フレキシブルなカリキュラムで可能性が広がる専門学科と大学DXの道筋〜東京家政大学

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東京家政大学は6つの学部で構成される140年以上の歴史ある大学です。東京家政大学 家政学部 造形表現学科は、あえて専攻を設置せずに、美術、工芸、映像、デザインなどの各分野から自分なりに授業を組み立てられるのが特徴で、アドビ製品を使ったデジタル制作の授業も多数行われています。2025年には大学の140周年記念館が完成する予定で、大学DX(デジタルトランスフォーメーション)の象徴ともいえるデジタルクリエイションの拠点も誕生します。家政学部 造形表現学科の先生方と学生に話を聞きました。

幅広く造形表現を学べる環境で発想が広がる

デジタルデザインの実習室を案内してくれたのは、家政学部 造形表現学科准教授でメディア・情報デザイン研究室の宮本真帆先生。授業ではデジタルサイネージを想定したモーショングラフィックスなどを指導していて、Adobe Animateをよく利用しています。

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実習室にはデスクトップ機とペンタブレットが人数分整備され、3Dプリンターやレーザーカッターなども並んでいます。同学科にはこのようにパソコンが備えられた実習室が3箇所あり、Adobe Creative Cloudのデバイスライセンスが割り当てられています。さらに同大は学生用ライセンスパックを導入しているため、学生は大学経由で安価にCreative Cloudのライセンスを購入することができます。

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デジタルデザインの実習室。3Dプリンターやレーザーカッターも備えられている

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授業の課題で学生が制作したモーショングラフィックス。Adobe Animateを使用している

同学科では1年生のときに幅広い造形表現の基礎を必修で学ぶため、Adobe PhotoshopIllustratorなどのデジタル制作ツールやデザインの基礎も全員が学んでいます。その後はあらゆる分野から各自が自由に授業を選んで専門性を定めていくため、知識や経験の幅が広いのが特徴です。

「学生はひと通りの基礎を身につけているので、自分の好みでいろいろなものを組み合わせていきます。例えばデジタル系の制作物を作るときに、クラフト系の素材で作ったものを撮影したりスキャンして取り込んで作品にするような学生も結構いますよ」と宮本先生は話します。4年生になると研究室が分かれ、宮本先生の元ではインタラクティブなデジタルコンテンツや、立体物の制作に挑戦する学生もいるそうです。

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学生のインタラクティブな立体作品。ネコがゴロゴロする感じを質感や振動で再現した

幅広く学ぶ特徴は進路にも表れていて、専門的なデザインの仕事に進む卒業生ももちろんいますが、例えば雑貨のセレクトショップなど広い知識と経験が強みになるような仕事に就く人もいます。また、事務職として就職したものの、技術が認められて広報系の部署で映像制作を任されるというケースもあるのだそうです。

自主的なデザイン活動がさかん

実習室はいつで使えるように開放されていますが、同大ではAdobe Creative Cloudの学生用ライセンスパックを用意しているので、デザインや映像などデジタル系を中心に学ぶ学生には、個人でのライセンス購入を勧めています。個人で購入して自分のPCで利用している学生の皆さんはどのような使い方をしているのでしょうか。

「授業の課題を自宅でできるということもありますが、みんな物作りが好きで入ってくるので、自主制作を盛んにやっていますね。学生同士でデザインフェスタのようなところに出展したりグループ展を開いたり……。DMなどのデザインももちろん自分たちでデザインしています。やはり日常的に使うということは間違いなくいい効果を生みますね」と宮本先生は話します。アプリケーションの習熟も速く、大学では教えていないAdobe Aeroを自分で調べて使いこなす学生もいるそうです。

豊かな発想で複数のアプリケーションを連携

続いて映像系の実習室を案内してくれたのは造形表現学科教授で映像表現が専門の兼古昭彦先生。インスタレーションやプロジェクションマッピングなどを含むアート寄りの映像表現を扱っています。

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実習室に入ると、ちょうど2年生の映像制作の授業が行われているところでした。ここは撮影スタジオとしても使えるように、ノートPCが備えられています。

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映像メディア実習室の様子

これまでの課題で制作したショートムービーを見せてもらうと、実写とアニメーションを組み合わせてサウンドを加えたもので、どれも楽しいアイデアにあふれたものばかりです。アニメーションの部分はPhotoshopでフレームアニメーションを作る機能を使用してひとコマずつ描き、動画の最終的な編集はPremiere Proを使用していて、複数アプリケーションを使う手順も実践的に学んでいます。

