UX リサーチがビジネスの利益になる理由 | アドビ UX 道場 #UXDojo

UX リサーチがビジネスにもたらす利点を理解して、飽和したマーケットの中で顧客体験を差別化するヒントを学びましょう。

Tridib Das によるイラストレーション。

Tridib Das によるイラストレーション

人々がしていると言っていること、人々が本当にしていること、これらはまったく異なるものです。そんな人々が顧客であるならば、彼らが実際に何をしているのか、あるいは本当は何をしたいと思っている(それなのにしていない)のかを知ることは重要です。

ビジネスに関わる立場にいるのであれば、コンバージョンが 1% 低下すると、収益にどれほど影響があるかを知っているでしょう。その失ったビジネスは競合他社が獲得し、既存ユーザーを失ったかもしれません。では、コンバージョン率が低下したのはなぜでしょうか?ここで登場するのが UX リサーチです。UX リサーチは、代表的なユーザーのグループに対し、あるデザインがどのように役立つのかをテストして、ユーザーに関する洞察を集めます。ユーザーに提供しているつもりのものと、実際にユーザーが体験しているものの違いは、ビジネスの見通しと結果の差に直結します。

PWC の調査によると、消費者の 54% が、ほとんどの企業の顧客体験は改善が必要であると考えています。良い製品ライフサイクルの始まりは、高い顧客維持率、高い成約率、高い満足度が伴うものです。そのためには優れた顧客体験の提供が重要です。

後付けでデジタルが追加された経済からデジタルネイティブ経済への移行が進むに伴って、顧客の行動に変化が現れています。顧客が集中力を維持できる時間は短くなりました。また、彼らは、複数のサイトを同時に閲覧します。そして、不満を感じやすくなっています。サービスを提供する企業側には、顧客のニーズと変化に迅速に応えなければ、顧客を失うリスクがあります。UX リサーチをビジネスの一部として組み込めば、この課題に対応できます。

UX リサーチに取り組む理由

  1. マッキンゼーの調査によると、市場は優れたデザインに偏った報酬を与えています。デザインおよびユーザー体験の評価が上位 25% の企業の年間成長率は 10% と、業界全体の 3~6% よりも高い数字です。この傾向は調査対象のすべての産業に共通でした。また、上位 25% 以外の企業間の差はわずかです。つまり、上位 25% の企業は、不公平なほど優位性を持っています。
  2. 製品の開発や販売に関わる人々はその製品に慣れ親しんでいて、製品中心にものごとを考えるのが一般的です。すなわち、初めて使う顧客の目線やユーザ中心の視点が欠けており、デザインを評価する役割には不向きです。製品ライフサイクルに従事する社員は、優れた機能の提供、業界の他社との競合、最高の体験の模倣などを考えています。一方、製品を使用するユーザーは、情報を得たり商品を購入するなど、自分の目的を達成する支援ツールとして製品を見ます。この両者の目的は、たいていの場合に同じにはなりません。
  3. 顧客の期待は事前に条件付けられている可能性があります。実際、世界の主要企業が提供してきた Web 体験は、利用者に特定の UI を特定の方法で使うことを押し付けてきました。もっと良いデザインを提供する余地はあるとしても、ユーザーは既に特定の情報を特定の方法で求めるよう習慣づけられています。保存ボタンのアイコンには 20 年前に使われていたフロッピーディスクのイラストが今でも使われることがあります。論理的には、最高の体験のデザインとは最新の機能をユーザーの手に届けることだとしても、ユーザーの期待が既に目にして利用した経験のあるデザインであるならば、そこにはズレが生じるでしょう。

これらの課題に対し、適切なユーザビリティリサーチの代わりになるものはありません。確かに、テストの実施方法に関する信頼性の問題は存在し、テストが完璧にはならないことを示す兆候は数え切れないほどあります。例えば、ベンチマークテストをする際に、グループごとに条件を変えるか、それとも被験者全員にすべての条件のテストを実施するかは、そうした問題のひとつです。どちらにも利点があり、どちらにも制限があります。特定の方法論を採用することに伴う信頼性の問題には、トライアンギュレーション(triangulation) がお勧めです。複数のソースから得られたデータを組み合わせて検証し、調査結果をまとめることで、広い視野からの信頼できる全体像を把握するアプローチです。定量的な分析で加入率の低さが示されたならば、定性的な調査で問題点を見つけ、専門家による競合他社の分析を組み合わせて対応を検討できます。もちろん、UI が理解可能なレベルにあることは前提です。

