8 人のリーダーに聞いたハイブリッドなデザインチームのベストプラクティス | アドビ UX 道場 #UXDojo

世界各地の企業や組織がオフィスに戻り始める中、社員がより柔軟に働けるように、多くの職場でハイブリッドなワークスタイルが定着しつつあります。社内だけでなくリモートからでもチームとして仕事ができるハイブリッドモデルは、社員の働き方の選択肢を増やします。

アドビはハイブリッドワークモデルへの恒久的な移行を発表した企業のひとつです。「従業員の体験を見直し、対面とバーチャルの良い点を活用して未来に向けた働き方に取り組む機会と必要性を感じています。これは、創造性、革新性、文化を育むための取り組みです」と、従業員エクスペリエンス担当エグゼクティブバイスプレジデント兼最高人材活用責任者の Gloria Chen は書きました。

Chen によれば、アドビはデジタルファーストのアプローチを導入することで、社員の約半分が自宅で、残りがオフィスで働けるようになる環境を目指します。また、物理的な会議とバーチャル会議を意識的に組み合わせ、対面の会議をより目的とコラボレーションを意識したものにします。

それでは、実際にハイブリッドワークモデルを導入し、対面とリモートのメンバーから構成されるクリエイティブチームを効果的に機能させるにはどうすればよいでしょうか?この記事は、ハイブリッドなワークフローに取り組む 8 人のエキスパートがこれまでに学んだ教訓を紹介します。

リモートコミュニケーションにおける課題

MURAL はビジュアルコラボレーションのためのデジタルワークスペースを提供する企業です。MURAL でチーフエバンジェリストを務める Jim Kalbach は、ハイブリッドのチームワークを真に効果的なものにする方法を模索してきました。

「ハイブリッドな働き方自体は新しいものではありません」と彼は指摘します。「実際、私の調査では、パンデミック以前から最も一般的な職場でのコラボレーション環境でした。問題があったのはそのやり方です。リモートの参加者には何が書かれているか見えないのにホワイトボードを Web カメラで配信したり、リモートの参加者に発言機会を与えるための時間をつくらなかったり、さらに酷いケースでは、会議の開始時に遠隔地の同僚を招待するのを忘れてしまったりしていました。再びオフィスで働くようになったとしても、こんなやり方に戻るわけにはいきません」

特にリモートの参加者が少数派で、チームのリーダーが会社のオフィスにいる場合は、リモートの参加者がコミュニケーションに難しさを感じがちです。

デザイン & 開発エージェンシー iamot でデリバリー & オペレーションディレクターを務める Carson Pierce は次のように振り返ります。「パンデミック以前は、リモートワークの態勢が確立されていませんでした。本社で働く社員は経営層と直接話すことが可能で、多くの重要なコミュニケーションが『その場』で行われていました。リモートで働く社員は情報を後から聞くことが多く、自分たちを二流市民のように感じ、当然のように企業文化にかなりの不満を感じていました」

Adobe Typekit(現在は Adobe Fonts)のクリエイティブディレクターを務めていたフリーのデザイナーの Elliot Jay Stocksもこれに同意して、「その場にいる人たちによって意思決定がなされるというのは変えられない事実」であると言います。彼はマネージャーの中で唯一のリモートワーカーだったために、時差の無い環境でデスクを並べて働く他のマネージャーたちが彼抜きで判断を下さざるを得ない場面が定期的に発生していました。

「原因を会議室のようなフォーマルな環境に求めるのは当然に思えるかもしれません。しかし、実際にはよりカジュアルな状況、ランチを待つ列、ちょっとしたコーヒーブレイク、仕事の後の一杯などの場面における議論の方が問題です。リモートワークをする者にとって、そうした状況にいないということは、意図的であることは稀ですが、会話、そして意思決定プロセスから除外されることを意味します」

自発的なコラボレーションを可能にする

デジタルエージェンシー Huge でグループクリエイティブディレクターとして働く Claudio Guglieri は、西海岸支社のエクスペリエンスデザインチームを率いています。彼にとっての最大の課題は、仕事の調整ではなく、多様な個人の集団をチームとしてまとめるために必要な、偶発的に発生する出会いや連携の瞬間をつくり出し、それを維持することです。

