セミナーレポート:行政書士が押さえるべき電子契約/電子サインの基本とは?
コロナ禍で脱ハンコが進み、行政書士の方々の間でも電子契約や電子サインに注目が集まっています。そんな行政書士の方々を対象に、2022年1月13日、神奈川県行政書士会横浜中央支部主催で電子契約/電子サインをテーマとする専門セミナーが開催されました。
本セミナーの講師として招かれたアドビ デジタルメディア ビジネスマーケティング マーケティングスペシャリストの島田昌隆は、紙のデジタル化の歴史や電子契約/電子サインの基本について講演を行いました。
行政書士からの注目が急増する電子契約/電子サイン
会社定款の作成や自動車の登録、車庫証明の手続き、売買や賃貸の契約書作成など、文書の作成や諸手続きが必要なシーンは生活において数多くあります。そんな文書の作成から手続きまで、法律に基づいて適正に進めていくのが行政書士の仕事です。
いま、そんな行政書士の方々の間で注目されているのが電子契約/電子サインです。2021年10月、当時行政改革担当大臣だった河野太郎氏が、「約1万5千の行政手続きのうち、99.247%の手続きで押印を廃止できる」と発言し、押印廃止に向けて動き出しました。実際に同年(令和2年)12月には内閣府から「地方公共団体における押印見直しマニュアル」が発表されており、今後も多くの公共行政手続きで押印廃止が加速すると見られています。
行政書士の仕事は、文書の作成や諸手続きと深く関連しており、行政書士の業務契約自体もデジタルシフトが進んでいるため、電子契約や電子サインについて知りたいという方は増えています。
2022年1月13日に開催された神奈川県行政書士会横浜中央支部主催のセミナーは、こうした問題意識から進められました。
紙のデジタル化から電子契約に造詣が深いアドビが講演
行政書士の方々を前に、講師として登壇したのはアドビ デジタルメディア ビジネスマーケティング マーケティングスペシャリストとして「Adobe Acrobat Sign」を担当している島田昌隆です。
アドビが神奈川県行政書士会の横浜中央支部からこのセミナーへの協力を要請されたのは、紙のデジタル化技術のデファクトスタンダードであるPDFの開発元であり、ワールドワイドでDXを推進している実績があるためです。また、電子契約や電子サインソリューションを提供し、この分野の知見が豊富と認めていただいたことも大きな理由です。
もちろん実際の行政手続きや文書作成の現場業務については、現職の行政書士の方が専門知識をお持ちです。そこでこのセミナーでは、紙のデジタル化の歴史やPDFの説明からスタートし、電子契約/電子サインの基本とメリット、活用事例にフォーカスして講演を行いました。
紙のデジタル化技術であるPDF
PDFとは1993年にアドビが開発したテクノロジーで、正確にはPortable Document Formatといいます。紙は劣化の可能性がありますが、基本的に現物を持ってさえいれば作り手は作り手が書いた文字やイメージを読み手にいつでもどこでも見せることができます。この紙の優位性を保ったまま、データで書き手と読み手をつなぐのがPDFです。
書き手は文書や図を紙と同じかたちでデータとして保存でき、読み手はパソコンやスマホ、タブレットなど、どのような端末のどのOSで開いても、いつでも、どこでも、同じイメージで文書を閲覧・表示できます。「PDFとは、紙と同じように書き手と読み手をつなげる紙のデジタル化技術であり、ある意味コミュニケーションツールである」と島田は語りました。
意外と知られていないのですが、実はPDFではテキストや画像だけでなく、動画や3Dのデータを埋め込むことができます。またPDFファイルには、暗号化や電子サイン、タイムスタンプ、アクセスコントロールなどのセキュリティ機能や制御機能が搭載されているので、安全に文書を保管・閲覧できることも特徴です。紙と異なり物理的な保管スペースを取ることもありません。
PDFを閲覧するソフトを「Adobe Acrobat Reader」といい、PDFを作成・編集・共有・保護するためには「Adobe Acrobat」という別ソフトが必要になります。ちなみにPDFの特長を享受できるのはアドビのPDFエンジンで作成されたPDFファイルだけです。
