Trend & Illustrations #11/アレッサンドロ・ビオレッティが描く「In The Groove - Adobe Stock ビジュアルトレンド
Adobeではビジュアルのニーズを様々な角度から分析し、トレンド予測をトレンドレポートとして毎年発表しています。
東京イラストレーターズ・ソサエティの会員イラストレーターがビジュアルトレンドのテーマを描く人気のブログシリーズ。第12回目のテーマ「in the groove」を、特徴的なフォルムと躍動感を感じる作品を制作するビオレッティ・アレッサンドロさんが描きました。
ビオレッティ・アレッサンドロ
Bioletti Alessandro
1986年北イタリア・トリノに生まれる。
子供の頃に祖父が持っていた70年代に出版された日本の写真集を見て衝撃を受ける。イタリアの文化からは想像できない未知の世界で日本を好きになるきっかけになった。16歳から日本語の勉強を始め、18歳で初来日。2015年5月より日本在住。フリーランスイラストレーターの活動をしつつ、3年間のデザイン事務所勤務を経て、2019年よりイラストレーターとして独立。6月24日〜7月13日に個展「Are you a rebel?」をBOOKMARC(東京・原宿)にて開催。
https://alekun.com
https://www.tis-home.com/Bioletti-Alessandro/
見た人を元気に笑顔にしたい
Q:「in the groove」を選んだ理由を教えてください。
僕っぽいって思ったんです。
ストーリー性があるイラストレーションを描くのが好きで、人物がモチーフだとしたら、その人が何かアクションを起こしているような、プラスの要素を入れたいと普段から考えています。「in the groove」は、言葉自体がかっこよかったし、ソウルミュージックやブレイクダンスが好きなので、それをモチーフにしたいと思いました。とにかく楽しいものを仕上げたかったんです。
Q:躍動感のある動きで、鮮やかな色彩が印象に残ります。
今回の作品はデジタルデータで完成させるので、印刷のCMYKよりもRGBのヴィヴィッドな色合いを意識して、見てくれる人が元気になるようなものを目指しました。普段から明るく、温かみのある色使いを心がけています。
ダンス感、動きが出せるような構図やフォルムを考えましたし、イラストレーションがストックされることから、カテゴリーがわかりやすい、タグ付けしやすいものを加えることも意識しています。
小さなスケッチブックに思いついたアイデアを描き留め、それを元にペンタブレットを使いPhotoshopで描画、Illustratorでパス化し着彩して仕上げる。
Q:アレッサンドロさんの絵はパペットのような形で関節が区切られているのが特徴的ですが、現在の作風はどうやってできたんですか?
パペットではないんですけどね。あの関節自体は、正直なところ、特に意味はなくて、自分にしか描けないものを考えていて行き着きました。
より深く自分に問うてみたら、「丸い」ものにこだわっていることに気づいたんです。丸と丸を繋げたりするのは以前から描いていて。そういう部分が少しずつ表面化していったというか。自分自身でもうちょっと大切に作ってみようと思った時に、それが強調されてきたんです。自分の心の声を聞いた結果です。
Q:ここ数年、政治や人種、経済格差など、いろんな面での分断があります。そしてコロナで世界中が混乱し先行きが見え始めたころに、ウクライナ・ロシア問題も出てきました。現在の世の中の空気をどのように受け止めていますか?
ニュースを見たり、情報を得て、世の中で起こっていることに対して思うことは山ほどあるんですけれど、自分自身、何ができるかが見えてこないというか。今(インタビューは2022年3月15日)メディアはウクライナにフォーカスしているけれど、世界中で紛争や戦争が起きています。メディアがフォーカスさせたい情報だけを見るのではなく、もっと幅広く調べています。
深い質問なので簡単には答えられないんですよね。みなさん一人一人の意見があるから、自分の意見を押し付けないように答えるのがすごく難しい。現実に起きていることなので、それだけ見ていると暗くなっちゃうし。
僕としては、とにかくビオレッティ・アレッサンドロとしては、一度しかない人生をシンプルに生きようと思っています。昔からそうなんですが、まずは自分の周りを幸せにする。どんな嫌な世の中になったとしても、イラストレーターとしては、僕の絵を見る人に元気に、笑顔になって欲しい。それがイラストレーターとしての僕の役割じゃないかなって思っています。
暗い世の中だからこそ、逆のエネルギーを出さないと何も起きない。コロナの世界になって、それをより強く感じています。プロパガンダになるようなイラストレーションじゃなく、単純に楽しい気持ちになるようなものを表現したい。
うちには子供が一人いますが、産まれたことだけですごく幸せなことじゃないですか? 花が咲いただけでも幸せだと思う。そういう身近な幸せを感じられる生き方が僕の中ではすごく大切なんです。
Q:アレッサンドロさんが日本でイラストレーターとして仕事をするようになったきっかけは?
