映像制作に3Dを取り入れよう！Adobe Substance 3D 最新アップデート＜Inter BEE 2023「Adobe Day」レポート＞
Inter BEE 2023で開催された「Adobe Day」では、アドビの3DCG制作ツールである「Substance 3D」をご紹介させていただきました。
同製品は映像・音響・放送業界が馴染みのあるAdobe Creative Cloudとは別に2019年から提供している3D専門の製品群で、ゲームや映画の業界で多く使われています。アドビは従来から3D関連の製品として、Adobe DimensionやAdobe Aeroといった製品をリリースしてきましたが、よりコンテンツを作ることに特化したのがこのSubstance 3Dです。
最新機能の中には、After Effectsとの連携なども含まれています。タイトルに掲げられたとおり、映像制作の中に3Dを取り入れることでリッチな映像コンテンツが実現できるほか、今後の拡がりが期待されるXRにも活用できる機能が多数搭載されています。
ここでは、Inter BEE 2023の会場で紹介したSubstance 3Dの基本的な説明や導入するメリット、最新アップデートなどからポイントとなる情報をピックアップしてお届けします。
Substance 3Dとは？
Substance 3Dは、2019年より以前はAllegorithmic社が出していた製品で、世界中のCGプロダクションやVFXスタジオで採用されています。
そして現在は、アドビの3D製品「Substance 3D Collection」として5つのツールから構成されており、それぞれ3Dの制作工程ごとに製品が分かれています。
①Substance 3D Modeler：3Dモデリング
②Substance 3D Sampler/③Substance 3D Designer：マテリアル作成
④Substance 3D Painter：マテリアルを使用して3Dモデルにペイント
⑤Substance 3D Stager：最終的な画をレンダリング
そして、これらを補完する形でマテリアルやモデルの素材を集めた「Substance 3D Assets」もラインナップされています。
2019年にアドビからリリースされてからは、それまでの製品構成にプラスして上記のモデリングやレンダリングのツールが追加されたことで、アドビのAR作成ツールであるAeroと組み合わせてワンストップに公開することまで可能になりました。このように3D制作の始まりから終わりまで全てカバーできるエコシステムとして完成されたのが、現在のAdobe Substance 3Dの特徴です。
パッケージ内容としては、いわゆる全部入りの「Substance 3D Collection」が個人向け、グループ版、エンタープライズ版で提供されています。
また、よりリーズナブルなパッケージとして、ModelerやStagerが付属しないテクスチャを作ることに特化した「Substance 3D Texturingプラン（個人向けのサブスクリプション）」も提供されています。
3DCG制作の潮流に沿った５つの特徴
Substance 3Dで作るマテリアルには５つの特徴があります。
①フォトリアルなマテリアル
Substance 3Dでは、昨今主流となっている物理ベースのレンダリング手法（PBRレンダリング）が採用されており、リアルな見た目を作るのが非常に得意。会場ではフォトリアルなイメージで制作されたデモリールをご覧いただきました。
②パラメーター調整が可能
例えばマテリアルの中で模様や色を制作していく段階で、任意のパラメーターを持たせておくことができます。後の工程で他のツールと組み合わせて使う時に、このパラメーターにアクセスして調整することも可能。ゲームエンジンと組み合わせて使う場合は、このパラメーター自体にゲームユーザーがアクセスできるようにして、ゲーム内で見た目を変更できるようにすることも可能です。
Inter BEE 2023の会場では、建物の壁のテクスチャーが次々と差し替わって、全く別物の様相を呈すサンプルムービーをご覧いただきました。窓への映り込みや構造の違いによる陰影も、テクスチャのバリエーションごとに精密に再現することができます。
③モデリング時間の短縮
Substance 3Dに限った話ではありませんが、昨今のレンダリング技術においてはテクスチャの情報を使ってディプレスメントをかける形でモデリングが行われています。
