街の魅力を自らの手で発信。Adobe Creative Cloudによる内製化で変わる自治体広報の現場
さまざまなメディアを活用した情報発信が求められるいま、自治体や企業、個人経営の店舗等、多くの現場でクリエイティブが必要とされています。
デザインやレタッチ、動画制作は、プロに頼まないとできない……そう思う人も多いのではないでしょうか。しかし、こうした既成概念を打ち破り、コスト削減だけでなく、独自のコミュニケーションを作り上げることに成功した自治体があります。ここでは、Adobe Creative Cloudグループ版導入によって市の広報業務を内製化した、埼玉県・北本市、愛媛県・内子町、青森県・むつ市の事例を紹介します。
*この記事は2022年7月20日に開催された月刊『事業構想』×アドビ セミナー「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」オープニング「自治体広報の内製化の実態を徹底トーク」をもとに構成されています。このトークセッションは、全国広報コンクールで日本一の内閣総理大臣賞受賞等、数々の入選を経て起業し、多数の自治体で広報アドバイザーを務める佐久間 智之さんと各自治体担当者3名による座談会形式で開催されました。
左からPRDESIGN JAPAN株式会社 代表取締役 佐久間 智之さん
埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん
愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
青森県・むつ市 企画政策部市民連携課広報グループ主任主査 鎌田 隆夫さん
InDesignで“想いが伝えられる” 広報誌づくりを
1つめの事例は埼玉県・北本市です。
北本市では、2021年度からAdobe InDesignを使用した広報誌の内製化をスタートし、現在では秋葉さんを含む2名の専任者で毎月32ページの誌面を制作しています。
内製のきっかけとなったのは、制作費削減の声でした。当初は“プロと同じようにはできない”と足踏みをしていましたが、他の自治体が内製した広報誌に触発されて少しずつデザインを学び始め、“これなら広報誌も作れる”という感触を掴んでからInDesignへと移行しました。
「InDesignを使う前はOfficeアプリで完成イメージに近いものを作っていたのですが、InDesignを使ってみるとテキストひとつとっても、同じことが簡単にできるようになりました。いま、Officeアプリで作っていたレイアウトを見返すと、“本当によくやっていたな”と自分を褒めたくなります(笑)。すぐ印刷できるデータが自分たちで作れるようになったことで、入稿スケジュールも後ろ倒しにすることができました」(秋葉さん)
「広報きたもと」は北本市のwebから閲覧・ダウンロードが可能
InDesignにはページレイアウトソフトならではさまざまな機能がありますが、なかでもレイアウトをテンプレート化できる「マスターページ」機能は、広報誌制作でも欠かせないものになっています。
「たとえば“お知らせ”のページを作るのに、毎回、真っ白なページから作っていくのは大変です。そのとき、“お知らせページは横16文字の横書きで3段組み”というようにマスターページを作っておけば、安定してページを作ることができますし、自分以外の職員が作業をするときも同じように誌面を作ることができます。いろいろなページのマスターを作っておけば、そのぶん応用ができるので、広報誌制作には非常に便利な機能ですね」(秋葉さん)
Adobe CCによる広報誌の内製化によって、秋葉さんはどのようなメリット、変化を感じているのでしょうか。
「内製化のメリットは2つあると思っています。
ひとつはコスト削減。内製化したことで広報誌の制作費はほぼ半分になりました。
もうひとつはやはり“想いが伝えられる”ということです。想いというのは私たち作り手の想いでもあり、取材を受けていただいた市民の方の想いでもあります。この想いを誌面で伝えるためのあらゆるアイデアを、自分自身で実現できることが、広報誌内製化の一番大きな意味なのではないかと思っています」(秋葉さん)
内製前・後の比較。レイアウトにもリズム、動きが生まれ、いきいきとした誌面に
Lightroom Classicで“少しでも印象に残る”写真に仕上げる
2つめの事例は愛媛県・内子町です。
内子町では2007年度から内製化をスタートし、現在ではInDesignによる広報誌制作を実現。さらにAdobe PhotoshopとAdobe Photoshop Lightroom Classicによって仕上げた写真を広報誌だけでなく、Instagramで公開することで、より多くの人に街の魅力を伝える取り組みを実施しています。
“ふるさとの香りがする広報誌”を目指す兵頭さんにとって、内製化は街との距離、人との距離を縮めるために必要な選択肢でした。
「この桜は今年(2022年)の写真なのですが、コロナが少しやわらいで、小さな子どもたちが桜を見に来るようになったということをダイレクトに表現したいと思って撮ったものです。
このような写真は季節ごとに街に出て、いろいろな人を取材しないと撮ることができません。しかし、内製化以前はレイアウトや構成のやりとりに時間がかかってしまい、街に出て写真を撮ることもできませんでした」(兵頭さん)
「広報うちこ」2022年5月号より 内子町のwebから閲覧・ダウンロードが可能
