事業成長を支援するデザインの役割とは | Design Leaders Collective
Design Leaders Collectiveは2022年4月から開催しているエンタープライズで働くデザイナー向けのイベントです。スタートアップ、制作会社、代理店など組織体制や規模によって抱える課題は様々。本イベントでは、エンタープライズで働くデザイナーが直面する課題の情報共有とディスカッションを目的としています。
デザインにはビジネス効果があるといわれますが、本当にそうでしょうか。デザイナーが考える効果と、ビジネスが期待する効果にはズレがあるかもしれません。また、「デザイン」という言葉は私たちデザイナーにバイアスを与えている可能性もあります。その結果、職域に囚われない広い視点で、事業の効果や成果が生み出せないことも考えられます。
大企業の歴史という特別な難しさを受け入れつつも、スタートアップのデザインの役割から学ぶことも多いです。今回は、スタートアップでCXOとして活躍されているAlgomaticの野田克樹さんを特別ゲストに招き、ビジネスとデザインの関係性と課題と対策を参加者と共有しました。
もくじ
- デザインにある認識ギャップ
- 認識と期待が合わない理由
- レバレッジがある活動を心がける
- デザインリーダーのためのアクションプラン
デザインにある認識ギャップ
21世紀のビジネスシーンでデザインは芸術的な側面だけでなく、ユーザーエクスペリエンス(UX)を核とする戦略的なツールへと進化しています。しかし、多くの企業で経営者とデザイナー間の認識のギャップがあり、デザインの真の価値が理解されにくい側面もあります。
McKinseyが2018年に実施したデザインのビジネス価値の調査によると、グローバル企業300社の経営層の98%が自社のデザインを強化していきたいと考える一方、およそ半数は、どう評価すれば分からないと回答しています。売上やコスト削減などの指標だけでは、デザインの効果を正確に測ることはできません。しかし、短期的な結果に焦点を置かれることが多い状況では、デザインの真価を理解しにくいことが現実です。
「短期的な目標に囚われず、中長期でユーザーへの影響を考慮しよう」と言うのは簡単ですが、それを組織全体に浸透させ、新しい目標に向かって進めるのは簡単なことではありません。UXを利用したダークパターンは、国内外で存在しますし、数値やエンゲージメントの向上を名目に、デザインが悪用されることもあります。
デザイン思考など、事業で活用する動きはある一方、手段が商材ビジネスになっている一面もあります。デザインファームを招いたブレストや、自由に働けるオープンなクリエイティブスペースも人気です。しかし、実際は何も決まらず従来の進め方に戻ることもあれば、自由に働けるようになった分、延々に仕事が続くこともあります。
デザイナーを増やしたり、新しい手法を採用しても、すぐに成果が出るとは限りません。新しいワークフローや評価制度導入の初期コスト、さらにマーケティングやカスタマーサクセスなど他部門との役割重複による機能不全も起こり得ます。
サービス業における消費促進の手段としてのデザインの現実と、人や社会にポジティブな影響を与えたいという理想の間で仕事をしています。
認識と期待が合わない理由
デザインの期待が高まる一方、認識と期待がうまく合っていないことで価値を引き出せていない場合があります。今回のイベントに参加していただいた方々から、様々な課題を挙げていただきました。
測定と評価の困難性
定量的な目標に対する効果が判断しにくいことが、デザインの評価を難しくしています。KPIを設定している組織は多いですが、目標達成にどうデザインが寄与したか明らかになっていない場合があります。また、「良いデザイン」の定義や評価軸が共有されていないため、ブランディングなど時間を要するプロセスの数値化は難しいと感じる方が何人かいました。
組織との関係性
ROIの過度な重視が組織内競争を招くことがあります。「見た目を整える人」と見られがちなことから、戦略段階での関与が少ないと答える方もいました。また、責任範囲が他の役職や部署と被ることでおこる重複や、縦割り構造により横断活動が難しい場合があります。そのため、専門性を超えたビジネス理解を深め、組織内での価値向上を図ることが求められています。
評価への課題
短期成果を重視する文化では、デザインの長期的な価値が見過ごされがちです。理想のデザインと成果達成のデザインが異なることもあり、ABテストなどの検証で成果を出したデザインのみが評価される傾向に対する懸念も参加者のなかにはありました。
レバレッジがある活動を心がける
組織構造だけでなく長い歴史の積み重ねで難しくなることがあるデザイン活動。スタートアップは意思決定が早く、様々な関わり方ができる一方、厳しい取捨選択をしないと成果がない忙しい日々を過ごすだけになりがちです。そうしたなか、Algomatic社の野田さんは、CXOの行動が企業戦略に与える影響について、具体的な事例を交えて紹介してくださいました。
野田さんによれば、現代の資本主義社会では、ビジネスの成功が大義とされる中、CXOとしての役割は、事業の三大要素「ヒト・モノ・カネ」の裁量権を持つことが重要です。この裁量権を持って、新たな事業を立ち上げることがCXOの使命であり、デザインはその事業を成功させるためのスペシャリティの一つとして位置づけられています。つまり、デザインが中心的存在でもなければ、ビジネスと同等の立場でもなく、あくまでデザインは事業の一部分であると捉えています。
特に創業初期において、事業戦略の構造化や可視化をデザインによって加速し、組織全体への浸透を自律化することは、持続可能な成長に不可欠です。デザインは、その主戦場であるプロダクトやサービスの外観だけに留まらず、営業、開発、マーケティング、採用に至るまで横断的に価値を生み出す資産的投資として位置付け、様々な活動を続けています。
伝言ゲームのような状態が引き起こす認識のズレやスピードの損失から脱却するため、デザイナーは何ができるかという視点が求められます。
経営においてデザインが干渉すべき領域を最も知るのはデザイナー自身であると野田さんは主張します。経営目線で優先度の高い事項であれば「なんでもやる」という姿勢はもちつつも、リソースの限られた中で、広い視野で「何をデザインするか」の取捨選択が命となります。
デザインリーダーのためのアクションプラン
デザインリーダーは組織内でデザインの価値を高め、ビジネス成果に寄与するために重要な役割を持っています。組織によっては特有の課題もありますが、以下のようなアクションを検討することができます。
明確な期待値の設定
組織内のワークショップやセミナーを通じて、デザインの価値とその限界についての知る機会をもちましょう。また、プロジェクト開始前に、期待値や責任範囲を明確にし、現実的な成果に対する目標設定をすることが大切です。
成果測定のための指標設定
定量的なデータだけでなく、定性的なフィードバックも取り入れながら、デザインの成果を測定するための指標を設定します。自分たちにとっての「良いデザイン」の定義を明らかにすると、どんなデータを集めると「良い」へ近づくのか明らかになります。
経営層とのコミュニケーション強化
MBRなど、定期的な報告会を開催し、デザインの理解を深めることが大切です。これには、プロジェクトの進捗報告だけでなく、成果物のデモンストレーションや、デザインの思考プロセスを共有する機会も含まれます。
ビジネスに与えるデザインのインパクトは非常に大きいですが、その効果を最大化するにはビジネスとデザインの間の深い理解と共生が必要です。デザインは単に美しさを提供するだけでなく、ユーザーのニーズに応え、社会にポジティブな影響を与える強力なツールです。これを実現するためには、ビジネスとデザインの認識のギャップを埋め、両者の協力と理解を深める機会を増やす必要があります。今後、デザインとビジネスの関係はさらに密接で戦略的になると予想され、デザインの役割は進化し続けるでしょう。