【Adobe Acrobatでトライアルから本格展開まで】調査から見えた電子サイン導入の課題と解決法

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企業間や企業と個人の契約は、長い間紙の契約書を双方で保有する商習慣が続いてきた。だが、ここへきて紙を用いない「電子契約」の採用が進みつつある。きっかけの一つは、言うまでもなくコロナ禍だ。出社ができない状況において、日本でも大手企業を中心に電子契約の採用が一気に進んだ。

その状況は調査結果にも表れている。アドビでは2022年、IT専門調査会社のIDC Japanと共同で、電子契約の導入効果と課題についての企業調査を実施。電子契約の導入率は、社外との契約用で47.8%、社内承認用で52.0%と過半数に達しているが、導入済み企業の73.3%はコロナ禍で電子契約を導入したと答えている。

導入が進む電子契約だが、一方で、その重要性を認識しつつも採用に踏み切れない企業は少なくない。欧米諸国と比べて日本の電子契約は導入が遅れていると言わざるを得ない状況だ。

その理由を、アドビでDocument Coudのマーケティングを務める島田昌隆氏は、次のように語る。

■電子サインは多くの企業が成果を期待できるデジタル施策

──デジタル化が進んでいる代表的な業務の1つに契約があります。アドビは、IDC Japanと共同で企業における電子サインの利用動向に関する調査を実施したそうですね。調査結果についてお聞かせください。

島田 IDC Japanと「電子サインの導入効果とさらなる活用に向けた今後の課題とは?」という共同調査を行いました。

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調査を通じてまずわかったことのが「電子サインを導入している企業の94.8%が、将来的に利用を継続もしくは拡大する方針」「電子サインを導入している企業の64.4%が、今後3年以内に利用を拡大する方針」、そして「電子サインを導入して3年以上経過している企業の方が、導入効果を実感している割合が高い」ということ。つまり電子サインは、幅広い企業にとって導入効果を期待できるデジタル施策であるということです。

例えば、現在、多くの企業が注目しているデータ活用の目的の1つは意思決定の迅速化です。しかし、どんなに迅速に意思決定を行っても、その後の契約締結に時間がかかっては迅速化の効果も半減。電子サインは意思決定の迅速化を目指す施策の効果を高めます。試算では、紙では約1週間かかっていた契約業務をわずか1日半に短縮できます(図1)。

また、この数年で一気に進んだ働き方改革は、一度リモートに大きく舵を切った後、オフィスとリモートを適材適所に組み合わせるハイブリッドワークが主流になってきています。こうした調整、最適化を行うには、どのような状況にも柔軟に対応できるデジタルな業務プロセスが必要。当然、電子サインも含まれます。

電子サインの導入効果イメージ

(図1)電子サインの導入効果イメージ

──ペーパーレス、業務負荷やコスト削減、ドキュメント管理の効率化も電子サインの成果として期待できますね。では、まだ電子サインを導入していない企業にとっては、何が障壁になっているのでしょうか。

島田 それも共同調査から見えてきています。企業が電子サインを利用しない一番の理由が「自社に適した電子サインのツールがわからない」というものです。

この課題をさらに掘り下げると、日本特有の事情が思い浮かびます。多くの企業が同じ都市に本社を構えている日本では、ハンコと紙の契約文化でも困る場面はそう多くありません。タクシーや電車で取引先に向かってもすぐの距離だからです。それ故、諸外国に比べて電子化のモチベーションが低く、ハンコの商習慣が深く浸透し、業務プロセスも人に強く依存したりしています。その業務を電子化するとなると、社内の調整を図って合意を形成し、稟議のためのワークフローなど、サイン以外の周辺業務も含めてプロセスを設計しなければなりません。それをできるだけ効率的にクリアできるツールはどれか──。多くの企業が、そう悩み、自社に適した電子サインのツールがわからないと答えているのではないでしょうか。

■社内の契約で電子サイン業務を体感してみる

──深く定着してしまっている業務を変えるのは一筋縄ではいかない。だからこそ、最適なツールを選びたいということですね。

島田 ツールについては気軽に試すことが難しいという事情もあるのではと推測しています。いうまでもなく契約は重要な業務です。法的な効力を備えた方法でなければなりません。「試した結果、できなかった」ではすまされない。そうした意識がツール選びを慎重にさせているのかもしれません。

──では、これから電子サインを導入する企業は、どのようにプロジェクトを進めるべきでしょうか。

島田 まずお勧めしたいのが顧客や取引先との契約ではなく、それよりリスクの小さい社内の契約で試してみることです。例えば、個人情報保護の誓約書や新入社員の内定承諾書などです。それらを通じて、電子サインを導入すると契約業務がどう変わるのかを実際に体感するのです。

