アドビとマイクロソフトで実現する小売業のデジタルトランスフォーメーション、その具体例を紹介!

2021年6月2日、日本マイクロソフトとアドビの共催オンラインセミナー「デジタルトランスフォーメーション × 小売業 〜顧客体験と従業員満足度の向上のヒント〜」が開催されました。コロナ禍で小売業の“売り方”そのものが大きく変わりつつありますが、その背景には「安心・安全に買い物を楽しむ体験を提供すること」と「従業員の安全を守ること」の2つがあります。このセミナーでは、そんなイノベーションの実現に向けて、小売業の方を対象にデモを交えて具体的な施策を紹介しました。

アドビとマイクロソフトで実現する小売業のデジタルトランスフォーメーション、その具体例を紹介!

アドビとマイクロソフトが取り組む業界のデジタルトランスフォーメーション

まずセミナーオープニングでは、アドビ デジタルメディア エンタープライズセールス 第三営業部部長の宮下猛と共に、日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部長の山根伸行氏が登壇しました。アドビとマイクロソフトは2016年9月にグローバルで戦略的提携を発表し、「デジタルで企業の顧客体験を変革する」という共通のミッションの下、両社の強みを生かしてあらゆる業界のデジタル変革を支援しています。

アドビ 宮下猛(左)、マイクロソフト 山根伸行氏(右)

アドビ 宮下猛(左)、マイクロソフト 山根伸行氏(右)

マイクロソフトで流通業界を担当する山根氏によると、同社では「お客様を理解してつながりを強化する」「従業員の能力を強化する」「サプライチェーンを高度化する」「流通業のビジネスそのものを再創造する」という4つのテーマでデジタル変革を支援しているそうです。なかでも小売業では「顧客理解によるつながりの強化」は最重要課題であるため、分析基盤の「Azure Synapse Analytics」やクラウドベースのCRM「Microsoft Dynamics 365」による効果的なマーケティング活動のサポートを行なっています。アドビも、顧客体験管理のAdobe Experience CloudをDynamics 365 と統合し、セールス・リード管理の最適化支援を推進しています。

またマイクロソフトでは、こうした業務をより効果的に進めるため、従業員の能力開発にも注力しています。同社では業務ソフトの「Microsoft 365」やコラボレーションツールの「Microsoft Teams」による業務効率化を推進しており、実際に20万人規模の従業員に対し働き方改革を行なった企業もあるとのこと。一方のアドビも、フルデジタル化が難しい複数のステークホルダーが絡む業務フローのデジタル改革に向け、PDFとAdobe Document Cloudによるデジタルドキュメントソリューションを打ち出しており、この分野での強化が期待されています。今回のセミナーでも、この分野での最新動向が発表されました。

コロナ禍で加速する小売業界のDX化、その現状とは?

続いて基調講演を行なったのは、流通・小売業とテクノロジーを軸に取材・執筆活動を展開するニュー・フォーマット研究所 MD NEXT編集長の鹿野恵子氏です。

ニュー・フォーマット研究所 MD NEXT編集長の鹿野恵子氏

ニュー・フォーマット研究所 MD NEXT編集長の鹿野恵子氏

鹿野氏はまず、小売業界の現状について「トップ企業を中心とした集約化、競争の激化が続いている」と述べたうえで、さらに「コロナで打撃を受けるなか、失われた売り上げを取り戻すため、新しい売り方が求められています」と、厳しい状況にあることを指摘します。

新しい売り方とは、デジタルを活用して非接触、もしくは対面以外の方法で商品を提供・決済する売り方のこと。鹿野氏によると、この1年で実際ECの売上が伸長しており、大手スーパーのライフでは前期比76.1%増と大きく伸びたそうです。

ただ、ECはあくまで売買をデジタル化した手段です。先進的な企業では、さらに「体験」を向上させる新しい売り方を模索しているそうです。オンラインで商品を購入して店舗で商品を受け取る「BOPIS」(Buy Online Pickup In Store)のほか、決済の手段も多様化。顧客がスマホアプリやタブレットを使って商品のバーコードをスキャンし、カードで決済を行う「スキャン&ゴー」は、レジ待ち時間の削減という効果がありますし、店内や棚に設置されたセンサーが購買された商品を読み取り、店外に出た時に自動決済できる「ウォークスルー/ジャストウォークアウト」は、初期投資はかかりますが、買い物体験を劇的に変える手段として注目されています。

