Adobe Creative Cloudで提供されるアプリケーションはいま、数多くの生成AI技術を使った機能を搭載しています。
AIによってクリエイティブが加速する現在、クリエイターはどのようにAIを使い、どのようなクリエイティブを作りあげているのか、その実践活用法を紹介する企画「AI×CREATIVE」。第5回目は、株式会社シゴトカのクリエイティブディレクターの中川大地さん、松原秀祐さんに登場いただきました。
グラフィック+ムービーの両輪でクライアントを手広くサポート
株式会社シゴトカは、グラフィックデザインとムービーを中心に、ブランディング、広告、web等、幅広いフィールドで、メディアや業界の垣根を超えた多角的なクリエイティブを提供する会社です。
プロフェッショナルとしての「仕事家」、アイデアをビジネスに変える「仕事化」、親しみやすさ、相談しやすさを感じさせる「仕事課」……「シゴトカ(Shigoto Ka)」という社名にはさまざまな意味が込められており、2016年の設立以来、時代に即応するクリエイティブをスピードとクオリティを両立しながら展開していくスタイルによって、活動のフィールドを拡張しつづけています。
まずは、シゴトカを立ち上げた中川さん、松原さんのお二人に、現在の活動状況とシゴトカの強みから伺いました。
松原「基本的にはムービーとグラフィックデザインを中心に、広告、web CM、ブランディング、CI・VI等を手がけています。
最近では伝統工芸のインスタレーションや空間デザイン、プロダクトデザインの話もいただいており、各業界のプロフェッショナルと協力しながら、全方位でデザインできる会社を目指しているという状況です」
中川「シゴトカは少数精鋭でクリエイティブに向き合っています。僕はムービーのディレクターとして企画、演出、ムービーを担当し、松原はアートディレクターとしてグラフィックをメインに担当しています。あとは、グラフィックに強いプロデューサーとムービーに強いプロデューサー、プロジェクトマネージャー(PM)がいるのですが、シゴトカを設立してちょうど10年経ったこともあり、次のフェーズとしてプロデューサーやデザイナーの仲間を増やしていけたらと考えています」
「コミュニケーションの手段として、グラフィックとムービーは言わば両輪です。クライアントさんの相談に対して、“ウチだったら両方まとめてやれますよ、webやイベントもお手伝いできますよ”と言えるのが、シゴトカの強みですね。グラフィックとムービーがひとつの場所に揃っているからこそ常にスピーディーな対応ができることも、お互いにとってメリットになっていると感じています」
「特にビューティの案件はスピードを重視されるお客さまが多く、SNSで話題になっている商品をすぐに広告、CMで打ち出したいということもよくあります。そうしたときでも、僕らならオリエンを聞いた直後に撮影の段取りをして、納品までのスケジュールが立てられる。タイミングを逃さずクリエイティブを提供できる点は、クライアントさんにもポジティブに評価いただいています」
グラフィック→ムービーのイメージをスムーズに作成
少数精鋭だからこそできるきめ細やかなコミュニケーションによって、さまざまな業界のクライアントから信頼を獲得してきたシゴトカは、どのような環境で制作を行なっているのでしょうか。中川さん、松原さんに使用アプリとAIの使用状況について聞きました。
松原「グラフィックの仕事ではAdobe Illustrator、Adobe Photoshopが基本で、webの仕事ではAdobe Dreamweaverを使うこともあります。使うツールの90%はアドビアプリですね。
AIはクライアントさんからの薦めで1年ほど前からGeminiを使っていますが、生成AIを使い出したのは最近からです」
中川「僕はIllustrator、Photoshop、Adobe Premiere、Adobe After Effects、Adobe Media Encoderがメインです。Illustratorはコンテを描くために使っていて、PremiereとIllustratorは常に起動している状態です。松原と同じで、AI自体は1年くらい前から調べものなどに使っていましたが、Adobe Fireflyで生成AIを使い始めたのは、ここ半年くらいですね」
「生成AIを使うようになったのはムービーのコンテがきっかけです。
案件によってはムービーの監督、演出を外部に頼むことがあるのですが、急なコンテ修正が入ったのに監督がつかまらず、僕らがFireflyでコンテを作り直したことがあったんです。ここで“コンテに使える”という感触を得てから、一気に使うようになりましたね。
電話でイメージを聞きながら、Fireflyでイメージ化したこともあれば、海外のクリエイティブディレクターにイメージを伝えるために、Fireflyでイメージビジュアルを生成したこともあります」
シゴトカでは実際に生成AIをどのように活用しているのか。
香水のボトルをもとに、デザインと動画を提案するプロセスを再現してもらいました。
「今回、2種のグラフィックを作成したのですが、Adobe Stockで見つけた香水のボトルをもとに、『オブジェクトを回転』を使ってパースを調整するところから始めました。ボトルの輪郭や影は、『生成塗りつぶし』で調整しつつ、うまく生成できなかった部分は自分で描いています。
蝶や花びらもAdobe Stockの素材ですが、蝶は1種類、花びらは6枚しかありませんでした。そこで、ボトルと同じように『オブジェクトを回転』を使って、角度や傾きを変えながら配置し、『調和』を使って色をなじませました。
『オブジェクトを回転』を使うと、一つの素材から複数のバリエーションが作れるのは、めちゃくちゃ便利ですね。角度が微妙に違う素材を、使いたい角度に合わせるときにも使えると思います」
「Photoshopでこうしたグラフィックを作るときは、自分の中にあるイメージを正確に再現することが重要であり、そこに至るまでに使った機能がPhotoshopのツールなのかAIなのかを意識することはほとんどありません。
