ユーザー調査の成果をデザインの意思決定に反映する手順 | アドビ UX 道場 #UXDojo
UX デザインを実践するチームにとって、ユーザー調査は、ユーザビリティに関する主要な問題を特定し、その解決策を見つけるために役立つツールです。しかし、これは、リサーチを適切に実施する方法を知っているチームのみで可能なことです。考慮すべき要素が多いために、リサーチから本当に価値のある洞察を得るのが難しいこともあります。この記事では、効率的なユーザー調査のプロセスを確立し、その成果を価値あるデザインにつなげるヒントを説明します。
ユーザー調査の手法を適用するタイミング
下は、ユーザー中心のデザインが持つ本質的な特徴を示すダイアグラムです。
ユーザー体験を構成する側面には、有用性、有益さ、望ましさ、価値の高さ、見つけやすさ、信頼性、アクセスしやすさなどがある 出典: Peter Morville
有用で、有益で、望ましく、価値があり、見つけやすく、信頼でき、アクセスしやすいデザインを実現することは可能ですが、そのためにはユーザーを知らなければなりません。これは、デザインプロセスにユーザー調査を導入することにより実現できます。
しかし、ユーザー調査は、何十種類もの手法やテクニックが存在している広範な領域です。何らかの構造を持たずに、この領域にアプローチすることはまず不可能です。そのため、ユーザー調査の方法を選択する前に、デザインプロセスをいくつかのステップに分けることから始めます。下はその一例です。
- ディスカバリー
- アイデア考案
- デザイン
- 検証
プロセスの各ステップでは、それぞれの場面に適したユーザー調査の手法を使います。個々のプロジェクトは異なるため、使用すべき手法に関する普遍的なルールを定義することは困難ですが、求めている洞察の種類に基づいて、一般的な推奨を提示することは可能です。初めてデザインプロセスにユーザー調査を導入する場合は、Nielson Norman Group(NNGroup)が提案するユーザー調査の戦略に従うのがよいでしょう。
- Discovery: フィールドスタディとユーザーインタビューを実施し、情報を収集する
- Explore: タスク分析、ジャーニーマップ作成、デザインレビュー、プロトタイプによるテストを行う
- Test: 対面でユーザビリティ調査を遂行し、アクセシビリティ評価を行う
- Listen: 顧客あるいはユーザーを調査し、レビュー結果を分析し、トレンドやパターンを監視する
参考までに、下の棒グラフは、上記の各フェーズにおいて、さまざまなユーザー調査の手法が使用される頻度を示したものです。
ユーザー調査の各手法が使用される頻度を示す棒グラフ 出典: NNGroup
ここからは、ユーザー調査を導入したデザインプロセスの流れを、実践的なテクニックと共に紹介します。
ペルソナに優先順位を付ける
ペルソナは、ユーザー調査に役立つ強力なツールです。よく設計されたペルソナは、デザインプロセスを通じて、明確な参照先としてデザイナーの力になります。ユーザー調査の前に、担当者は複数のユーザーペルソナを作成することがありますが、すべてのペルソナが等しく重要であるとは限りません。最も価値のあるいくつかのペルソナを選択して、それらのペルソナのためにデザインすることが重要です。
主要なペルソナを選択したら、実際の、あるいは潜在的なユーザーを対象に、一連のユーザーインタビューやフィールド調査を実施します。大抵は、アンケートか面接の形式でユーザーにインタビューすることができます。
ベーシックとプレミアムのように複数の使い方を提供するサービスの場合は、それぞれを使用するユーザーごとにセグメント化することを検討しましょう。どちらを利用するかによって、提供される機能が異なるため、それぞれのユーザーグループの体験は異なったものになります。そのため、異なるペルソナが必要になる可能性があります。
また、ペルソナは一度制作したら完成する成果物ではなく、成長し続けるものであると理解することも重要です。最初に作成したペルソナは、対応するユーザーグループと並べて比べられることで進化します。ペルソナの情報を後から更新したいと思った時に、躊躇する必要はありません。
インタラクションの主要シナリオを定義する
主要なペルソナを選んだら、彼らがどのようにインタラクションするのかを理解する必要があります。インタラクションのシナリオは、段階的なアクションとしてではなく、物語のように考えましょう。
各シナリオは、ペルソナが達成したいゴールと、コンテクスト(ペルソナの環境)に応じたインタラクションを描写します。例えば、事務用品を販売するオンラインストアのデザインに取り組んでいる場合であれば、次の月曜日の会議のために付箋を補充する必要があり、その日までに納品できるウェブサイトを探している企業バイヤー(ペルソナ)のシナリオを定義できます。
ストーリーボードのテクニックを使ってビジュアルを追加すれば、このストーリーはより強力になります。シナリオの定義は、空想ではなく、実際のユーザーニーズに焦点を当てるために役立ちます。
ストーリーボードはビジュアルを使って具体的なシナリオを描写し、チームやステークホルダーの記憶に残る体験をつくり出す 出典: NNgroup
