オンボーディング体験の専門家が語るより良いデザインへのアプローチ | アドビ UX 道場 #UXDojo

第一印象は本当に重要です。しかし、製品やサービスがユーザーを魅了するには、それだけで十分とは言えません。実際、ユーザーはすぐに製品から離れ、二度と戻ってこないかもしれません。重要なのは、新規、既存、そして過去のユーザーも、長期にわたり惹きつけて維持することです。にもかかわらず、多くのチームが、長期的にユーザーを誘導する戦略を欠いています

UX デザインリードのクリスタル・ヒギンズは、この分野の研究に何年も費やしてきました。彼女は、NVIDIA、eBay、そして現在は Google で、デスクトップ、モバイル、ウェアラブル製品にライフサイクル全体を通じて携わってきました。そして、すべての役職において、効果的なオンボーディング体験に深い情熱を傾け、今ではそれが彼女の専門分野になりました。

人間中心のオンボーディングをテーマに世界中で講演やワークショップを行い、デジタル製品の初回使用時のユーザー体験の良い例と悪い例をカタログ化し、自身のブログで関連するヒントや洞察を共有した後、彼女は知識のすべてを「Better Onboarding」という本にまとめました。この本は、ユーザーを長期にわたり満足させ、その過程で製品全体をより良いものにするオンボーディングをデザインして維持するために、チームが考慮すべきさまざまな段階を説明しています。

この記事では、「なぜインタラクションを通じてユーザーを誘導することが、表示するだけの指示に頼るよりも効果的な戦略なのか?」、そして、「どのようにデザイナーはオンボーディング体験の改善に着手できるか?」といった質問に対するヒギンズの考えを紹介します。

クリスタル・ヒギンズの著書 Better Onboarding(出版 A Book Apart)

あなたにとってのオンボーディングの定義を教えてください

私にとってオンボーディングとは、新しい製品を使い始めてからその製品の「コアな使い方」、すなわち確立されて定着した使い方に至るまで進行するユーザージャーニーのことです。このジャーニーは、ユーザーが始めて製品に触れた瞬間から定着に至るまでの間を埋めるさまざまな種類のアクティビティで構成されます。

UX デザイナーは皆、オンボーディングのデザイナーです。なぜならデザイナーの目標は、人々が理解しやすく使いやすいよう、確実にインターフェイスをデザインすることだからです。

この数年間は、「オンボーディング」がキャッチーな言葉になって、特別な状態や機能を表すかのように扱われていますが、実際には、誰もが効果的なオンボーディングプロセスをデザインする力を持っています。

https://www.youtube.com/watch?v=QspDXgLNq8M

UX London 2018 の講演で、クリスタル・ヒギンズは、優れた新規ユーザー体験がカスタマージャーニー全体を通じて効果的であることを示した。

なぜ、最初にチュートリアルやマニュアルを提供することが、オンボーディングに適していないのでしょうか?

ビデオツアー、スライドショー、長い情報ページ、ポップアップなど、最初に指示を提示することは魅力的です。情報をまとめるというのは手段として理解しやすいですし、プレゼンテーションや授業と同じで、一般的には、誰かに情報を伝えることはさほど複雑ではありません。説明を書き、それを提示して、人々が望んだとおりに行動することを願うのです。ステークホルダーは自分の考えを表現できたと感じられますし、チームはプロジェクトについて語るコンテンツを目にすると嬉しい気持ちになるものです。

しかし、受け身の授業だけでは学習効果が限られるのと同じ理由で、始めにチュートリアルを提示するのはあまり効果的ではありません。最初に一連の情報を提示する場合は、人々がその場で暗記することをあてにするわけですが、残念ながら、人は一度目にしただけのものは忘れがちです。また、多くの人はただ製品を使いたいだけで、教室で学ぶように座って話を聞こうとしてはいないため、チュートリアルを読み飛ばしたり、無視します。そして、たとえ読んだとしても、製品を使う前の、実際に助けが必要になる以前の状況にいるために、その内容を本当に理解することは困難です。

