映画『こまねこのかいがいりょこう』|こまちゃんたちの世界をつくるコマ撮りアニメで活躍するアドビ製品
コマ撮りアニメーションといえば、この「ねこの女の子」を思い出す方も多いことでしょう。コマ撮りとモノづくりが大好きな「こまちゃん」が主人公の『こまねこ』は、その独創的な世界観とキャラクターたちの愛らしい動き、情感豊かな表現で、幅広い世代に多くのファンを生んできました。
20周年を記念して作られた11年ぶりの新作『こまねこのかいがいりょこう』は、初めての海外旅行に出かけることになったこまちゃんの友情と成長が描かれる短編映画で今秋10月25日から全国で劇場公開されます。
今回の記事では「こまねこ」を生み出し、キャラクターデザイナー、アニメーション作家として数々のコマ撮りアニメーションを手掛けてきたドワーフ(株式会社FIELD MANAGEMENT EXPAND)代表 合田経郎氏と『こまねこのかいがいりょこう』で編集を担当されたドワーフの杉木完氏、吉川恋門氏にお話を伺いました。
『こまねこ』の生みの親であり、シリーズのキャラクターデザイン・監督を務める合田経郎氏
今回のテーマは「成長」ということですが、どんな発想でスタートしたのでしょうか。
今回は20周年ということで、あらためてこまねこのことを考えたときに、こまねこには幸せになってもらいたいし成長してほしいという思いがあったのですが、一方で成長しないでこのままいてほしいという思いもあることに気づきました。そんなことを思いながら、ちょうどストーリーを考え始めたのがウクライナ戦争が起きたときでした。
そのときの報道で父親は国に残り、母親と子どもは国外に退避する映像が流れていたのですが、子どもが体に見合わない荷物を持ちながらも手にはぬいぐるみをぎゅっと持って逃げていたんですね。その子にとってはぬいぐるみって命綱みたいなものだろうな、それを掴んで出かけるときの気持ちはどんなだったのかなと考え、そんなところからストーリーができていきました。戦争を描きたいとかそういうことではないんですけど、日常の中に心を揺らすものが入ってきて、それがストーリーになってしまったということです。
『こまねこ はじめのいっぽ』の撮影がスタートしてから20年の間で制作の仕方が変わったところや、逆に変わっていないところなどがあればお聞かせいただけますでしょうか。
まずは変わってないところから話すと、こまねこは20年前に作った人形をいろいろ治療しながら使っています。セットや小道具も20年前に作ったものを直しながら使用しています。コマ撮りはこれらを手で動かして、パチャって撮って、またちょっと動かしてパチャって撮ってを繰り返して24コマで1秒にします。この1枚1枚撮影して1日で撮れるのは約5秒という手作業の部分は変わってないですが、周りは結構変わっていますね。
20年前はフィルムで撮影していたのが今はデジタルカメラとコンピューターで収録して、撮った後のデジタル処理も大きく関わるようになってきました。20年前のこまちゃんたちは、髪の毛よりも細いんじゃないかという糸で吊して撮影するのが前提だったんですけど、今では撮影効率がいいようにタンクやリグと呼ばれる人形を支える機材を使って撮影するようになりました。以前より撮影自体は速くなり、人形たちを動かす自由度も上がりましたが、そのかわりデジタル処理でそのタンクなどを消す作業が増えました。また、モニター環境が良くなったので、繊細なライティングにも挑めるかなと、夜の部屋のシーンなんか思い切ってやってみました。アナログからデジタルになって、そういったところは目立って変わったところですね。
『こまねこのかいがいりょこう』夜の部屋のシーン
アドビ製品が『こまねこ』の制作で活躍されているとお伺いしました。まずPhotoshopはどのように使われていますか?