UX リサーチの始め方

リサーチャーが一人いれば UX チームを立ち上げて、その有効性を試験的に確認できます。リサーチャーは単にテストを実施するだけでなく、適切なテスト方法の方針を確立し、効率化のためテスト形式のテンプレート化を行い、影響範囲の小さな問題を選んでテストを始めます。こうすれば、少額の予算で UX リサーチに着手できます。

また、リモートテスト用のオンラインツールを利用して、予算を抑えながら UX リサーチを推進する方法もあります。進捗があってリサーチの効果が証明されれば、チームの規模やリサーチの対象を拡大して、ビジネス KPI と統合することも可能になります。

チームの役割を拡大するには UX デザイナーを追加します。また、社内にデータ分析を担当するチームがあるなら、密接に連携して優先的に解決すべき問題の把握を試みるべきです。分析チームには、何が問題がであるかを特定する能力があります。UX チームの仕事はその理由を見つけ出して改善策を提案することです。

UX チームの成長に合わせて、社内の各部門に味方を増やすのは良い考えです。顧客が抱えている問題に共感できる人々は必ずいます。そうした人々は組織の中で UX カルチャーを推進する役割を果たしてくれるでしょう。

もし UX の必要性を確信していて、急成長しているデジタル関連ビジネスに関わっているのであれば、さらにチームメンバーを増やすか、外部のエージェンシーにリサーチを依頼して、作業スコープを拡大するという選択肢もあります。そうすればより広範囲の問題に専門家が対応できるようになり、ビジネス目標の一部として UX を推進することが容易になります。

大切なのはとにかく早く始めることです。どんなに小さなことからでも構いません。

UX リサーチの効果測定

UX リサーチを定着させる鍵になるのは、適切な効果測定の実践です。それはおそらく繰り返し改善を重ねるプロセスになるでしょう。最初の一歩は、測定する対象とその方法の決定です。時間が経過しても有効であり続ける指標は何かあるでしょうか?

次に、それらの指標の推移をしばらくの間記録します。デザインや機能更新を行った際にも記録します。測定された指標の変化を参考にすれば、より多くの情報に基づいた意思決定を行えます。

すべてのタスクに対し、現実的な KPI を設定することは非常に重要です。たとえば「製品に興味を持つ潜在ユーザーの増加」や「コールセンターの負荷の減少」のようにさまざまな KPI が考えられます。

収益に直接影響しない例

ユーザビリティテストを実行した結果、「ヘルプ」セクションに問題があることが示されたと仮定します。また、サイト分析ツールを通じて、特定のヘルプキーワードに対してサイトの関連ページが返されていないことを見つけたとします。これは顧客の不満につながる体験です。不満を感じた人々はサイトに記載されている電話番号に連絡するかもしれません。すると、コールセンターへの問い合わせ件数が何パーセントか引き上げられます。もしこの問題を解決して、顧客が求めている回答をサイトで見つけられるよう修正できれば、コールセンターのコスト削減につながります。

収益に直接関係する例

Web サイトには、解析ツールによって発見された問題点として、登録完了率の低さが存在すると仮定します。そこでユーザビリティテストを行い、その理由を見つけました(使いにくいという評価とともに)。もしこの問題を解決することにより登録完了率が向上すれば、全体のコンバージョン率、すなわち収益の流れに影響を与えます。

おわりに

優れた顧客体験は、競争力のある差別化の維持を可能にする唯一の基盤です。ひとたびユーザビリティテストや UX リサーチの利点を理解したら、もう後戻りすることはないでしょう。ただし、UX リサーチから最大の成果を引き出すには、その方法論をビジネスに合わせて進化させ続けなければなりません。忘れてならないことは、もし顧客ときちんと向き合わなければ、それが競合他社を優位にするということです。

「人々が言うことに耳を傾けるのではなく、彼らがすることに注目すべきだ」 - Steven D. Levitt, Think Like a Freak

この記事は How UX Research Can Benefit Your Business(著者: Malay Mote)の抄訳です