アドビ、パートナー企業・団体と協力してデジタルの力で災害復興を支援する「希望の写真復活プロジェクト」を実施
アドビは、天災によって失われかけた大切な写真をデジタル技術で復活させる災害復興支援活動「希望の写真復活プロジェクト」を実施しました。
このプロジェクトは、令和元年に発生した東日本台風の被災地である長野県で汚損してしまった被災者の大切な写真を復活させるために、2020年7月から正式に始動しました。活動趣旨に賛同いただいた企業・団体がプロ・ボノ(専門スキルを生かしたボランティア活動)として参画し、スキャン、Adobe Photoshopを使用したレタッチ、写真データ出力などの専門的な技術・機材の提供を行いました。修復された写真は2021年秋から順次、被災者のもとにお戻ししています。
今回は、「希望の写真復活プロジェクト」に賛同いただいた企業・団体の思いや活動、および、実際に修復された写真とご依頼頂いた方の声を紹介します。
■ご賛同いただいた企業・団体とプロジェクト推進体制
本プロジェクトでは、以下の企業・団体から賛同いただき、活動を行いました。
社会福祉法人 長野県社会福祉協議会(被災された方との連絡・調整等)
株式会社PFU(スキャナー提供)
こびとのくつ株式会社(レタッチ)
株式会社 博報堂プロダクツ フォトクリエイティブ事業本部 REMBRANDT(レタッチ)
ノーリツプレシジョン株式会社(写真データ出力)
■長野県社会福祉協議会としての取り組み、プロジェクトの意義
被災地に関わる内外の支援団体の調整を行う長野県社会福祉協議会では、被災者の方と写真の受け渡しを行う窓口の役割を担いました。本プロジェクトへの思いや、成果についてうかがいました。
「被災してしまった写真は時間が経過すると泥やバクテリア等によって劣化が進み、洗浄が難しくなります。また、写真の汚損は一枚一枚の状態が違うため、早く洗浄できる写真もあれば、時間をかけなければ洗浄できない写真もあります。さらに、大規模な災害になるほど被災写真の枚数が増えてしまい、洗浄をはじめるまでに時間がかかります。そのような事情から、被災者の大切な写真の劣化を防ぐことが非常に難しいです。
しかし、スキャンしデータ化することで写真の“今”を残せるこのプロジェクトには大きな可能性を感じます。また、新型コロナウイルスの影響や被災地まで遠方のため、何かしたいが被災地支援をあきらめてしまう方はたくさんいます。距離や時間に制約のないこの取り組みはそういった方の気持ちをつなぐことができ、写真の修復を通じて市民活動の振興に寄与すると思います。長野からはこのプロジェクトへ47家族93枚分の写真を依頼しました。順次被災者へお渡しさせていただいております。
アドビは写真編集ツールを提供している会社ということは知っていましたので、どこまで復活できるのか楽しみでした。はじめて依頼した写真が戻ってきたときは期待以上で感動しました。汚損によって滲んでしまった部分や消えた部分はあきらめてしまいますが、周りの色や他の写真から推理して加工しているとお聞きし、技術の高さに驚きました。被災者からも『こんなにきれいに直るんだ』『あの時の思い出が蘇るよ、ありがとう』といったお言葉をいただきます。この技術は、被災者の大切な写真を復活させるとともに『明日も頑張っていこう』という被災者の心の活力になっていると感じました。」
■オリジナルの写真をスキャンしてデータ化
被災者から依頼を受けた写真は、スキャンしてデータ化してレタッチ作業にあたります。スキャン作業は、株式会社PFUより提供いただいたScanSnapを使ってボランティアの方々が行いました。
プロジェクトに賛同いただいた経緯について株式会社PFU ドキュメントイメージング事業本部 スキャナー事業部の山口篤氏にうかがいました。
「2019年に発生した台風19号では、洪水災害など多くの被害がありました。災害により、想い出の写真が破損してしまっており、破損した写真の中にはまだ写真立・フレーム内に固定されたままの状態のものが多数あると伺いました。非接触のスキャナーであるScanSnap SV600は、写真のみならず、フレームの状態のままでもスキャンできるという特性を生かして利用できるということで、賛同いたしました。被災写真のデータ化は、被災者の方々の心の復興支援における一助となると考えており、これからもPFUはこのような活動を支援してまいります。」
■写真を修復するレタッチ作業
スキャンされた被災者の写真データを元にレタッチ作業にあたったのは、画像加工処理、グラフィックデザインなどを専門とする、こびとのくつ株式会社、株式会社 博報堂プロダクツ フォトクリエイティブ事業本部 REMBRANDTの2社です。
ご賛同いただいた経緯について、以下のようにお話いただきました。
「自分自身が宮城県出身であり、東日本大震災の時は塩釜・石巻にボランティアで参加した経験から、被災後の生活基盤や有形無形の財産の喪失がもたらす影響の大きさを身をもって体験していました。今回アドビから企画説明を受けた際、その当時の記憶が鮮明に蘇り、被災者の方の大切な財産『思い出』を修復するお手伝いができればと思い、全社員の協力も得て参加させていただきました。」(こびとのくつ株式会社 代表取締役 工藤美樹氏)
「自分達が持っている技術や知識を仕事だけでは無く、人の役に立てるというチャンスを頂けたので、REMBRANDT(レンブラント/レタッチャー部署)に参加者を募ったところ、全員が二つ返事で賛同してくれました。」(株式会社 博報堂プロダクツ フォトクリエイティブ事業本部 REMBRANDT)
データの汚損部分をAdobe Photoshopを使ってレタッチで修正する作業には、短いもので数時間、長いもので1〜3日間程度かかったそうです。作業方針や気をつけたこと、印象に残ったことをうかがいました。
