【セミナーレポート】東京大学にて開催 「研究発表ポスター制作の秘訣」セミナー Before/Afterで驚くほど変わる!おさえておきたいデザインのルール
学会や研究発表のポスターセッションでは、目を留め立ち止まってもらう印象と読みやすさ、伝わりやすさが重要です。研究者の皆さんがデザインやレイアウトの知識をつければ、ポスターデザインの見栄えは大きく変わります。7月20日(火)、アドビは東京大学で研究者を対象としたオンラインセミナー「研究発表ポスター制作の秘訣」を開催しました。帝塚山大学現代生活学部居住空間デザイン学科准教授 大里浩二先生が講師をつとめ、押さえておくとすぐに役立つデザインのポイントをレクチャーしました。
帝塚山大学現代生活学部居住空間デザイン学科 大里浩二准教授によるレクチャー
デザインは「装飾」ではない
大里先生は、冒頭で「デザインの目的は、わかりにくいものをわかりやすく、使いにくいものを使いやすくすることで、装飾してデコラティブにすることではありません」と説明しました。ポスターの場合は情報を人に伝わりやすくすることがデザインの役割です。
例として、Adobe Illustratorで作られたある発表ポスターをBeforeの例として示しどのような改善点があるのかを概観しました。
Beforeの例としてあげられたポスターデザイン。視線誘導、文字の大きさや配置、配色などの改善ポイントがある
デザインの法則をおさえると一気に見やすくなる
大里先生はまず、レイアウト、フォント、配色のテーマごとにデザインの法則を解説します。
<レイアウト>
デザインでよく使われる「ゲシュタルトの法則」からいくつかを取り上げました。例えば、「近接」は、近くに配置すると同じグループだと認識するということ。グループに分け適正な余白があれば、いろいろな線で囲ったりさらに背景色を塗ったりする必要はありません。また、「類同」は同じ形は同一グループだと認識するということ。同じカテゴリーの情報ならば、四角を使ったり角の丸い四角を使ったりせずに同じ表現に統一します。
当たり前のことのようですが、ポスターデザインとなると、つい過剰な演出をしがちだと大里先生は指摘します。簡単なルールを知っているだけですぐに改善できそうです。
「近接」や「類同」などの法則は、日常では当たり前のこととして捉えているものだと解説(セミナースライドより)
<フォント>
代表的な書体の種類と呼び方、特徴に加え、字間や行間、行長など文字の配置の仕方について実例でわかりやすく解説しました。例えば適度な行間を作ることで、文章がとても読みやすくなります。
上段のように文字が大きければ良いというわけではなく、下段のように適度な行間がある方が格段に読みやすくなる
また、フォントを選ぶときに、例えばポップ体を使うとセールのようなイメージがあり、安っぽい印象を与えてしまうという注意ポイントも。Adobe Creative CloudのアカウントがあればAdobe Fontsを使用できて、豊富なフォントから選べることを紹介しました。
<カラー>
色には「明度」「彩度」「色相」という3つの属性があり、それぞれ、明るさ、鮮やかさ、色味を意味しています。例えば色味が青の場合でも明度と彩度の異なる様々な青が存在します。
左側が色相。右側が同じ色相の明度と彩度の異なる色を示している
色の捉え方をおさえた上で、配色の法則、「ドミナントカラー配色」と「ドミナントトーン配色」を紹介しました。「この2つだけ覚えておいてください。これで大体解決します」と大里先生。デザインの初心者には心強いひとことです。
ドミナントカラー配色は同じ色相で明度と彩度の異なる色を組み合わせる。ドミナントトーン配色は明度と彩度が同じ異なる色相の色を組み合わせる。
配色を整えすぎるとまとまりすぎて面白みがなくなるので、アクセントカラーを少し加えるのがコツ。ドミナントカラー配色の場合、色相の反対側の色味で彩度の高い色を選ぶと良いそうです。
また、音楽に例えるとドミナントカラー配色はトランペットのみでさまざまな音色を出している状態で、ドミナントトーン配色は複数の楽器の音が同時に鳴っている状態です。ドミナントトーン配色は少し難易度が上がり、彩度の高い色で配色するとうるさくなってしまうので注意して欲しいと説明を加えました。
BeforeからAfterでがらりと変わる印象
解説したデザインの基本知識をもとに、Beforeで示したポスターデザインのレイアウトを実際に手直ししていきます。視線誘導を考えた情報配置をし、余白を十分にとり、文字サイズや行間を整え、囲む線や背景色を整理し、配色をドミナントカラー配色で整えていくと、みるみるうちに情報が見やすくなっていきました。全く同じ情報でも読みやすさがまったく違います。
BeforeとAfterでは全く同じ情報を掲載しているが、読みやすさが全く違う。配色は青のドミナントカラー配色に黄色のアクセントカラーを加えている
視線誘導を考えて情報の配置を整理しただけの段階。これだけでかなり整理された感じがする
参加者からは具体的な質問が相次ぎ、実際に悩みながらポスターデザインを行っていることが伝わってきます。大里先生はIllustratorで実演しながらていねいに答え、より具体的な数値やコツが示されました。
研究者のポスター発表において、まず立ち止まって「読んでもらう」ことは何よりも重要です。研究者の皆さんには、情報をよりわかりやすく伝えるデザインのスキルで、大切な発表の機会を最大限に生かして欲しいと思います。