エミー賞ノミネートのNetflix『ウェンズデー』は、Frame.ioを用いてティム・バートン流のスタイルを実現しました
Image source: Netflix.
ティム・バートン監督の作品を見た人は誰でも、彼のユニークなビジュアルスタイルを見つけることができるでしょう。ゴシックなおとぎ話からSF、スーパーヒーローの大作まで、バートン監督はエドワード・シザーハンズ、バットマン、カルト映画監督エド・ウッドなどの風変わりなキャラクターが住む幻想的な世界を創り出してきました。
昨秋から配信されたNetflixの大ヒットシリーズ、『ウェンズデー』も例外ではありません。エミー賞12部門にノミネートされたこの作品の制作チームは、Frame.ioを活用して魔法の世界を創造しました。物語は『アダムス・ファミリー』の世界を舞台に、サイキック能力を身につけた主人公ウェンズデーが闇の力と戦い、両親を取り巻く謎を解き明かす冒険を追います。
VFX(ビジュアルエフェクツ)プロデューサーのケント・ジョンソン氏とそのチームは、バートン監督と協力して『ウェンズデー』のビジョンを実現させました。特殊効果チームは、監督のスケッチとビジュアルリサーチから一連のわくわくするようなシーケンスとキャラクターを創造し、第8話「闇の中の殺意」で2023年のエミー賞視覚効果部門にノミネートされました。
ケント氏は、ティム・バートン監督の大作に取り組むことがどのようなものか、目を惹く特殊効果を実現するために使ったトリック、そして日常の仕事で大規模なクリエイティブチームとコラボレーションするために、Frame.ioとAdobe Photoshopをどのように使っているのかを語ってくれました。
VFXデザインを始めたきっかけは?
劇場用セットデザインの芸術学士号取得にあたり、映画やテレビのアートディレクション、セット構築、そして特注の小道具製作に関するスキルを学びました。特殊効果の撮影とミニチュア製作を通じて、ブルースクリーンを用いた視覚効果にも触れました。時間が経つにつれて、コンピュータで生成した3Dモデルが現実のミニチュアに取って代わり、私もデジタルVFXに移行したのです。
VFXの発想の源とゴールは何でしょう?
アートとデザインのバックグラウンドを持ってこの業界に入ってみると、デジタルVFXは実際のセット構築よりも生産性が高いことが分かりました。私が思い描いていたようなファンタジーの世界を、物理的なセットで実現するのはコスト的に困難です。デジタルツールを使うことで想像力を解き放ち、思いつくものは何でもピクセルで表現できます。
どのアドビ製品を使用しましたか? どうしてそれを選んだのでしょう
Frame.ioを使って、プリビジュアライゼーションや編集結果を共有しました。VFXアートディレクション企業であるPainting Practice社は、『ウェンズデー』の舞台であるネヴァーモア学園のデザインに参画しています。彼らは架空の寄宿学校周辺のバーチャルなドローンショットをアニメーション化し、Frame.ioを使ってクリエイティブチームと共有しました。進行中の視覚効果ショットが見せられる段階になると、編集スタッフはFrame.ioに複数のクリップからなるショットをアップロードし、MGMスタジオやNetflixによるクライアントレビューを簡単に受けられるようにしました。
“Frame.ioはとてもわかりやすいので、さまざまな技術スキルを持つ関係者とのレビュープロセスをスムーズにしてくれます”
- ケント・ジョンソン、VFXプロデューサー、『ウェンズデー』
Kent Johnson at work on “Wednesday’s” Thing using Frame.io, image source: Sabine Meyer zu Reckendorf.