インタラクションのシナリオを定義したら、シナリオをより具体化するための情報を収集します。例えば、先ほどの付箋のシナリオであれば、ユーザー調査の結果に基づいて、ペルソナが注文を躊躇しない額の予算を選びます。文脈に沿ったより多くの情報を加えるほど、シナリオをよりリアルなものにできます。
データ収集の最も簡単な方法は、分析ツールから定量的なデータを探すことです。ただし、定量的なデータが伝えるのは、ユーザーについて知るべき情報のほんの一部です。ユーザーが何をしているかはわかっても、そうする理由はわかりません。従って、定量的データと定性的データの両方を使うことが必要になります。実際のユーザーや潜在的なユーザーとのインタビューや、実環境で操作する人々の観察(コンテクスチュアル・インクワイアリ)を実施すると、定性的なデータを得られます。
ジャーニーマップを作成する
UX デザインの望ましい到達点は、ユーザー(あるいは顧客)がより効率的に目標に到達できるワークフローの実現です。これを達成するには、デザイナーは、ユーザーがゴールに至る過程でどのような問題に直面するかを知らなければなりません。ユーザジャーニーは、彼らがサイトやサービスとどのように関わるかを理解するために有効なツールです。ユーザーが行うタスクを集めてジャーニーマップを作成すれば、ユーザーが目的達成までに通過するプロセスを可視化できます。これを分析することで、ジャーニーのどのステップでユーザーが問題に出会うかを見つけて、それらのステップに対する最適なデザイン解を見つけられるようになります。
一般的なユーザージャーニーマップには、主要なアクティビティ、タッチポイント、ペルソナの考えや感情、特定された改善の機会が含まれる 出典: infotoday
ジャーニーマップは、機能の優先順位付けをする場面にも欠かせないツールです。また、ステークホルダーとのミーティングに役立つことがあります。ステークホルダーにジャーニーマップを見せて、顧客を失うリスクが高い場面を強調すると、その問題に対する解決策を見つけることにステークホルダーが合意する可能性を高められます。
コンセプトを考案する
ジャーニーマップを作成した後は、ユーザのインタラクションの全体像を把握しているはずです。そこで、ペルソナ、シナリオ、ジャーニーマップの情報を使って、得られた洞察からデザインのコンセプトを考案し、個々の画面のデザインや、コンテンツと機能の優先順位を決定します。その際、すべてのデザインに関する意思決定(特定のデザインパターンの使用など)は、ターゲット層に従って判断されるべきであることを忘れないようにしましょう。
Minimum Viable Product(MVP - 最低限利用可能な製品)の考え方に従うなら、最初に検証するべきことは、検討中のコンセプトが、適切な環境にいる、適切な対象に対して、適切な問題を解決しているかどうかです。このタスクを達成してからでなければ、コンセプトを利用価値のあるデザインにすることはできません。
Minimum Viable Product (MVP) は、ターゲット層にとって意味のある製品をつくること 出典: brianpagan
プロトタイプ制作とテスト
「構築・測定・学習」の繰り返しは、ユーザー調査やテストにおける、非常に効果的なアプローチです。デザインプロセスでこれを行っていれば、間違ったデザインを開発してしまって時間を無駄にしたりしないと自信を持って、先の段階へと進むことができます。また、プロトタイプを制作し、それをターゲットユーザーと検証すれば、デザイナーの思い込みを見つけ出して排除するために役立ちます。
外部のテスト参加者とユーザビリティテストのセッションを行う前に、社内での確認を行うことは推奨されるテクニックです。定期的にデザインレビューを実施して、チーム内でデザインについて議論する機会を持ちましょう。オープンなディスカッションの場を持つと、デザインに携わる人々のつながりが深まって、デザインプロセスをより良いものにする効果があります。
また、ドッグフーディングを実践して、社内で事前にテストを行うと、チームは重要なユーザビリティの問題を修正する機会を得られます。これにより、ユーザーテストをより意味のあるものにできます。
予算が限られていたり、時間の制約が厳しかったとしても、デザインプロセスにユーザー調査を導入することは可能です。簡単にできるユーザビリティテストとしては、ゲリラテストがあります。この種のテストは、ユーザーがプロトタイプや製品を操作する際に直面する最も一般的な問題の理解に役立ちます。テスト中のユーザーに考えていることを尋ねれば、多くの貴重な洞察を聞くことができるでしょう。
おわりに
デザインプロセスのゴールは、人間中心の体験をつくり出すことです。デザインを誰が使うのか、何を達成したいのか、なぜ使いたいのかを知ることができれば、これを達成することが可能になります。ユーザー調査に時間を費やし、デザインプロセスを通してユーザーのゴールを忘れないようにすれば、快適なユーザー体験を生み出せる可能性はずっと高まるでしょう。
この記事は Translating User Research into User Experience Design (著者: Nick Babich)の抄訳です