まず前提として、自分がコンピューターが得意かというと得意じゃないほうだと思ってます。その中で唯一使い続けているのがPhotoshopです。20年前のこまねこもPhotoshopで絵を描いて、それをビデオコンテにして、カットの長さや全体のテンポを知ってもらう為のガイドにしていました。それからPhotoshopで絵を描くというのが基本になっていて、コンピューターを使う理由の6割ぐらいを占めています。
最初のキャラクターデザインはどうしても紙と鉛筆になるんですけど、そのあとスタッフに共有するために色を付けないといけないし、自分自身が色を探りたいし、そういう時にはPhotoshopを使って、イメージの共有としてデータを作っています。今回の『こまねこのかいがいりょこう』でも同じように、衣装とか美術にこういうアイテムがほしいというのを描いて出しています。Photoshopは僕にとって筆記用具ですね。
Premiere Proは、こまねこの制作でどのように使われてますでしょうか。
Premiere Proは、撮影前にカットの長さを知るためのビデオコンテを作成するときとオフライン編集に使っています。
オフライン編集ではビデオコンテの上に撮影素材を載せて、カットの割り方を確認しながら編集していきます。動きや間をフレーム単位で調整することもあって、間をもうちょっと伸ばしたいときにフレームを足したりしてますね。それが全部整うと全体の長さがフィックスしますが、見えちゃいけないところがたくさん見えている状態なので、オフラインを書き出したムービーと撮影素材を編集の人に渡して、バレ消しと加工をしてもらうという流れになっています。
ビデオコンテは紙と鉛筆で描いた画をPhotoshopで調整し、Premiere Proに読み込んで作成
ビデオコンテをもとに各カットを撮影し、Premiere Proでオフライン編集を行う
撮影現場でリアルタイムにオフライン編集してチェックをしているのでしょうか。
現場のムードによって途中で見せたほうが盛り上がる場合もあるんですけど、今回の現場は最後までお楽しみにしたほうがいいんじゃないかと思って見せませんでした。
昨今のコマ撮りは何チームも同時進行で動いて一気に作ってしまうこともありますが、こまねこの場合はワンチームで作っていくというのがベースになっていまして、そのリズム感が今回の作品にはいいなと思いました。あんまり慌てず騒がず、最後まで粛々といこうと。ただ、どうしても不安なところもあったりして、ここは大丈夫かな? というところはこっそり内緒で編集していましたけど……。
クランクアップした日に現場でモニターを囲んでまだラフだけどオフラインの映像を観てもらいました。オフラインは今までやってきたことの答え合わせという感じで緊張しましたが、みんないい顔をしてくれていたので、それはすごく自分にとって幸せな時間でした。みんなで作って良かったなと思ったし、皆さんもそう思ったんじゃないかという手応えがあって、幸福な時間でしたね。
『こまねこのかいがいりょこう』はPremiere Proでオフライン編集を行っている
オフライン編集の期間はどのくらいでしょうか。
コマ撮りはテイクがたくさんあるわけではなく、ほぼ1テイク、あっても2テイクなので、編集的な悩みというのはあまりなくて、反省はすごくありますけど……。フレームの調整が主ですが10日間てところですかね。オフラインでは声や音の位置も決めなくてはならなくて、そこは結構時間をかけています。こまねこは過去に録った膨大な量の「にゃー」素材があって、その中からピックアップして使っていくんですね。カットごとにこの感情が伝わるのはどのにゃーがいいんだろうかと考えて、泣いてるにゃーとか怒ってるにゃーとか、なんとなくそれを覚えているので、たしかこれだと思って使ってみると違っていたということもあったり……そうするともう一回全部の「にゃー」素材を聞くことになります……。
オフライン編集後のムービーを見ている合田氏とこまちゃん
ほかによく使うアドビ製品はありますか?
準備段階のコンテや書類やスケッチみたいな資料は枚数が多くなってくるし、みんなと共有するためにデータを整理するのにAcrobatを使っています。あと、今回はエンドクレジットにこれまでこまねこに関わってくれた人の名前を書かせてもらったんですけど、Frescoを使って手書きで描いていますね。
Frescoで描いたエンドクレジットをPhotoshopで調整
連携の面でいうと、今回は劇中に2Dのアニメーションが出てくるんですけど、自分がPhotoshopで書いて動きをつけて、それ編集チームに渡してAfter Effectsでエフェクトをかけてもらっています。Photoshopでもチラつきやフィルム感みたいな質感をつけて描いてますが、それがより引き立つようにしてもらっていますね。
あらためて、合田さんが思うコマ撮りの良さや楽しさをお聞かせいただけますか。
自分はストーリーを考えたり、キャラクターを作ったり、みんなと一緒に作品を作るのが好きでやってるんですね。人形を作るのが好きな人がいて、それを動かすのが好きな人がいて、小道具を作るのが好きな人、撮影をするのが好きな人、いろんな人の好きっていうのが画面から伝わってくるのがコマ撮りの良いところかなと思いますね。ただ楽しいだけではいられないけど、それぞれのパートが好きというモードでやろうという雰囲気は、特にこまねこの現場にはあるのかなと思います。
あとは、作品自体は70%の出来で残りの30%は観た人の想像力で完成させてもらうようなことが、こまねこのいいところかなと思ってます。「にゃー」っていうのはどういう意味なんだろうというのは、観た人にだいぶ委ねる作品だと思うんですよね。自分では思っていなかったところで「あそこで泣きました」とか言われて「えーあそこで?」ということもある。100人いたら100人のこまねこのストーリーが生まれるというのが自分にとってはやりたいことなので、感動ポイントが違ったりするのはすごく面白いなと、そうありたいなと思ってます。
合田さんの携わる部分はたくさんあると思いますが、好きな作業や嫌いな作業はありますか?