「なるべくオリジナルに忠実に、勝手な解釈を加えず、絵画の修復のような慎重さで修復するよう心がけています。欠損部分の修復がなされることは重要ですが、無理な修正や勝手な解釈での画像補完はしないようにしました。
修復作業を通じて、被災された方のその当時の背景や思いなどに自分自身の思い出を重ねていました。通常われわれの技術は、広告という企業の利益獲得の目的で使用されることが多いですが、今回のようなボランティアのための技術による貢献という貴重な機会を通じて、技術進化の重要な使命に気付かされたように思います。こういった技術者の活動が今後さらに認知・評価されることで、実際的な社会への技術貢献と改善に役立つように思います。」(こびとのくつ株式会社 代表取締役 工藤美樹氏)
「Photoshopを用いて、色褪せたところは色調補正で、水に濡れてぼやけたところはシャープに、歪んでしまったところを変形ツールで修復しています。修復作業によって綺麗になった写真が御依頼者様の手元に戻った時の喜ぶ顔を想像して、レタッチャー一人一人が丹念に慎重に修復作業にあたりました。
大量の写真修復にあたり、個人では限度があると思い、REMBRANDTの仲間に話を持ちかけたところ、力になりたいと、全員が参加してくれたことがとても心強く、本当に嬉しく思いました。
修復依頼の写真は一枚一枚に、家族の大切な想い出や感情が込められていているのを肌で感じました。学校の集合写真、七五三の写真、結婚式の写真、お参りした時の写真、家を建てた時の写真など、ジャンルはそれぞれ異なりますが、一枚しかないその写真に対する想いは特別かと思います。普段の広告制作の仕事以外で、自分達の技術が、人の役に立てることに喜びを感じ、Adobe Photoshopの凄さを再確認することもできました。」(株式会社 博報堂プロダクツ フォトクリエイティブ事業本部 REMBRANDT)
■レタッチ完了したデータをプリント
レタッチ完了したデータは、プリントして依頼者にお返しします。プリントを担当したノーリツプレシジョン株式会社の管理部 総務課/コーポレート室 近藤洋臣氏に、ご賛同いただいた経緯や印象に残ったことをうかがいました。
「本プロジェクトの思いに共感し、被災者の心の復興を目指して、思い出の詰まった被災写真をきれいにしてお届けする活動のお手伝いが少しでもできるのであれば、という思いから賛同しました。
修復される前の写真画像と修復された後の写真画像の両方を見比べられる機会があり、高い修復技術に感心させられたことも勿論のことですが、時間をかけて丁寧に修復されたことが感じられ、失われかけた大切な1枚を見事に復活されていたことに、とても感心しました。
当社としても普段の写真出力の時よりも、待っている方のことを強く意識できて良かったですし、諦めざるを得ないと思っていた1枚が綺麗になって甦り、手元に届くと思うと、いつも以上に丁寧に写真出力作業を行うことができました。また、修復されたプリントも皆様に喜んでいただいているという声をお聞きし、このプロジェクトに参加させていただいて良かったと思うとともに、あらためて写真の力というものを感じました。」
■修正前後の写真の紹介と持ち主の声
そしてこちらが被災した写真と修復した写真です。
左:修復前の写真 右:修復後の写真
この写真をご依頼いただいたのは、長野市にお住まいの落合道雄さん。長野県社会福祉協議会の方がお話を聞いてきてくれました。
お写真について説明する落合道雄さん
依頼した2枚の写真は、現在お住まいの家を建てたときの竣工式の写真と工事をした建築会社に招かれたバーベキューの写真です。バーベキューではビンゴで1等賞を当てて、自転車をもらったそう。娘さんはキックボードを当てていたとのことです。また、写真にはお孫さんが映っており、そのお孫さんが結婚されるとのこと。
写真が汚損したときは、「うわー、もうどうしようもない。これは破棄するしかないかなぁ」と濡れてしまったアルバムを見て絶望し、破棄しようと思ったとのこと。家の中が凄惨な状態で、家具も含め復旧よりも廃棄を優先していたとのことです。写真の洗浄や修復ができるとは思っていなかったそうですが、水損したアルバムは何となく残しておいたそうです。
修復された写真の印象や、本プロジェクトについて、次のようにお話いただきました。
「こんなにきれいになるとは思ってなかったので驚きました。きれいにしていただいたおかげであの時の記憶が蘇えります。社会福祉協議会の方から、濡れて滲んでしまい原型がわからないところは、他の写真や周りの色や様子から推理して描いてくださっていると聞き、そんなすごい技術を持った方がいるんだと感心しました。また、県外各地で作業していただいているそうで、遠くでも長沼を思って活動してくださる方がいて本当にうれしいです。いくら感謝しても足りないです。」
■その他の修復された写真(一例)
左:修復前の写真 右:修復後の写真
■デジタルの力で、感動や喜びを創造する支援活動
本プロジェクトを起案したアドビ株式会社 デジタライゼーションマーケティング本部 本部長の小池 晴子は、次のようにコメントしています。
「このプロジェクトにより、令和元年東日本台風で被災された方々の大切なお写真の復活に、限られた数ではありますが貢献できたことを光栄に思っております。ハレの日の思い出の1枚、亡くなった方を忍ぶ1枚、離れて住む家族の絆を思う1枚など、誰しも大切な写真があるものと思います。自然災害により失われかけた写真を、最新のデジタル技術を使い、かつフルリモートで協力各社が連携して復活にあたるという新しい挑戦のプロジェクトでしたが、ご協力くださった各社様のおかげで一定の成果とともに区切りを迎えることができました。生まれ変わった写真が希望の灯となることを願っております。」