生成AIは柔軟に使い分けることでその真価を発揮する | Acrobat Tech Talk
2024年11月19日、アドビ東京オフィスにて開催されたイベント「Acrobat Tech Talk 」では、ドキュメント資産活用のためにAI 導入を検討している企業や行政機関の担当者が集まって情報交換を行いました。本イベントではアドビのエグゼクティブフェローであり、さまざまな企業のプロダクト戦略やエンジニアリングを支援しているTably株式会社の及川卓也氏をゲストにお迎えし、AI 技術の最新動向を踏まえた解決策をご提案頂きました。また、Adobe Acrobat の製品スペシャリストによる具体的な事例紹介を通じて、AcrobatのAIソリューションの活用方法についても深く掘り下げました。
生成AIの進化と日常への浸透
及川氏は冒頭で、LLM(大規模言語モデル:Large Language Model)とSLM(小規模言語モデル:Specialized Language Model)やRAG(検索拡張生成:Retrieval Augmented Generation)を取り巻く直近の議論について触れました。SLMは特定分野に特化した効率的な運用が可能ですが、知識量や汎用性に課題があります。この課題を補完するのがRAGで、外部データから必要な情報を取得して活用する仕組みです。ただし、RAGの構築にはデータ収集やベクトル化、検索インフラの整備が必要で、運用にはプライバシーやセキュリティの厳格な管理が求められます。これらの課題にはRAG導入を検討している参加者の多くが共感していました。
また、生成AI技術がいかに日常に浸透し、進化を遂げてきたかを振り返りながら解説しました。2012年に深層学習の大きなブレイクスルーがあり、それが現在のAI技術の発展に道を開きました。この技術の登場により、音楽・動画配信サービスのレコメンデーション機能や、写真編集のような日常的な場面でAIが活用されるようになったのです。この技術は私たちのコミュニケーションや働き方を大きく変えています。
及川氏は「生成AIは進化中であり、現在の生成AIの1つを使いこなすだけでは十分ではない」と強調しました。生成AIの特性は絶えず変化し、多岐にわたる分野に適用される中で、特定のツールやアプローチにこだわり続けることは、変化する時代のニーズに対応しきれない可能性があります。そのため、生成AIを取り巻く技術やサービスを柔軟に捉え、複数のソリューションを適切に使い分ける視点が求められるのです。これにより、急速な技術進化に対応し続けることが可能となり、生成AIがもたらす新たな機会を最大限に活用する道が開けます。
生成AIを活用するためのガバナンスと組織の変革
生成AIがますます進化し、ツールやアプリケーションに広範に組み込まれる現代、及川氏は「適切なデータ管理のガバナンスが重要である」と指摘しました。生成AIを適切に活用するためには、データの利活用を支えるワークフローやガバナンス体制の確立が不可欠です。これにより、組織は生成AIの力を最大限に引き出し、日常業務に組み込む形での活用を進めることが可能です。
さらに及川氏は、「生成AIに対応した組織運営や業務プロセスの見直しの必要性」にも触れました。生成AIは急速に進化しており、その変化に対応するためには、従来の業務フローや組織体制を見直し、柔軟に適応することが求められます。生成AIの特性を最大限に活用し、業務の最適化を進めることで、組織全体の生産性を高め、競争力を強化する可能性を秘めているのです。このため、単にAI技術を導入するだけでなく、組織のガバナンスを強化し、変革を実現する姿勢が重要です。
AIが変えるドキュメントの「読む」プロセス
アドビセッションでは、ソリューションコンサルタントの永田 敦子と伊東 礼一から、Adobe AcrobatのAIアシスタントを活用したドキュメント活用の最新ソリューションが紹介されました。AI技術の進化により、PDFやスキャン文書の処理がどのように効率化され、業務に革新をもたらすのか。その実例を交えながら、特化型AIの可能性について議論が展開されました。
Acrobat AIアシスタントの強みの一つは、ドキュメントを「読む」作業を効率化する点にあります。特に、PDFの要約や検索、そしてスキャン文書のデータ化においてその力を発揮します。例えば、法令や規制文書などの長文ドキュメントに対しては、AIが瞬時に内容を理解し、要点を要約して提示します。また、スキャン文書からテキストを正確に抽出し、編集可能な形に変換するOCR機能が紹介されました。この機能により、これまで手作業で行っていた修正作業が大幅に効率化されます。Acrobat AIアシスタントは単なる検索ツールではなく、ドキュメントを深く理解し、最適な形で情報を提供する存在であるとして、その実用性が強調されました。
続いて、AIアシスタントが実際に業務でどのように活用されるのか、デモンストレーションを交えて解説が行われました。はじめに、規範となるドキュメントを参照しながら作業用のドキュメントを作成したり確認したりする例として、IT部門でのセキュリティチェックの作業を題材にAIアシスタントが質問リストに基づいて回答を生成するプロセスが披露されました。従来、質問一つあたり30分以上かかっていた作業が、Acrobat AIアシスタントの導入により数分で完了するようになったとのことです。また、600ページ以内の長文のPDFをAIが数十秒で要約し、回答の根拠となる情報ソースを文書のどこから参照したかをリンクから表示できるアトリビューション機能は、特に法務や医薬、建設、設計、製造など最新の規制の内容を正確に把握しておく必要がある業種・業務において大きな効果を発揮すると説明されました。
さらに、複数のドキュメントを同時に読み込ませることで、横断的な比較や分析を実現する様子もデモで紹介されました。例えば、IRレポートや提案書などを複数年分読み込むことで、業績の推移を把握し、説得力のある提案資料を作成する場面が想定されます。登壇者は「AIアシスタントは単なる補助ツールではなく、情報収集と分析の頼れるパートナーです」と語りました。
安全性と利便性を両立する設計
Acrobat AIアシスタントの導入に際して、多くの企業が懸念するのはデータの安全性です。この点について、アドビセッションでは詳細な説明がありました。Acrobat AIアシスタントは、ユーザーがアップロードした文書やプロンプトをAIに学習させないポリシーを採用しています。これにより、社内文書や機密情報が外部に漏れるリスクを最小限に抑えています。また、Adobe Acrobatの標準機能であるPDFの暗号化や改ざん防止機能を活用することで、ドキュメントの信頼性も確保できます。
さらに、Acrobat AIアシスタントはPCやモバイル端末、ウェブブラウザなどさまざまな環境でシームレスに動作するため、ユーザーは普段使い慣れたツール内で自然に利用することができます。この利便性について、参加者からも高い評価が寄せられました。
セミナーを通じて明らかになったのは、Acrobat AIアシスタントが業務の効率化とドキュメント管理の信頼性向上に寄与するツールであるということです。その強力な機能は、単なる便利さを超え、業務フロー全体を革新する可能性を秘めています。
今後のイベントでは、さらに具体的な活用事例についても紹介される予定です。ドキュメント活用の新たな可能性を探るため、ぜひ今後のAcrobat Tech Talkにもご注目ください。
セッション中の様子
ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました
Acrobat AI アシスタントについてはオンデマンドウェビナーでもご紹介しています:長文英語を爆速で読み解く!Acrobatで始める生成AI活用術
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