【事例】三鷹中等教育学校のメディアラボ活用~いつでも使えるハイスペックな環境で生徒のクリエイティビティが解放される〜

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東京都立三鷹中等教育学校では、2021年にアドビとインテルの合同で実証研究のためにメディアラボが設置され、ハイスペックのPCと4K対応の液晶ディスプレイとともにアドビのツールが活用されています。この秋、同校の文化祭がオンライン開催となった際にもAdobe Premiere Proでの動画編集がさかんに行われました。メディアラボを管理する情報科教諭の能城茂雄先生と、動画編集をよく活用するという生徒さんにお話を聞きました。

短期間で準備を整えたオンライン文化祭

東京都立の中高一貫校である三鷹中等教育学校では、例年「鷹校祭」と呼ばれる工夫を凝らした文化祭が開催されていますが、2020年度はコロナ禍で中止、2021年度はオンライン開催となりました。クラスや部活等の単位で行われる発表は全て動画にまとめ、在校生と保護者限定で公開されるというスタイルに決まりましたが、9月末の開催日まで時間に余裕はなく、3週間程度で動画を制作しなければなりませんでした。

動画を撮影することはできても編集となると誰でもすぐにできるというわけではありません。そこで得意な生徒が中心となって、メディアラボがフル活用されました。5年生(高校2年生)の加藤壮真さん、齋藤一樹さんは、動画編集に積極的に取り組んだメンバーで、加藤さんは様々な出展団体の動画編集を代行したりメディアラボに集まる他の生徒に使い方を教えたりして動画制作現場を盛り上げ、齋藤さんは主に自分のクラスの発表動画の編集を担当しました。

齋藤_さん(左)と加藤さん(右)。コンピューター室の一角にあるメディアラボで_

見せることで動画編集の苦労が吹き飛ぶ

ふたりのクラスの出し物は、ユーチューバー風の動画と決定しました。企画や撮影等は通常通りクラス全体で進めますが、編集は主に齋藤さんに任されました。いろいろな人が撮影した動画を素材として集め構成を考えて編集して仕上げたのは20分程の動画。編集は日々地道な作業を進める必要があり大変でしたが、クラス内の試写会で笑いや歓声が起きたりする様子を見て、「やってよかったな」と報われた気持ちになったそうです。

加藤さんは、もともと動画編集に興味があり経験を重ねてきたこともあり、動画を編集できるメンバーがいない団体の動画編集を複数引き受けました。クオリティにもこだわり10以上は制作を担当したということなのでまるでクリエイターのようです。放課後、コンピューター室に入ってすぐの場所にあるメディアラボで作業をしていると動画編集をしたい生徒が集まってくるので自然と教え合いが生まれます。生徒会長も務める加藤さんは、編集できる人を増やそうと積極的に声をかけたそうです。

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「鷹校祭」の際に限定的に公開された専用ウェブページ。複数の発表動画が並んだ

加藤さんが制作を担当した中には後夜祭用のバンド演奏もあり、演奏した6年生(高校3年生)にとっては最後の文化祭でした。「いい思い出にしてくれてありがとう」と感謝の言葉をかけられたことが印象に残っています。「ただ編集をしてくれてありがとうというより、もうちょっと先に行けた感じがしたので、うれしさが増しました」と加藤さん。文化祭をリアルに開催できなかったことはもちろん残念でしたが、クオリティの高い動画として仕上げたことで、文化祭中だけでなくその後もいろいろな人に見せることができるなど、動画として「残る」ことの価値の大きさに気づきました。

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加藤さんが編集した動画のシーンから

ハイスペックな環境を制限なく使えるメリット

情報科の能城先生は、「道具だから自由に使って欲しい」というスタンスで、メディアラボのあるコンピューター室を常に解放しています。加藤さんは「この部屋がずっと開いているというのは本当に大きいです」と気軽にいつでも使えることのメリットを感じています。また、撮影機材も高品質のものを備えて貸し出していて、生徒の手の届くところに当たり前に質の高いツールがあるという環境が実現しています。

同校は1人1台のPCもコンピューター室のPCも活用していますが、かつての個人配布PCは低スペックのものでした。加藤さんは、メディアラボではPremiere Proなどのマシンパワーが必要なアプリがスムーズに動き文書作成アプリなどは存在すら感じない軽快さであることに驚いたそうです。「衝撃的でした。自分のやりたいことがストレスフリーにできるっていうのはすごいですね」。加藤さんはメディアラボ開設当時にアドビが行った動画講座に参加して以降、自分で習得を進めて現在はPremiere Proを使いこなしています。

齋藤さんは動画編集で使用しているPremiere Proについて「無料で使えるアプリよりも圧倒的にできることが多い」と感じています。また、個人で動画編集をやりたいと思っても「最初は無料のものじゃないと手が届かない」ため、学校でアドビのアプリを利用できることの価値を感じています。齋藤さんは当時動画講座には参加していませんでしたが、学校のメディアラボで加藤さんから教えてもらったり、自分で調べたりしながら動画編集を習得中です。

個人の興味と学校での活動が相乗効果で伸びる

ふたりとも学校のメディアラボで大きく世界が広がったわけですが、家庭でのPCとの関係も変化しています。もともと、加藤さんはカメラへの興味から、齋藤さんはゲームへの興味から、それぞれ動画編集に興味を持ちました。加藤さんは、メディアラボで制作した動画作品を家庭で見せるうちに、保護者からの理解がますます深まり応援を受け、希望するスペックのPCを購入してもらったそうです。知人のミュージックビデオの制作など個人での活躍の場を広げています。

また、齋藤さんはもともとゲームのためにPCを購入してもらった経緯がありましたが、現在ではプレイ動画の編集などにも挑戦しています。最初はゲームばかりしていて注意されることもあり「ゲームは自分だけの娯楽で、世間に認められるようなことでもなく罪悪感みたいなものを感じていた」といいますが、編集をすることで、例えばプレイ動画を見た誰かに影響を与えられるかもしれないというポジティブなイメージを持つようになりました。家族の見方も変わり応援してくれているのを感じています。

能城先生は、「やっぱり親御さんはコンピューター、イコール、ゲームの道具というイメージを持っている世代です。もちろんゲームもするけれど、これはクリエイティブツールであって自分たちが思い描いたものとかやりたいことが具現化できるツールなんだ、ということを見せると変わりますよね」と話します。現在メディアラボの利用者を中心に適宜アドビのIDを配布しているので、生徒はクラウドでデータを管理し、家庭のPC環境とシームレスにアドビのツールを利用して自在に作業を継続することができます。

加藤さんは、若い世代には「そもそも大人は結構ストップをかけるよね、という固定観念がある」ので、いい環境があっても面倒そうに思えて気軽に使わない傾向があると感じています。こうした環境を有効なものにするには若い世代が発想を変えるだけでなく、「大人の世代も、もうちょっと自由度の高い感じにしていくと、双方でいい方向に持っていけるのかなと思います」と話してくれました。制限のない環境は、子どもたちのクリエイティビティを引き出す上で大切なポイントとなりそうです。

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メディアラボを管理する情報科教諭の能城茂雄先生

同校では、2022年度からメディアラボの利用者に限らずすべての生徒がアドビのアカウントを取得できる体制を整えています。生徒たちの間にクリエイティブツールが浸透し、さまざまな活動が生まれることが楽しみです。