ドライバーレス印刷のメリット

一昔前はプリンターを購入すると、付属品としてプリンタードライバーが内蔵された
フロッピーディスクやCDがあったはずです。これらのドライバーはプリンターをコンピューターで動作させるためのもので、コンピューターやオペレーティングシステムの種類によって異なっていました。プリンターを使用する前には、これらのディスクからドライバーソフトウェアを「インストール」する必要があったのです。そして正しいドライバーがないと、プリンターが動作しなかったり、機能を利用できなかったりする場合がありました。プリンターと通信するためのデータ形式は多種多様で、メーカーごとに使用言語が異なり、プリンターの機種によって使用言語が異なることもしばしばでした。複数のプリンターを使う場合は、プリンターごとに適切なドライバーが必要でした。

スマートフォンやタブレットの台頭により、プリンタードライバーには違う問題が出てきました。これらの機器にはプリンタードライバーが利用できなかったので、印刷するにはサードパーティのソフトウェアやなんらかの代替策が必要でした。やがて、プリンターメーカーはこの問題に対処するため、スマートフォン用の印刷アプリを作り始めることになりました。

PDF:業界で変化を起こし続ける印刷規格

1992年、アドビはPDF(Portable Document Format)を考案しました。

PDFはPostScriptという印刷言語に基づき、文書をいかなるディスプレーでも表示でき、いかなる 最先端のプリンターでも印刷できることを目的として開発されました。PDFは、画面上で文書を表示するのに役立つ様々な機能を備えています。例えば、文書内を前後に ナビゲートする機能や、文書内の参照箇所にジャンプして戻る機能、索引に移動するためのブックマーク機能などです。PDF形式はプリンター等の物理デバイスに依存しないので、特定のプリンターに対する指示は含まれていませんでした。結果として、PDFは徐々に、多様なオペレーティングシステムやデバイスで印刷を行うための標準形式となり、コンピューターの印刷方法を大幅に変革することになりました。

AppleのOSXはコンピューター上で生成されるファイル形式としてPDFを採用し、PDFは、すべてのApple製品で印刷に使用される規格であるAirPrintの主要技術の1つとなりました。Androidの分野では、プリンターメーカーのMopriaアライアンスは、幅広いベンダー製品から文書をプリンターに送信する標準的な方法としてPDFを活用しています。MopriaはGoogleと協業して、AndroidスマートフォンでPDFを標準的にサポートするようにしました。2018年、Microsoft Windowsでは、追加のソフトウェアを必要とせずにすぐに使用できるソリューションであるWindows IPP クラスドライバーを使用して、Mopria認証プリンターへのPDF送信をサポート対象に追加しました。現在、24社のメーカーが販売する6,500種以上のMopria認証プリンターがあり、1億2,000万台以上のMopria認証プリンターが世の中に出回っています。

PDFを含むこれらの規格を採用することにより、「ドライバーレス」印刷が可能になり、すべての 関係者にとってWin-Win-Winの状態となっているのです。

ドライバーレス印刷のメリット

ドライバーレス印刷は、専用ソフトウェアを必要とせずにあらゆるデバイスからあらゆるプリンターで 印刷できるようにして、ユーザーの印刷プロセスを簡素化します。このようにプリンター機種を問わず印刷エクスペリエンスを標準化することで、ユーザーが新しいプリンターの印刷方法を学ぶ必要がなくなります。さらに、ユーザーは使い慣れたインターフェイスを使って印刷することもできます。

企業にとっては、ドライバーレス印刷では特定のプリンター用のプリンタードライバーをインストールする必要がないため、新しいコンピューター機器の導入を簡素化できます。コンピューターやデバイスの耐用年数の間に、利用するプリンターが変わっても、追加のソフトウェアは必要ありません。また、ユーザーが新しいプリンターで印刷する場合でも、「ソフトウェアのインストール権限」のレベルを上げる必要がないため、セキュリティも強化されます。

ドライバーレス印刷によって、プリンターメーカーは新しいプリンターを市場投入するごとにソフトウェアを繰り返し開発してリリースする必要がなくなりました。従来、プリンターソフトウェアには、「印刷オプション」ダイアログボックス、特定の言語(PDL: ページ記述言語)を生成するモジュール、クライアントとプリンター間の通信のためのモジュールなどの複数のコンポー ネントが含まれていました。ドライバーレス印刷では、後者の2つのコンポーネントの標準化、 実装、展開は、例えばPDFとインターネット印刷プロトコル(IPP)に基づいて、一度行うだけで済みます。「印刷オプション」ダイアログも標準機能として用意されており、必要なメーカーの労力がさらに軽減されます。また、Windowsなどのいくつかのプラットフォームでは、メーカーが、ユーザー エクスペリエンスをカスタマイズし、専用の機能や他のサービスへの接続を制御できるようにする 小規模のアプリケーションを作成することができます。

PDFに基づいた印刷は、Windows、Mac、iPhone/iPad、Androidで標準装備されており、
一般的なLinuxディストリビューションでもサポートされています。技術の進歩によって、コンピュー ターはプリンターの機能を確認して、専用ソフトウェアの手動インストールを必要とせずにユーザーに表示できるようになりました。

デバイスを問わずシームレスな印刷を可能に

アドビはドライバーレス印刷の利用を強力に支援しており、ドライバーレス印刷でのPDFのサポートが強化されたことで、ユーザーは、コンテンツを正確に表現し、小型のデスクトップ プリンターから最先端の印刷生産システムまで、あらゆるデバイスで再現可能な優れた機能を備えたPDLを使用できるようになっています。アドビの印刷エンジン(RIP)は、Adobe Reader、Acrobat、アドビのクリエイティブアプリケーションに搭載されているのと同じ技術を使用して、PDFファイルを 画面に表示されたとおりに正確に再現するように設計されています。

Microsoft、Apple、Android、Mopriaのドライバーレス印刷ソリューションをサポートするために、 アドビは印刷エンジン(Adobe Embedded Print EngineおよびAdobe PDF Print Engine)が、それらのソリューションに使用されている規格と互換性を持つことを保証しています。

※この記事は2023年4月18日(米国時間)に公開されたブログの抄訳です。