デザインプロセスのためのツールキットとは?見えにくかった進め方を明らかにしよう。| Design Leaders Collective
Design Leaders Collectiveは2022年4月からスタートしたエンタープライズで働くデザイナー向けのマンスリーイベントです。スタートアップ、制作会社、代理店など組織体制や規模によって抱える課題は様々です。本イベントでは、エンタープライズで働くデザイナーが直面する課題の情報共有とディスカッションを目的としています。
やる気だけではチームは成長しない
エンタープライズは一度動き出だせば業界や社会に多大な影響を及ぼすことができますが、動き出すまで時間がかかることがあります。中には100年以上の歴史によって培われた構造や文化もあるので、「新しいコトを試してみよう!」と活動を始めても、小さなグループ活動以上に広がらない場合があります。デザイン思考ワークショップを実施するものの、発散してアイデアを創出できただけになることも少なくありません。
こうした活動を通して賛同してくれる方を増やすことはできますが、今の組織体制に合わなかったり、持続的に変化を支援する仕組みがないこともあります。
また、デザイナーのスキルや興味も十人十色です。自発的にどんどん学習する方もいれば、評価と直結しないコトは無駄と感じる方もいます(それが悪いこととは言えません)。スキルギャップを埋めるためにAdobe XDをはじめとしたソフトウェア研修を定期的に実施できるのもエンタープライズの懐の深さあってのことでしょう。ただ、そうした支援する仕組みをきちんと設計しないと、なかなか組織がスケールしません。小さな組織で通用していた「前向きな姿勢」と「自発的な活動」を期待したコミュニケーションだけでは、ますますギャップが広がってしまいます。
作る以外のデザインツール
プロトタイプからWebサイトの実装まで、作るスキルを上げるための手段は、ソフトウェア研修だけでなく書籍やオンデマンドの講座など幾つか選ぶことができます。組織によってワークフローの違いがあるものの、ソフトウェアの使い方が大きく変わることはありません。画面遷移の作り方が組織によって変わることがないので、書籍などにある情報をすぐに現場で活かすことができます。
模索以降のデザインツールは充実しているし使い方も学習できますが、それ以前はあまり体系化されていません。
一方、デザインプロセスの前半に当たる「発見」「定義」「模索」の一部は、ソフトウェアのように組織を跨いで同じように作り方が学べるところが少ないです。ペルソナやカスタマージャーニーマップのような成果物の作り方を学ぶ手段はたくさんあるものの、手順に沿って作れば物事が先へ進むとは限りません。どのような成果物を作るべきかの判断は組織体制によって大きく変わりますし、時には自ら効果的な手段を発案する必要もあります。
経験を積めば、いつどのような成果物を作れば良いか判断できるようになります。実際、経験しなければ分からないことは多々あるものの、経験者に仕事が集中したり、チームメンバーのスキルギャップがさらに広がる恐れがあります。エンタープライズのように様々なタイプのデザイナーがいる環境だと、「経験を積んで頑張ってくれ」という期待だけでは、皆が同じようにスキルを磨いて働いてくれません。
自社に合う作り方を明文化
ソフトウェア研修などでは補えない、組織の特徴を考慮した作り方・進め方はどこにも書かれていません。そこで「ツールキット」「ツールボックス」「プレイブック」と称して自社の作り方を明文化する組織が増えてきました。例えばカナダ、オンタリオ州が提供するService Design Playbookには、現場でよく使っている手法を紹介しているだけでなく、どういうことに気を付けるべきか進め方の解説も記載されています。一般論に留めず、独自の定義を加えることで、現場の方がどう手段を活用すれば良いか分かるようにしています。
現在、著者のほうで集めているデザインツールのデータベース。ツールによってどんなメソッド(手段)を提供しているか分かるように整理しています。
本イベントでは、2022年4月までに集めた45のツールキットから見えた5つの傾向を紹介しました。
整理されている
デザインステージで分類されているだけでなく、検索して探せるところが多く見られました。また、「どうやってインタビューすれば良いの?」といった質問から探せるところもありました。
テンプレートが豊富
ゼロから始めるのではなく、組織に合うテンプレートを作って提供しているところがありました。また、ワークショップに必要なテンプレートだけでなく、進行する際の注意点が書かれていたり、ビデオで補足しているところもありました。
手段だけが多い
用語集に近いツールキットがたくさん見つかりました。使うタイミングやコツが分かりにくいため、深い解説がされている書籍のほうが便利と感じるところもありました。一方、自治体のように市民に向けて情報公開することを義務付けている組織だと、用語集以上の内容が書かれていました。
独自の進め方を推奨
様々な手段を提供するツールキットがある一方、最初から最後まで『型』を作っているところも幾つかありました。この場合、自分で手段を選ぶ必要がないので、実行するのみなので始めやすそうです。また、推奨する進め方を実践した事例も紹介されているのも特徴です。
特化型ツールキット
UXやサービスのような広い枠組みになりやすいですが、人工知能や倫理など、あえてトピックを絞ったツールキットも出てきています。例えば、Ethical Explorerは倫理性を考慮したデザインをするための考え方をまとめたサイトです。
作り方を振り返ろう
デザインシステムと同様、こうしたツールキットは作るだけでなく実践する機会の用意や、改善が必要になります。また、我々がどのようにものを作っているか調査が欠かせませんし、今までしていなかった明文化も不可欠です。簡単なことではありませんが、見えにくかったところを明文化しなければ、どう成長してほしいか組織側も分からないままです。ハイブリッドワークが主流になり、皆が同じ場で仕事をしない機会が増えてきた今だからこそ、今回紹介したようなツールキットの必要性がより高まっているかもしれません。