「私は、仲間との目的のないおしゃべりを、私たちをつなぐ接着剤のようなものだと考えています。ウォータークーラーの前や廊下でのおしゃべりがなくなると、お互いを思いやる気持ちを簡単に失ってしまうのです」

この 10 年間、Claudio は、アメリカ、スウェーデン、フランス、スロベニア、香港、スペインに分散したチームと働いてきました。Claudio が学んだことは、リモートにいる人々と共同で働く最良の方法は、個人的なつながりをつくる努力を惜しまないということです。そのため彼は、1 日の数時間は勤務時間が重なるようにしたり、グループ内で何かを共有するよう促したり、テレビで最後に見た番組、週末に何をしたか、誰もが好きな 90 年代の曲などについておしゃべりしながら働けるようにするなどの工夫をしました。

「我々のビジネスはデジタル体験やブランドのストーリーをつくり上げることですが、その本質は人と人の関りです。人々が最高のパフォーマンスを発揮できる環境でつながることが、成功するための唯一の方法なのです」と Claudio は強調します。

リモートのメンバーの立場に立って考える

Elliot は、遠隔地の社員に対してより頻繁にオフィスにいるように求めるのはフェアではないと指摘し、代わりに、オフィスにいる社員が自宅や別の場所で働く機会を増やすことを提案します。「リモートから働く生活、その自由と困難を経験することは、チーム全体に健康的な視点を与え、立ち話をしながら意思決定するような行為を回避するのに役立ちます」

Elliot の前職は、ロンドンのエージェンシーのクリエイティブディレクターでした。彼は、ブリストルの自宅からリモートでデザインチームを管理し、ほぼ 2 週間ごとに、約 2 時間の距離にあるロンドンを訪れました。

「隔週の訪問は社交性のある文化を強く保つために役立ちましたが、ハイブリッドなワークスタイルの文化に最も貢献していたのは、チームのほとんどのメンバーが週の半分以上、自宅で仕事をしていたことです。彼らは物理的にオフィスの近くに住んでいましたが、チーム全員がリモートの価値と意味を理解していたために、どこで働くかは問題になりませんでした。その結果、チーム全体の行動が対面とリモート双方のシナリオに最適なコミュニケーション方法の理解の上で成り立っていました」

Carson Pierce は、平等や公正を重視する文化がハイブリッドモデルに問題を引き起こす可能性を警告しています。彼のチームのほとんどは、パンデミック以前から勤務していて、共有のオフィススペースを利用できるある都市に集中しています。

「その都市で働く多くの人にとっては必要な場所かもしれません」と彼は説明します。「しかし、パンデミック後に採用された一部のチームメンバーは、離れた場所に住んでいて、おそらくそのオフィスを見ることはないでしょう。公正の観点からは、遠隔地の社員にもそれぞれの都市でオフィスを利用できるようにするか、少なくともバランスをとるために何らかの手当の支給が行われるべきです」

しかし、Carson のチームでは、リモートの社員が仕事場を必要としておらず、望んでもいないのが現実です。「すべての人に平等な策を見つけるために、中央にいる同僚に出し惜しみするのは馬鹿げています。全員が同じ時間にオンラインでコミュニケーションできるリモートファーストのモデルを実施できさえすれば、どこで働くかはほとんど無意味です」

非同期の活動のためにデジタルツールを使う

より良いハイブリッドワークモデルのために、パンデミックから学んだデジタルツールによるコラボレーションの優れた部分を加えることを提案するのは Jim です。

「働く場所による体験の差を減らすためには、本質的な不均衡を解消することが鍵になります。重要なのは、すべてのチーム内の会話が最初から最後までデジタル技術を駆使してリモートから行われると仮定して準備することです。それにより、仕事の進め方や計画の再調整が必要になるかもしれません。また、コラボレーションを行う人々には、コンテンツへのアクセスやグループとの対話には常にデジタルツールを使うという心構えを持つことが求められます。これにより全員がより対等な立場になります」