それよりもより良いアプローチは、支援用のコンテンツを体験全体に統合し、学びを強化することです。知識を顧客に与え、提供している体験に慣れてもらい、その場で意味のある機能を使えるように手助けするのです。カスタマージャーニーを通じてより多くの人々を製品に引き込み、その関心を持続させる機会を見つけることを考えるべきです。

そこで登場するのが、インタラクションによるガイドです。これは、インタラクションデザインのベストプラクティスをアレンジして、特に新しいユーザーを念頭に、特定のフローや状態の中で少しばかり追加のサポートを提供する方法です。最高のオンボーディング体験とは、人々の操作に応じて彼らを導くものであり、物語のように何かを説明するものではありません。

「ガイド付きインタラクション」のユーザーオンボーディング体験は、「使用前のチュートリアル提示」と「サポートの無い状態での製品への没入」の、ちょうど中間的な存在

では、ストーリーを語ることはお好きではないのですか?

ストーリーテリングは大好きです。ただ、どのような製品のデザインにおいても重要なことは、人々が自分自身のストーリーをつくり上げられるようにする必要があるということです。私は、直線的に進行するストーリーテリングよりも、ユーザーが成功への道を自ら歩めるガイド付きインタラクションが好みです。ストーリーでブランドの価値のヒントを与えることはできるかもしれませんが、「このように製品を体験しなければならない」と人々に押し付けることは不可能です。

ところが、多くのチームがそれを試みようとしています。そうしたチームは、ユーザーに製品を使って何をしてほしいのか、自分たちのストーリーを語ります。しかし、実際に行うべきなのは、製品の利用体験を通じて自身のストーリーを発見する新しいユーザーの助けになることです。

オンボーディングの戦略として、ガイド付きインタラクションを一般的に、あるいは特定のアクションにどのように適用しますか?

オンボーディングを効果的にするためには、人々を徐々に導く必要があります。つまり、オンボーディング戦略がただひとつのアクションだけに集中したりしないように、ユーザーが遭遇する可能性のあるアクションの組み合わせを把握する必要があります。

そして、ユーザーがある行動を始めたとき、その行動に応じたガイダンスを構成する必要があります。適切なタイミングで提示され、正しい期待を設定し、タスクやエラーの解決に役立つガイドです。そこにはある程度の継続性も必要です。

特に重要なのは、そうしたオンボーディングのアクションのひとつを完了した後に、その行為を強固なものにする適切なフォローアップを忘れないことです。例えば、成功の瞬間の後は、次に実行可能なステップのヒントを与えることができるかもしれません。

オンボーディングのアクションを分解するということは、実際のアクションへのガイドを提供するだけでなく、アクションを促す瞬間や、アクション完了後のフォローアップの際にもガイドを提供することを意味する

一般的に見られる間違いには他にどのようなものがありますか?

よくある間違いといえば、オンボーディングを一人の人間やごく小さなチームに任せられるものとして扱うことです。それでは、オンボーディング体験を製品に真に統合することはできず、成功にはつながりません。オンボーディングは、製品戦略とデザインプロセスに関わる要素であって、単なる一機能ではありません。それに、オンボーディングを一人だけで担当すると、その人の視点だけになってしまいますし、担当者がチームを離れれば、すべての知識が失われてしまいます。

オンボーディング体験に改善が必要どうかをどのように判断すればよいのでしょうか?

特に、大規模な顧客サポートチームが存在する製品を扱っている場合には、サポートへの問い合わせを常にチェックしましょう。もし問い合わせや返品依頼の大部分が、製品の設定や最初の 30 日間の体験によるものである場合は、オンボーディングプロセスを見直す必要があることを示す明確なサインです。

また、特に新しい顧客を獲得しようとしているならば、維持や成約に関わる数値を確認しましょう。30 ~ 90 日経っても顧客の獲得や維持が進んでいなかったら、それは見込み顧客を逃がしている穴をふさぐために何かすべきであることを強く示唆するサインです。

特定の製品やサービスにとって適切なオンボーディングをどのように判断すればよいのでしょうか?