アドビのPDFエンジンでPDFを作成する方法は複数あります。Acrobatをインストールすると、Microsoft Officeのメニューに「Adobe PDFの作成」というボタンが追加されるので、Officeで作った書類を直接PDF化できますし、または「印刷」機能にある「PDFで保存(Save as Adobe PDF)」を指定してPDF文書を作成することもできます。
そして、電子契約や電子サインの根幹の技術となるPDFの説明の最後に、「アドビのPDFエンジンで作成されていないPDFファイルはウイルスの感染リスクがある。また、レイアウト崩れや文字バグが起き、読み手が参照したい時に正しく表示できない可能性がある。特に契約においては何年後でも正しく閲覧できる状態にしておくことが重要なため、電子契約では正しくPDFを作る必要がある」と島田は話しました。
まずは押さえるべき電子契約/電子サインの基本
このPDF=デジタルの紙を活用し、デジタル環境で契約業務を進めていくのが「電子契約」、デジタル上で署名を行うのが「電子サイン」です。
電子契約も電子サインも、企業活動のプロセスから見たら一部でしかありません(図1)。ですが契約書の作成・編集や承認、契約締結にPDFを使えば、紙のやり取りよりも版管理が楽になるうえ、承認プロセスがスピーディーに進みますし、紛失のリスクもなくなります。
「一旦、このセミナーではわかりやすいように、電子契約は契約プロセスの全体を電子化することを指すと定義します。また、契約プロセスの中の合意・捺印・署名行為のみを電子化することを電子署名と定義してお話します」(島田)
図1 電子契約と電子署名の関係
「実は社会生活においては、契約は口頭で成立します。契約書の作成は、後々のトラブル回避や責任の明確化のために行うもので、『双方の意思表示に瑕疵がないか』『契約書は改ざんされていないか』といったことを担保しなければなりません。そのために、法的に認められた第三者による契約書の作成や、印鑑/電子サインといったさまざまな手段で対応することが必要になります」と島田は説明します。
では、電子サインはどのような機能を持つ必要があるのでしょうか。電子サインの法的有効性は「本人性」と「非改竄性」の2つを満たしていることが特に重要です。
アドビでは「電子署名」「電子サイン」「デジタル署名」については、以下の図のように定義しています(図2)。
図2 電子サインとは(「電子署名」「電子サイン」「デジタル署名」の各用語の定義はアドビの見解に基づくもの)
電子署名とは「本人が署名を行なったことを示す電磁的記録」で、かつ「文書が改変されていないことを確認できるもの」です。そして、その電子署名のカテゴリの中には、電子サインとデジタル署名という2つの仕組みがあります。
そのうちの1つである電子サインは、メールアドレスや多要素認証を通じて本人性の担保を図り、同時に証跡ログを発行して非改竄性の担保を図る「立会人型」の仕組みです(図3)。
図3 デジタル署名(当事者型)と電子サイン(立会人型)の違い
もう1つが、電子認証局により認証された電子証明書を使う「デジタル署名」です。これは「当事者型」と呼ばれ、法的有効性は非常に高いことが特徴です。
この2つの仕組みの違いについて、島田は「誤解をおそれず、電子署名の法的効力をハンコと比較してわかりやすく言うのであれば、電子サインは認印、デジタル署名が実印というイメージです」と説明します。ちなみにAdobe Acrobatでは、“ゴム印”のようなスタンプ機能もあり、社内申請書の承認などに用いられています(図4)。
図4 電子スタンプ、電子サイン、デジタル署名の位置付け
電子サイン導入、成功のポイントとは
電子サインを始めるには、まずAdobe Acrobat Signのような電子サインソリューションが必要です。そして依頼人(ご自身ならご自身の)メールアドレス、受取人のメールアドレス、それに電子サインを依頼したい文書(ドキュメント)の4つを最低限用意しなくてはなりません。