細かくクローズアップしないようなモデルに関しては、わざわざ新たにモデリングするのではなく、テクスチャを置き換えることでモデリング時間を大幅に短縮できるところも１つの利点です。
④他のツールでも使用可能
Substance 3Dマテリアルの形式は「SBSAR」ファイルで、この形式で書き出したものであればパラメーターを他のツールに持ち込むことができます。SBSARに対応していない製品に関しては、JPGやPNGなどの一般的な画像フォーマットを用いて利用したい製品上でマテリアルとして読み込めば使用可能。
今現在、SBSARに対応しているサードパーティー製品は多数あり、3DCGコンテンツのエンターテイメント向け製品はほとんどカバーされています。ゲームエンジンとしてメジャーなUnreal Engine、Unityはもちろん、放送局用の配信やライブイベントで使われている、Notch、Vizrtといった製品でも読み込めるようになっています。
⑤クオリティの一貫性を保持
使うツールが変わったときに毎回そのツールの中でマテリアルを作らなければいけないとなると2度手間で効率が良くありません。その点、Substance 3Dを使えば、テクスチャーをいろいろなツールに対して適用することができます。マテリアルをアセットとして使い回すことができる点が、大きなメリットとなっています。
５つのツールの機能と特徴
ここからは、ご紹介した特徴を踏まえた上で、Substance 3Dを構成する各ツールの基本機能やInter BEE 2023時点での最新アップデートをお伝えします。
①Substance 3D Modeler
モデリングをするためのツールで、Substance 3Dの中では一番新しいツールです。他の3DCGツールと比べて特徴的な部分として、モデリング中にポリゴンが出ていないことが挙げられます。
Modelerは内部的なデータを「ボクセル」という形式で持っています。ボクセルはピクセルに奥行き情報を持たせて、四角いキューブがたくさん積み上がっている状態のもの。それを削ったり追加したりしていくことでモデリングをしています。ポリゴンの流れを気にする必要がないので、形を作ることに集中できる点で優れています。
また、VRモードが付いているのも特徴。一般的なヘッドセットを繋いでかぶるだけで特にセットアップする必要もなくVR空間の中でモデリングが行えます。形状をしっかり把握しながらモデリングをすることができます。
②Substance 3D Sampler
マテリアルを作るツールが2つラインアップされており、1つ目がこのSubstance 3D Samplerという製品です。製品が２つに分かれている理由は、マテリアルを作るアプローチの違いです。
Samplerは画像をベースにマテリアルを作る製品です。例えば布の生地や壁などを再現したい時に、簡単にiPhoneで画像を撮ってSamplerの中に取り込むだけでマテリアル化することが可能。読み込まれた画像はAdobe Senseiが解析して、カラー情報、ハイトマップ、ラフネスなど、3Dに必要となるチャンネルを再構築したり、足りないチャンネルを生成してくれます。
取り込み時にマテリアルにつなぎ目がある場合には、フィルターを重ねるタイリングという処理を行って、一瞬ですぐに3Dで使えるマテリアルの状態にしてくれるという非常にパワフルなツールです。
マテリアル化したものには他のフィルター、例えば色を変化させるフィルターなどでバリエーションをつけることも可能で、それをパラメーターとして出力することもできます。
＜3D Captureフォトグラメトリー機能＞
ぐるっと3D化したいものを撮影して画像を取り込めば、同じように自動解析をして3Dモデルとテクスチャーを同時に作成してくれる「フォトグラメトリー」と呼ばれる機能が搭載されています。
＜HDRI画像の作成&編集機能＞
映像制作向けに特に重要な機能として、SamplerにはHDRIの画像を生成する機能も付いています。実写合成では、撮影した環境のライトと合わせなければいけないため、その撮影環境で360°画像を撮っておかないといけないことがあると思います。
Samplerの場合は、360°カメラでブラケット撮影したものを読み込むことで、自動的にHDRI画像を生成してくれます。さらにライトを追加したり、不要なものの消しこみも可能。アドビのツールなので「コンテンツに応じた塗りつぶし」の機能も使うことができます。
＜AIアップスケール機能が追加＞
