生き残りを賭け、DXに取り組む企業に伝えたい アドビのDXの歩み〜6月9日開催DXセミナーレポート

2021年6月9日、製造業の方々を対象にしたセミナー「デジタルトランスフォーメーション × 製造業 待ったなし!生き残るためのデジタル変革 ~製造業におけるデジタルトランスフォーメーション推進のヒント~」がオンライン開催されました。今回は経済産業省 商務情報政策局 田辺雄史課長の基調講演を始め、DXを実践してきたアドビが、米国本社のCIOと共にその変革のポイントを振り返り、DX取り組みを模索する企業に実践のヒントを示しました。

生き残りを賭け、DXに取り組む企業に伝えたい
アドビのDXの歩み〜6月9日開催DXセミナーレポート

コロナ前より日本産業のDX推進に取り組んできた経産省の歩み

2021年5月12日のセミナーに続き、製造向けDX実践セミナーとしては第2回となる今回は、経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課の田辺雄史課長の基調講演からスタートしました。

経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 田辺雄史課長

経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 田辺雄史課長

コロナ禍で注目されるようになったDXですが、経産省では以前から「日本の産業界全体でデジタル変革に取り組む必要がある」と考え、DXに関する調査や政策立案に注力してきました。その背景にあるのは、2018年9月に同省から発表された「DXレポート」で示された“2025年の崖”といわれる課題です。このまま何も変革を行わなれければ、2025年には労働者人口の激減による競争力低下、レガシーITの維持予算高騰といった問題が一気に顕在化すると見られています。この崖に落ちていかないよう、企業は直ちにDXに取り組まなければなりません。

では、DXとは具体的に何なのか。田辺氏は「単純に業務を電子化するだけではなく、業務のセグメントを超え、業務や経営のやり方を全社レベルで抜本的に改革していくこと」という経産省の見解を示します。

同省では、DX推進に向け、(1)指針策定や税制改正などの法整備、(2)ガイドライン、DX進捗の自己診断指標、ベンチマーク策定など企業への働きかけ、(3)デジタルガバナンスコードの策定やDX認定制度の施行、DX銘柄の選定など市場への働きかけ、という3つの柱を立て、企業のDXをバックアップしています。こうした成果を受け、2020年12月には「DXレポート2」が発表されました。

DXレポート2では「日本企業の大部分は、抜本的な変革実現には至っていない」という厳しい現場の認識を示しながら、「コロナ禍を一過性の現象ではなく、『常に起こり得る事業環境の変化』として捉え、企業はこうした変化に柔軟かつ迅速に対応し続ける能力を備えることが必要」と明言しています。そしてそれを実現するには、ツールを導入するだけでなく「これまでの企業文化を変えるという側面が重要になります」と田辺氏は説明します。

DXが進んだ産業界について、田辺氏は「従来のように大企業が業界を先導する産業構造が変化し、各社が互いの“強み”を補完し合い、柔軟かつ迅速に顧客に向き合えるようになり、共に成長していく構造に変化するのではないでしょうか」という見立てを示し、講演を終えました。

続いてDXを実践してきた企業として、その背景からDX化による成果を公開したのが、本セミナーの主催者でもあるアドビです。

ピンチを迎え、変革以外の選択肢がなかったアドビのDX

DX実践企業としてのアドビの歩みを紹介したのは、田辺氏に続いて登壇したアドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 執行役員 本部長の西山正一です。かつてのアドビの事業モデルはソフトウェアのパッケージ販売で、直販以外にさまざまな販売パートナーと組んで製品を提供していました。そのビジネススタイルを廃止し、現在のサブスクリプションサービスに舵を切ったのは2012年のこと。これについて西山は、「2つの大きな外部要因により、事業変革せざるを得ない事情がありました」と説明します。

アドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 執行役員 本部長 西山正一

アドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 執行役員 本部長 西山正一

第一に、スマートフォンが台頭するようになり、当時売上を支えていたFlash関連技術がスマホ上で使えなくなったこと。第二に、それと同時期にリーマンショックが起こり、ビジネス全体が大きく縮小してしまったことです。

特にスマホの普及は大きな痛手となり、Webの世界ではFlashに変わるテクノロジーとしてHTML5が一気に進化しました。「従来のパッケージ販売で、1年半ごとに新製品を出す」といったスタイルではこの技術変化に追随できなくなり、サービス事業へとシフトせざるを得なかったのです。これにより収益は年々向上、事業構造を変えたことで、販売チャネルも顧客との向き合い方も大きく変化しました。

「チャネルで言えば、直販の比率が伸び、現在は売上の2/3がAdobe.comからの直接購入となっています。またサブスクリプションなので、『販売して終わり』ではなく、24時間365日顧客と向き合うことになりました。あらゆるチャネルや各種SNSを通じて、顧客とどのようにコミュニケーションを取っていくか、そして製品認知から興味を持ってもらい、購入、使い続けていくという一連のプロセスをつなげていくために、データを使って因果関係を可視化して、それぞれのチャネルでどのような運用をしていけばいいか、データを見ながら判断し、正しい意思決定を行うようになりました」(西山)

このデータを活用したビジネスの進め方・運用を、アドビではデータ・ドリブン・オペレーティング・モデル(DDOM)と呼んでおり、この知見を生かしてAdobe Experience Cloudなどのソリューションに成果を反映させています。

西山はさらに、「データは正直です。データを集め、分析することによって、お客様とのエンゲージメントが強化できます。これこそがDXのメリットであり、この講演で最も強調したい点です」と述べ、DXを実践してきた成果を明らかにしました。

アドビのDX、そしてコロナ禍の新しい働き方が実現できた理由

続いて、米アドビ シニア バイス プレジデント兼CIOのシンシア・ストッダードと西山の対談が行われました。シンシアはアドビのCIOとして、業務システムやデータインフラ、セキュリティなどすべてのITに対しての責任者であり、職場環境の整備や従業員のエクスペリエンスにも責任を負っています。

アドビ シニア バイス プレジデント兼CIO(最高情報責任者)シンシア ストッダード(Cynthia Stoddard)

アドビ シニア バイス プレジデント兼CIO(最高情報責任者)シンシア ストッダード(Cynthia Stoddard)

シンシアによると、新型コロナのパンデミックが激化するなか、全世界一斉に完全リモートに切り替えられたのは、アドビが以前から災害対策として各職種の職務内容と必要な環境を洗い出しており、そのペルソナに則って勤務環境をリモートに移行したからだそうです。不測の事態に対し、そのような柔軟性を備えているのも、DX実践を通じて得た「デジタルファーストの思想」が社内に根付いていたためです。「アドビにおける未来の働き方は、柔軟性があるハイブリッドなものになるはずですし、それを支えているのがデジタルファーストの思想です」とシンシアは言います。

これに対し西山は、「日本では紙業務が根強く、これがリモートワークやデジタル化の妨げになっている状況がある」と問題を提起。シンシアは「それは世界中どの企業も同じですし、私自身も紙プロセス廃止に関するプロジェクトの苦労話ならいくらでもあります」と理解を見せます。

しかしそのうえで、「デジタル化のメリットは、物理的な制約から解放されることです。だからこそ、適切な手段によるペーパーレス化は、何よりも先に取り組むべき課題です」(シンシア)と指摘。「そのための技術もすでに揃っているのだから、紙のデジタル化を起点に、それを取り巻くプロセスについても考える必要があるでしょう」(同)と話しました。

最後にシンシアは、「CIOは、未来について考えなければなりません。レガシーシステムの維持費がかかり、DXやデジタル化への予算に回せなかったかとしても、未来を見据えて企業を進化させるのがCIOの役割です」と述べ、「DXとは私たちの働き方の変革です。未来を見据えて、正しいツールを選択すれば、生産性も向上し、顧客体験も向上できるようになるはずです」と締めくくり、講演を終えました。

