アプリ開発で技術力と社会課題解決力を養う〜IT分野の女性リーダー育成を目指す産学連携コンソーシアム「WUSIC」

アドビが参画する「女子大学生ICT駆動ソーシャルイノベーションコンソーシアム(WUSIC:Women’s University students ICT-driven Social Innovation Consortium)」(以下WUSIC)は、産学共同でIT分野における女性育成を目指すコンソーシアムです。2021年2月に津田塾大学、日本女子大学、富士通株式会社、アシアル株式会社、富士通クラウドテクノロジーズ株式会社により設立され、その後複数の女子大学と企業の参画が続いています。WUSICの立ち上げメンバーである津田塾大学総合政策学部総合政策学科教授 曽根原登先生と日本女子大学理学部数物科学科教授 メディアセンター所長 長谷川治久先生、学生代表としてWUSICで活動している学生の皆さんにお話を聞きました。

女性リーダーの育成とICTリテラシーの向上を目指す

津田塾大の曽根原先生は、以前からスマートフォンアプリにサービスのプラットフォームとしての可能性を感じ、企業と共にアプリ開発の授業に取り組んできました。一方、日本女子大の長谷川先生は、学生が理論や技術だけでなく社会との接点を持ち具体的な提案力をつける場が必要だという思いを強めていました。こうした問題意識を背景に女子大学を中心とした産学連携のコンソーシアムWUSICが誕生しました。

WUSICの目的は、デジタル変革を担う女性リーダーの育成と、女子大学生のアプリ開発を通じたICTリテラシーの向上です。文系、理系を問わず社会課題を捉え、プログラミングやデータサイエンスなど技術的な理解に下支えされた地に足のついた提案力をつけることを重視しています。2021年の2月にはWUSICの立ち上げイベントとして、各大学のゼミ等で開発したアプリの発表・交流会を行い、8月には企業の協力も得てアプリの企画から実制作まで取り組む「アプリ開発ブートキャンプ」を開催しました。

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WUSICを設立した津田塾大学総合政策学部総合政策学科教授 曽根原登先生、日本女子大学理学部数物科学科教授 メディアセンター所長 長谷川治久先生

WUSICの学生代表を務める津田塾大学総合政策学部総合政策学科4年の市橋来夏さんは、曽根原先生のアプリ開発授業を受けたことがきっかけで、WUSICの立ち上げ時から運営に携わってきました。同じく学生代表の日本女子大学大学院理学研究科数理・物性構造科学専攻 修士1年の大井鞠奈さんはWUSICの活動を通じて実際のアプリ開発を経験し、自身の研究テーマにも生かしています。

津田塾大学の市橋来夏さんと日本女子大学大学院の大井鞠奈さん

自分の適性や作る面白さを知る機会に

市橋さんは大学入学当初は情報系を学ぼうと思っていたわけではありませんでしたが、アプリ開発を通じて、自分が書いたプログラムが動くことやデータのやり取りの仕組みなどに面白さを感じるようになります。WUSICの活動で理系の学生と交流してバックグラウンドや視点の違いに刺激を受けることもありました。自分の適性に気づいたことは、就職先を選ぶ際の指標のひとつとなり、卒業後はデータ分析も扱うコンサルティング業界に進みます。

一方大井さんは、もともと情報系に興味がありましたが、 WUSICの活動を通じてアプリ開発を学び、卒業研究時に初めてアプリ作成をしました。「目に見えて何かを作っている感覚があることがとても面白いと感じました」と振り返ります。大井さんによると理系の学生で数学や物理を学んでいてもプログラミングにはとっつきにくさを感じていることが多いのだそうです。作る楽しさを経験することが、プログラミングに興味を持ってもらうきっかけになるのではないかと考えています。

WUSICのアプリ開発ブートキャンプ(2019年)の様子

女子大学で学ぶ二人は、現在女性としての壁を感じることはあまり無いということですが、IT業界に女性の働き手が少ない現状については、課題を感じています。「エンジニアと聞くと男性を思い浮かべがちで女性のロールモデルを見つけづらく、女性には向いていないと感じてしまうという連鎖が起きています。WUSICでもやっているように、就職の前の段階で選択肢を広げて示すことが大事なのではないかと思います」と市橋さん。自身も社会人としてのキャリアプランやライフプランへの漠然とした不安はありますが、WUSICの活動で企業の担当者と話す機会が多く、働き方や仕事内容を知ることがインスピレーションとなり軽減されたそうです。

アプリ開発の経験が理論を越えた力に

長谷川先生は、情報科学を学ぶ学生には、プログラム自体に興味を持って極めていくタイプと、技術をどう生かすのかという意義を求めるタイプとがいると見ています。「授業のカリキュラムではどうしても学ぶ内容や目的が固定的になりがちです。社会にどうやって生かすのかというところまでもう一歩深く考え、そのためにどのような技術が必要か検討するという学びは、授業の中だけではやりきれないところがあります」と話し、そうした機会をWUSICで実現したいと考えています。さらに今後、何かを提案するときには具体的に動くものを見せられる力が重要になると予測し、アプリ開発を経験するWUSICの活動に期待を寄せます。

曽根原先生は「何が望まれているかという社会の要請を分析して、自ら進んで問題を解くような場が必要ですね」とWUSICの存在意義を語り、社会課題への意識と技術力のバランスに注目します。「社会の問題解決をするには技術もわかっていなければいけないし、アンテナも高くなければいけません。具体的に実行可能な形で問題解決をするには、手を動かして苦労しないとわからないことも多いと感じています」と、アプリ開発がそれらをバランスよく経験することになる可能性を示唆しました。

WUSICのアプリ開発ブートキャンプ(2021年)の様子

学生の二人とってWUSICでの経験は、授業だけでは得られない大きな力になっています。大井さんは、自らをまさに“意義を求めるタイプ”だと分析。アプリ開発の経験は現在研究している服装コーディネートシステムにも役立っています。市橋さんは、視野が広がり、自分で頑張るだけではなくチームで動く“巻き込み力”がついたと実感しています。アプリ開発を通じてエラー耐性がついたことも、仕事をしていく上で大いに役立ちそうです。

デザインはサービス開発の大切な一部

アドビはWUSICが8月に開催したアプリ開発ブートキャンプでデザインのフェーズをサポートしました。曽根原先生は、それまでサービスを開発におけるデザインの部分の学びが抜け落ちていたと感じていたので、とても良い機会になったと評価します。長谷川先生は、論理的な文章や数字だけでなく、デザインが何かを伝える手段や仕掛けになることに改めて注目していて、「ツールの使い方よりも、どうしたら伝わるのかという部分を学ぶ機会にできたらうれしいですね」と期待を寄せました。

市橋さんと大井さんは、デザインに興味を持つ女子学生は多いのではないかと予測。デザインを入り口に技術面に興味を持ったり、デザインを知ることで作る楽しさを感じられる可能性があり、WUSICの活動に気軽に参加してもらうきっかけになればと考えています。

全体を通して、WUSICが大学の垣根や専門領域の壁を越えた交流と、力強い実践力をつける場となり、参加した学生たちのチャンスを大きく広げていることが伝わってきました。大学のアカデミックな教育力と企業の持つノウハウや実践力がつながるコンソーシアムの可能性を感じさせられます。