いまやAI系の機能もPhotoshopの一部として使っていますし、こうした日々使うツールのなかにAI技術が組み込まれていることは非常に助かりますよね。Photoshopから離れることなく、作業できますから」
グラフィックのカンプからVコンをつくる
中川「実際の案件でもよくあるのが、こうしてグラフィックをもとにSNSやweb広告で10秒くらいの動画もつくってほしい、という相談です。これまでであれば、このカンプを切り抜いて作ったコンテで説明をしていましたが、Fireflyで動画を作れれば、より具体的な提案ができるようになります。
ひとつのグラフィックから完璧な動画を一回で作るのは難しいときは、それぞれの素材を個別に生成し、Premiereで合成すれば精度を上げることもできる。
最終的にクライアントさんにも納得いただけるクオリティに仕上げることができれば、webやSNSに投稿可能なショート動画を大量につくることも可能になると思います」
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AIを使いこなす、その先にあるクリエイティブの可能性
シゴトカのなかで、生成AIはクリエイティブそのものを代行するものではなく、理想への到達を助けるもの、提案をサポートするものとして機能しています。
しかし、始めからスムーズに使えていたわけではありません。思い通りにコントロールできない生成AIに対して、どのように向き合い、使いこなすまでに至ったのでしょうか。
中川「最初の頃は、僕も生成AIに対して指示を出す能力が低く、思い通りにいかないことが何度もありました。“花びらが舞って、画面を覆うように近づいてくる”というプロンプトを書いて数分待ってみても、イメージとはまったく異なる動画があがってくる。プロンプトを修正して数分待っては確認し、またプロンプトを書き換える……その繰り返しでした。
ただ、続けるうちに気づいたのは、“生成AIは使いものにならない”ではなく、“自分がレベルアップしないといけない”ということでした。自分が思い描くムービーを生成するにはどう指示を出せばいいのか、それをマスターすれば、生成AIが生み出すものには未来がある。その確信があったんです。
自分でやったほうが早いという人もいますし、いまのスキルなら実際にそうでしょう。でもここで諦めたらいけない、使いこなせたほうが絶対にいいに決まっていると、自分に言い聞かせながら作業を続けました」
松原「生成AI=簡単と思われるかもしれませんが、実際にやってみないとわからないことはたくさんあります。知識だけ頭に入れても、うまく生成できるとは限らず、プロンプトの書きかたを学ばないと求めるクオリティにはなりません。現状では一発でイメージ通りのものを生成することは難しいので、手作業で整える作業がどうしても発生します。
ただ、書きかたに慣れてしまえば、一定のクオリティは出せるようになりますし、そうしたノウハウを社内で共有することでスタッフの誰でも、イメージが生成できるようになります」
「“自分がやらなくてもいい”というのは、生成AIを使うメリットのひとつだと思っています。たとえば、“こういう画像を作りたい”というディレクションをして、プロデューサーやPMなどのスタッフに作ってもらえば、あとは僕がPhotoshopで仕上げるだけでいい。
ストック素材やリファレンス画像にちょうどいい素材がないときでも、生成AIがあれば理想通りの状況が再現できる。誰でも作れる時代だからこそできる、仕事の進めかただと思います」
「専門外の人間でもイメージが作れるようになるというのは強みになりますよね。プロデューサーのようなフロントに立つ人間が、クライアントとの会話の中で生まれたイメージを、生成AIで具体化できたらもっとクリエイティブの精度も上がるはずです。
あいまいなイメージのまま進めてしまって、できあがったあとで修正に苦しむというのは、クリエイティブではよくあることですが、そうしたすれ違いも防げるようになると思います」
今後、AIによってクリエイティブはどう変わるのか。そして、変わるためには何が必要なのか。最後に中川さんに聞きました。
「現場レベルでは生成AIによってクオリティを上げられるケース、コストダウンできるケースはすでにあると思っていて、ムービーを自然に伸ばせるPremiereの『生成延長』や、音楽を尺に合わせて再構成してくれる『リミックス』のような機能には大きな可能性を感じています。予算も時間も限られた僕らのような会社には本当にありがたい機能です。
いまはまだ、グラフィックにもムービーにも、“CGはいいけど、生成AIはダメ”という意識があると思いますが、この先、クリエイティブ側だけでなく、クライアントさんの側でも、AIをポジティブに受け取れるように変わっていくといいですよね。
AIに対するお互いの意識が揃ったとき、AIによってクリエイティブは一気に変わる。そんな予感がしています」
株式会社シゴトカ 代表取締役 CEO
クリエイティブディレクター/ムービーディレクター
1985年、京都府生まれ。京都精華大学卒業後、広告制作プロダクションにて制作、助監督を担当。2012年、フリーのムービーディレクターとして活動開始。2016年、株式会社シゴトカを設立。ビューティの繊細な演出を得意とし、目的を達成するための企画を大切にしている。
株式会社シゴトカ 代表取締役 CCO
クリエイティブディレクター/アートディレクター
1984年、京都府生まれ。京都精華大学卒業後、デザイン会社を経て、2011年2月よりフリーランス。2014年より京都の三星 料亭の関連会社(東京)に入社し、料亭の企画・ディレクション・デザインに携わる。2016年、ムービーディレクター・中川大地とともに株式会社シゴトカを設立。グラフィックデザインを軸に、web、空間等のディレクションを行なう。コスメやヘアケアの美容系の案件から、伝統文化・工芸の案件までさまざまな仕事を手がける。
web|https://shigoto-ka.com/