コンサルタント会社 Baguette UX のディレクターで、UX デザイナーおよびトレーナーでもある Sophie Freiermuth は、対面とリモートのハイブリッドが最も難しい形式であると考えています。

「対面で参加している人たちは、リモートからの参加者に無意識のバイアスをかけてしまいます。例えば、即興の会話にリモートの参加者を巻き込むことを忘れてしまったり、リモートからのため息のような音声よりも、対面のちょっとした頷きのような体のしぐさを優先してしまうのです」

このバイアスを取り除くために、各自がカメラとマイク 1 台を使用するというポリシーを Sophie は提案しています。つまり会議室にいる複数の人が、1 台のカメラを共有しないということです。「私たちはボディランゲージや微妙な声の変化に敏感ですが、マイクやビデオ会議ツールはノイズ除去や帯域制限などを理由に、それらを常に捉えてはくれません」

「リモートワーカーを取り残さないために、全員が個別に接続するべきです。そうすれば誰もが発言でき、一部の人たちによる小集団の形成を避けられます」と、Magento の e コマースプラットーフォームを専門とする企業 GENE で働く Gary Lake は同意します。GENE はパンデミック以降、完全なハイブリッドへの移行を宣言しました。

Sophie は、マイクやカメラだけでなく、常にデジタルツールを使うべきだと言います。これは、ホワイトボードをカメラの前に置いて作業するのは止めようということです。誰もが参加できる Web ベースのワークスペースを使い、そこにペンで書きこむのです。これは完璧ではありませんしコストもかかりますが、ハイブリッドチームの助けになります。また、今後の改善も期待できます。

GENE の新しいワークフローにおいて、オンラインコラボレーションのためのデザインツールとホワイトボードツールは既に欠かせないものになっています。とはいえ、常に通知を受けとったり、(ビデオ)会議の疲れを避けることも重要だと Gary は指摘します。「以前のミーティングは PC 画面から離れる時間でしたが、今やこれまで以上に我々を画面に縛りつける存在になっています。そのためチームに対しては、歩きながら話す試みを奨励したり、可能な限り 25 分や 50 分程度の素早いミーティングで済ませるよう伝えています」

Sophie 達は時差やチームメンバーの個人的な都合に対応するために、非同期な活動の積極採用を検討しています。「午後になってから仕事を始めたばかりの人に明晰さを求めてはいけません。アイデア、思考したこと、見つけた理論などを各自の都合の良い時間に共有してもらいましょう。そして、4 時間のワークショップは 1 週間くらいの長い期間に伸ばします。そうすれば、会議室で最も給料の高い人の意見に影響されるという古典的なバイアス無しに、さまざまなアイデアを得られます。また、途中で会議室に入ってきて、それまでの議論を無視して実現困難な意見を述べ、問題の解決を手伝うことなく帰ってしまう人に出会うこともありません」

非同期のワークショップは、課題の専門家による創造的で独創的なアイデアや洞察を発掘するのに役立ちます。

ハイブリッドなクリエイティブワークのためのワークフロー

体験型アーティストでクリエイティブスタジオ Stimulated-Incの創立者である Robb Wagner によると、ハイブリッドチームを率いるには、表面的には直感に反するように見える発想の転換が必要です。Robb が 10 年を費やして磨きをかけ、現在その一部が事前公開されている『The Hybrid Creative Playbook』に収められているその働き方には、「リモートのデザイナーに決して仕事を割り振らない」といった項目が含まれています。

「その代わりに、最終成果物を小さなデジタルアセットの詳細な目録に分割するシステムを設計しました。分割されたアセットが作成されるべきものです」と Robb は説明します。「リモートのデザイナー達はこのシステムを使って概要を確認し、作成したいアセットを伝えてきます。このプロセスを導入した結果、より良い仕事ができるようになりました」

Robb はまた、ハイブリッドチームのために、アセット、リンク、情報、コミュニケーションを自動化するワークフローを構築し、反復作業の排除やプロジェクト管理の手間を削減することで生産性を向上させました。それに加えて、リモートのアーティスト達が文面による指示に従えるかどうかをチームで確認しています。