絵コンテを書くことは全体の設計図になるので一番大事だと思ってますし、自分の中では半分以上の力を注いでいます。撮影ももちろん好きなんですけど。あとは、最後の音の作業まで進むとだいぶ無邪気になっていられるので、一番好きといえば好きかもしれないです(笑)。
監督なのでNGを出さなきゃいけないですよね。1日に5秒くらいしか撮れないので、丸1日かかったものを見て「もう一回」って言ったときには、本当に隕石でも落ちてドスンと音がしたくらいスタジオが暗くなる時もある。それはそれで嫌な仕事だなぁと思うんです。でも、監督なのでどうしようもないかなと思います。
新作ができたばかりですが、こまねこの今後の展開をお聞かせいただけますでしょうか。
こまねこを始めた頃から10年後、20年後も、ずっと変わらずに見られる作品を作りたいと思ってきました。親から子へ読み継がれる絵本のような、古びないものを作りたいと思ってやってきたところ、公開撮影を行った際にたくさんのこまねこファンの方が来てくれて、本当に親から子へ受け継がれていたということをたくさん教えてもらいました。ちょっとびっくりしたんですけど。
そういう考えで始めてしまった手前、こちらからその手を離すわけにはいかないので、今回は20周年の作品を作りましたけど、また次の子が待ってるかもしれないので、次は何年後かに、また粛々と作っていければと思っています。
ここからの後半では、『こまねこのかいがいりょこう』における編集についてお話を伺っています。
コマ撮りに必須の作業となっている「バレ消し」の具体的な手順やノウハウ、撮影時の空気感を残すためにどんな点に気を使っているのかなど、その緻密な作業の裏側について、編集を担当されたドワーフの杉木完氏と吉川恋門氏にお聞きしました。
杉木 完氏(『こまねこのかいがいりょこう』では仕上げまわりの監修を担当)
吉川 恋門氏(『こまねこのかいがいりょこう』では、主にレタッチやバレ消しを担当)
まずは、お二人が普段担当されているお仕事をお教えいただけますか。
杉木氏:
普段は、撮影、照明、撮影設計、VFX回りをやっています。全体のフローを決めたり、撮影で判断が難しいときに相談に乗ったり、何でも屋なところはあるんですけど、今回の『こまねこのかいがいりょこう』では仕上げまわりの監修に近い立場でした。
今回編集で実際に手を動かしてくれたのは吉川です。元々ドワーフ社内には僕しかVFX回りや撮影周りなどの技術をする人がいなかったんですけど、吉川含め他にも何人か入ってくれて、いまは特撮技術部という部署もできて、現場には時々ちょっかい出すぐらいで済むようになりましたね。
吉川氏:
私はポスプロ専門で、普段、編集を外注するときには杉木と共に監修も担当しています。
『こまねこのかいがいりょこう』では、主にレタッチやバレ消しと呼ばれる作業を担当しました。人形を支えるタンクなどの道具やほこりなど作品には必要のない部分を消したり、あとはカットを分けて撮られるものもあるので、その合成なども行いました。今回はカラーグレーディングも担当していて、最終的にどういう色にしていくかを監督や撮影監督と話し合いながら仕上げていきました。
After Effectsを使った作業についてお聞かせいただけますか。
杉木氏:
After Effectsを使うのは主に「バレ消し」です。これは基本レタッチなんですけど、すごく難しいなと思っています。こまちゃんの歩いてるシーンでは、後ろに黒い塊があってこれは通称タンクといわれている道具なんですが、そこから伸びている金属の棒(リグ)がコマちゃんの背中に繋がっていて体を支えているんですね。まずはこのタンクを消すっていうのが大きな仕事です。
こまちゃんの後ろにある黒い塊 通称「タンク」を消すのが、コマ撮りにおける「バレ消し」の中でも大きな作業
バレ消しは、具体的にどんな作業が行われているのでしょうか?