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授業の課題で作成された動画の一部

授業も個人の活動もアドビ製品をフル活用する学生の姿

兼古先生の映像ゼミに所属する4年生の本澤美緒さんは、ゼミでは写真に取り組み、ほかにも金工や陶芸などの工芸系の授業をとっています。アドビ製品は学生用ライセンスパックを購入して自分のノートPCで利用していて、授業の課題を制作したり、写真の補正やレタッチをしたりするのはもちろん、自主的なデザイン活動にもよく使っています。本澤さんは、趣味でハンドメイドのアクセサリー制作をしていて、アクセサリー用の台紙や活動のための名刺を自分でデザインして制作しているのです。

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本澤さん制作のアクセサリーの台紙と名刺。学内の有志団体で出品することもある

今では当たり前のように使いこなしている本澤さんですが、アドビのデジタルクリエイティブツールと出会ったのは大学生になってからでした。「PhotoshopIllustratorを使ってみてすごいな、と思いました。それまでスマホの無料アプリなどで写真を編集したことはありましたが、制限があったりできないことが多かったので、それができるようになってとても楽しくなりました。操作がしやすく、Illustratorで作ったものをPhotoshopに持っていくなど表現の幅が広がるところに魅力を感じています」。

同学科で幅広く学べる環境は本澤さんにとってプラスの効果になっています。「ほんとうにいろいろなことをやるので、知らなかった視点から見ることができて、見方を変えるとこんなに違うんだな、と感じてとても視野が広がった気がしています」。また、周りに個性的な人が多く、考え方や表現の仕方の違いに刺激を受けることが多いといいます。面白いと感じる表現に出会ったときは、自分の作品に生かせるところはないかという見方もするようになったそうです。

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本澤さんの課題作品。兼古先生の授業でプロジェクターの投影と自分を組み合わせて表現した

兼古先生は「引き出しをたくさん持っているので何か依頼されたときにいろいろな提案ができると思うんですよね。提案していいんだということを知って、ためらわずに力を発揮していって欲しいと思います」と話し、学生のみなさんをあたたかく見守っています。

映像スタジオで内製化の可能性を模索

さらに、同学には撮影やライブ配信ができる映像スタジオがあります。大学の講演会や各種説明会などをスタジオで収録し、インターネット上で公開するために使用されています。実はここは現在計画中の140周年記念館にできる予定の映像スタジオのパイロットケースの意味もあり、運営体制そのものも検証中ですが、将来的には学生がアルバイトとして撮影や編集に関われるような体制も検討しているということです。

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パイロットケースとして運用中の映像スタジオ

近年企業でもデザインや映像を内製する傾向が高まっていますが、兼古先生は動画を内製できる体制に期待を寄せます。「スピード感というのが一番ですね。どこかに依頼するのではなく、必要なときにすぐにできるというところが大きいです。また、情報の中身やコンテンツの質についても、業者から提案されるのではなく、自分たちで発想してクオリティに対して意識を向けて情報の中身を絞り込めるのが良いところだと思います」。

大学DXの象徴となる140周年記念館

最後に人文学部 英語コミュニケーション学科教授の小池新先生と児童学部 初等教育学科講師の天野美穂子先生に、大学のDXについて聞きました。小池先生、天野先生ともに情報学が専門で、プログラミングやデータサイエンスを扱っています。特に必要性を感じて取り組んでいるのが、学部共通科目として情報活用やデータサイエンスの学びを充実させることです。

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それを実現するひとつの柱になるのが140周年記念館です。小池先生は、「DXで重要なのは、単にパソコンを使いこなすことではなくて、それを使って世の中をどう変えるかという “DX実践能力”だと考えています。学生が社会連携活動などに取り組む環境が必要です」と話します。このDX実践能力を培うSTEAM教育やデザイン思考能力の育成、さまざまなPBLを実施する拠点となる施設が記念館内にできる予定なのです。

具体的には、大小の撮影スタジオや 、3Dプリンター等を備えたファブスペース、ICTのスキルアップやデジタルクリエーションに幅広く使えるPC設備などの構想があり、全学共通で利用する場となります。「例えば社会問題を解決するために3Dプリンターで何かを作ってみるとか、あるいはスタジオで撮影してYouTuberのように外に向けて発信するとか、学生には自己表現する経験をしてほしいですね」と小池先生。先生は、学部学科を問わずテクノロジーを利用した社会課題の解決や、クリエイティブな自己表現をするような学びを創出することで、学生が各自の専門分野と掛け合わせて力を伸ばすことを期待しています。

現在専門学科でアドビ製品を存分に活用している下地があることが、これから大学が学部を越えて目指すDXの姿にも大きな力となりそうです。東京家政大学の今後と学生のみなさんの活躍が楽しみです。

(文:狩野さやか)