こうして先進企業ではDX化が進む一方、業界全体としては、人材不足や先行投資への消極的姿勢によるデジタル化の遅れが課題となっています。鹿野氏が取材したところ、IT人材の登用やシステム化に積極的な企業はコロナ禍でもDX化が進み、競争優位性を保っていますが、そうでない企業は苦境に喘いでいるそうです。

ただ今回のコロナ禍で売り方自体が大きく変わるなか、デジタルを活用することで、「ユーザーが安心して買い物を楽しめるようにすること」を担保し、さらに「従業員の健康や働きがいを保証すること」を両立させることは、決して不可能ではありません。単に競争優位性を保つだけでなく、強いビジネス体質を育むために、IT投資に本腰を入れることは、小売業の未来のためにも必要なのです。

なお小売業界といえば、店舗マニュアルや指示書、契約書など、紙業務が多く残っていることでも知られています。顧客との接点はもちろん、社内外を含むデジタル化を進めることで、変化にスピーディーに対応でき、売上を伸ばすことができるのは、この1年の事例から見ても間違いありません。鹿野氏は「小さな機会損失を増やさないためにも、紙に頼らないワークフローを確立することは大切だと思います」と述べ、小売業界のDXを後押ししました。

小売業のDX、まずは紙業務のデジタル化から始める理由

小売業界のDXを推進するに当たり、まずどこから着手すべきなのでしょうか。この疑問に対し、「基礎編:Microsoft Officeの効果を最大化するDXの取り組み」と題して講演したのが、アドビ プロダクトスペシャリスト 永田敦子です。

アドビは、多くの企業で使われているMicrosoft 365と、デジタルドキュメントソリューションのDocument Cloudとのシームレスな連携を実現しています。「この連携ソリューションを活用することで、大きなシステム導入や業務改革といった負荷をかけることなく、デジタル化しにくい現場の文書業務のDXを進めることができます」と永田は提案します。

なぜ文書業務からDXをスタートするのでしょうか。アドビはこのセミナー開催前に小売業界を対象にしたアンケートを実施しており、その結果によると、小売業界の電子化に関してさまざまな課題があることがわかりました。

たとえば、鹿野氏の基調講演でも言及された現場の紙業務に関しては、「ペーパーレスについて何らかの取り組みを実施中」という声が約9割を占めているものの、その大半が「取り組み開始、または情報収集中」とのことで、多くの企業では道半ば状態であることが見えています。その紙業務にしても、まずは配布資料や承認といった社内業務への改革に対する検討が多く、契約書といった社外向け分野では、「需要はあるものの、全体的に後回しになっている状況です」と永田は説明します。この社内外にまたがる紙文書業務のDXを実現するのが、Microsoft 365とDocument Cloudの連携ソリューションです。

Document Cloudの核となるPDFは、デジタル化された紙として官公庁や企業に浸透し、法的に長期保管を義務付けられている重要書類のPDF化が進んでいます。このPDFの長期保管や閲覧性を確保するために、国際標準規格としてISO32000-1が策定されました。要件を満たさないPDFでは、画像や文字を認識しなかったり、印刷できなかったりと、意図が正しく伝わらない・情報にアクセスできないといった不具合が生じる可能性があります。アドビが提供するAdobe Acrobatで作成されたPDFはISO32000-1に完全に準拠しており、このAdobe Acrobatを基盤としてPDFドキュメントの作成・共有・レビュー・承認という一連の紙文書フローをデジタル化するのがDocument Cloudです。

Adobe Acrobatでは、Officeのリボンから各種PDF機能にアクセスできるようになっており、OfficeからISOに準拠したPDFを作成・活用できます。また、マイクロソフトのクラウドストレージ「Microsoft OneDrive」や、ドキュメント資産管理/コラボレーションの「Microsoft SharePoint」とも連携し、これらのストレージから直接PDFを作成・結合することも可能。「デジタルを起点に作成された文書を、印刷することなく一貫してデジタルプラットフォームで扱うことが、DXのコツです」と永田は説明します。