杉木氏:
マスクで囲ったタンクを選択して消せば基本のバレ消しになりますが、背景にこまちゃんとタンクの影が落ちてるので空舞台(からぶたい=セットにキャラクターがいない状態の収録画像)と色が合わない。その場合は、空舞台のほうを色調整して色を馴染ませます。この作業は全部After Effectsでやっています。
あとは、コマ撮りって時間が経つごとにほこりが積もったり、セットが動いてしまったり、光の感じが変わってしまうとか、温度や湿度でセットが歪んでしまうことが多々あります。そういうのを止めたり消したりしなければいけないんです。でも、どこまで消すのが正しいのかって、じつはあんまりよくわからないんです。例えばカーテンが1コマでパタッと動いてしまったら、それは気になるから止めましょうと判断できるけど、ほんのちょっと動いてる部分はコマ撮り感だったりする場合もある。
そのいわゆるコマ撮りの「味」の部分って幅広いんですよね。色々やりすぎるとCGっぽくなってしまうこともあるので、僕のアプローチとしては「なるべく撮られたセットをそのまま活かすこと」から始めるようにしています。
バレ消しで大変だったシーンを教えていただけますでしょうか
杉木氏:
このカットはやることが多いカットで、手前のぼけているキャラクターはブルーバックで撮影して合成しています。合成で使うカットはぼけている状態で撮ると抜けなくなってしまうので、フォーカスを合わせて撮影しています。現場でこまちゃんにフォーカスを合わせた時に手前がどれくらいぼけるかリファレンスを撮っていて、それを参考にしてあとでデフォーカスをかけています。
手前の合成用カットはブルーバックで抜けるようにフォーカスを合わせて撮影
バレ消し後、手前の合成用カットにデフォーカスをかけて合成
ほかにバレ消しが大変だったシーンなどはありますか?
吉川氏:
このシーンのようにキャラの影とリグの影が重なってあいまいなところは、やることが多いですね。
キャラの影とリグの影が重なってあいまいになっているカットはバレ消しが難しくなる
こまちゃんの手の影は作って違和感がないように調整
こまねこの手の影の形は、撮影素材を元にして作り直しています。レタッチの時点でだいぶキレイにはしていますが、手の影をちゃんと生かしつつもリグの影は消しています。ただし空舞台と状況は違うので、毎回のテイクに合わせていく必要があります。
杉木氏:
うちの子(こまねこ)たちってボディが大きくて腕が細くて尻尾が生えてるんですよ。尻尾の影とリグの影っていうのが絡んでくるとわかんなくなっちゃうんですよね。ずっと動いてるときにリグと尻尾の影が重なって、「まぁここら辺だろう」と切っていると気が付いたら一生懸命リグの影だけ残していて、しっぽの影がすっかりなくなってたり……動かしてみてハッっとなることが結構あるんですよね。なかなかややこしいんです。
『こまねこのかいがいりょこう』では、2Dのアニメーションもありますが編集ではどんな作業をしていますか?
