科学が教える UX を効率的に学ぶための 5 つのヒント | アドビ UX 道場 #UXDojo

Gleren Meneghin によるイラストレーション。

Gleren Meneghin によるイラストレーション

新しいことを一から学ぶのは簡単ではありません。特に膨大な量の情報がネット上に溢れていて、その一部が矛盾することも珍しくない UX のような学際的な分野はなおさらです。

講師、および学習者の学びのプロセスを向上させるため、さまざまな学習戦略が使われます。そして、学習戦略は時の経過と共にどんどん複雑化しています。今では脳科学の進歩のおかげで「右脳派」と「左脳派」のような、古典的な誤った通念を無視できるだけの知識も得られています。

この記事では、実際の科学的研究によって立証された、脳についての知識に基づく 5 つの学習戦略を説明し、それらを UX を学ぶプロセスにどのように適用できるか検討します。

1) 現実の問題を解く: 問題解決型学習(PBL)

「Brain-Based Learning」の著者であるエリック・ジェンセン博士によると、人間の脳は生まれつき問題を解決するべくつくられているそうです。

仲間や同僚と協力して問題を解決するとき、人は取得した情報を使用する、あるいは組み合わせるための新しい方法を学びます。その結果、脳内で新しいシナプス結合が形成されます。

☆ 学習プロセスとの関連性

まず、自分の知識を現実の状況に適用することにより、単なる知識だったものが、さまざまな意味を持ち始めます。また、興味を持てるプロジェクトに取り組むことができれば、モチベーション向上や感情移入が自然に起きて、効果的な学習につながります。

★ UX の学習に応用する

どんな UX プロジェクトも本質的には課題解決に向けた取り組みであることを考えれば、PBL を UX の学習プロセスに適用することは容易です。最初のステップは、関心のある問題領域や、個人的に抱えている問題を思い描くことです。この点に関して、d.school のDesign Project scoping guideは、素晴らしい例を紹介しています。

デザイン思考では、「厄介な問題(wicked problem)」という言葉がよく使われます。これは、複雑で難しかったり解決が不可能であるため、明白な解決策がない問題を意味します。こうした問題は、影響を受けている人々の生活や環境を改善するためのさまざまな解決策を模索して検証する素材として理想的です。

Richard Buchananのデザイン思考における厄介な問題のスケッチノート。

出典: LoraCBR (copyright terms and licence: CC BY 2.0)

2) 他の人と議論する: 積極的な会話とディベート

学習に関しては、与えられたコンテンツを受動的に消費するか、積極的に議論に参加するはとても大きな違いになります。議論に巻き込まれているときは、発言をしなければなりませんし、相手とやりとりすることを強制されます。科学的な観点からは、認知的および感情的に参加していると言える状態です。

議論に参加する学習者は、これまでの経験で得た枠組みの上に新しい知識を取り入れるだけではなく、新しいアイデアや視点にさらされ、それらと対峙することになります。

☆ 学習プロセスとの関連性

PBL のケースと同じように、科学的にはこの種の活動がシナプスの結合を促すとされています。また、うまくいけば得た情報を使用する新しい方法を獲得できます。

建設的なディベートは、しばしば相反する視点に触れる機会になります。これは、独自の見解やアプローチを構築する手掛かりになりますし、批判的思考のスキルの訓練にもなります。

★ UX の学習に応用する

ディベートの相手として、学生から経験豊富なプロフェッショナルまで、さまざまな段階の人たちと関わることが必要です。専門家や先輩の意見だけでなく、同じレベルの人たちからのフィードバックも聞くことで、自分よりも経験があるという理由だけである特定の意見に頼ったりせずに、独自の視点を構築し、議論における立場を自らの意見で選べるようになります。

独学で学んでいて議論する相手がいない場合は、オンラインのデザインコミュニティに参加すると良いかもしれません。アドビは Adobe XD Daily Creative Challenge 用の Discord チャンネル(英語)を運営しており、そこには誰でも無料で参加できます。このチャンネルでは、指導役だけでなく、他の参加者との交流も可能で、Daily Creative Challenge の課題以外にも、UX デザインに関するあらゆるトピックについて議論できます。

3) 真似して学ぶ: シミュレーション & ロールプレイ

シミュレーションやロールプレイも一般的に使用されている学習戦略です。その理由は、これまでに紹介した戦略と同様に、学習に対する動機づけの強化や感情的な関わりの促進など、学習を推し進めるための重要な要因と脳科学が捉えている特徴を共有していることです。

☆ 学習プロセスとの関連性

何か特定の感情を覚えた時、その感情に関連するエピソードをごく簡単に思い出せることは、誰もが経験として知っています。同様に、学習したばかりの概念がさまざまな状況における感情と結び付くと、その概念を記憶することが容易になるとともに、現実世界との関連性を理解しやすくなります。

