実践者が伝えるクリエイティブ生成AI業務導入アクション:《 企画編 》《 デザイン組織編 》 | Adobe Firefly Meetup #3

2024年8月27日、アドビ東京オフィスにて第3回目のAdobe Firefly Meetupが開催されました。企業内のユーザーが抱える生成AIに関する問題や悩みなどをカジュアルに意見交換できるエンタープライズ向けのイベントです。Fireflyユーザーのための小規模なミートアップイベントとして企画され、生成AIへの取り組みや課題、ノウハウ、知見などを共有し、交流を深める場となっています。

今回は、Adobe Firefly最新アップデート情報、生成AI最新動向とAdobe Fireflyのベストプラクティス[2024年8月版]、そしてゲストスピーカーとして、株式会社 電通 のクリエーティブ・ディレクター / CMプランナーであるクドウナオヤ 氏、合同会社DMM.comのデザイン部 部長である齊藤 卓真 氏に登壇していただきました。

実践者の取り組みを直接聞けるのがこのミートアップイベントの利点であり、生成AIのビジネス活用を推進する起動力になっていると言ってよいでしょう。今回もAdobe Fireflyの最先端の活用事例を知ることができ、参加された方々は多様なインスピレーションを得られたと思います。

もくじ

  • 動画生成AIで変わる映像制作
  • Adobe Fireflyプロンプトエンジニアリング・開発編
  • “前例のない企画”を加速させる生成AI活用術
  • デザイン組織の生成AI導入プロセス
  • まとめ

動画生成AIで変わる映像制作

4月14〜17日にラスベガス・コンベンションセンターで開催されたNAB Showで、Adobeは「AI for Video Editing」を公開。「生成拡張」「オブジェクトの追加と削除」「Bロールの生成」の3つの動画生成機能、さらにサードパーティの生成AIモデルをPremiere Proで利用可能にするという発表もあり、大きな話題になりました。

動画生成AIのサービスが登場したのは2023年の6月で、まだ1年と2か月しか経っていませんが、現在はすでに第3世代が主流になっています。Runway Gen-3 AlphaやLuma Dream Machine、KLING AIなどが代表的な第3世代の動画生成AIです。

わずか3か月で第2世代から第3世代に移行してしまった

動画生成には「プロンプトから生成(Text to Video)」、「画像から生成(Image to Video)」、「画像とプロンプトで生成」などがありますが、表現力が大幅に向上しており、人物の顔のクローズアップや自然描写などは実写映像と区別できないレベルに到達しています。

日本人の家族の画像をRunway Gen-3 Alphaでビデオ生成。幼少の頃の古い写真などを映像化することができる

プロフェッショナル視点ではまだ使いものになりませんが、コンシューマー向けの映像制作(TikTok向けのショートムービーやWeb広告等)としては十分利用できます。プロの領域でも動画コンテやプロトタイプ制作には使用できますので、今後は上位工程での活用が増えていくでしょう。

動画生成AIのマーケットセグメントは「コンシューマー」「プロフェッショナル」「アカデミック」に分けることができる

アメリカ大統領選挙が終わる11月には第4世代と言えるOpenAIやGoogleなどのプロダクトが登場する可能性もあり、動画生成AIから目が離せません。もちろん、Fireflyの動画生成機能も期待が高まっています。

既存の映像制作に与える影響も大きいと考えられますので、映像業界の方々には動画生成AIに関する情報収集を強くお奨めします。

補足説明:

※2024年9月11日(米国時間)、ビデオ編集に特化した生成AIモデル「Adobe Firefly Videoモデル」が今年後半に先行公開されることが発表されました。

https://blog.adobe.com/jp/publish/2024/09/13/cc-video-bringing-gen-ai-to-video-adobe-firefly-video-model-coming-soon

Adobe Fireflyプロンプトエンジニアリング・開発編

現在のFireflyは、Image 3モデルがデフォルトになっています。AIモデルが更新されるとプロンプトの書き方も変わってしまいますので、Image 2で蓄積したプロンプト・ノウハウが資産になりません。Image 1に関しては生成することもできません。

現在デフォルトになっているFirefly Image 3 Foundationモデル

Fireflyは他の画像生成AIとは開発思想が大きく異なり、プロンプトに依存しない(クリエーターの作業に最適化された)画像生成が可能です。スタイル効果、スタイル参照、構成参照などの機能があり、各々のパラメータ値もスライダーバーで調整できるようにUI設計されています。

Fireflyのプロンプト入力に依存しない機能構成

Fireflyのプロンプトエンジニアリングでは、スタイル効果やスタイル参照、構成参照とそのパラメータ値の組み合わせを知ることが重要です。今回は、Fireflyの学習データからヒントを得る考え方について解説しました。

ご存知のとおり、FireflyはAdobe Stockの一部のデータをトレーニングに使用しています。

「アニメスタイルの可愛いユニコーンのイラスト」という短いプロンプトを入力した結果。

Fireflyで有効なプロンプトを開発する1つの方法として、Adobe Stockの中の画像からヒントを得る考え方は大変有効なものです。Stockページに掲載されているタイトルや類似キーワードから影響力のある言葉を探し出すことができます。