吉川氏:
合田さんがPhotoshopで描かれた2Dに、アニメをつけたりちょっと揺らぎを付けたり、そういう追加の表現に関しては全部After Effectsで行ってます。
合田氏がPhotoshopで描いた2Dアニメ(After Effects処理前)
After Effectsでさまざまなエフェクトをかけてゆらぎや掠れなどの質感を表現している
杉木氏:
いろんなエフェクトを重ねてビリビリしてる感じを作りたかったのと、水彩で塗ったようなムラとか掠れをつくりたかったんで滲ませたり、ディスプレイスメントマップなどで揺らしたりしています。またエフェクトを重ねるときなどは、ほかの作業者が作ったレイヤー構造が分かりづらい場合があるので、コメントで整理しながら作業をしました。
レイヤーを重ねるときはコメントに何のエフェクトなのかを明記してわかりやすくしている
吉川氏:
あとは周辺が暗くなるようにビネットを追加したり、揺らぎの部分は色々試した結果フラクタルノイズがいいねとなったりしました。
ほかにもチャレンジだったシーンがあれば教えていただけますか。
杉木氏:
このシーンは、おじいの下手に光源があってドアもあるし、手前もわりと逃げられないんですよね。小物が置いてあったり尻尾との干渉がどうしても出てきてしまう。こういう時は上から吊ってもらうことが多いんですが、おじいが階段の真下に立ってるので難しい。なので大胆におじいのリグがこまちゃんを横断しちゃってるんです。
リグを消すためのエッジの数が多いとバレ作業はシビアに。上がバレ消し前、下がバレ消し後
吉川氏:
バレ消しする部分のエッジが多くなっていて、簡単に説明すると、おじいのリグが下手から出ていれば1箇所で済んだ作業点が逆に出ていることによって4箇所に増えています。作業量が単純に4倍になってるという訳ではありませんが、大変な部類に入るカットでした。
もう1個厄介だったのはこの壁に出ている接地影ですね。リグの影があるのでそこをちゃんと消さないと、こまちゃんが浮いて見えてしまう。ただ、真っ白な空舞台に置き換えても不自然なので、ここでは影を作っています。
撮影や編集を行う立場として、あらためてコマ撮りアニメーションの面白さをお聞かせいただけますか。
杉木氏:
僕は元々手品が好きで、7歳の時にスターウォーズを観て「すごい、手品だ!」と思い、そこから裏側に興味をもって特撮屋になったんですよね。コマ撮りは本当にすごいマジックだなと思っていて、特撮の1ジャンルとして好きです。
手触り感を残しつつ、あの無粋なタンクが綺麗に痕跡ごとなくなる。今まで色んなバレ消しをやってきましたけど、コマ撮りのバレ消しは見えないところに気を使うというか、それをちゃんと届けてあげないと一気に冷めてしまう人が多いだろうし、そこが面白いと思ってやっています。難しいですけどね。
吉川氏:
バレ消しの難しさはたくさんお話ししましたけど、作業しているときにある点を境に「あ、こまねこが動いてる」って思う瞬間があって、それは毎カット、ハッとするんですよね。普段はあくまでこま撮りなので動いてないものを動かしている感覚があるんですけど、これが切り替わるタイミングというのがあって、「動いた!良かった」という気持ちになる。すごく不思議なんですけど、同時にすごく面白いなと思います。
リグがあるってどこか冷静に見てしまっている自分もいる中で、それをいかに冷静じゃなくできるかという仕事でもあると思うので、そこが切り替わった時に「ああ、今回もちゃんとできたな」って思いますし、何レイヤーにも重なってその面白さを感じるときがありますね。
最後にこれからのアドビ製品に期待することと、今回の『こまねこのかいがいりょうこう』の見どころをお聞かせください。
杉木氏:
After Effectsが持ってる機能だけで、バレ消しのベーシックなことは大体できるんですよね。
ただ作業的に毛を1本1本マスキングしていくのはやっぱり大変なので、生成AIがもっと気遣いのできるアシスタントになってほしいし、人間にできない作業の中間作業をピンポイントにしてくれたらもっと作業が速くなると思っています。AIと共存したいと思っているので、一緒に歩めるくらいの進化を期待したいですね。
作品の見どころは、編集の観点から伝えるのは難しいですけど、空気感を本当に戻せてるかどうかはバレ消しの一番大事なことだと思っています。ちゃんと光が現場で表現した光の通りに当たっているか、影はあるべき影なのか、セットで撮った空気がちゃんと伝わってるのかどうかは意識してやっています。今回は暗い中にも光が指してる部分が結構あって、そこの温度感や柔らかさにはこだわったつもりなので是非見てほしいですね。
吉川氏;
この言い方が当てはまるか分かりませんが、コマ撮りの編集は「忍者的な仕事」で、バレたらいけないので「作品の世界感が壊れてないといいな、誰も気づかないといいな、こまねこが生きてる世界なんだよ」ということがしっかり伝わればいいなと思っています。