Inter BEE 2023の時点で、バーション4.2となり、AIを使ったマテリアル機能でより正確なマテリアルを作れるようになりました。
大きなアップデートは「AIアップスケール」という機能。画像をベースにマテリアルを作っていくと編集が進むにつれてどんどんピクセル数が足りなってくることがありますが、このフィルターを介するとAIの力でアップスケールが可能。入力に対して最大4倍まで拡大することができます。
③Substance 3D Designer
Samplerと同じくマテリアルを作る製品ですが、画像から作成するのではなく何もない０の状態からマテリアルを作るツールです。特定の処理をするアクションを持つノードを重ねていくことによって、最終的な見た目を作っていくプロシージャルな制作アプローチをとっています。
画像をベースにしていないので、作成したマテリアルのファイルサイズが小さいのが特徴。画像ベースの場合1つの高解像度のマテリアルに100MB以上かかることが多々ありますが、Designerでは同じ物を数100KBという小さなファイルサイズで作ることができます。ゲームエンジンではビデオカード上に全てのシーンを展開することになるので、このファイルサイズの圧縮率はかなり優位といえるでしょう。
Designerの最新バーションではスプライン系のツールも使えるようになり、今まで以上に複雑な形状を作りやすくなりました。また大きなアップデートとして、サブスタンスエンジンがVer.9にアップデートされ、ループファンクションをカバーしました。
＜13,000以上のアセットで効率化＞
以上の2製品を用いて3Dマテリアルを作ることができますが、「Substance 3D Assets」というライブラリー集もラインナップされており、13,000以上の非常に高品質なマテリアルが提供されています。
こちらはサブスクリプションの中でダウンロードできるので、すぐに制作の効率化を図ることが可能。また、Assetsの中にはマテリアルだけではなく、3Dモデルや環境マップも提供されてます。
④Substance 3D Painter
マテリアルを使用して3Dモデルに対して直接ペイントするツールで、よく3D界のPhotoshopとも呼ばれます。UIは3D画面と2Dビューで構成されており、表示されているモデルに直接ペイントを施します。
レイヤー構造はPhotoshopと異なっていて、レイヤー１つ１つがマテリアルという考え方に基づいています。そのためレイヤー１つに対して、ハイトマップ、ラフネス、ノーマルマップ、オパシティーなどのチャンネル全てが内包されており、フルマテリアルの状態でペイントできるというのが特徴。また、ちょっと凹凸を変えたいとか、ハイトマップだけ調整するなどの限定的な作業をしたい場合には、調整したいチャンネルだけを有効にしたレイヤーを作ってその部分のみ編集することも可能です。
＜メッシュアダプティブなジェネレーター/スマートマテリアル＞
Painterは読み込んだモデルのメッシュ形状を利用できるのが大きなポイント。マスクを描くようなジェネレーターが搭載されていて、3Dモデルの形状の情報を読み取って描いてくれます。
例えば傷をつけるマスクジェネレーターでは、3Dのエッジの形状をちゃんと判別して傷がついていきます。ベースとなるルックを作ってスマートマテリアルという形式に変換すれば、アセットパネルに追加され、全く別の異なる形状をしているモデルに対しても同じように傷がついていくエフェクトを適用できます。このようにいろいろなメッシュに対して作ったスマートマテリアルを使いまわせるのが、Painterのとてもパワフルな特徴です。なおジェネレーターはDesignerで独自に作る事も可能です。
＜これまでのアップデート情報＞
2019年以降のアップデートとして一番大きかった部分がUDIM対応です。これは１つのモデルに対して複数のUVスペース（モデルにテクスチャを貼り付ける際に目安とする座標情報）を持つことができるという拡張機能。UVごとに4K・8Kといった高解像度でテクスチャを作ることができるので、クローズアップしたカットでも解像度が足りなくなることを防ぎます。
そのほか、こちらの表にある通り小刻みにアップデートされていますが、最新のバージョン9.1では、Adobe Standard Material（ASM）シェーダーの透明オブジェクトに対応しました。
＜After Effectsとの連携強化＞