またシミュレーション中は、意思決定、問題解決、批判的思考といった重要なソフトスキルの開発が促されます。

★ UX の学習に応用する

UX を学習するためのシミュレーションは、現実世界の状況を再現し、そこに現実的な制約を加えたものになるでしょう。具体的には、特定の既存の要件を踏まえて作成された架空の状況などが使用されます。PBL などの熱意が重視される戦略とは対照的に、シミュレーションは創造的な自由度が低く、実プロジェクトに近い状況で行われる傾向があります。

ロールプレイとシミュレーションは異なるものであるとする Jane Dunkel Chilcott のような人たちもいます。この場合のロールプレイとは、あらかじめ定められた一連のイベントに従って特定のキャラクターの役割を果たすというものです。意思決定者、ステークホルダー、あるいはエンドユーザーとして振る舞えば、それぞれの立場からデザインに関する決定が与える影響をよりよく理解できるようになります。

4) デザインスキルを活用: グラフィックオーガナイザーの作成

認知負荷を説明するベン図のグラフィックオーガナイザー。

認知負荷を説明するために Adobe XD で作成したグラフィックオーガナイザーの例 出典: Ana Santos

ビジュアルデザインのスキルをすでに自分のものにしている人、あるいは、もうすぐものにできそうな人は、UX を学ぶ過程でもそのスキルを使えます。

脳の研究から得られたいくつかの知見は、グラフィックや視覚的な補助資料に、注意力、学習力、記憶力を高める効果があることを示唆しています。教える側はこの戦略を授業でよく使用しますが、学ぶ側も、新しい情報を解釈し、すでに持っている知識との関連付けを効果的に行う手段として視覚的な情報整理を利用できます。

☆ 学習プロセスとの関連性

グラフィックオーガナイザーは、アイデアやコンセプトの関係を視覚化する手段です。グラフィックオーガナイザーを作成することで、楽しんでデザインをしながら、新しい情報をマッピングすることにより整理して自分のものにできます。

このような実践的なアプローチは、積極的に学習プロセスに参加する機会にもなります。

★ UX の学習に応用する

ビジュアルデザインの経験に乏しい人は、学んだコンセプトや情報を視覚的に説明するために UI ツールを使ってみると良いでしょう。Adobe XD の Whiteboard プラグインなどを使えば、アイデアをすばやく簡単に書き留められます。

この戦略は、これまでに紹介した活発な議論を伴う共同学習の戦略と組み合わせることも容易です。共同学習の一部として、他の人と直接グラフィックノートを交換したり、ソーシャルメディアで共有することができます。

5) 成長志向の考え方の育成: 学習に前向きになれる環境づくり

感情は学習に大きく影響します。感情移入することが学習に与えるポジティブな影響、すなわちシナプス結合の構築は、脳の研究により裏付けられています。一方、ストレスや不安などの負の感情は学習にネガティブな影響を与えます。

つまり、重要なのは、学習に前向きになれる環境に身を置くことです。それは学びの場が教室、自室、バーチャルな空間のどれであっても変わりません。成長志向の考え方は誰もが身につけることができるものです。

☆ 学習プロセスとの関連性

目標に到達できないとき、苛立ちを感じたり、ネガティブな考えを持つようになることはよくあります。しかし、何かに失敗したとしても、そのスキルが一生身につかないということにはなりません。成長志向の考え方と、固定観念にとらわれた考え方の差が出るのはここです。成長志向の人は、時間をかければスキルを向上させることができると考えます。一方固定観念にとらわれた人は、苦手なことは一生できないと思い込みます。

固定観念は、ネガティブな感情や非現実的な期待を助長します。成長志向は、学習プロセスをポジティブな感情に満たされた達成可能な道のりとして見る姿勢を後押しします。

★ UX の学習に応用する

学習者の感情に影響を与えるすべての要因や状況をコントロールすることは不可能ですが、成長志向の考え方に向けて、ゆっくりと時間をかけて UX の課題に取り組むことは、学習のための良い環境を育む方法のひとつです。

そのためには、失敗も学習プロセスの一部であると受け入れることが重要です。結局のところ、誰もが最初は、全く新しい分野でよくわからない状態からスタートするのです。

おわりに

UX を基礎から学ぶには、多くの時間、労力、努力が必要です。一朝一夕に習得できないのは、他の様々な分野における学習と同じです。そして、プロセスの一部として失敗を受け入れる必要がある点も同じです。

自分独自のアプローチを構築し、批判的な思考のスキルを高めるには、関連するトピックについて他の人と議論し、そこで学んだことを実践し、その結果を共有してさらに応用する必要があります。

最後には、すべての努力が報われるでしょう。

この記事は 5 Science-Based Tips to Improve Your UX Learning Process(著者: Ana Santos)の抄訳です