ナバホ族の過去、現在、未来を讃えるAdobe Stockアーティスト - Lynne Hardyのイラストレーション

クレジット:Adobe Stock / Lynne Hardy.

Adobe StockのコントリビューターでイラストレーターのLynne Hardyさんの作品は、彼女が祖母Juriaさんから学んだ生きる上での指針を体現しています。暮らしの中のワンシーンから南西部の風景、更には織物やホーガン(住居)の建て方などのナバホ族の伝統技術に至るまで、彼女のイラストレーションはHózhóの精神をインスピレーション源とし、表現しています。

「ナバホ語のHózhóは、美と調和の中を歩く、という意味です」とHardyさんは説明します。「ナバホ族の文化では、調和から外れたときは、それを取り戻すための儀式を行いました。誰でも時には心を落ち着かせる必要があります。そして他者、あるいは大地、あるいは周囲の年長者の語ることや助けとなる言葉に耳を傾けなければならないときがあります」

Hardyさんが生み出すイラストレーションはどれも、静かな心持ちでじっくりと古くから受け継がれる物語を感じてみよう、と私たちに誘いかけてくるようにも見えます。Adobe Stock Advocatesプログラム Artist Development Fund(アーティスト開拓ファンド)を通じて、彼女がAdobe Stock向けのコミッションプロジェクト(作品の委託制作)を勝ち取るに至った決め手は、そのパワフルかつ統一的なビジョンです。

Hardyさんは大学を卒業後、自分のスキルアップに投資し、アーティストとしての才能を活かして生計を立てる術を模索しています。2021年に設置された、コミッションプロジェクト(制作の委託)を伴うAdobe Stockのアーティスト開拓ファンドでは、特に作品の中で多様なコミュニティ(ネイティブアメリカンを含む)を描き、自らもその一員であると自認するアーティストを探すべく募集を行いました。このファンドは、歴史的に過小評価されてきたコミュニティにおける個人的な物語や当事者の経験を表現した創造性豊かなビジュアルをシェアするアーティストに有意義な支援を行うことを目的としています。

「ネットを何気なく見ていたら、Artist Development Fundの募集を見つけて、やってみない手はないと思ったんです」

彼女はこう振り返ります。「そうした画像を創作することはもちろん、何よりもたくさんの人が使用できるという、そのスケールの大きさがすばらしいと思いました。アート作品は人の目に触れる必要があると感じたんです。特にネイティブアメリカンの文化は時々あまりに不正確な描かれ方がされるので」

少し間置いて、彼女はこう付け足しました。「実際には、多くの場合そうです」

   

クレジット(左上から時計周りに): Adobe Stock / Lynne Hardy, Adobe Stock / Lynne Hardy, Adobe Stock / Lynne Hardy, Adobe Stock / Lynne Hardy.

過去と現在を讃える

Hardyさんは、自身の生活や友人、家族との関わり合いと、彼女が最もよく目にするナバホ族やネイティブアメリカンの描写や表現とを比較することでインスピレーションや創作意欲が湧いてくるそうです。

「ネイティブアメリカンとして、その過去や文化にまつわるたくさんの物語を聞かされてきたら、おのずとそれらを継承しようという気持ちになります」と話す彼女が、それらの物語や慣習を存続させることに熱心で、楽しんでいるのは明らかです。

昨年制作された多数のイラストレーションの中には、ピニオンパイン(松の一種)の実の採集やフライブレッド(揚げパン)の調理から羊毛の選別や銀細工まで、伝統的な活動、物、民間伝承を題材にしたものが多く見られました。

しかし、Hardyさんは、過ぎ去った時代ではなく現代のアメリカに暮らし、溶け込もうとしている若いアーティストで、自分は「ホーガンで暮らすなんて無理・・・というタイプ」といいます。「私は現代的なことを取り入れてます。それでもネイティブアメリカンであることに変わりはなく、今でも水道も電気もない生活がどんなものかわかっています」

Hardyさんの作品の中で、このふたつの暮らし方は緊張感や不協和を生むようなものではなく、むしろ彼女が常に追い求めている調和を形づくります。「このふたつを一緒に取り上げることで、私のアートは単なる過去の遺物ではなく、自らもその一部になることができるものだと伝えたいのです」

そのため彼女は、受け継いだ伝統を好んで描きつつ、バスケットボールやジョギングをしたり、プールサイドでくつろいだり、車で家族旅行に出かけたり、といった日々の生活風景を捉えた作品群を制作しました。こうしてできたポートフォリオは、まさに彼女自身の生活や文化ならではのものと、現代のアメリカ的な生活に通ずるものを同時に感じさせることに成功しています。

「見る人に幸せな気持ちになってもらいたいんです。作品や色に共感してもらえたら嬉しい」と話すHardyさん。彼女にとって、現代的な生活風景の中に先住民の人々を描き、なおかつ視覚的にその伝統に敬意を表すことは、2022年に彼らが送っている生活と、ここに至るまでの道のりの両方を讃えることです。「まさにネイティブアメリカンとしての自分のアイデンティティを取り戻すような感じです」

