UX デザイン監査の必要性とその始め方 | アドビ UX 道場 #UXDojo
Kyle Webster によるイラストレーション
テクノロジーの進化は速く、そのため UX デザイナーは常にデジタル製品のための有益な体験の構築と維持に追われています。そうした作業の一部には、新機能リクエストの評価、ユーザー調査の実施、デザインドキュメントの作成等が含まれます。また、デザインとビジネス戦略の方向性を確実に一致させるため、ビジネスサイドとの協業も行わなければなりません。
さらに、こうしたプロセスの成果として素晴らしいデザインが完成しても、その後のデザインの継続性、アクセシビリティ標準への準拠といった問題がデザインチームを悩ませることが一般的です。そこで重要になるのが、存在する問題点を評価、特定、解決するための、定期的な「デザイン監査」の実施です。
この記事では、デザイン監査とは何か、それがどのようにデザインチームに役立つのかを簡単に解説し、続けて、デザイン監査の方法と、監査に使用できるテンプレートを紹介します。
デジタル製品の様々なコンポーネントの 3D 表現 出典: アドビ
UX 監査とは何か?
UX デザイン監査はデジタル製品の品質保証を目的とする行為です。具体的には、デジタル製品をユーザー体験の観点から評価して、アクセシビリティ、UI コンポーネントの一貫性、デザインの統一性の要件を満たしていることを確認し、将来デザインの見直しを行う際に対処しなければならない問題点や仕様とのギャップを特定します。
デザイン監査を通じて見つけ出せる一般的な課題には次のようなものがあります。
- 画像にスクリーンリーダー用の代替テキストが存在しない
- サイト内のフォントの種類とサイズに一貫性がない
- ナビゲーションリンクが切れている
- 古くなってしまったコンテンツが公開されたままである
- 不正確なコンポーネントパターンの使用
- アクセシビリティ要件を満たさない色の使用
- レイアウトルールの不適切な適用
デザイン監査を誰か一人の過度な負担にしてはなりません。この作業を成功させるには、チームのすべてのメンバーによるデザインコラボレーションが必要です。
そのためにも、UX デザイン監査の重要性を広く示し、製品の全体的なユーザー体験を改善する手段であることをチーム全体に認識させることが重要です。
デザイン監査を実施するタイミング
デザイン監査を定期的に、そして、できるだけ頻繁に行うことにより、デザインチームのスケジュール順守が容易になります。
その反対にデザイン監査の実施を待つ時間が長くなるほど、未対応のズレによる問題が大きくなります。すなわち、デザインプロセスにおける課題解決の難易度が高まります。
デザイン監査を実施する方法
適切な UX デザイン監査では、いくつかの異なる観点からデジタル製品とデザインを評価します。デザイン監査における主要な 4 つの観点は、ユーザビリティのヒューリスティック評価、アクセシビリティガイドラインへの準拠、UI コンポーネントの一貫性、スタイルガイドへの準拠です。これらの観点を理解したデザイナーは、デザイン監査を行い、特定のデザインが現在どのように基準を満たしているかを判断できるようになります。
それでは、それぞれの観点を具体的に見ていきましょう。
ヒューリスティックを用いたユーザビリティ評価
UX デザイン監査で最も一般的な評価プロセスのひとつはニールセンの「ユーザビリティ 10 原則」を UI デザインに対して行うことです。Web サイトやその他のデジタル製品のユーザーインターフェイスを、ヒューリスティックを用いて UX の観点から評価します。
評価の対象となる 10 のユーザビリティヒューリスティックスは以下の通りです。
- システム状態の可視化: ユーザーが次のステップに進めるように、現在のシステムの状態を簡単に識別、理解できること
- システムと実世界の一致: 使用される言語や動作が、ユーザーが現実世界での作業に期待しているものと類似していること。不要な混乱や間違いを防ぐことに関しても同様。
- ユーザーのコントロールと自由: ユーザーは、現在の状態に拘束されていると感じてはならず、元に戻す、やり直す、終了するといったオプションが利用可能であること
- 一貫性と標準性: 使い方の習得が簡単であること。また、ユーザーが予期せぬ結果に直面しないように、繰り返し使われる UI コンポーネントが同様に動作すること
- エラーの防止: ユーザーのエラーを可能な限り回避し、万が一エラーが発生した場合は、エラー回避の方法をユーザーに伝えること
- 記憶よりも認識: 製品を使うための情報の記憶をユーザーに強要することなく、要素が何のためにあるかをユーザーが簡単に認識できるようにすること
- 柔軟性と効率: 製品を使用するユーザーは素早く作業することができ、好みの働き方に合わせて機能を調整できること
