コストダウン&クオリティアップ! オンライン時代のAdobe Stock活用法
クリエイティブの現場では、Adobe Stockをどのように活用しているのでしょうか。この記事では、Adobe Stockについて改めてご紹介しつつ、webデザインや映像などの制作・ディレクションを手がけるデザイナー・西脇和馬さんのAdobe Stock方法について紹介いたします。
デザインを依頼されたものの、渡された素材が足りない、もしくはビジュアルがまったくない……誰しも一度はそうした経験があるのではないでしょうか。
そのとき役に立つのがストックフォト・イラストや素材集です。素材は無料のものもあれば、有料のものもあり、クオリティや価格、使用条件もさまざま。「フリー素材」と謳っていても、商用利用は認められていないものもあり、そのすべてが安全に仕事に使えるとは限らないのが現状です。
「Adobe Stock」とは
グラフィックからweb、映像、アニメーションに至るまで、さまざまなデザインアプリケーションを提供しているアドビは、こうした“素材が足りない”という状況をサポートするためのサービス「Adobe Stock」を展開しています。まずはその特徴から見てみましょう。
1.提供している素材の種類、点数が多い
提供している素材は、写真、イラストだけでなく、ベクター、ビデオ、オーディオ、デザインテンプレートまで取り揃え、その数はおよそ2億5千点以上(2021年3月現在)。いまなお、増え続けています。
Adobe Stockで提供しているおもなアセットのカテゴリ
2.プロフェッショナルが提供する質の高い素材
Adobe Stockの素材は世界のクリエイターが提供しています。クオリティはもちろん、バリエーションも豊富で、あらゆるデザインシーンにフィットします。
よりクリエイティブな素材がそろうプレミアムコレクション
3.使いやすいデータ形式
グラフィックの素材データは、ラスター形式(jpg)のものからベクター形式(ai/eps)のものまであり、デザイン環境に合わせて活用できるようになっています。
ファイルフォーマットは購入前に確認することが可能
4.アドビアプリケーションとの連携が容易
Adobe Stockでセレクトした素材、購入した素材は、「ライブラリ」を通じて、デザインアプリケーションですぐに利用できるようになります。デザインアプリケーション上でライセンスを取得することもできるなど、シームレスに連携します。
Adobe Stockで購入したアセットはライブラリパネルからすぐに利用でき、パネル上でライセンスを取得(購入)することができます
5.明快なライセンスと使用範囲
Adobe Stockのライセンスはシンプルです。まず、一般的な利用を目的とした「通常ライセンス」があり、Adobe Stockのほとんどの素材がここに該当します。
このほか、コピー数や目的に応じて「強化ライセンス」「拡張ライセンス」が用意されており、報道のような限られたシーンでのみ利用可能な「エディトリアル用」があります
Adobe Stockライセンス情報 https://stock.adobe.com/jp/license-terms
Adobe Stockを活用してコミュニケーションを円滑に
クリエイティブの現場では、Adobe Stockをどのように活用しているのでしょうか。
ル・コルビュジエ作品を中心に建築資料のアーカイブ構築・ライセンス運用を行う会社「Echelle-1」と、WebやSNSを通じたデジタルプロモーションを行う会社「NONAME Produce」(N2P)。
この2つの会社に所属しながら、webデザインや映像などの制作・ディレクションを手がけるデザイナー・西脇和馬さんのAdobe Stock方法について紹介しましょう。
デザイナー・西脇和馬さん
「Adobe Stockはおもにデザインカンプの素材や、イメージを共有するために使っています。
デザインカンプにAdobe Stockを使うのは、いわば制作進行上の保険でもあります。
たとえば提案用の仮イメージだからといって、web・本からピックアップした写真を提案書に当てはめたとします。その案が通ったとき、クライアントのなかにはそのイメージが残っていますが、当然、同じ写真を使うことはできませんから、そこからさらに実際の撮影のイメージを伝えていく必要があるわけです。
ここで、提案段階からAdobe Stockの素材を使っておくと、仮にコストやスケジュール、天候等の都合で撮影ができなかったとしても、Adobe Stockの素材をそのまま使うことで相手のイメージを損なうことなく制作を進行できます」
「イメージを共有するというケースは案件、工程によりさまざまです。
写真・映像の構図やトーン、光の入りかたを、言葉やスケッチではなく、より具体的なイメージとして確認するために、Adobe Stockの検索結果を見ながらすり合わせをする。モデルを含めた撮影をする際に、Adobe Stockで用意した風景に人物の写真を合成して、より確度の高いシミュレーションを行なう、などです」