Adobe Stockの各ページに掲載されている類似キーワードからヒントを得る

前述したとおり、AIモデルが変わるとプロンプトテクニックが無価値化されてしまうため、新モデルの特性を見極め、差分だけ試行錯誤する方法を身につけてほしいと思います。AIのトレーニングデータに着目するのはその一要素だと捉えてください。

「AI機能(Adobe Sensei)」と「生成AI機能」は別物ですから、明確に分けて使い方を模索することをお奨めしたいと思います。

“前例のない企画”を加速させる生成AI活用術

最初のゲストセッションは、株式会社 電通 のクリエーティブ・ディレクター / CMプランナーであるクドウナオヤ 氏による「“前例のない企画”を加速させる生成AI活用術」です。

新規性が高く前例のないプランを実現させるステップとして、画像生成AIが有用であることを具体的なエピソードを交えながら紹介していただきました。

企画が言語化できれば、それがプロンプトになる

クドウ氏は、前例のない企画を推進する上で画像生成AIが有用なポイントを5つ挙げています。

  1. 言語化した前例のない企画をビジュアルで検証できる
  2. 人的、時間的、金銭的コストを省き企画の時間に割ける
  3. 前例のない企画のプレゼンをする際にビジュアル化は強いツールになる
  4. 実現に向け制作チームでの目線合わせに有用
  5. 既視感のない印象的なビジュアルイメージをつくれる

自分のアイデアを言語化できれば、画像生成AIで容易に視覚化することができ、チーム内での共有が進み、クライアントに提案する際も有利に働きます。

Adobe Fireflyで作成したMusic Videoのキラーカット

Music Videoの実際のカット 出典: ano feat. 幾田りら 「絶絶絶絶対聖域 」Music Video

前例のない企画意図を人に伝えるには、素材集などのあり物から探し出すのは難しいため、確かに画像生成AIはイマジネーションのツールとして最適だといえます。

Adobe Fireflyのスタイル参照機能によって、トーンが統一された連続性のある画像を生成でき、動画のストーリーボード作成にも役立つ

重要なのは、画像生成AIに全てお任せするのではなく、クリエーターの創造力を拡張するために活用すること。クドウ氏は「言語化←→ビジュアル化 を何往復も一人で検証できる」ことで企画の精度を高められると述べており、まさに生成AIによって人間の能力を強化する最先端の事例になっていると思います。

言語化とビジュアル化を行き来しながら一人で納得いくまで検証できる

デザイン組織の生成AI導入プロセス

2つ目のゲストセッションは、合同会社DMM.comのデザイン部 部長である齊藤 卓真 氏による「DMMデザイン組織の生成AI導入プロセス - Adobe Fireflyと振り返る約1年とこれから -」。

事業会社のインハウスデザイナーに対する生成AI業務導入で行った様々な取り組みをご紹介いただきました。

デザイン組織への生成AI導入にあたってプロジェクト体制を再整備

生成AIのような数週間で仕様が変わってしまう技術は、成功例と同じくらい失敗例も大事です。失敗して一回で諦めるのではなく、技術進展に常に目を向けて試行錯誤する姿勢こそ重要なのです。

齊藤 氏は「事例を共有する文化」について強調しており、事例報告を業務と定義し、過度な正確性を求めないことの重要性を提示されていました。

過渡期の技術に対して、精度を求めるのは危険で柔軟な対応と密な情報共有が優先されるべきでしょう。「事例を共有する文化」というアプローチはこのような時期には有効に働くものです。大変参考になりました。

事例を共有する文化を醸成

特定の生成AIに絞らず、テキスト生成AIや画像生成AIなどを必要に応じて使い分けることで、既存のやり方を圧迫することなく活用することができます。FireflyはPhotoshopやIllustratorなどのデザインツールにも実装されており、デザイナーが使い慣れたUIで実践導入できることが大きな利点になっています。

生成AIの組み合わせ活用

齊藤 氏は最後に「何を届けるべきか?」を考え伝えられるインハウスデザイナーを育成していきたいと意気込みを語っていました。「AIと人の分担」を明確にすることで、技術に振り回されず、やるべきことに専念できるデザイン組織が形成されていくのだと感じました。

齊藤 氏のスライドはこちらで公開されていますので、ぜひご覧ください。

まとめ

6月4日に開催されたAdobe Firefly Meetupの第2回から、3か月弱しか経っていませんが、画像生成AIでは高性能の「FLUX.1」が登場し、動画生成AIは第3世代に様変わりしています。前回ご紹介したRunway Gen-2やPikaなどは旧世代になってしまいました。凄まじいスピード感です。

次回のAdobe Firefly Meetupでは、第4世代をご紹介するかもしれません。

アドビの三好 氏による「Adobe Firefly 最新アップデート情報」から引用。Fireflyの新しいモデル(Audio、Video、3D等)が控えている

新技術の過渡期でよく見る風景ですが、このような変化の激しい時期はコミュニティの役割が重要になってきます。1つの組織が対応できるものではありません。先行者の体験を享受でき、同じ悩みを共有できる場が必要です。

Adobe Firefly Meetupがそのような学びの場となれば幸いです。