製造業のDX推進において押さえておくべき技術要件とは

最後のセッション「製造業におけるデジタルドキュメントの要件と活用の理想形」に登壇したのは、アドビ プロダクトスペシャリストの永田敦子です。

永田はまず、業務のデジタル化について、「定型のワークフローに関してはほとんどデジタル化できていますが、定型化できない業務フローはそのままになっています」という多くの企業の現状を指摘しました。その定型化できない業務フローの代表格が、印刷や押印、回覧、ファイリングなどの紙業務で、これにより「プロセスやデータが断片化しているのです」と説明します。

「この領域をフルデジタルにすることで、各業務における断片化を取り除き、物理的な移動コストや環境にとらわれない作業が実現できますし、その結果多くの業務が円滑・稼働率も向上できるようになります」(永田)

実際多くの製造業では、契約書や取引上の重要書類を紙ベースでやり取りするケースが散見されますし、それ以外でも社内マニュアルや図面、製品マニュアル・パッケージデザインなどを紙で制作する案件が後を断ちません。

とはいえ、このようにビジネスインフラとなっている紙をデジタル化する際には、「押さえておくべき要件があります」と永田は強調します。

その要件とは、「環境に依存することなく、安全かつ簡単に、見たまま印刷したままと同様に元の文書を共有・閲覧できる電子文書であること」です。実はこれはISO 32000-1 “Document management - Portable document format”で規定された要件。文書の作成者と読み手が、時間や場所、OSなど環境の違いに関係なく、意図した文書を読むことができ、長期保管も可能で、いつ閲覧しても正しく表示されるほか、改ざんなどの行為から保護できること、こうしたことが求められているのです。

デジタルドキュメントに求められる要件(右上はアドビ プロダクトスペシャリスト 永田敦子)

デジタルドキュメントに求められる要件(右上はアドビ プロダクトスペシャリスト 永田敦子)

この要件を満たすフォーマットとして開発されたのがPDFです。アドビが提供するAdobe Acrobatはこれらの要件をすべてカバーしたPDFツールであり、Adobe Acrobat Readerは閲覧要件に完全準拠した閲覧ツールです。

そしてこのAdobe Acrobatを中核としたドキュメントソリューションAdobe Document Cloudは、紙の回覧、押印、共同編集、ファイリングといった非定型業務をデジタル上で実現する機能がすべて揃っているのです。Adobe Acrobat自体が持つ高いセキュリティ機能のほか、クラウドサービスなので強固なセキュリティ対策が施されており、文書プロパティ情報からの機密情報の流出や意図せざる改ざん防止、マルウェア対策などに多大な負荷をかけることはありません。

講演では、永田が実際に「Document Cloudのサービスの1つであるAdobe Signを使った契約書締結」や「Document Cloud上でのマニュアル制作の実例」などのデモを行い、紙業務のデジタル化の理想形として紹介しました。

こうした紙業務のデジタル化により、生産性は平均で50%以上向上した調査結果があるほか、Adobe Singの導入により年間7200万円以上のコスト削減を実現した企業、カタログ制作のレビュー時間を30%削減した企業など、その成功例は枚挙にいとまがありません。「システム化できない、またはシステム化するまでもない非定型業務をデジタル移行する場合、Document Cloudを使えば、現場の負荷や導入負荷を最小限に抑えてデジタル化を進めることができます」と永田は述べ、DXの第一歩として紙業務のデジタル化を実現する実例を示し、講演は終了しました。

アドビではデジタルを活用し、本気で業務変革を目指したい製造業、意思はあるけれど何から着手すべきか悩んでいる企業の皆様を応援いたします。アドビのソリューションに興味がございましたら、こちらまでお問い合わせください。

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