イメージの共有を、Adobe Stockの素材を使ってより具体的にしていく。
そうしたプロセスの背景には、制作上のリスクを低減しながら、クリエイティブのクオリティを上げていくという意図があります。
「写真でも映像でも、制作工程でもっとも避けなければならないことは、撮影したあとで“イメージと違う”“こんなはずじゃなかった”というパターンです。
なぜこういうことが起こるのか。それは事前に、明確なイメージ共有ができていないからです。
ビジュアルのイメージは、言葉で共有しようとしても、個々人で思い描くシーンは異なります。
たとえば、『夕方の街並み』という言葉を聞いたとき、一面オレンジ色の空を想像するひと、青からオレンジのグラデーションの空を想像するひと、暗くなりかけた空を想像するひと……さまざまですよね。そうしたとき、Adobe Stockの候補写真を見ながら、ひとつのイメージを選んでおけば、全員でひとつの『夕方の街並み』が共有できるようになります。
特にいまは事前にロケハンができないケースも増えてきており、撮影場所に行けるのが本番の一回ということもあります。このような状況では、撮影の前にどこまでイメージを詰められるかが、クオリティを大きく左右する要因になります。
クライアントとの間でのイメージ共有はもちろん、チーム内でもそうした細かいすり合わせをしておくことは、後々のトラブルのリスクを減らすことにもなります。こうした事前準備をしっかりと行なっておけば、本来注力すべきクリエイティブに力を入れられるようになります」
デザイナーから見た、Adobe Stockのメリット
西脇さんは複数のストックフォトサービスを利用してきたものの、近年、Adobe Stockの利用率が上がっていると言います。
西脇さんが感じている、Adobe Stockのメリットは何なのでしょうか。
「Adobe Stockもサービス開始当初にチェックしていたときは、ほかのストックフォトサービス同様、“いかにも素材集”というような我の強い写真や、明らかに海外のシーンが多かったと思います。こうした写真は企画書では映えるのですが、実際のデザインには組み込みにくいことが多いんです。
僕にとって素材として使いやすいのは、場所が特定しにくく、撮影者の作風が強調されすぎていない、匿名性の高いもの。さらに、それをそのまま使うことになったとしてもクオリティとして問題がないことがセレクトの最低条件です。
近年のAdobe Stockは、こうした要望に合う、質が高い素材が増えてきたと感じています」
もうひとつ、西脇さんが評価しているのが素材の検索性です。
「ほかのストックフォトサービスだと、単品の見映えのよさが重視されることが多いのですが、Adobe Stockは選んだ素材からさらに同じようなテイストの素材も調べられます。
たとえば、同じシーンの別アングルのカットや構図違い、同じ作者の別の素材などを即座にチェックできるのでシーンに合うカットが選びやすい。作り手、使い手に寄り添った仕様になっていると思います」
Adobe Stockにはその膨大な素材から効率的に検索するためのさまざまな機能が搭載されています。
写真/イラスト/映像というメディア種別、縦長/横長/正方形という形状だけでなく、コピースペースの有無、色合い、背景色、被写界深度といった指定が行なえます。
さらに、画像を元に画像を検索することもできるほか、画像から被写体を検出し、指定の構図に合う写真を検索するなど、多様な検索方法を搭載しています。
事例1・CG+実写映像素材でリアルを演出
西脇さんが活用するAdobe Stock素材は写真だけではありません。
映像素材も利用可能なAdobe Stockならではの制作事例を2つ紹介しましょう。
1つ目は大成建設のオンラインギャラリー「Galerie Taisei」です。
Galerie Taisei http://galerie-taisei.jp
「この仕事は、建築家のル・コルビュジエが設計したものの、実際には建築されなかった建物を再現するというプロジェクトでした。
美術品は実物を新規撮影し、CGで作成した建物に合成して再現したのですが、プロモーションムービーをこのCGだけで作ってしまうと、どこか無機質で、まるでゲーム映像のような印象になってしまいます。
そこでAdobe Stockで空や水面、影の揺らぎの映像を選び出し、CG映像の間にインサートすることにしました。CGの中に撮影した写真や自然な映像を差し込むことで、バーチャルとリアルの境界をあいまいにし、全体として実際の建築を撮影したような印象に仕上げています」
Adobe Stockの映像素材を使ったこの仕事のもうひとつのポイントは、クリエイティブにおける取捨選択です。
「このプロジェクトでは、美術館としてのル・コルビュジエの建物をリアルに再現することが何より重要でした。
