実社会で役立つスキルを身につける。立命館アジア太平洋大学とアドビのコラボレーション事例
学内で学んだ知識を活用し、実社会に応用できるスキルを学べる場の提供は、多くの大学が力を入れ始めている領域です。立命館アジア太平洋大学(APU)は先陣を切ってこの取り組みを始めており、そのための重要な手段として、産学連携を積極的に推進してきました。
APU とアドビのコラボレーションはそうした試みの一環として実現しました。「グローバル市場で大きな存在感を持つアドビのような企業とのコラボレーションを講義の一部として提供すれば、学生にとってとても興味深い体験になるだろうと考えました。人の知覚の仕組みを学ぶことが、対人関係だけでなく、人に行動を起こさせるデザインに使えるスキルであることを、デザインの現場を支える立場から学べる機会を提供できるからです」と、コラボレーションを主導した APU で心理学を教えるセリック・メイルマノフ教授は語ります。
APU はこれまでにも、地元企業と共同でふるさと納税返礼品の企画や、foodpanda とのコラボによる具体的なビジネス戦略の立案、さらには ANA ホールディングスと包括連携協定を締結するなど、数々の産学連携に取り組んできました。
立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋学部セリック・メイルマノフ教授
国際的な協力により実現された APU とアドビの産学連携
メイルマノフ教授とアドビのつながりができたきっかけは、APU 主催の Honors Program for Global Citizenship にアドビが参加したことです。その後、コラボレーションの方法を模索する中でアドビのパートナーとして活動するバルセロナ在住の UX リサーチを専門とするデザイナー、イーサン・パリーを主体にメイルマノフ教授のシラバスに沿った形で、実践的な演習を含むコンテンツを開発することとなりました。
「コンテンツ企画の段階では、数回にわたりアドビのメンバーと有意義なミーティングを行なうことができました。私のシラバスを検討した彼らと共に 2 つのトピックを選択し、そこに関連する実社会の要素としていくつかの企業サイトのページデザインを取り入れ、同時にクリエイティブツールを使用する実践的な体験を学生に提供するという案を考え出しました」とメイルマノフ教授は説明します。
こうして APU とアドビのコラボーレーションは、理論としての心理学とビジネスのためのデザインを結びつけて紹介するという、実社会で役立つ、価値のある学びの場を学生に提供する機会になりました。この試みが学生にとっても有益であったことはフィードバックからもよくわかりました。
講義の一部を担当したパリー氏は、「APU との体験は、私にとって、デザインがあらゆる場所に存在し、デザイナー的な考え方、すなわち『頭の中の考えをわかりやすく具体的に表現する方法論』の実践が、どんな場面にも適用できることの証明になりました。デザインの知識や経験は、例えば心理学のような学問にも活かせるのです」と振り返ります。
UXリサーチャー・デザイナー、イーサン・パリー氏
アクティブラーニングによるより深い学び
APU とアドビのコラボではクリエイティブツールを使用した演習も行われました。心理学の知識として「感情と動機付け」が、現実世界の e コマースサイトのデザインあるいはマーケティング戦略の中でユーザーを誘導する仕掛けとして使われていることを学んだ学生は、Adobe XD を使って人を動かすデザイン制作に取り組みました。「実際にデザイナーとして活躍している人の指導で、自ら手を動かして参加するアクティブな体験をすることは、卒業後にも使える新しいスキルを身につけるために役立ちます」とメイルマノフ教授は語ります。
特にオンラインの講義では、学生が一方的に話を聞いたり事前録画された動画を見るだけの受け身の学びになりがちです。もちろんこうした方法でも学習することはできますが、ハーバード大学の研究は、それが最も効果的な学習方法ではないことを示しています。この記事に紹介されている研究では、アクティブラーニングの授業で学んだ学生グループは、従来型の受け身の授業で学んだ学生たちよりも、テストのスコアが高くなりました。すなわち、自ら参加する環境において、学生はより多くを学べるのです。
初めて Adobe XD を使った学生が「動機付け」の知識を使い作成した画面。講師によるコメントが見える
パリー氏は次のように語っています。「今回使用したようなデジタルツールは、学生が思索して、アイデアを実際に形にするための創造的な環境を提供します。学生は自分が描いたアイデアに問題点を見つけるかもしれませんが、それはよりよい解決案を見出す機会です。試行錯誤をしながら「考える力」を養うアクティブラーニングは、将来の職業に向けて十分に備えようとする学生に必要な『秘密のレシピ』だと私は考えています。」
クリエイティブツールは「デザイナーが使うツール」と思われがちですが、メイルマノフ教授が実践してみたように、アクティブラーニングを提供するプラットフォームとしても利用できます。このような学びの場は、遠隔地にいる学生との協業の場を提供し、試行錯誤をしながら「考える力」を養い、社会に出てから必要とされるデジタルスキルを身に着ける機会を創出します。アドビは今後も、自分の力で課題を解決していくアクティブな学びを実現するために、教育機関との取り組みの輪を広げていきたいと考えています。