potg「Adobe Frescoはアナログの楽しさ+デジタルの便利さがある絵描きに“都合のいい”ツール」Adobe Fresco Creative Relay 24

potgさんインタビュー

アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートにハッシュタグをつけて投稿するだけです。
3月のテーマは「お花見」。日本の春といえば、桜、お花見をイメージする人は多いのではないでしょうか。桜の木の下で楽しくお花見する様子や桜並木、桜の花びら舞う景色……みなさんが「お花見」の言葉から連想するイメージをAdobe Frescoで描き、 #AdobeFresco #お花見 をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第24回は多彩な表現力で、圧倒的な世界観を描き出すイラストレーター・potg(ぴおてぐ)さんに登場いただきました。

咲き誇る桜の木のもと、微笑むワンピースの女の子

potgさんの作品

「麗らか」(2022)

今回、potgさんが描いたのは満開の桜とワンピースの女の子。枝の隙間から差し込む日差しを避けるようにやさしく微笑みかけています。「女の子」「ワンピース」「花」……この絵にはpotgさんが“描きたい”と思える、すべてが凝縮されています。

「常にあたらしい描きかた、表現方法を模索しているので、作風は常に変化しているのですが、描きたいものはわりと一貫しているんです。ワンピースの女の子を描きたいとか、花を描きたいとか」

イラストレーターの多くが自分だけのスタイル、描きかたを追求するなかで、potgさんはいまなお自らを型にはめることなく進化を続けています。

「自分の画力に全然納得がいかなくて、本当にいろいろな方法を試してきました。好きなイラストレーターさんの描きかたをかじりつくように研究したり、Twitterのタイムラインに流れてきたイラストでいいなと思えるものを見て、“どう描いているんどうだろう?”と考えてみたり、友だちにおすすめのイラストレーターさんを聞いてみたり。
いろいろな絵を研究して表現の引き出しを増やしていくうちに、そのとき描いた絵ではうまくいかなかった表現が、別の絵なら使えるという経験が何度もあって。無駄なことは一切ないんだ、と実感しています。
なかでも、REDUMさんは人生で間違いなく、一番影響を受けた作家さんです。いまでも大好きで、パソコンの側にはいつも画集を置いています」

事実、pixivやTwitterでpotgさんの絵を遡って見ていくと、その一枚一枚に挑戦の痕跡が残っていることがわかるでしょう。

「たった一年でも、自分でもびっくりするほど描きかたが変わっていて。“こんな描きかた、してたっけ?”と思うくらいです(笑)」

potgさんの作品

左:「花」(2022)/右:「ばいばい夏」(2021)

“絵は自分にとって一番大事なツールだった”

2022年3月現在、Twitterでのをフォロワー数は13.8万人。これほど多くのファンを獲得しているpotgさんですが、一年前のフォロワーは5000人ほどだったそうです。幼少期から絵を描き続けるなかで、考えかた、表現方法にどのような変化があったのか。これまでを振り返ってもらいました。

「子どもの頃は絵を描くのも好きでしたし、外で遊ぶのも好きでした。体操教室や水泳教室にも通っていて、少なくとも家にこもってずっと絵を描くというようなタイプではありませんでしたね。
中学校くらいからは絵ばかりを描くようになって、色鉛筆や水彩、コピックのようないろいろな画材を試すようになりました。お年玉をもらうとすぐに画材屋さんに連れていってもらって画材を買っていたので、お年玉はいつもあっという間に消えちゃうんです」

絵とpotgさんの関わりについてはもうひとつ、興味深いエピソードがあります。

「家に飾ってある一番古い絵は4歳のころに描いたものなのですが、これを描いたときのことはいまでもよく覚えています。母には心配をかけてしまい本当に申し訳なかったのですが、わたしは3歳、4歳になっても全然喋らなかったようで、心配した母親と検査を受けに行ったときに描いたものです。
わたしが喋らなかったのは、単純に言葉を話すより絵を描くほうが好きだったし、自分にとって大事なことだったからなんですよね。言葉は発しなくても、絵を描くことで意思表示をしていたんだと思います」

