Trend & Illustrations #12/吉岡ゆうこ氏が描く「Centered Self 」Adobe Stock ビジュアルトレンド

立つ, 女性, 鳥 が含まれている画像
自動的に生成された説明

「癒しの小鳥―自分の手のひらに座り、小鳥に見守られながら癒されている女性」。普段はイメージを限定させすぎないタイトルをつけている吉岡さんだが、Adobe Stockのためのものなので具体的な言葉を選んでいる。

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析し、トレンド予測をトレンドレポートとして毎年発表しています。

東京イラストレーターズ・ソサエティの会員イラストレーターがビジュアルトレンドのテーマを描く人気のブログシリーズ。第12回目のテーマ「The Centered Self」を、洗練された人物像を特徴的で美しいフォルムで描く吉岡ゆうこさんが描きました。

白い壁の前にいる女性
自動的に生成された説明

吉岡ゆうこ

東京生まれ、東京在住。
武蔵野美術大学短期大学部空間演出デザインコース卒業。
PALETTE CLUB第1期~3期イラストコースを経て、主に女性誌・広告・書籍・企業PR誌などで活動。「エレガントな女性・男性像、ユーモアとウィットに富んだイラストレーション」をモットーに制作している。
主な仕事に共著本『絵で楽しむフランス語[会話フレーズ]』(学研プラス刊)、東急百貨店広告各種広告媒体(2002年〜2015年)など多数。現在PALETTE CLUB講師。

https://www.atelier-fabrique.jp
https://www.tis-home.com/Yoshioka-Yuko/

今の自分がもっとも共感できるテーマ

Q:2022年のビジュアルトレンド「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」、「The Centered Self(自分自身を中心に)」、「Prioritize Our Planet(この地球を最優先に)」、「in the groove」の中から、セルフケアや癒しなどを意識したテーマ「The Centered Self」を選んだ理由を教えてください。

ビジュアルトレンドの内容を説明していただいた中で、一番自分に向いていると思い、迷わず決めました。コロナ禍になって、自分自身を見つめ直す機会が多くなってきましたし、フリーランスなので、基本的には孤独というか、1人で全部やらなきゃいけない。その点でも自分を大切にしなければという気持ちも高まっていて、今の自分自身にグッときたといいますか。一番共感しやすいテーマだったんです。

Q:どのようにビジュアル作りをされてきましたか?

「自分自身を癒す」ということ、そして「手当」というキーワードが浮かびました。手のひらや指先などを患部に当てて身体の不調を治そうとする手当て療法というのがありますよね。子供の頃、具合が悪かったり寝付けなかったりした時に母に背中をさすられるととても安心しましたし、大人になってからも信頼している人に軽く背中をトントンと叩かれるとスーっと気持ちが楽になったり。そういう経験は誰しもあると思います。 仕事柄、肩や首が凝りやすいので整体にも行きますが、そこでも手技が大切ですよね。

私はメイクがとても好きで、メイクアップアーティストの方のYouTube番組をたまに見るんですけれど、プロの方々は手のひらを駆使されているんです。プロにメイクをしていただいた時に、メイクする前に手のひらで温めてくれたのがすごく気持ちが良くて。人間の手ってこんなに心地がいいんだなと実感しました。人の手というのは身体や気持ちを癒したりする効果があるんでしょうね。

そこで「手」「手のひら」をモチーフにラフを描き始めました。

Q:制作は具体的にどのように進みましたか?

日頃から、罫線の入ってない小さなノートを持ち歩いて、電車の中でスケッチしたり、カフェでアイデアを書き留めたりしています。程よい雑音や他者の目があるといい刺激になって、アイデアが出やすいんです。今回はそのノートにアイデアラフを3点描きました。1点は子供の頃に飼っていて自分にとっての癒しの象徴でもある鳥と女性の組み合わせのアイデア。想像の余地を作るために、あえて後むきの女性を描きました。手のひらの上を飛んでいるような女の子のラフは気に入っていたのですが、癒しというより、元気な印象が強くなりそうで、構図的にちょっと難しいなっていう気がしました。直接手のひらに癒される方がいいんじゃないかなと思い、手のひらの上の女性のラフが生まれました。

3種類のアイデアスケッチ

Q:お釈迦様の手のようでもありますね。

一昨年かな、京都奈良と旅して東大寺で見た仏像の印象も強く残っていたのかもしれませんね。今回のイラストレーションに関しては、手を強調するために複数の手を描こうと思いました。この手は誰の手なのか。自分の手なのか、そうじゃないのか迷ったんですが、「自分自身を癒す」テーマなので、手のひらに乗ってる女性自身の手をイメージしています。

Q:彼女は吉岡さん自身でもあるということですか。

そうですね。自分がつらいとき、自分自身をかわいがることが一番大事だと思うんです。自分自身を癒す、大切にする。私自身が、この絵の彼女自身の手でもあるという感じでしたね。重視したのは形の美しさ。どういう角度だったら手が美しく見えるのかを鏡を見て研究しましたし、人物を手に乗せた時に綺麗な構図になるように意識して描いています。

