【インタビュー】工学系の大学生がデザインの視点を培い未来の可能性を広げる〜神奈川工科大学でセミナーを実施

神奈川工科大学では「広く勉学意欲旺盛な学生を集め、豊かな教養と幅広い視野を持ち、創造性に富んだ技術者を育てて、科学技術立国に寄与するとともに、教育・研究を通じて地域社会との連携強化に努める」という教育理念のもと、 2014年からアドビと学生がCreative Cloud製品を利用できる包括契約を結んでおり、 2020年からは学生が個人所有の端末でも使用できるライセンスである「学生オプション」を導入しております。

デザイン思考やデザイン経営、「デザイン」というものが様々な分野・業界にも浸透し始めている中、アドビは2021年12月16日(木)、神奈川工科大学でセミナー「Creative Engineer〜時代の変化に強くなれるCreative Engineerとは」を開催しました。アドビ エデュケーションエバンジェリストの井上リサが講師を務め、エンジニア職にとってのデザインスキルの価値を伝えると同時に、同大からアドビの大学生対象コンペCollege Creative Jam 2021に参加した学生が実感を語りました。

「考えて作れる」Creative Engineerになる

セミナーを実施したのは同大情報学部情報メディア学科 助教 谷田良子先生のクラス。谷田先生は日頃からアドビ製品を活用してデジタルデザインの授業を行なっています。PhotoshopやIllustratorで技法を学びながら作品制作を行う実習スタイルで、コロナ禍のオンライン化に伴い現在では遠隔で指導しやすいXDを主に使用しています。「大学を出たら業界でスタンダードなアドビのツールを使う可能性が高いので、学生のうちから使い慣れている方が有益だと思います」と谷田先生。

神奈川工科大学情報学部情報メディア学科 助教 谷田良子先生

セミナーの中で井上は、Webサイトやアプリ開発現場の業務フローを例に、エンジニアとデザイナー双方の知識不足でミスコミュニケーションが起きやすいことを指摘しました。これまでのエンジニアは、開発の一部の工程だけで「ただ作業する人」になりがちでしたが、これからは開発フローのさまざまな段階に関わって「考えて作れる人」になることが強みになります。そのためにはデザインの知識をつけてアイデアを出す力を持つことが大切で、学生のうちにこれらの力をぜひつけて欲しいと呼びかけ、アドビの様々なツールの活用シーンを紹介しました。

エンジニアとデザイナーのミスコミュニケーションが起きやすい(発表スライドより)

谷田先生自身もデザイナーとエンジニアは制作現場でぶつかりやすいという実感があり、井上の話に共感します。また、例えば美術系の学生は理系の学生に対してコンプレックスを持ちやすいのと同様に、理系の学生は美術系のスキルにコンプレックスを持つ傾向があり、「良いところを見るというより、自分たちの弱みの方を強く意識しているところがあって、もったいないなという印象があります」と指摘しました。

独りよがりのモノ作りにならないように

工学系の同大でデザインを教える谷田先生は、「工学といっても結局はモノを作ることなので、そのモノの先には人がいます。デザイナー的思考がないと独りよがりのモノ作りをしてしまう危険性があるので、工学系の学生にもデザインを学んでおくことは必要だと思います」と話します。

デザインの学びを深めた学生はどう感じているのでしょうか。同大情報学部情報メディア学科3年生の金子三十郎さんは、2年次に谷田先生の授業を受け、3年次の6月〜10月にかけてアドビのCollege Creative Jam 2021に参加しました。College Creative Jam 2021は社会課題を解決するためのモバイルアプリアイデアを創出するデザインコンペで、参加者は数ヶ月にわたりAdobe XDの使い方やUI/UXデザインの手法を現場のプロから学びながら応募作品の制作に取り組みました。

金子さんは、「初めてペルソナシートやストーリーボードを作成しました。ペルソナを作ることで、自分たちがターゲットとする層を明確にして機能を検討できたのが印象的でした」と振り返ります。デザイナーを目指すかどうかに関わらず「何かを作る人にとっては、その土台や基礎になる部分を学べるのでとても有益なものが得られるのではないかと思います」とコメントしました。

チームで制作したコンペ応募作品を紹介する金子さん

外に出しフィードバックを得ることが大切

金子さんがCollege Creative Jam 2021のメリットとしてもうひとつあげたのが、プロから作品のフィードバックをもらえたということです。良い点はもちろん、足りない点を指摘されることで得られる気づきはとても大きなものでした。

フィードバックは、谷田先生が日頃のデザインの授業で大切にしているポイントでもあります。制作物を作ったままにするのではなく授業でフィードバックを得て方向性を確認することで、初心者でも次第に自信をつけていけると言います。「フィードバックは顧客の感想をもらえているようなものだと思うので、人の感想をもらってそれを取り込んで、アップデートしてモノ作りのサイクルが回っていくのを体験して欲しいですね」と谷田先生。

普段から「自分の半径10メートルよりもっと外に出しなさい」と声をかけ、自分の作品を積極的にアウトプットするよう指導しているという谷田先生は、College Creative Jam 2021は、学校の外で発表することでより多くの人の目に触れ、自分たちに足りないことや同年代のレベル感を知ることができる貴重な機会だったと評価します。デザインの学びは授業の中だけで完結するのではなく、外に出して外とつながることが大切で、それがさらに将来につながっていくと先生は考えています。

同大は将来デザイナーを目指す学生は決して多くありませんが、授業がきっかけでデザインの道を志す学生もいて、金子さんもその1人です。初めはプログラミングを中心に学んでいましたが、谷田先生の授業でデザインの面白さに気づき、College Creative Jam 2021の経験を経て現在はUIデザイナーを目指しているそうです。

デザインの知識や視点を培うことはエンジニアのスキルのひとつとして重要であるだけでなく、金子さんのように工学系のバックグラウンドを持ちながらデザイナーを志すきっかけとなるケースもあり、学生ひとりひとりの未来への可能性を大きく広げることにつながっています。