心身の癒しをビジュアルで追求するイラストレーター: Danii Pollehn
クレジット: Adobe Stock / Danii Pollehn.
Danii Pollehnさんがクリエイティブな道に進もうと考えたとき、真っ先にイラストレーションのことが頭に浮かんだわけではありませんでした。
「おとぎ話のようなものはやりたくなかったんです」。そう話すPollehnさんは、Adobe Stockコントリビューターのドイツ人のアーティストで、2021年のArtist Development Fund(アーティスト開拓ファンド)受賞者でもあります。「それに当時は政治雑誌の編集に携わっていましたし、そういう世界に身を置く自分をあまり想像できませんでした」
代わりにPollehnさんは訓練を積み、ファッションデザインの分野で働き始めました。業界に入りしばらく経つと、今度はテキスタイルデザインに専門を絞り、数年間その仕事に従事します。彼女にとって、ファッションからフルタイムのイラストレーションの仕事へ転向する鍵となったのは、デジタルツールでした。
「ファッションのイラストやテキスタイルデザインを手掛けていた頃は、従来型のメディアでの仕事がほとんどでした。使うのはたくさんの水彩絵具、それにペンやマーカーなどです。その後iPadを入手し、当時転職を考えていたこともありますが、iPadでイラストを描いてみたくてAdobeのすべてのアプリケーションを購入したんです。それを機にパターンだけでなく色々なものを創作してみたくなりました」
Pollehnさんは近頃はほぼデジタルで作業をしています。彼女が描く画像には今もそのファッションセンスがはっきりと見て取れ、作品の中の賑やかな明るい色やファンキーな服装は、ビジュアルを活き活きとした人目を引くものにしています。砕けた雰囲気の日常のひとコマの中で障害や慢性疾患を持つ人々を表現することに重点を置いているのも特徴です。
病気や健康に関する実体験から生まれた洞察的なストックポートフォリオ
「障害や慢性的な病気を抱えている人は、あまり平等に取り上げられていないし、大体において不完全な人間だと思われている気がします」とPollehnさんは話します。「他の人と同じように物事を行うことができない、あるいは能力がないかのように見られているといつも感じます。でも、それは真実ではありません。私たちはとても大胆にも活発にも美しくもなれるし、もっと社会に包含されるべきだと思います」
このことはPollehnさん自身の身近な問題です。10代後半から、彼女は何度も発作に襲われるようになり、最終的に脳腫瘍と診断され、必要な手術を受けるまでに何年も薬を飲み、入退院を繰り返しました。その後の6年間は、薬の服用をやめていく段階で何度か困難にぶつかりながらも、自分の体とのつながりを回復しようと努めました。そして、自分の夢と自己管理に必要なこととのバランスの取り方を今なお学んでいる最中です。
「自分を上手に管理する方法というのがわからなくて」と彼女はいいます。「体はもう疲れ切っているのに頑張り続けてしまうことが多かったんです。頭がぼんやりしてきても、体調を崩しても、”普通の人”として働きたいという思いもありました。慢性的に倦怠感があってすごく疲れるのですが、認められたくて無理をして、あまりそれについて口にすることはしませんでした」
Pollehnさんは、彼女ならではの洞察をもとに、病気や慢性的な症状、肉体的な制限を抱えながら生きることに美しい形で光を当て、なおかつ健康療法を様々な角度から捉えた作品のポートフォリオを見事に作り上げています。西洋医学の医薬品、器具や装具などを描写したすべての画像に、彼女は薬草やホリスティックな治療、ヨガなどの集中力を高める訓練などを併せて表現しています。
「私は脳腫瘍になったので、まさかハーブだけで手術を行ったりはしませんけれど」と彼女は笑いながらいいます。「でも、どちらの考え方も有効だし価値があると考えています。西洋医学がすべてにおいて役立つわけではないと思うんです。彼らは知識という一定の枠の中で患者を観察しますから。体というのはとても奥が深いので、医師が患者に耳を傾けなかったり、細かな点を見逃したりする場合がないとはいえません。それに医療におけるガスライティング(誤った情報を信じ込ませ、患者が自身の認識を疑うよう仕向ける心理的な虐待)は、特に慢性疾患で多く見られますようです」
クレジット: 左:Adobe Stock / Danii Pollehn — 右:Adobe Stock / Danii Pollehn.
鮮やかな色で植物を華やかに表現
アーティスト開拓ファンドのためのPollehnさんの作品は、主に人物を題材にしていますが、彼女は花や植物も大好きで、これまでも度々作品のテーマや背景のモチーフにしてきました。2021年の切り絵シリーズは、さながら現代のマティスのようで、緑豊かなトロピカルな背景に、色鮮やかなすっきりと無駄のないフォルムが賑やかに散りばめられています。Pollenさんのデザインにはオレンジ、パープル、マゼンタ、ティールなどの色がよく使われており、マキシマリスト的な構図やカラーパレットにおいてその熟練したバランス感覚がうかがえます。
「植物については過去に様々なプロジェクトを手掛けました」と彼女はいいます。「テキスタイルデザインでは花柄やトロピカルな柄が一番売れるようです。だから、私もそういうものをよくやっていました」
Pollehnさんは植物園巡りが好きで、それこそマティスのように、ヨーロッパで慣れ親しんでいるものとは違う自然に触れるために南国を旅して楽しんでいます。きっと住まいもボヘミアンな雰囲気たっぷりの家だろうと想像してしまいますが、白を基調にして差し色を配し、あまり刺激的にならないようにしているとのこと。
「白がメインですね。その方が頭が落ち着く気がするからです。私は刺激に圧倒されやすいんです」
クレジット:左: Adobe Stock/Danii Pollehn — 右:Adobe Stock/Danii Pollehn.
自分の強みがインスピレーションの源。仲間が声を上げる助けになりたい。
作品は刺激的な色で溢れていますが、Pollehnさんの一番のインスピレーション源は彼女の内面にあります。アーティスト開拓ファンドのためのポートフォリオに取り組んだときは特にそうだったといいます。
彼女は次のように話します。「まず初めに自分の内面を覗いて、伝えたいことや描きたいことは何なのかを確かめました。すべてが最悪だった頃のことを思い返してみたり。今は少し良くなってきていますが、時々後戻りします。私は何が不快なんだろう?自分あるいは他の人にとってのチャレンジとは何か?私たちの助けになるものとは何か?一般的に私たちは社会からどう見られていると感じているのか?と自問しました」
Pollehnさんは、ADHDや障害など、慢性疾患を持つ友人たちと話もして、彼らが平等に取り上げられている、あるいは正しく理解されていると感じるために必要なことを探りました。そうしてできた作品は重要だと彼女はいいます。なぜならクライアントがその顧客層を反映しているようなストック素材を探す際に、より多くの選択肢を提供できるだけでなく、自分たちのことを伝えよう、と仲間を勇気づけることにもなるからです。
「障害や慢性疾患を抱えるアーティストたちが自分の声を表に出すようインスパイアすることができたらいいなと思います。私は仲間全員を代弁できませんから。それに、私はそうしたくないし、そうすべきでもありません。他の皆も自分で行動を起こし、自らの物語や経験を公にしようという気持ちになってほしいんです。私たちはコミュニティを作り、より一層お互いを思いやることができます。同じように日々闘い、辛い経験をしている人々のために居場所を作りたい。誰もが正しく理解され、平等に取り上げられていると感じられるようになることを願っています」
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この記事は2022年4月28日に Sarah Rose Sharp により作成&公開された Healing as a visual language with illustrator Danii Pollehn の抄訳です。