線画, 抽象 が含まれている画像
自動的に生成された説明

気に入ったアイデアをもとに描いたラフ。

Q:美しさを追求すること自体、癒しにもなりますよね。

その通りです。例えば綺麗な形の靴だとか、洋服だったり、美しい景色だったり、そういうものを見ること、触ることで私自身が癒されていると思えます。

Q:今回の作品の色彩は配色チャートを参考にされているとお聞きしました。

『配色スタイルハンドブック』という、いろんなカテゴリーに分けた配色サンプルがCMYKやRGBの数値で記載されている本があるんです。いつもは参考程度に見るくらいなのですが、今回は色も大切だなと思ったので「Delicate(繊細)」のカテゴリーの配色を調べました。自分が考えられる範囲の中だけで組み合わせるのは表現を狭めてしまうので、参考にしつつ、でも自分にしっくりくる色合いをピックアップしています。

色見本を別レイヤーに置きつつラフを元に着彩する。

鳥 が含まれている画像
自動的に生成された説明

全体の色のバランスを見ながら細かなところを描く。

鳥, 立つ が含まれている画像
自動的に生成された説明

ある程度完成したらアクリル絵具で作ったテクスチャを置き、色のバランスを見ながら細かく調整する。

Q:ちょっとスモーキーな色合いですね。

例えば赤系と緑系の組み合わせとかはハレーションを起こしそうであまり好みではないんです。原色を使うこともほとんどありません。淡い色合いで、CMYKだったら全てに数値が入っている、少し濁った色、グレーを少し足したような感じが好みです。インテリアでよく使われる「シャビーシック」という、アンティークでシックなイメージを表現する言葉がありますが、そういうのが好きで、インテリアの写真集なども参考にしています。

子供の頃から母親に「色の組み合わせがすごく良いから、それを大切に」と言われていました。幼稚園の頃に通っていた絵画教室の先生から、「この子はちょっと独特の感性があるから、大切にしてあげて」っていうふうに言われたようですね。普段の生活では怒られることが多かったですが、絵だけは褒めてくれましたから。

テーブル, 座る, 写真, 食品 が含まれている画像
自動的に生成された説明

エビス化粧品 会報誌『Timely EBiS』。表紙/2021年

時代とともに意識が変化してきた

Q:コロナ禍での変化はありますか?

フリーランスのイラストレーターになってから、20年以上になります。独りが前提の仕事ですから孤独は感じなかったんですけれど、コロナ禍になってから、ごく少数の限られた人にしか会えなくなってしまって、すごく孤独を感じたんです。同業の友達とのたわいのない日常報告や仕事の話をしていたことで実は癒されてたんだというのを実感しました。

同時に自分自身を見つめ直すきっかけになって、新しい表現をしたいという気持ちが高まって、昔作っていた立体を作ってみたり。仕事に忙殺されて余裕がないとできなかったものが少しずつできているような気がします。

Q:仕事のやり方で変わったことはありましたか?

コロナ禍前から、対面の打ち合わせはほとんどなかったので、仕事のやり方での変化はほとんどないですね。

コロナに直接関係ないのですが、ここ数年、自分自身の表現の方向が徐々に変わってきました。これまでは女性向けのコスメやアパレルなどの仕事の割合が大きいため、女性を描くことが多かったんですが、こういう業界は入れ替わりが激しいですし、流行もあるので長期的に仕事をするのが難しい部分もある。それで仕事がちょっと少なくなってきたかなあと感じることが7、8年ぐらい前にあって、モチーフの幅を広げようと、年配の方や子供を描くようにしたら、不動産関係や医療系の仕事が増えて分野が広くなりましたね。

テキスト が含まれている画像
自動的に生成された説明

大阪市中央復権コンサルタンツ 中之島モダンシーン。メインビジュアル/2021年

Q:女性以外のものを描くことには違和感なく移行できたのでしょうか?

そうですね。2016年に『絵で楽しむフランス語』という本の仕事で、全ページに渡ってイラストレーションを描いたんです。会話の本ですから、さまざまなシチュエーションや老若男女、風景や食べ物まで描かなくてはならなく、それが自信につながりました。編集の方には本当に感謝ですね。

Q:吉岡さんの作品はオシャレで品が良いと感じられますが、作品作りで気をつけてらっしゃるところはどういうところですか?

全ての人を傷つけずに済むようにというのは無理かもしれませんが、誰が見ても不快にならないようにということは意識しています。今は多様性の時代なので、女性を描く時でも、痩せて綺麗な女性=正義という型に嵌めたくないというか。ちょっとふくよかな女性を描いたり、多様な人物を描きたいと思っています。

Q:仕事自体もそういうニーズが高まっていますか?

それはまだちょっと難しいところですが、時代の変化の中で自分の意識も変わってきたので、今後はできる限り、その意識を持っていたいと思います。

そして受注の仕事だけだとやっぱり先細り感もあるので、自分でグッズを作って販売するようなことも考えたいです。キャリアがちょっと長くなってきちゃったのですが、焦らずゆっくり構えて、できる限り長くイラストレーターでいたい。現役の諸先輩方がたくさんいらっしゃるのは希望ですね。私が目標にしているのが、上田三根子先生。仕事だけでなく、生き方含め、憧れの女性です。

いかがでしたでしょうか?洗練された雰囲気と優しさが伝わる吉岡さん作品は「プレミアムコレクション」としてご利用いただけます。プレミアムコレクションをはじめとする写真やイラスト、ビデオ作品は、クレジットパックをご利用いただくことでお得にお求めいただけます。購入プランに関してはこちらを御確認下さい。また、Adobe Stockでは皆様からの作品も受け付けております。コントリビュータープログラムの詳細はこちらを御覧ください。