Adobe Acrobat Signの場合、署名を依頼するPDF文書から受取人のメールアドレスを指定し、署名を依頼できます。また、上長以上の署名を求める場合は、受取人が文書の確認・署名を上長へ委任(転送)できる機能も備えており、署名担当の人に正しく署名をしてもらえるように制御することも可能です。またPDF文書へのアクセスログや署名のログなども保存されているので、非改竄性も保証できます。
なお、電子サインソリューションはAdobe Acrobat Sign以外にもさまざまなベンダーから提供されていますが、月額利用料金は無料~数十万円というところが多いです。また単純に、ハンコを電子的に押すという機能だけを見るとベンダー間に大きな差はありません。
アドビでは、Adobe Acrobat Proをサブスクリプション契約すると、電子サイン及びデジタル署名の機能を利用することができます。これは、ユーザー管理などの機能はなく、個人向けのため、まさに個人事業主の行政書士にはぴったりです。
なお、ユーザー管理機能やシステム連携機能が必要となるような個人事業主ではない法人では、Adobe Acrobat Proではなく、Adobe Acrobat Signを利用することをアドビではおすすめしております。
電子サインの導入に当たっては、ご自身で対応業務やフローを決め、押印規定や承認規定を定める必要があります。また成功のコツとして、「電子サインを一気に全業務に展開するのではなく、まずは雇用契約やNDAなど導入しやすい分野から少しずつ広げていくほうが良いでしょう。ただ、目先だけでなく、例えば『基幹システムとの連携を見据える』といった中長期的な全体設計も重要です。そうでないと、数年後に連携などを含めた導入を拡大するときにあらためて電子サインベンダを選定しなおす、押印規定を作り直すといった車輪の再発明が起きてしまうからです。」と島田は話します。
▼電子契約導入ガイドはこちら
電子サインが利用できないシーンもあるので注意
電子サインは基本的な営業関連契約やNDA、業務委託契約などに利用できますが、相手の承諾が必要となるケース(建設請負契約や下請け事業者に対する受発注書面など)、または利用できないケースもあります。利用できないケースとしては、定期借地契約や定期建物賃貸契約など不動産契約に絡むもの、または訪問販売等特定取引における交付書面があります。
最後に島田はAdobe Acrobat Signの導入事例として、住宅ローンの締結プロセスを電子化したソニー銀行や、社外との取引契約にAdobe Acrobat Signを活用しているパーソルホールディングス、不動産管理業務の契約手続きを電子化したアットホームの事例を紹介しました。「いずれも業務効率化やコスト削減を実現しており、契約件数の増加や本業への集中など高い成果が出ています」(島田)。
電子契約/電子サインに関する疑問はアドビにお任せ
電子サインや電子契約は、まさにいま導入が進んでいる仕組みであり、社会的にはまだ標準ではありません。参加した行政書士の方々からは、「無権代理人に押印されないようにするにはどうすればいいか」「電子契約では印紙代がかからないといわれているが、金額によって印紙が必要になるケースもあるのではないか」といったように、実際の法解釈や具体的な利用シーンを想定した質問が飛びました。
今回のセミナーでは、実際に参加者の方にAdobe Acrobat Signを試してもらうため、電子サイン付きアンケートを実施しました。話で聞くだけでは、なかなか仕組みや利用イメージが想像しにくい電子契約/電子サインですが、1回使ってみると「意外と簡単でスピーディー」という声が聞かれます。
Adobe Acrobat Signの仕組みやAdobe Acrobatとの関連など、話だけでは理解しにくい点もあります。Adobe Acrobat Signや文書のデジタル化、電子契約にご興味があれば、詳しくご説明いたしますので、ぜひアドビまでお問い合わせください。
(終)
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