【イベントセミナー】東京電機大学にて講演クリエイティブスキルがエンジニアの強みになる時代

2021年5月7日(金)、アドビは東京電機大学で「これからの時代に強くなる「Creative Engineer」: 一段上をいくエンジニアのマインドセットとは?」の講演を行いました。この講演は、同大学院 未来科学研究科 情報メディア学専攻 井ノ上寛人 助教による「IT最前線」の講義の一環。様々な企業発の専門性の高いテーマに関心のある学生たちが、学部/専攻横断的に受講しています。

なぜエンジニアにクリエイティブスキルが重要なのか

一般的にエンジニアというと、デザインとは無関係な仕事だというイメージが強いでしょう。講師を務めたアドビのデジタルメディア事業統括本部エデュケーションエバンジェリスト井上リサは、まずはそんなエンジニアのイメージを変えることから始めます。

未来科学部情報メディア学科井ノ上寛人助教とアドビ デジタルメディア事業統括本部エデュケーションエバンジェリスト井上リサ

左:未来科学部 情報メディア学科/未来科学研究科 情報メディア学専攻 井ノ上寛人 助教。右:アドビ デジタルメディア事業統括本部エデュケーションエバンジェリスト井上リサ

ウェブサイト制作やアプリ開発はチームで行われ、エンジニアの他にも様々な立場の人が関わって進められます。ウォーターフォール型と呼ばれる開発プロセスの場合、クライアントとの合意を得ながら、課題整理、リサーチ、戦略立て、デザイン、開発といったステップを進めていきますが、エンジニアはこれらのステップの最初と最後に関わるのが一般的です。

この方法では、エンジニアがデザイン作成の工程に関わらないため、当初想定した技術的な仕様が、デザイン制作の過程で大きく変わってしまうことがあります。最後の開発のステップで技術的な仕様に影響することが明るみになり、トラブルになりがちです。

通常のエンジニアの役割

エンジニアはデザイン制作のステップに関わらないことが多い(講演スライドより)

こうしたデザイナーとエンジニアの間のミスコミュニケーションを防ぎ、物づくりの現場のチームワークを高めるためには、エンジニアも様々な工程に関わることが大切です。

Creative Engineerの役割

「Creative Engineer」がこれからのエンジニア像。さまざまなステップに関わる(講演スライドより)

これからのエンジニアは、「ただ作業する人」になるのではなく、チームの中でユーザー像やデザインの意図を共有し「考えて作れる人」になって欲しいと井上は示します。この「考えて作れる人」が「Creative Engineer(クリエイティブエンジニア)」で、新しいエンジニア像です。

Creative Engineerになるためのデザイン知識とは?

では、どうしたらCreative Engineerになれるのでしょうか。その第一歩となるのが「デザイン知識」と「アイディアを出す力」です。井上は、デザインはアートとは違い知識として学べることを示し、代表的なデザインのルールを紹介しました。

デザインとアートの違い

デザインとアートの違い(講演スライドより)

例えば、近接やコントラストなどのデザイン原則、色やタイポグラフィーの基礎知識、アフォーダンスなど人間の認知や行動原理に基づいたデザインの指針などが、次々に解説されます。実例を交えた解説はとてもわかりやすく、デザインを知識として学ぶことができるという実感が持てます。

さらに、より具体的で専門性の高い知識として、OSが提供するデザインガイドラインの存在にも言及。GoogleのMaterial DesignとAppleのHuman Interface Guidelinesを紹介し、ガイドラインを理解してそれにのっとったテンプレートやフレームワークを使用することで、エンジニア、デザイナー双方が効率を上げられると指摘しました。

「アイディアを出す力」をつけるには?

Creative Engineerとしてのもう一つの要素、「アイディアを出す力」はどうしたら身に付くのでしょうか? 井上は、「アイディアを出す力」をCreativityとし、Creativityは誰もが持っているもので、大切なのはCreative Confidence(創造性に対する自信)を持ち、伝える表現力をつけ、アイディアを外に出していくことだと言います。

Creativityとは誰もが持っている力

Creativityの要素は誰もが持っている(講義スライドより)

Creative Confidenceを持つには、いっけん自分の専門とは関係ないようなさまざまな体験を通じて感性を高めてアイディアがどんどんわきでるようにすることが大切。アドビのアプリ群にも、そんな体験を高められるものがあり、スマートフォンで気軽にクリエイティブな写真が撮れるAdobe Photoshop CameraやARコンテンツが作れるAdobe Aeroなどが紹介されました。

また、アイデアを形にして伝えるためのツールとしてAdobe XDのデモンストレーションが行われました。XDはアプリやウェブサイトのプロトタイプ制作とデザインに使われるため、デザイナーだけでなくエンジニアにとっても実用的。直感的な操作感や、豊富で便利なプラグインなどが示され、デザインの専門家でなくとも使いやすいことが実感できる時間となりました。

積極的に経験するチャンスを

未来のエンジニアたちに向けて、井上は自身の米国でのデザイナーとしてのキャリアパスを紹介しながら、人とのつながりを生かしてキャリアアップするために、自分で積極的に発信する機会を持つことを勧めます。

学生として経験やつながりを深め、発信力を高めるチャンスとして、アドビで募集しているインターンの情報や、XDを使ってアプリのプロトタイプを制作する学生向けのデザインコンペCollege Creative Jamの情報が紹介されました。

学生からのフィードバック

受講者からは、デザインの知識として紹介された内容についての質問が複数あがり、理解がさらに深まります。また、デザインの学び方や自信の持ち方などにも質問が及び、井上の経験を交えた具体的な回答に熱心に耳を傾ける様子が印象的でした。

エンジニアを志す学生がデザインの重要性に触れる機会はとても重要です。本講演は、エンジニアの従来のイメージを塗り替え、Creative Engineerとしてチームで開発に向かうイメージを持つ貴重な機会になったのではないでしょうか。

講義後の学生からのコメント

「アドビ製品に関してはIllustratorを少し触ったことある程度だったため、今回様々なアプリの特徴を聞くことができて大変ためになりました。また、エンジニアであってもデザインの勉強はしていくべきだということもとても伝わってきました。私自身、絵があまり得意ではなくデザインもアートと同じの類だと思っていたところもあったため今までは敬遠してきましたが、デザインは法則を掴むことさえできれば上達することができるということに自分の中の認識が変わりました。今後は自分の感性の引き出しを増やすためにアドビ製品を活用してどんどん練習してきたいと思いました」

「私はプログラミングのスキルはあるものの、専攻は機械や制御であり、Webデザイナーは縁遠い職種でした。そのため、デザイナーの仕事内容について全くの無知であり、名前から芸術系の仕事なのだろうと思っていました。だから、デザインは表現が目的ではなく、ユーザにとって使いやすさを目指しているのだと知り驚きました。そして、近接の原理などの理論に則ってデザインを作成していると知り、センスが物を言う職業というイメージはなくなりました。就職活動が始まろうとする時期に、見聞を広めることができて有り難いと感じました」