Nelnal「“何でも描ける”感動があるAdobe Fresco」Adobe Fresco Creative Relay 23
アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートにハッシュタグをつけて投稿するだけです。
2月のテーマは「チョコレート」。2月にチョコレートといえば、まず真っ先に思いつくのはバレンタインデーではないでしょうか。贈る人を想いながらチョコレートを作るシーンや、手作りチョコを受け渡す緊張感あるシチュエーションを描くもよし、店頭に並ぶ色とりどり、細工もさまざまなチョコレートを描くもよし、チョコレートでほっと一息つく瞬間を描くもよし。みなさんが「チョコレート」の言葉から連想したイメージをAdobe Frescoで描き、 #AdobeFresco #チョコレート をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第23回は一度、目にしたら忘れられない、圧倒的な個性を放つキャラクターをポップに描くイラストレーター・Nelnalさんに登場いただきました。
魔法が失敗!鍋から飛び出すチョコレートモンスター!
「2月・チョコレートというテーマだったので、“魔女がチョコレートを作っていて大失敗……”というシーンを選びました。
ストーリーとしては、チョコを作っているのは黒猫の見習い魔女で、バレンタインに向けて理想のチョコレートを作ろうとしています。最初は魔法が成功してかわいいチョコレートができあがりそうでしたが、最後の仕上げの場面で魔法を間違えて、大失敗をしてしまいます。チョコレートはモンスターになって鍋から飛び出し、できあがっていたチョコレートまで四方八方に散らばって……というシチュエーションを描いています。普通のチョコレートイラストもいいなと思いましたが、ちょっと変わった遊びを入れてみました。
Adobe Frescoは、色が自然ににじむ水彩が強みと言われていますが、今回はそういった印象とは違う、ベクターブラシメインでポップな感じで仕上げました。描いていてとても楽しかったです!」
いまもキャラクターデザインに活きる有名作品のキャラクター募集企画
Nelnalさんはいま、アニメーションのプリプロダクションやゲーム制作を行なう会社に勤めながら、個人でもイラストレーターとして活動をしています。
仕事でもプライベートワークでも、描くものは個性際立つキャラクターたち。そうしたイラストを描くようになったのはなぜなのでしょうか。子ども時代を振り返ってお話しいただきました。
「いまの会社に入る前はゲーム業界にいたのですが、昔から画面の中でいろいろなキャラクターが生きているように動き回る光景を見て、その技術と表現にとても感銘を受けていました。任天堂のマリオ関連の作品が特に好きで、Nintendo 64を姉弟とよく飽きないなというくらい長い間遊んでいた記憶があります。
幼いころ、周囲の同級生はハローキティ、ミッフィー、アイドル、子供ブランドといわゆる“女の子らしいもの”に大盛り上がりをするなか、私ひとりだけ趣味趣向が男子寄りでかなり浮いていました(笑)。特にマリオに出てくる敵のキャラクターが好きで同級生の男子と誰が一番上手に描けるか競争したりしていましたが、今でも唯一無二の凄いデザインばかりだなと感じています。かわいいですよね」
Nelnalさんがマリオにはまったのはゲームだけでなく、そのキャラクターを含めた世界観。そうした想いは徐々に“こういうキャラクターを描きたい”という気持ちに変わっていきます。
「私の家は祖母も母も絵を描く人で、小さなころに“絵を描いて”とお願いすると、母がすごく上手に描いてくれた思い出があります。そうした母の影響を受けたのか、気がついたらプリント用紙を2枚折りにしてホチキスで留めた簡素な絵本を作っていたり、落書きをしたり、読書感想画コンクールに出す作品を描いたりと絵を描くようになっていました。私の姉もイラストレーターとして働いていますが、姉妹揃ってこの職に就いたのはそういう環境で育ったからかもしれません」
中学を卒業し、高校に進むと、Nelnalさんの興味はマリオ以外にも広がっていきました。
「高校のとき、『ケロロ軍曹』にどハマりしていました。
登場キャラクターの中にケロン人という宇宙人がいるのですが、シンプルでありながら多種多様な個性的なデザインがかわいくて、かわいくて。当時幼児向けに発行されていた『ケロロランド』の新隊員募集企画という、読者がケロン人のデザインを考え、採用されると作者さんに描いていただけるというすごい企画があり、かなりの量のハガキを送りました。当時高校生だった自分が幼児向けの冊子の企画に夢中になっていた(笑)。何度も送って、そのうちの1人がアニメキャラクターとして登場したこともありました」