「輝きを放つポートフォリオに感心するのは簡単ですが、それは失敗のおぜん立てをしているようなものです。我々は苦い経験からこれを学びました。社内のチームは、リモートのデザイナーの間違った仕事への対応に苦しめられていました。リモートのデザイナーとの仕事では、多くの接触を持つことができません。そのため、文面による指示の質が重要になります」

Robb のチームは、ワークフローをより効率的にするために、リモートのデザイナー向けの FAQ 集の作成にも時間を割いています。「社内チームは抜けがなくなるまで交代で内容を追加し、リモートからの質問を可能な限り防いでいます」

ハイブリッドワークに最適化された物理的スペース

パンデミック以降、企業は遠隔地の人々の雇用を以前よりも受け入れるようになり、新しいワークフローの実験的な導入にも取り組みました。それによりチームメンバーは柔軟性を与えられ、オフィスの外で仕事をするかどうかを選択できるようになりました。Dropbox は自社のモデルをバーチャルファーストと呼んでいます。すべてのスタッフにとってリモートワークこそが主となる体験であるという考え方です。

Dropbox のデザイン担当バイスプレジデントの Alastair Simpson は次のように説明します。「私たちはハイブリッドという働き方に不安を感じていました。2 つの全く異なる社員の体験を同時に存在させることになれば、成績評価やキャリアパスに疎外や不公平などの問題を引き起こす可能性があります。それは、私たちが避けたいことでした。世界中のすべての社員に均等な機会をつくり出し、それを維持できる機会を見出そうとしているのがバーチャルファーストの取り組みです」

しかし、それでも Dropbox は、対面の作業が非常に重要であると考えており、オフィスを「スタジオ」として再構築しています。

「創造性を刺激し、コミュニティを構築し、企業文化を維持するために不可欠なチームコラボレーションおよび人のつながりをより良く保つ体験が実現できるように、私たちはこの数か月間、物理的な空間の最適化を行ってきました」と Alastair は語ります。「スタジオの使用は、有意義なコラボレーションの時間のために確保されています。個人作業での使用は意図していません」

Dropbox は、生産的で柔軟で健康的なワークスタイルをサポートするため、オープンなコラボレーションの空間を拡大した

Dropbox はこれがすべての企業にとって向き合わなければならない未知の領域であることを認識し、透明性を持って学ぶという考え方で取り組んでいます。社員アンケートやフィードバックは、戦略を見直して進化させるために利用されています。「私たちは社員に、リモートで働き、時間の使い方を選べる自由があると感じてほしいのです」と Alastair は指摘します。「ですが、リモートだけの働き方では提供できない、人のつながりのための特別で意図的に準備された場所も提供したいと思っています」

すべてに合う解決策はない

新しい自由を手に入れ、通勤の必要がないことで、人々はより自然なリズムで生活でき、それは生産性にも良い影響を与えます。たとえば、GENE では、コアタイムに柔軟性を持たせることが、良い妥協点となることを見つけました。このポリシーの元では、早起きの人もそうでない人も、最も生産性の高い時間帯を活用できるようになります。

「状況がマネージャーからの権限委譲を求めたのです」と Gary は説明します。「企業の誰もが自身の仕事に対してより責任を持とうと努力しています。チームのメンバーは、与えられた仕事に対してより関心と信頼を感じており、仕事の成果の質と量は全体的に向上しています」

個々の企業や組織が自身とその環境に最適な実践方法を見つけ出す必要がありますが、ハイブリッドなチームでの仕事は大きな見返りがあり、時間の経過とともによりスムーズに働けるようになります。Sophie が指摘するように、ハイブリッドモデルは優れたマネジメントを可能にします。

「ハイブリッドモデルは、毎時間在席者を数えることを目的とするものではありません。そうではなくて、良い仕事、良い管理、良いコラボレーションがどのようなかを明らかにすることにみんなを集中させてくれるものです」

この記事は New Best Practices for Leading Hybrid Creative Teams(著者: Oliver Lindberg)の抄訳です