Document Cloudの強み

Document Cloudの強み

こうして作成されたPDFは、複数人での共有やレビュー、承認が可能です。Document Cloudは社内回覧・承認に使えるスタンプ機能から、法的に有効性が担保された電子署名を実現する電子サインソリューションの「Adobe Sign」を備えており、社内外の文書のやり取りをデジタル上で実現できます。セミナーでは実際にデモを交えて、Teamsを経由したPDF文書の依頼とレビュー作業や、Webブラウザ経由で社外の取引先へ電子サイン依頼といった動作を見せながら、現場の紙業務のデジタル化例を紹介しました。

紙業務のさらなる自動化から、ビジネスモデルの変革へ

Officeとの連携による紙業務のデジタル化から、さらに進んだ取り組みとして、「応用編:Microsoft×Adobe さらなるDX高度化への取り組み」と題してデモと講演を行なったのが、アドビ GTM・ソリューションコンサルティング本部 シニアマネージャーの原周一郎と、プロダクトスペシャリストの岩松健史です。

岩松が紹介したのは、アドビのドキュメントソリューションと、マイクロソフトのTeamsとの強力な連携機能です。前の永田のセッションでもデモがあった通り、アドビはTeamsと連携するアプリとしてAcrobat DCアプリを提供し、Teams内からのPDFの共同編集を実現しているほか、Teamsの承認アプリではAdobe Signと連携することで、Teamsからの署名依頼を実行することもできます。これにより、社内はもちろん、社外とのコラボレーションでTeamsを使っている場合、契約書の作成からレビュー、署名依頼から電子サインまで一連の流れをTeamsで実行することができます。

契約プロセスのデジタル化

契約プロセスのデジタル化

またアドビでは、ノーコード/ローコード開発プラットフォームの「Microsoft Power Platform」との連携においても、Acrobat DC用のコネクタ「Adobe PDF Tools connector for Microsoft Power Automate」を提供しています。これにより、OfficeからのPDF書き出しや書き戻し、パスワード/暗号化を自動的に行えることで、文書にまつわる非定型の自動化を促進できます。たとえばWordで作成した契約書など重要書類について、法務部の承認が終了すると、自動的にパスワード付きPDFに変換してSharePointに格納するといった作業の自動化が可能になり、よりスピーディーかつ効果的なDXを推進できるのです。

次に登場した原は、小売業のデジタル化として、アドビが提供するEコマースソリューション「Adobe Commerce」に関する説明を行いました。基調講演で鹿野氏が話したように、小売業ではBOPISという形態が浸透しつつあり、「購買体験をデジタルで置き換えるだけでなく、より良い体験のため、ECのあるべき姿について拡張して考える必要があります」と原は説明します。ただしその際に課題となるのが、各店舗を超えた在庫情報の共有や、商品の出荷から配送、引き渡しまでの複雑なプロセスにスムーズに対応できるプラットフォームの構築です。

Adobe Commerceは2018年にアドビが買収した「Magento Commerce」がベースとなっており、1つのプラットフォームでBtoC/BtoB両方のビジネスプロセスをサポート、多言語・多通貨・各国税制にも柔軟に対応できる柔軟性を備えています。また、複数のマルチデバイスにも対応しているので、PCだけでなく、モバイルアプリなど複数にまたがるオムニチャネル展開も可能し、大規模ECの要件に応える高いセキュリティレベルのクラウドサービスを提供しています。Microsoft Azure上での最適な動作も保証されています。

クラウド環境のご提供

クラウド環境のご提供

また、今回発表された新機能では、アドビのAIである「Adobe Sensei」のレコメンデーションや、Adobe Signとの密な連携も実現しました。これにより、より自分に合った製品との出会いや、スムーズなやり取りなど、より優れた顧客体験が可能になります。

今後、さらに加速すると予想される小売業界のDX。競争優位性を確立するためにも、迅速な取り組みが求められます。小売業界のDX実現に向けて、ご相談がありましたら、ぜひアドビまでお問い合わせください。

※オンデマンド動画のご案内

こちらのブログでご紹介したオンラインセミナーはオンデマンド動画でご視聴が可能です。ぜひご活用ください。

【Microsoft × Adobe 共催オンラインセミナー】デジタルトランスフォーメーション × 小売業 〜顧客体験と従業員満足度の向上のヒント〜