この“あたらしいケロン人を創作する”という作業は、Nelnalさんがキャラクターをデザインするうえで大きな経験になったと振り返ります。
「無駄なことって本当にないなと思います。物を疑似的に表現するヒントをここで多く獲得しました。たとえるとティーポットを擬人化したキャラクターを考えようとした際に、人+ティーポット、同じシルエットに見える部分は何かという所に注目し、ティーポットの持ち手、ポニーテールに見えるからそれを使おうという考えかたです。これを二次創作をしているときによく活用していました。その“混ぜる”おもしろさがクセになり、二次創作では表現しきれない、元のよさがつぶれてしまうところまで発展したことがきっかけで、オリジナルの創作もするようになりました。
使わせていただいた素体(ケロン人)は非常にシンプルなため、ゴテゴテにすると違和感が出てしまうので、よりコンパクトに、無駄なパーツをつけずにデザインを作るということをひたすら考えていたことは今でも役立っています。最初に着けたいものをたくさんつけておいて、記憶に残りづらいパーツを削ぎ落としていく作業は、そのころから始まりました」
要素を足すより、削ぎ落とすことでキャラクターの個性を強くする……Nelnalさんのキャラクターデザインの哲学はこうしてかたち作られていきました。
「マリオのキャラクターやポケモンのように、“もうこれ以上削ぎ落とすものはない”というかたちまで落とし込むことに憧れを持っています。
マリオもピカチュウもシンプルだけど一度見たら忘れられないビジュアルですし、“子どもでも覚えやすく、気軽に描けるシンプルさ”というところにデザインとしての魅力を感じています。原作のマンガやアニメを楽しみファンアートを描きながら、二次創作でパーツを極限まで減らしシンプルでわかりやすいデザインを作る楽しさを学ばせていただいたりと、ほかにもたくさんの作品で感銘を受けました」
シンプルでも力強いキャラクターデザインを目指すようになった背景には、マリオやケロロ以外に、海外のカートゥーンの影響も強いとNelnalさんは話します。
「物心がついたころから、実家でカートゥーンネットワークで海外アニメや人外キャラが主人公の作品を見ていました。どちらかというと、人間以外のキャラクターが好きで、それはいまでも変わっていませんね。自宅のゲーム棚を見ても『風のクロノア』『スパイロ』『ラチェット&クランク』……と大半が人外キャゲーです(笑)。なぜだかわかりませんが自然とそういうものに惹かれていったんだと思います」
高校卒業後、Nelnalさんはゲーム業界を目指すべく、専門学校に進学します。選んだコースはゲームカレッジでした。
「高校卒業の時期、進路について結構、周囲ともめてしまいまして。いろいろあり進学を断念せざるを得ませんでした。その後は学費をどうにか獲得するためにバイトをして、絵の仕事とゲームセンターのバイトと広告会社のバイトといろいろ働いていました。そのとき、グラフィック関連の就活も合間にしていましたが、絵の仕事の履歴はあっても就職未経験、高卒はあまりに厳しい現実を知りました。バイトで学費も貯まったことで両親にどれだけ本気だったかを伝えられて和解し、なんとか順風満帆な状況を作り、もともと目標だった専門学校へ行くことに成功しました。そこでいろいろな企業の方にもお会いすることができ、それきっかけで卒業後、念願のゲーム会社に就職することができました」
勤務先はスマホ向けにゲームアプリを配信する業界最大手。ここでNelnalさんはグラフィッカーとして採用されました。
「イラストレーターさんが描いたイラストをアイコンにしたり、素材にしたり、2Dアニメーションにしたり。UIを作ることもあれば、背景を描くこともありました。担当したゲームのグラフィックに関連する作業は一通り経験したと思います。私が関わらせていただいたゲームは学生のころ一番遊んでいたゲームだったので、自分の作ったものがそのゲームで動いたり、使われているのを見るのはやり圧巻でした。子供のころの夢が叶った瞬間だったんじゃないでしょうか。招いてくだっさったプロデューサーさんや開発に関わっていたスタッフの皆さんには本当に感謝しています。
ただ、夢が叶った一方で数年働いているうちに徐々に“自分で描きたいものが描けない”ということに精神的に違和感を感じるようにり、2016年くらいからその違和感の正体を発散するために、毎日キャラクターを描いてTwitterにアップするようになりました。それがきっかけで国内外問わずいろいろな方に見ていただけるきっかけになりました。生きていて、どこでどうなるか本当にわかりませんね」
SNSに投稿し始めたころに描いたキャラクター(2016)
毎日、キャラクターをデザインしてイラストをアップする……驚くほどのハイペースで描くことができたのはなぜなのでしょうか。そこにはNelnalさんならではの視点に秘密がありました。
