要な役割を果たすようになっています。
デザインリーダー達、特に制作に関わっている人達は、デザイナーの役割を前進させるより、現状を維持する方がずっと楽だと口を揃えました。しかし、リーダーとしての目標は、上司やクライアントの要求に単純に応えるよりも、デザイナーの役割を高めることであるべきです。そのためには、「影響力」を手にする必要があります。
あるデザインリーダーは、「デザイナーは、より権威ある役割へと変わるべき時だ」と言いました。リーダー達の言葉を借りれば、デザイナーは、行動モデルを収集・理解し、システムレベルで人々のニーズを明らかにし、企業や組織に洞察を提供できる特別なスキルを持っています。このような特別な能力を持つデザインチームは、従うのではなく導くことができ、また導くべきだということです。その実現は、デザインリーダーの肩にかかっています。
デザイナーの価値が認知され、その権限の拡大を自ら提唱している今、デザイナーは自身の内側に目を向け、また、お互いを見つめ合うべき重要な時期です。あるデザインリーダーは、「デザインしている体験に対する疑問を持たせる努力が必要です」と言いました。彼は、デザイナーが意思決定をする際に、よりクリティカルシンキングの時間を与えるよう努めています。「本当の変化が見られます。そしてこれは、決定の透明性を確保するために非常に重要なことです」
今回の議論のように、自分達の業界について批判的に考えるデザイナーは増えています。特別な力を持つことには大きな責任が伴います。信頼と責任のあり方について、21 世紀のデザインリーダーは、自分達がどのように業界を導くのかを示す番です。
写真提供: Jackie Brown Photography
この記事は Baking Ethical Decision Making Into Design Teams (著者: Patrick Faller)の抄訳です