まだ幼いpotgさんにとって、絵は言葉以上に大切な、気持ちを伝えるためのコミュニケーションツールだったのです。

potgさんの作品/4歳

potgさんが描いた一番古い絵

そして中学、高校になっても絵を描き続けていたpotgさんは、将来を考える中で、「美大に行きたい」と思い描くようになります。

「自分が好きな絵をずっと描き続けていきたい。それしか考えていませんでした。
『絵では食べていけないよ』と親にはめちゃくちゃ反対されましたが、何度も話して説得をして……教職を取ることを条件に美大受験を認めてもらいました。
教職を条件にしたのは『もし絵で食べられなくても美術の先生になれるから』なんですよね。安定した仕事に就かせたいという親心だったと、絵で仕事がもらえなかった時期を経験した今ならよくわかります」

美大進学を決意したpotgさんは受験のために画塾へと通い、晴れて美大に合格。選んだのは油画の道でした。しかし、ここで思いがけない壁にぶつかります。

「子どものころから絵を描くのは楽しかったのですが、画材を使うのが苦手だということに、大学に入ってからはっきりわかってしまったんです。特に色を混ぜるのが苦手でした。これは自分でも克服できなくて、“点描で描いて見ている人に混ぜてもらおう”と思うことすらありました」

potgさんの作品/大学時代

potgさんが大学在学中に描いた点描による作品

「それが自分でもつらくて、3年生になるともう油絵具すら使わず、マスキングテープで点描をしたり、生地を使って風景画を作るようになりました。でも、通っていた大学が“油画学科なのに油絵を描かない”という自由さを受け入れてくれたからこそ、型にとらわれず、いろいろなことに挑戦する機会に恵まれたと思っていて。大学に入ってよかったと思える、思い出のひとつです。このときの経験があったからこそ、いまの自分があるのだと思っています」

今でこそ、フリーランスのイラストレーターとして活躍するpotgさんですが、在学中や卒業直後から仕事をこなしていたというわけではありません。大学を卒業したあとは実家で在宅イラストレーターとして活動を開始するものの、2年間、まったく芽が出なかった時期がありました。

potgさんの作品

potgさんが当時描いていた作品(左:2020/右:2019)

「絵を描いてはTwitterやpixivにオリジナルの作品を投稿していたのですが、仕事につながることはありませんでした。在宅イラストレーターになることを許してくれた母にも『そろそろ別の働き口を考えてみて』と言われ、自分でもイラストレーターになることを諦めかけていたとき、突然、オリジナルの絵がバズったんです」

その作品は「太陽の匂いがする」というヒマワリを抱える笑顔の女の子を描いた一枚。
はじめて1万を超える“いいね!”がついたこの絵をきっかけに、potgさんの作品は国内外に一気に知られるようになり、それまで5000人だったフォロワーは直後に6000人になり、半年後には10万人にも達していました。

potgさんの作品

「太陽の匂いがする」(2021)

「自分でもなにが起きたのはまったくわからなくて……それまでは“自分は社会から必要とされていないのかもしれない”と思っていたのに、急に評価をいただけるようになって、うれしいと同時にとまどいも感じました。いまでも“このフォロワー数、本当かな?“とドキドキしているくらいです。
自分の描きたい絵でいろんな人に自分の技術を求めていただける。こんな幸せなことはありませんよね、もう奇跡が起こったとしか思えません」

それは幼い頃から絵を描き続け、表現を学び、つねに試行錯誤を続けていたpotgさんという存在に、世界が気づいた瞬間でした。

potgさんの作品

HUION 液晶タブレット PRイラスト「さざなみ」(2021)

デジタルなのにアナログ表現…“こんなに都合のいいソフトがあっていいの?”