- ミニマルで美しいデザイン: 複雑過ぎるデザインを避け、ユーザーが混乱しないシンプルなデザインにすること
- エラーの認識、診断、回復を支援: 予期せぬエラーが発生した場合にはユーザーに状況を伝え、その原因と回避方法を明確に説明すること
- ヘルプとドキュメント: ユーザーが必要とする情報を準備し、その情報をアクセス可能で、検索可能で、簡単に見つけられるようにすること
アクセシビリティガイドライン
すべての人が使用できるデザインを実現するため、デジタル製品のアクセシビリティ対応は、デザインチームとブランドにとっての最優先事項です。企業によっては、デザイナーがアクセシビリティに取り組むのを支援するため、独自に研究したアクセシビリティガイドラインを構築していますが、もし独自のガイドラインが存在しない環境であれば、W3C Accessibility Initiative を優れたガイドラインとして利用できます。
UI コンポーネントの一貫性
既に説明したように、一般的には一貫性はヒューリスティックス評価の一部として扱われますが、UX デザイン監査においては独自のプロセスであるべきです。特に、納期が厳しかったり、複数のデザインチームのメンバーが同じプロジェクトに参加している場合は、一貫性が問題になりがちです。
デザイン全体に使用されているモデルをすべて特定し、それらが同様な体験を共有できることを確認するのは一貫性の評価の一例です。また、プロトタイプを使ってユーザビリティテストを行い、UI コンポーネントの一連のパターンをユーザーとテストすることも重要です。
スタイルガイド
UI スタイルガイドは、制作物のルック&フィールやトーンが記述されたデザインドキュメントです。ブランドの一貫性と継続性を高めるだけでなく、ユーザーが製品を使用する際の体験を決定づける重要な資料です。スタイルガイドに適切に準拠すれば、ユーザーの受ける印象がページごとに変わることはありません。
UX 監査のテンプレート
UX 監査の成果としてチームに洞察や勧告を提出するには、まず、データ収集に使用するテンプレートを正しく準備することから始めます。ここでは参考のために、発見した課題の記録として記述するべき項目の一覧を紹介します。
- 課題の内容: 課題の説明。簡潔に記述する
- 課題の場所: 課題が存在する箇所。正確に記述する
- ユーザビリティヒューリスティック: どのユーザビリティヒューリスティックに該当する課題か?
- アクセシビリティ: アクセシビリティの問題か?「はい」または「いいえ」を選択
- ユーザーへの影響度: ユーザー体験に与える影響の度合い。低、中、高から選択
- デザイン作業の見積もり: 修正に必要なデザイン作業の量。低、中、高から選択
- 開発作業の見積もり: 修正に必要な開発作業の量。低、中、高から選択
- 優先度: 他の欄の内容を参考にした総合的な優先度。低、中、高から選択
UX デザイン監査の評価
最終的に UX デザイン監査から得られる最も価値がある成果は、記述されたデータに基づいて、さまざまな観点から議論された評価です。その成果を目にしたチームは品質保証を行うことの重要性を再認識することでしょう。
デザイン監査は、全体としての製品およびチーム内の協業を改善するために実施していることを忘れないようにしましょう。決してチーム内の誰かを批判するためのものではありません。
UX デザイン監査を実施したら、開発チームとビジネスチームがその内容をレビューし、実現性と優先度の観点から議論して評価することも重要です。これは、将来の開発スケジュールに課題解決のプランを組み込む際のコミュニケーションを容易にします。
UX デザイン監査を始めよう
初めて UX デザイン監査を始めるときは、大変そうな作業に見えるかもしれません。しかし、ひとたび何をして何を見つけるのかを理解すできれば、ごく単純なプロセスに変わります。手始めに、この記事で紹介したデザイン監査テンプレートを作成し、画面ごとに発見した問題をドキュメント化してみてください。その際に 10 のユーザビリティ原則とアクセシビリティガイドラインを頭に入れておくことは重要です。また、製品の包括的なデザインの継続性と統一にも注意を払いましょう。
最初のデザイン監査を実施するときは、作業範囲をより小さく管理しやすい単位に分割することをお勧めします。それから、作業全体を通じて実際に参加できるデザイナーの数を確認しておきましょう。デザイン批評の場でデザイン監査の必要性について話し合い、製品チーム全体を巻き込んだ活動の予定を決めるのも良いアイデアです。一度デザイン監査を最初から最後まで体験すれば、それ以降のデザイン監査はずっとスムーズに進むようになるでしょう。
この記事は What is a UX Design Audit?(著者: Dan Silveira)の抄訳です