   

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暮らしの中に見出す美

Hardyさんはアーティストに囲まれて育ちました。彼女の叔父たちはジュエリーを、祖母はビーズを作り、画家の叔父もいました。幼い頃から絵を描くことが大好きだった彼女を、両親はいつも励ましてくれたそうです。「両親ともに本当にあたたかくて、私が描いた絵はすべて壁に飾ってくれたり、『山登りするおばあちゃんを描いてみたら』なんて、アイディアを出してくれたり

しかし、絵に対する才能と愛情を持ちながらも、彼女の道のりは平坦ではありませんでした。学校ではアートの授業に興味を引かれていましたが、常に閉塞感や何かが欠けているような感じを抱いていました。彼女は当時をこう思い出します。「迷子になったようでした。でも、アーティストなら誰もが通る道だと思います。自分は何者なのか、何を創作したいのか、どんなメッセージを人に伝えたいのかといった類のことです」

Hardyさんがその頃、自身のアイデンティティと切り離した創作を行うようになったのは当然の流れかもしれません。公立高校在学時には、自分のネイティブアメリカンの容貌や価値観の多くを恥ずかしいと感じるようになっていたからです。今は絵の中で讃えたいと思う先住民女性特有の鼻の形や頬骨を気にしていました。

ナバホ族の成人の儀式であるKinaaldáの時は、「なぜ彼女は顔に髪を垂らしているの?どこか悪いの?って訊かれてすごく恥ずかしかった」と振り返ります。

その後、イラストレーションを学ぶためにカレッジに進学しても、ピンとくるものがなかったといいます。「何もかもが嫌になったんです。授業に出るのも、鉛筆を手に取るのも。混乱していたんですね。もう、絵なんて描きたくない、って」。彼女は自分にぴったりの場を探すため、キャンパスを移り、振り出しに戻ります。

「そんなある日、ゴロゴロしながらふと、誰も見ないなら何を描くだろう?と考えたんです。そして、祖母や尊敬するネイティブアメリカンの女性の絵を描きました」。すると、子供の頃のようにすらすらと描けて嬉しくなり、ホーガンや羊、薪割りなど、馴染みのあるものを次々と描き続けたといいます。

こうしてHardyさんは自分のクリエイティブなアイデンティティや技術、メッセージの多くが、彼女の民族の遺産からきていることに気づいたのです。「今ではそのことがよくわかるし、色や質感にはっきりと表れています。ただ、私はそれにモダンで新鮮な解釈を加えたいんです。なので、そこから少しずつ(スタイルを)築き上げて、今に至る感じです」

クレジット:Adobe Stock / Lynne Hardy, Adobe Stock / Lynne Hardy.

並走する仲間

卒業後、Hardyさんはイラストレーションの仕事を得るのは至難の業だとわかりました。「とにかくどこにでも応募しました。結局ピザショップの仕事に就いたのですが、ピザは好きでも、ずっとここには居られない、となって…」。彼女はハワイの大学から、何人かの家族が暮らすユタ州に戻ります。

やがて、姉妹の二人がビジネスを立ち上げようと彼女に持ちかけました。定収入も大企業の組織的な支援もなく、自分たちですべての責任を負わなければならず、当初の見通しは恐ろしいものでしたが、最終的に、相互援助、勤勉、自らの技能で生計を立てること、という彼女たちが育った環境の価値観こそが、起業に必要なものだとわかったのです。

「社名はAjoobaasaniといいます。「グレーの山から来た女性たち」という意味です」と誇らしげに話すHardyさんは、姉妹のJennaさん、Leahさんと共に、現代のネイティブアメリカンの暮らしを題材にしたカードや塗り絵、コミックブックの制作のほか、デザインや工芸品などを手掛けています。

自分のビジネスを持つのは容易ではありませんが、彼女はそこに祖母から学んだ自立や自由との類似点を見出しています。それは、Hózhóが示す自由、平和、調和のようなもので、この言葉にある歩くという行為は、文字通りの行為であり比喩でもあります。

「祖母ならこういうでしょう。どんなことにも備えておくこと。緊急の事態が起きたら、子どもを連れて、必需品を持って、どこへでも走っていけるように。とにかく走るんだよ、と」。彼女は次のように振り返ります。「祖母がいかに強くて敏捷で、そして自由だったか、今でも覚えています。だからきっと私たちの祖先も、驚くほどの距離を走り、体を鍛え、そして大切にいたわっていたのだろうと思いますね」

Hardyさんは今、熱心なランナーであり、いつでも準備はできています。

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この記事は2022年3月23日に Malcolm Thorndike Nicholson により作成&公開され Artist Lynne Hardy’s illustrations honor her family’s Navajo past, present, and future の抄訳です。