現在、すべての絵をパソコンで描くpotgさんですが、デジタルツールとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

「小学生のときからパソコンで絵を描いていました。描くものはいまと同じ、女の子や風景ですね、その頃から描きたいものは変わっていません。それからデジタルでもアナログでも描いていましたが、大学卒業と同時に完全にデジタルに切り替えました。アナログ画材はもう向いていないんだろうなと思って(笑)。
ただ、デジタルでも混色が苦手という意識はすぐには拭えず、ぼかして塗るような表現はいまでも得意ではありません。アニメ塗りのようなパッキリした絵が多いのはそのせいですね」

ツールがデジタルに変わっても、それまでの学び、研究、油絵の経験が無駄になることはありませんでした。

「線画やディテールを“かっちり描きすぎない”というのは油絵の影響を受けていると思います。
“ていねい=きれい”じゃないということを痛感したのはモネの展覧会を観に行ったときです。近くで見ると雑に絵の具を並べたようにも見えるのに、遠くから見るときれいで印象的な絵になっている。これがきっかけになって、細部にこだわるのではなく、全体でどう見えるのか。気持ちのいい構図や陰影を意識するようになりました」

全体の印象を重視する一方で細かい描き込みは苦手とも話します。

「凝った衣装や細かい背景はどうしても苦手なんです。一枚の絵に一日以上かけられないほど、飽き性なせいもあるのですけど(笑)。SNSに投稿するイラストはほとんど一日で描きあげていて、まわりからは“筆がはやい”とは言われますが、これは小学校のときに友だちとやっていた“早描き対決”の成果かもしれませんね」

potgさんの作品

左:「何が見えるかな」(2021)/右:「草紅葉」(2021)

そんなpotgさんは今回、Adobe Frescoをどのように評価したのでしょうか。その印象から聞いてみました。

「今回の絵を描き終えたとき、いい意味で“こんなに都合のいいソフトが存在していいのか…!”と思いました。正確にコントロールできないにじみが絵の味になるというのが水彩の好きなところなのですが、Adobe Frescoならそれがしっかり再現できます。
アナログと違って、乾くまで待たなくてもボタンひとつでレイヤーが乾いてくれますし、クリッピングやロック機能のようなデジタルならではのメリットもしっかり感じられる。アナログの楽しさとデジタルの便利さが両立したツールですよね」

potgさんメモ

今回のイラストにもAdobe Frescoならではの強さが活きる場面があったそうです。

「着彩での表現のひとつに、“影と光の間に彩度の強い色を置く”というテクニックがあるんですけど、いままでは納得のいく色の乗せかたができなくて。Adobe Frescoの水彩でなぞってみたら、自分が思い描いていた以上にきれいに色が乗って……これには本当に感動しました。
今回はWindows版を使いましたが、iPadを買って出かけた先の風景や思いついた構図を描きとめるのに使ってみようかなと思います。一日絵が描けないと煮詰まっちゃいますし」

制作環境

potgさんの制作環境

potgさんを取り巻く環境はこの一年で一変しました。この先、目指すものは何なのでしょうか。

「書籍の装画や動画など、やってみたいことはたくさんあります。以前お仕事で描いた絵を動かしていただく機会があったのですが、それを見たとき、すごく驚きと感動があったんですよね。
あとは大学のころから息抜きで描いていたマンガも再開したいと思っています。
イラストレーターとして活動しながらマンガを描く……自分の筆の速さを過信しすぎてはいけないけど、そういうこともできたらと思っています」

2021年11月、potgさんはTwitterに一枚の絵を投稿し、19万を超える“いいね!”を獲得しました。
「それでも描く」と名付けられたこの絵には、potgさんがこれまで辿ってきた道のりと、抱き続けてきた想いが込められているのかもしれません。

potg「それでも描く」

   

「それでも描く」(2021)

potg
web|https://potg.art/
Twitter|https://twitter.com/potg333
pixiv(イラスト)|https://www.pixiv.net/users/62834074
pixiv(マンガ)|https://www.pixiv.net/users/17695788