18歳の時から日本には何度も来ていました。イタリアでグラフィックデザイナーの仕事をしながら、年に1、2回は長期の休みを利用して日本に滞在していたんです。そんな頃、リーマンショックが起こってイタリアでの仕事も少なくなってきましたし、日本からの仕事も少しあったので、これは日本に住むチャンスじゃないかと。そして本当にラッキーなことに小学館から絵本を出すことになりました(『みつけてアレくん! せかいのたび』2014年)。
出版してから、編集者にビザの手続きをしていただいたんです。最初はアーティストビザで1年間滞在して、その後に知り合いの紹介でデザイン事務所に入社、そのまま日本に住むことになりました。そこではデザインだけでなく、アニメーションや映像の仕事も勉強できて。フリーのイラストレーションの仕事が増えてきたので、2019年からは完全に独立してフリーランスとしてやっています。
「目玉焼き」2022年。2022年6月の個展で発表する新作。デジタルで制作したものをアクリル絵具で描いている。
Q:コロナで生活様式が変わって、どこにいても、どこの国の仕事でもやりやすくなったのではないでしょうか?
そうですね、僕がイラストレーターを始めた20年くらい前に比べると環境は違います。コロナで大変なことはたくさんあるんですが、良いところも見つけたいと思うし、どこでも仕事ができるようになったのはいいことだと思います。日本に来たばかりの頃は世田谷区に住んでるからかっこいいなとか、それこそデザイン業界では名刺に渋谷区って入れたいとかありましたが、今はそんなことはないんじゃないかな。どこでもネット環境さえあれば仕事はできますね。
Q:家族ができたことで作品に変化がありますか?
当然あります。作品を作ったら妻に見せるんですが、大阪人なのではっきりしていて、悪かったら悪い、ちょっと面白くないなって言われたりもしますよ。
妻はメークアップアーティストでイラストレーションに詳しくないから、一般の人の感覚で意見を言っていると思うので、指摘された部分は、それまでの自分の考えをちょっと変えてみたり。息子に聞くこともあります。
やっぱり家族が大切な存在です。僕の絵を見て「好き?」って聞いたらすぐに「うん」って言ってくれるのも、すごく嬉しいことですし。
Q:家族の客観的な視点を受け入れているんですね。
自分の世界だけにとどまっていたら成長しないと思います。アーティストは自分の世界にいることが大切な部分もあると思いますが、イラストレーターは社会の中にいる存在だから、もっと周りの意見を大切にするのがいいんじゃないかな。
僕らしさで言うと、やはり異文化からきた人間の視点はあると思います。今は薄まっているかもしれないけど。仕事を始めたばかりの頃は、日本人にはわかりにくいという指摘も受けましたし、そこはもうちょっと調整しなきゃいけないかなと今も思っています。ユーモアとかは今でも違いがありますね。
日本語もそうですけど、表現や人付き合いとか、失敗を重ねて成長したっていうか。自分で言うのは恥ずかしいですが、成長したと思います。
Q:日本での仕事や生活はいかがですか?
日常の暮らし方はイタリアと違いますし、どちらもいいところも悪いところもある。両方受け入れれば、自分の国のように暮らせるんじゃないでしょうか。受け入れないと、文句ばかり言うことになってしまいますからね。
僕は18歳から日本に来ているので、もはや自分の国のように思っています。日本語はイタリア語ほど話せないし、後からもっといい表現があったと思ったりしますが、今は仕事でも困らないので。仕事のやりやすさでいうと、日本の人は真面目だからやりやすいですね。中には適当な人もいますけど、それはどんな国でも同じ。
日本って不思議で、海外から見るとテクノロジーが発達しているイメージがありましたけど、実際住むと伝統も残っているし、旧式のやり方をしている企業もある。敬語とか年功序列もあるし。そこも興味深いです。だから寿司とか漫画とかだけじゃない、もっと深いところを海外に向けて紹介できたらいいなと思っています。クールジャパンだけじゃなくて、ディープジャパン。それに加えて、日本の優しさとか、思いやりのこととか、物じゃなくてフィーリングを持っていけたらいいと思っています。
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