アドビも電子サインにトライしやすい環境作りを進めています。

──どのような環境を提供しているのでしょうか。

島田 多くのみなさんにご利用いただいている「Adobe Acrobat」には2つのプロダクトがあります。

1つは無償のビューアーである「Adobe Acrobat Reader」です。無償ですがPDFファイルを閲覧するだけでなく、注釈を付けるような加工を行ったり、「スタンプ」という機能で文書に「承認済」など、任意のハンコを押したりできます。そして、1カ月に2回、電子サインを利用することができます。前述した通り無償のツールですから、非常に手軽に電子サインを試すことができます。

■契約書の作成からサイン依頼までをワンストップで行なえる

──もう1つは、どのようなプロダクトでしょうか。

島田 2つめは有償の「Adobe Acrobat Pro」です。PDFは編集できないフォーマットだと思っている方もいるかもしれませんがAdobe Acrobat Proを使えば自在に編集できます。加えて、Adobe Acrobat Proは、Acrobat Signという電子サイン機能を備えており、回数無制限で電子サインを行なえます。

編集と電子サインの機能を併せ持つAdobe Acrobat Proを利用すれば、別のフォーマットで作成した契約書をPDFに変換し、他の電子サインツールを立ち上げて先方にサインを依頼するといった手間をかけることなく、最初からPDFで契約書を作成して、そのままサインを依頼できるわけです。回数も無制限ですから、多様な業種や規模のお客様の契約業務に対応できます。

Adobe Acrobat Readerで電子サインを試し、手応えを得てからAdobe Acrobat Proを導入するというお客さまも少なくありません。

──サイン以外の周辺業務も含めてプロセスを設計する──。Adobe Acrobat Proなら、契約書の作成業務も1つのツールにまとめることができるわけですね。

島田 「Acrobat Sign Solution」という電子サインに特化したソリューションを利用し、文書編集ではない、既存の業務プロセスと電子サインを連携させることもできます。Acrobat Sign Solutionの公開しているAPIを利用して既存のツールで構築している業務プロセスに電子サインを組み込むのです。Salesforceによる顧客管理に電子サインを連携させる。kintoneで開発した取引先管理や契約管理に電子サインを付加する。このような方法によって、既存の業務プロセスを活かしながら電子サインを導入することができます。コストは、電子サインを行った回数ごとの課金となるため、そこまで件数が多くないというお客さまにも向いています。

■PDFの生みの親であるアドビならではの安心感

──Acrobat Signは、IDCが行った日本国内のユーザー調査によると、国内では2位の利用率、1000人以上の企業では1位の利用だそうですね。どのような点が評価されているのでしょうか(※アドビ、IDC Japanとともに企業における電子サインの利用動向に関する調査を実施)。

島田 ありがとうございます。おかげで多くのお客様にご利用いただいています。使いやすさなどが評価されていますが、アドビがPDFというフォーマットの生みの親であり、安心できるという点も評価されています。

契約書は、契約期間、長ければ非常に長期に渡って保存していかなければなりませんが、単にファイルがあるというだけでは保存されているとはいえません。必要な時に、すぐに契約を交わした当時のままの内容でファイルを開ける「長期保管」「見読性」「検索性」を満たす必要があります。そのための仕様は、PDFファイル(電子文書)の長期保存を目的としたISO規格で定められていますが、この仕様はアドビが公開しているものです。ですから、アドビのプロダクトを使えば、自然に国際標準規格に準じた仕様で文書を保存できることになります。また官公庁などのホームページでもPDFファイルのそばには、よく「Adobe Acrobat Readerをダウンロード」などと書かれており、Adobe Acrobatが広く社会に浸透したデファクトに近いツールであることを示しています。

(図2)文書の作成、サイン、仕様に基づく保管までをカバーするAdobe Acrobat

(図2)文書の作成、サイン、仕様に基づく保管までをカバーするAdobe Acrobat

──有力な電子サインツールを提供するベンダーとして、今後の展望をお聞かせください。

島田 冒頭で述べたとおり、電子サインは効果につなげやすいデジタル施策の1つです。社会全体のデジタル化が進む中、いずれは全ての企業が対応を余儀なくされるものと思いますが、どうせ対応するのなら、早い段階から取り組んで、いち早く成果を享受した方が得策です。アドビには、デジタルだけでなく法律にも精通した導入支援パートナーもいます。ぜひ一緒に挑戦しましょう。