さらに大きなアップデートとしては、After Effectsとの連携が強化されています。After Effectsのベータ版では3Dオブジェクトを読み込めるようになりました。Substance 3Dから出力した3Dオブジェクトを配置して、それに対してアニメーションを付けることが可能。配置した3DオブジェクトにHDRIのライティングも適用できます。レイヤー＞新規＞ライト＞環境ライトを追加し、ライトオプションのソースに対してHDRI画像を読み込ませれば撮影環境のライトを再現することができます。
3Dオブジェクトの形式はOBJ、GLTF、GLBといった形式に対応。After Effects上で色を変えたりもできるので、わざわざレンダリングをし直す必要もなく、Substance 3DとAfter Effectsを使ってモーショングラフィックスを作ることもできます。ベータ版ですが、ぜひ一度試していただきたい機能です。
⑤Substance 3D Stager
Stagerは最終的なレンダリングをするためのツールです。
他のレンダリングツールと違って非常にシンプルな操作性が特徴。ドラッグ&ドロップでシーン内にどんどんオブジェクトやライトを配置可能です。3Dマテリアルに関しても複雑なシェイダーネットワークなどを構築する必要はなく、使いたいオブジェクトに対してドラッグ&ドロップで適用でき、そのままボタン１つでレンダリングまで行なえます。
また、読み込んだ背景画像のパースを自動的に解析する機能も搭載。読み込んだ3Dモデルをそのパースに合わせて自動的に配置してくれるので、ちょっとしたレンダリングや画像の出力をしたいときに便利に使えるツールになっています。
読み込み形式も豊富です。CAD系のフォーマットにも対応しているので、Stagerに読み込んで、それをOBJやUSDなど他の形式に書き出すコンバーターのような役割としても活用できます。
オープンスタンダードへの取り組み
Substance 3Dはみなさんが使い慣れた他のツールと組み合わせて使うことを想定しており、どんどん拡張する取り組みに力を入れています。
＜OpenUSD＞
この取り組みの一環として、アドビはOpenUSDのアライアンスに参画しています。USDという汎用的なフォーマットデータで保存することによって、他のいろいろなツールでデータを開いた際に欠損なく再現して使用可能。Substance 3Dにおいて、モデルを書き出せるツールはすべてUSDのインポート・エクスポートに対応しています。
また、さらにシームレスに使えるようにするためのコネクタープラグインも開発しています。Blenderを例に挙げると「Send to Blender」というプラグインを開発しており、シームレスにデータを読み込んで、マテリアルを組み直す必要がなく、シェーダーネットワークにも繋がっている状態で書き出すことが可能。そんな機能が今後、Maya、3ds Maxなどの主要ツールに関しても同じようなプラグインで提供される予定です。
＜OpenPBR＞
もう１つの汎用フォーマットOpenPBRの取り組みにもアドビは力を入れています。
先述したUSDのディスクリプションにはマテリアルの定義は含まれませんが、このOpenPBRはその部分も含めてスタンダードな形式を揃えていく取り組みです。
現在、Autodeskとともに開発を進めており、このフォーマットが形になると、Substance 3Dで作ったマテリアルを一切微調整することなく全く同じ見た目を他のツールで再現できるようになります。
汎用性を重視した開発が続くSubstance 3Dは、映像・音響・放送業界向けの展示会であるInter BEE 2023でも多くの注目を集めました。
サンプルファイルが付属した詳しいチュートリアルをオンラインに公開しています。ぜひ一度お試しください。
YouTube［Substance 3Dチュートリアル］
https://www.youtube.com/playlist?list=PLF_lcvNhVWn_ghrdm-OZoogRSxW96wthQ
学ぶ | Adobe Creative Cloud | Substance 3D
First Steps with Substance 3D Modeler on Desktop (adobe.com)
First Steps with Substance 3D Sampler (adobe.com)
First Steps with Substance 3D Designer (adobe.com)