「私の場合、普段はなにかの作品に影響されて描くというよりも、生活のなかで見聞きしたものからインスピレーションをいただいて作品にすることがほとんどです。たとえば、缶の飲み口が顔に見えたりすることってありますよね? ふとした造形が顔や体のパーツに見えたりするので、そこから着想を得ています。
とても些細な日常ですがトウモロコシを食べているとき、“ここが襟っぽいぞ”と思ったらキャラクターにしてみたいなとか、信号機のフードが帽子に見えたからキャラクターにしてみる……3D映画『ブルー・アンブレラ』のような視点ですね。カフェでぼーっとしているとき、窓の外の景色で、無機物が動いてる姿を想像するのが密かな楽しみです。人に言うと引かれるので内緒にしているんですけど(笑)」
この後、Nelnalさんはゲーム会社を退社。するとまさにNelnalさんが作り出すキャラクターの世界観を求めていた会社からオファーがあり、現在の会社へと転職をすることになりました。
「自分がやりたかったデザインに近い仕事をしながら、自分の創作も楽しむ。それが私にとっての理想形だったので、いまは非常にうれしい環境で働かせていただいています。新しく学ぶこともどんどん増えていきますし、とても刺激的です」
アミューズメント施設のポップ・キャラクターデザイン ©AkaiFusen Buildings
Eテレ「インセクトランド」キャラクターデザイン ©ARANCIONE/インセクトランド制作委員会
デジタルツールは高校時代から
現在はAdobe Photoshop、SAI等のアプリでイラストを描くNelnalさんですが、アナログからデジタルに切り替えたのは高校時代のことでした。
「私は4人姉弟でなかなか経済的に厳しいところがあったので、アナログだと画材になかなお金をかける余裕も学ぶ機会を作るのも難しく。そんななかでデジタルなら色の勉強も絵の勉強も画材を使わずにでき、一度揃えてしまえばあとはお金がかからないということで、ずっとデジタルイラストを描いていました。ペンタブレットを買って、SAIで描き始めました。とても安価でしたし、デジタルイラストに関してはSAIに育てていただいたようなものです」
Nelnalさんの作業環境
今回、Nelnalさんが使ったのは、Adobe Fresco Windows版。Photoshopとの違いにとまどうことはなかったのでしょうか。
「Photoshopで線を引く際は少し“滑らかさ”の数値を触りながら線を引くのですが、同じようにFrescoでも手ぶれ補正がついているので、非常に描きやすかったです。使っているブラシはすべてベクターなので、着色もとても早く作業ができました。
個人的にAdobe Frescoは水彩画や鉛筆の質感等、アナログに強い印象があったので、私のような画風でも大丈夫かなと心配していたのですが、実際に今回描いてみて、“何でも描けるんだな”と感動しました!」
Nelnalさんは現在、iPad Proを導入し、タブレットを使ったAdobe Frescoにもチャレンジしているそうです。
「どこでも絵を描けるソフトがほしいと思っていたので、iPadとAdobe Frescoのようなソフトがあるのは非常にありがたいです。iPadのAdobe Frescoで描いたイラストが、デスクトップのPhotoshopですぐに開けるのも便利です。
アニメーションも試してみたい機能で、これまでAdobe After Effectsで作っていたアニメーションが、Adobe Frescoで作れるようになったらいいですね」
オリジナリティにあふれるキャラクターを生み出し続けるNelnalさんが今後目指すものは何なのでしょうか。最後に聞きました。
「時間を作ってマンガを描きたいと思っています。ずっとオリジナルで『SOUL MONITOR』 というテレビ頭のキャラクターを描いているのですが、詳細がないままなので、SNSで“これは何?”と言われ続けていて。趣味と仕事のバランス調整がとてもシビアでずっと叶えられずにいました。少しずつ自分の作品に自信をつけて、積極的に発信できたらいいなと思っています。
いままでかなり波乱万丈な状況を経てここに立たせていただいていますが、少しずつ作品を見ていただける機会も増え、ありがたい気持ちでいっぱいです。
私自身、発展途上なので今後何か変わる点もあるかと思いますが、どんな状況に立たされていても、自分の好きなことに純粋に取りかかる気持ちはなにより必要なことだと思っています。自分が磨いた技術次第でいろいろなところにチャンスがあるこの時代に生きていることにも本当に感謝しています。今後投稿する作品を誰かに少しでも楽しんでいただけましたら幸いです」
Nelnal
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