CGのレンダリングは秒数に応じてコストがかかるので、見応えのある映像に仕上げるには、時間とコストが必要になります。そのため、全体のリソースの多くをCGに割り当て、それ以外のインサート素材はできるだけコストを抑える必要があったのです。そこでAdobe Stockの映像素材を使うことにしました。
予算と時間に余裕があれば、こうした素材も撮影をするのですが、実際の仕事ではコストとスケジュールのバランスをとりながら、力をかけるべきところに注力する必要があります。
そうしたとき、取捨選択のカードのひとつとして、Adobe Stockは有力な選択肢になると考えています」
事例2・ロケができない状況で写真+動画素材でムービーを作成
2つ目は群馬県富岡市にある世界遺産・富岡製糸場「西置繭所」のガイダンスムービーです。
ここでは動画素材と静止画素材を巧みに取り混ぜ、さまざまな制作上の制限をクリアしています。
「当初は現地での映像撮影を予定していましたが、製作を進めるなかで新型コロナウイルス感染の広がりが懸念される状況になりました。
写真であれば、カメラマンひとりで撮影に行くこともできましたが、映像の場合、複数のスタッフがチームで撮影を行ないます。その影響を考えると撮影自体を中止にせざるを得ませんでした。
そこで、資料など静止画や前年に撮り下ろしされていた写真の一部を拡大したり(ズーム)、一部をトリミングしたフレームを移動させることで(パン)、映像として見せることにしました。
静止画をベースにするとどうしても単調になりがちですが、施設のプレオープン日は決まっているなかで、資料や既存写真の雰囲気を損なわないAdobe Stockの映像素材を合間に差し込むことで、シーンの展開に変化を持たせ、全体のリズムを調整することができました。
Adobe Stockにこうした素材があってとても助かりましたね」
変わりつつある、ストック素材の価値と役割
「ストックフォトやイラスト、素材集といえば、撮影する予算や時間がないときに使う、代替的な要素が強かったと思います。
また、使おうとしても大量の写真のなかから時間をかけて候補を選び出し、クライアントの確認を得てから購入するというケースが多かったのですが、Adobe Stockを使うようになってからは、デザインの検討段階でもカジュアルに購入して使うようになりました」
こうした背景には、Adobe Stockで提供される素材に西脇さんが求めるクオリティに適うものが増えてきたこと、そして、アドビのサービスであることがひとつの説得力になっていると言います。
「撮り下ろしではなく、ストックの素材を使うことに、抵抗感を示されるクライアントもいらっしゃいます。
ただ、アドビの知名度はクリエイティブ以外にも広く認知されているので、“アドビのサービスの素材を使います”というと、安心して納得いただけることが多くなりました。
Adobe Stockは使いかた次第で、クオリティだけでなく、制作全体のコスト、スケジュールもコントロールすることができる。いわば、主役を引き立たせるバイプレイヤーのような存在だと思います」
限られた条件のなかで最大限のパフォーマンスを生み出す。クリエイティブの現場では常に取捨選択が求められます。そのとき、Adobe Stockの写真、イラスト、映像は大きなサポートになるはずです。
日々増えていく素材と強化される検索機能によって、昨日は見つからなかった素材も、今日は見つかるかもしれません。ぜひ一度、気の向くままに素材を検索をしてみましょう。そこには必ず、新しい発見があるはずです。
協力:西脇和馬/デザイナー
NONAME Produce / Echelle-1所属。Web、映像、書籍を組み合わせたクリエイティブの最適化をテーマに活動。近作に「東京大学 HASEKO-KUMA HALL」(Web・図録・映像・サイネージ)、「大成建設 Galerie Taisei」(Web・映像)、「文化庁 国立近現代建築資料館 ミュージアム1940年代 - 1980年代」(図録・会場グラフィック)、「富岡製糸場-継承される革新の歴史」(制作・編集)、「グアム観光局 A to Z in GUAM(Web)」など。
Web|https://n2p.co,jp
大成建設・オンラインギャラリー「Galerie Taisei」
CG:横山祥平、久下真一郎/エディット:篠原佑友、西脇和馬/音楽:武田直之/シナリオ:小林有希/ナレーション:Maxwell Powers/マークアップ:内藤皓介、山本香奈/デザイン:西脇和馬/ディレクション:西脇和馬/プロデュース:下田泰也、林美佐(Galerie Taisei)
世界遺産・富岡製糸場「西置繭所」ガイダンスムービー
写真:田村尚子/エディット:李潤希/音楽:武田直之/ディレクション:西脇和馬/プロデュース:下田泰也、前田尚武、齋賀英二郎(公益財団法人文化財建造物保存技術協会)/監修:富岡市