新規ユーザーのジャーニーを描く必要があります。まず、確立されて定着した使い方、すなわち「コアな使い方」を定義します。これがオンボーディングを終了した人々の望ましい到着点になります。そして、新規ユーザーが製品を使い始める可能性があるポイントを設定します。

さらに、定性的な調査を実施して、ユーザーが初めて製品を手にしたときの、コンテキスト、状況、期待を把握します。そして、ジャーニーマップを作成し、「コアな使い方」から「新規ユーザーになった地点」まで遡りつつ、そのジャーニーに必要なアクションを見つけ出します。このように初回の体験から距離をとって全体を眺めると、ジャーニーの経路で起こりうる本当に重要なアクションを考えられるようになります。

また、チームとしてジャーニーマップ作成を行うことで、各自が重要だと考えていることを明確にし、それを他の人がどう認識しているかを知る機会になります。これは、関係者全員が参加し、それぞれの仮説を確認し、新規ユーザーに対する考え方を新鮮に保つことができる、素晴らしいステークホルダーのエクササイズです。特に、チームに新しいメンバーが参加したときは、初めてオンボーディングを体験し、それをどう感じたかをまとめると効果的です。

「Better Onboarding」には、オンボーディングのジャーニーマップ作成をチームで実行する方法を読者に紹介する章がある

オンボーディング体験が多様な新規ユーザー全体をカバーするようにしたい場合はどうしたらよいでしょう?

これも、最初に指示を提示する方法があまり効果的でない理由のひとつです。適切なチュートリアルを提供できるほどに、事前にユーザーを分類することはまず不可能です。ユーザーが製品を手にしたばかりのタイミングでオンボーディングを提供しようとすると、そのユーザーに提供すべきものを判断する十分な情報を持っていないため、全員に画一的な体験を強いることになります。

その代わりに、人々が操作したり行動を起こすポイントにガイダンスを埋め込みましょう。このように人々が操作しようと判断したコンテキスト内に情報を置くだけで、すでに多様な人々をサポートしていることになります。

オンボーディング体験の成功を評価するにはどうすればよいのでしょうか?

これには 2 つの方法があります。まず、「コアな使い方」は、通常、より幅広い顧客獲得や維持の指標と連動しています。それが示すのは、何らかの理由で製品に戻り、ビジネスを維持しているコアユーザーの存在です。そこでコアな使い方に着目し、オンボーディング体験の改善が、コアな使い方に到達するユーザーの獲得に貢献しているか、またそこに至るまでの時間が短縮されているかどうかを調べます。

こうした情報を適切に把握できていると、オンボーディングのアクション一つひとつについてテストを行えます。その際は、常にコンテキストに着目する必要があることには注意しましょう。例えば、最初にサインアップ画面を用意すれば、多くの登録を得られるかもしれませんが、継続率が低下するかもしれません。これは、ユーザーが何に対して登録したのかを十分に理解していないためです。個々のステップの最適化にこだわり過ぎることなく、それぞれのステップを比較して最適化することが大切です。

より良いオンボーディング体験をデザインするためにデザイナーがすべきことは何でしょうか?

新規ユーザーに対して必ずしも特別なオンボーディング体験をデザインする必要はないことを認識しましょう。まず、製品にざっと目を通し、そのデザインを改善します。例えば、専門用語を避けて、使用する言語をより明確にするだけの簡単な改善点が見つかるかもしれません。これだけで大きな違いが生まれることがあります。

次に、新規ユーザーが製品を使い始めてから行う必要がありそうなアクションを特定します。これは、彼らが辿る道筋を描いてから、ガイドすべき主要なアクションに優先順位をつけることで行います。

最後に、重要なオンボーディングのアクションを把握したら、それを詳細に検討して構造を改善し、他のアクションにも適用できるようにします。

クリスタル・ヒギンズの仕事と洞察をさらに知るには、「Better Onboarding」や彼女のブログをご覧ください。

この記事は Designing better user onboarding experiences: A conversation with Krystal Higgins(著者:Oliver Lindberg)の抄訳です