看板の揮毫から生まれた毛筆書体で日本語の文字表現を豊かに変える昭和書体|Adobe Fontsパートナー紹介05
文字に豊かな表現力を与えるフォントは、クリエイティブには欠かせない道具のひとつです。アドビが展開する「Adobe Fonts」は、グラフィックデザインやweb、動画といったさまざまなフィールドでフォントをより自由に使えるようにするクラウドサービスで、2022年6月現在、600を超える日本語フォント、Adobe Fonts全体で2万以上のフォントを利用することができます。
この記事では、Adobe Fontsに参加する170を超えるフォントメーカーのなかから、一社をピックアップし、歴史や特徴、オススメのフォントを紹介していきます。
看板からフォントの世界へ。揮毫の技術を未来につなぐ
今回、紹介するフォントメーカーは昭和書体です。
表情豊かな毛筆文字は印刷物のみならず、ゲームやアニメの世界でも幅広く利用されており、いまは日本語デザインに欠かせない存在といっても過言ではありません。
その魅力は何といってもフォントとは思えない、まるで手書きのような文字と質感、そして書体ごとの世界観を感じさせる造形。ひとたび、昭和書体の文字を使えば、それだけでデザインに迫力、インパクトが生まれるのです。昭和書体の文字はなぜ、人の目を惹きつけてやまないのか。その理由を昭和書体の歴史から紐解いてみましょう。
現在でこそ毛筆系フォントのトップメーカーとして知られる昭和書体ですが、もともとは鹿児島で看板業を営んでいました。
いまのように多種多様なフォントで文字が打ち出せなかった時代、看板の文字はすべて手書きでした。荒々しい筆文字を書くこともあれば、流麗な文字を求められることもあり、読みやすさが必要となればゴシック体・丸ゴシック体のような文字も書く……看板職人にとって、さまざまな書風をいかに書き分け、人の目を惹きつける看板を作れるかは腕の見せどころだったのです。
しかし、技術の進歩とともに看板業界も手書きからフォントによる出力へと変わり、力のある看板文字を毛筆で書ける職人もまた、徐々に数を減らしていきました。
“このままでは看板の文字を書ける人がいなくなってしまう”
危機感を募らせた坂口茂樹さん(昭和書体・現会長)は、2006年、毛筆文字を得意とした看板職人の父・綱紀栄泉さんの文字をフォント化することを決意。フォント制作未経験という状況から「看板楷書」「看板行書」を作り上げました(のちの昭和楷書・昭和行書)。
左:綱紀栄泉さん 右:初のフォント製品「看板楷書」
この2つのフォントが資材会社を通じて全国の看板業者に販売されると、坂口さんの予想を超える成果をあげ、さらに翌2007年にはコーエーテクモゲームスの人気シリーズ『真・三國無双』がゲーム画面に使う文字としてこのフォントを採用。看板で培われた“魅せる”文字の力は、ジャンルを超えた広がりを見せていったのです。
綱紀栄泉さんの文字を、息子の坂口茂樹さん、孫の坂口太樹さん(昭和書体・現社長)がフォントにする……親子三代が力を合わせ、これまで作り上げた書体は64にも上ります。
特筆すべきはそのバリエーションの豊富さです。昭和書体では楷書、行書から勘亭流、寄席文字といった伝統的な書風のみならず、数多くの毛筆系デザイン書体をも展開しており、荒々しい文字、優雅な文字、繊細な文字、ポップな文字等、実に多種多様です。
綱紀栄泉さんがこれほど幅のある書風を見事に使い分け、1書体あたりおよそ7000の文字を自らの手で書き上げたこともまた、驚くべき偉業と言えるでしょう。
左:文字を書く綱紀栄泉さん 右:フォントの元になる原字
綱紀栄泉さんは2022年3月14日、この世を去りました。
しかし、綱紀栄泉さんが遺した文字はフォントを通していまも、そしてこれからも世界中の印刷物やスクリーンに息づいています。その文字には、看板職人として文字と向き合い続けた綱紀栄泉さんの矜持、想いが込められているように思えてなりません。
Adobe Fontsで利用できる昭和書体の書体は2書体。数は多くありませんが、そのために揮毫したかのようなリアルな毛筆文字が必要なときには、必ず力を発揮してくれるでしょう。
https://fonts.adobe.com/foundries/showashotai
力強さも優雅さも。昭和書体の毛筆文字
Adobe Fontsで提供されている昭和書体の書体「黒龍爽」「心龍爽」を紹介しましょう。
「黒龍爽」は、龍が暗雲立ち込める空を荒々しく漂うさまをイメージして作られた筆書系デザイン書体です。太い線と細い線が織りなすコントラストが文字に一層の躍動感を与えています。ダイナミックな筆遣いながらも、文章として組んだときの可読性も高く、看板やポスター、パッケージ等、幅広い用途で使うことができます。和のテイストを加えたいときにはもちろん、インパクトのあるデザインに仕上げたいときにも「黒龍爽」は最適です。
黒龍爽 https://fonts.adobe.com/fonts/kokuryu
「心龍爽」は力強く、荒々しい「黒龍爽」に対し、お手本のような毛筆細字の書体として作られました。整いすぎず、あくまで自然に書かれたその文字は、挨拶文のような短文から長く読ませる文章まで、さまざまな活用ができます。メッセージに温もりを与えたい、手作り感を加えたい、優雅な印象に仕上げたい……「心龍爽」はそうしたシチュエーションにふさわしい書体です。
心龍爽 https://fonts.adobe.com/fonts/shinryu
昭和書体では、Adobe Fontsで利用できる「黒龍爽」「心龍爽」のほかに、「黒龍」「心龍」というフォントもリリースしています。
基本的な文字のかたちは同じですが、墨のにじみまで忠実に再現した「黒龍」「心龍」に対し、「黒龍爽」「心龍爽」では墨のかすれを抑えて線を整理することで、出力の負荷を低減し、カッティングプロッタ等でも使いやすいフォントデータになっています。このアウトラインをシンプルにリメイクした書体は「爽シリーズ」と呼ばれ、2022年6月現在、24書体が販売されています。
左:黒龍 右:黒龍爽(Adobe Fonts)
英語併記でも使いやすい!毛筆文字+欧文書体パック
ときに荒々しさを、ときに優雅さを表現する、昭和書体の毛筆文字。
今回は、「黒龍爽」「心龍爽」に加えて、文字のイメージのフィットする欧文書体をパックとしてまとめました。日本語、英語、いずれにも筆の質感を与えて、統一感のあるデザインに仕上げましょう。
- 黒龍爽
- Six Hands Brush
- Banshee
- Timberline
- 心龍爽
- Epicursive Script
- Olicana Smooth
Adobe Fontsでフォントパック「毛筆文字+欧文書体パック」を見る
https://fonts.adobe.com/collections/brush-handwriting
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Adobe Fontsで昭和書体のフォントを見る
https://fonts.adobe.com/foundries/showashotai
昭和書体
web|http://www.koueisha.ecnet.jp/