このプロジェクトはどのように始まりましたか? 制作プロセスについても教えてください
初めに脚本から想定される視覚効果、方法、コスト見込みを分析して必要な予算を推測します。まずは『ウェンズデー』の象徴的な監督兼エグゼクティブプロデューサーであるティム・バートンから、ビジュアルリサーチとユニークなスケッチを使ったクリエイティブなビジョンの概説がありました。そして、例えば切断された手のキャラクターであるハンド(原語:The Thing)の場合、俳優がさまざまなアクションやブロッキング(訳註:ポジショニングやカメラワーク)を試すリハーサルを撮影して監督と共有します。これを参考に、物理的にはどこまでできて、どこで3D CGアニメーションの手を使うかを決めていくわけです。
お気に入りの部分と、その理由を教えてください
シングがウェンズデイの同級生が学校を出ていくのを追いかけ、車のバンパーに飛び乗って駅に向かうところです。その後、ハンドは彼を探して駅をかけ巡ってトイレに向かいます。セットで俳優が行うリハーサルを撮影し、それを編集したバージョンをティム・バートンに見てもらって承認を得ました。
直面した具体的な課題はありましたか?どうやって解決したのでしょう
課題の一つは、ハンドの見た彼の周りの世界を、地面から数インチしか離れていない視点で捉えることでした。駅の床を横切るシーンを撮影する際、カメラマンがポールの端に取り付けた小さなカメラを地面に近づけ、俳優が片側に寝転べるようカメラドリーを修正しました。そしてカメラと俳優を操り、旅行者の群衆の中を素早くすり抜けさせます。ハンドがトイレを探すシーンの演出では、カメラをスケートボードに設置してトイレの仕切りの下を滑るように動かし、ハンドを演じる俳優がもう一つのスケートボードに横たわって、切断された手が意志をもって部屋を歩き回る様子を表現しました。
Digital creation of Thing from “Wednesday”. Image source: Netflix.
あなたにとって、クリエイティブな刺激を与えてくれる人は誰ですか?
ティム・バートンの特徴的なスタイルは、映像制作に関わるすべての人に多大なインスピレーションを与えています。スティーブン・スピルバーグの一部の作品は、VFXを前面に押し出さずにさりげなく使っているがところがスマートで刺激的ですね。ウェス・アンダーソンの作品は通常VFX映画とは見なされませんが、説得力のあるビジュアルスタイル、構図、微細な要素が詰まっており、私のクリエイティブな判断に影響を与えています。
これまでのキャリアで直面した最も困難なことを、どうやって乗り越えましたか? VFXデザイナーを目指す人にアドバイスをお願いします
駆け出しの頃、経験が足りず自信を持てないまま、大人気テレビシリーズのセットに突然投げ込まれました。ルールに慣れていないまま、監督や撮影監督、カメラオペレーターにVFXをどうやって実現するかアドバイスするというのは、とてつもないストレスです。しかし、私は遠慮せず自分の知識に基づいて決断しました。失敗もしましたが、それから学ぶことができたのです。
人気映画のVFXメイキング映像をオンラインで視聴したり、他のクリエイターがVFXをどのように活用しているかについての記事を読むだけで、VFXについて多くを学ぶことができます。とはいえAdobe Photoshop、Adobe After Effects、Adobe Premiere Proやその他の一般的なVFXツールについては、チュートリアルを利用して基本的な使い方を学んでおくことをお勧めします。
仕事場の写真を掲載します。一番気に入っているところはどこですか?
Image source: VFX Supervisor/ Producer Kent Johnson.
ロサンゼルスで撮影中の長編映画作品『Night Swim』(2024)の現場を写した最近の写真ですね。このカートは、撮影現場におけるVFXスーパーバイザーとしての私のワークステーションです。VFXツールをさまざまな撮影場所に移動するためのもので、カメラ、三脚、その他の特殊機器に加えて、自作のスタンディングデスクに設置されたラップトップで、毎日Photoshopを使ってデータを収集しています。ポストプロダクション中は自宅オフィスでの作業が大半ですが、制作スタッフが忙しく動き回る現場では、このカートが私の基地となりアンカーの役割を果たしているのです。
この記事は2023年9月8日(米国時間)に公開された”Netflix’s Emmy-nominated “Wednesday” used Frame.io to help bring Tim Burton’s signature style to life”の抄訳です。