写真に潜む物語をより際立たせるために、そしてより被写体を魅力的に見せるために、兵頭さんはPhotoshopとLightroom Classicを活用しています。
「写真を撮るときも、レタッチをするときも、どうすれば読者に伝わるか、見てくれる人に伝わるかということを常に考えています。撮影した写真を見たままではなく、見てほしい印象にする、少しでも印象に残るようにする、そのための工夫をLightroom Classicでしています。
そのためにも、あとでレタッチをすれば出てくるだろうなということを計算して撮影をしています。たとえば、この写真はNDフィルターを使わずに太陽の方に露出を合わせて撮影し、Lightroom Classicの現像処理で仕上げています。いまのLightroom Classicは空だけを選択して露出を変えることも簡単にできるのがすごいですね」(兵頭さん)
内子町ではこれまでのInDesignデータはすべて保存されており、誌面をテンプレート化しておくことで、個々人のスキルに頼りすぎることなく、内製化を継続しています。
「レイアウトが同じでも写真が違えば誌面の印象も変わります。レイアウトそのものに時間をかけなくても、写真と文字に時間をかければ十分いいものができると考えています。
広報の仕事にはいろいろな要素がありますが、担当それぞれがカメラの使いかたやレタッチのしかたを身につけていくことで、ほかの職員とはまた別の存在になることができます。属人化しないことも大切ですが、写真とレイアウトを個々人で自由に伸ばしていくことも大切なことだと思っています」(兵頭さん)
魅力的な写真で街と人を伝える兵頭さんが感じる、Adobe CCによる内製化のメリットは何なのでしょうか。
「“伝えたいものを自分で表現できるようになる”というのが内製化の一番のメリットだと思います。Lightroom Classic等を使った内製化によって、時間がうまく使えるようになり、空いた時間でまた別のことができるようになる。それがAdobe CCの魅力ですね」(兵頭さん)
内子町のInstagramページ https://www.instagram.com/uchikoto_official/
Premiere Proで動画制作効率が向上、収益化も達成
3つめの事例は青森県・むつ市です。
むつ市は2020年1月、市長自らが登場するYouTubeチャンネル「むつ市長の62ちゃんねる」を開設しました。Adobe Premiere Proを使って映像制作を内製化したことで、動画製作にかかる時間を大幅に削減し、2022年7月時点で300本を超える動画を投稿。収益化をも達成したことで、情報を多くの人に届けると同時に市の収入にもつなげています。
広報担当4名のうち、動画担当は鎌田さん1名のみ。それでもこれほど多くの動画を投稿できた背景には、Premiere Proの採用が大きく貢献しています。
「Adobe CCを導入したのはYouTubeチャンネルを開始して半年後の2020年7月です。それまでは別の動画編集ソフトを使っていました。しかし、YouTubeや動画編集について調べていると、解説動画のほとんどがPremiere Proに関するものだったため、ソフト自体をPremiere Proに切り替えることにしました。
YouTubeのなかにはPremiere Proの使いかたを教えてくれる方がたくさんいらっしゃるので、無料でいろいろな技術を学ぶことができます。動画によってはエフェクトのテンプレートも用意されており、そうしたものを活用していくことで、それまでのソフトでは限界だと感じていた点を簡単に突破することができました。
それまではどれほどがんばっても、1週間で2本しか作れませんでしたが、Premiere Proは導入したその週から3本作れるようになりました。いまは、“むつ市って素敵だな”と思ってもらえるような編集をすることを心がけています」(鎌田さん)
「むつ市長の62ちゃんねる」 https://www.youtube.com/c/mayormutsu62channel
Premiere Proに搭載された便利な機能が思わぬところで役立つこともあると、鎌田さんは話します。
「Premiere Proには自動字幕という音声を自動でテロップにしてくれる機能があり、2、3分であっという間にすべてのテロップが完成します。この機能を目当てに別の部署から、“ICレコーダーで撮ってきた会議録の文字起こしをしてほしい”と頼まれることもあります(笑)」(鎌田さん)
むつ市の動画制作を一手に引き受ける鎌田さんが、Adobe CCを使った動画制作の内製化に感じるメリットとはどこにあるのでしょうか。最後に聞きました。
「外注すれば何10万とかかる動画を内製化できれば、なによりも予算削減につながります。たとえ予算がなかったとしても、自分たちでコンテンツを作り、SNSを通じて発信をしていくことで、すばやい事業展開が可能になるとも思っています。
Premiere Proを使って動画を公開するようになってから、広報を通じた住民の方々の反応がすごくよくなっているということを実感しています。Adobe CCを導入したことで、いままでできなかったことも簡単に乗り越えていくことができるようになりました」(鎌田さん)
Premiere Proの自動字幕機能でテロップ制作を効率化
コミュニケーションの方法が多様化するなかで、自治体もまたさまざまなメディアを活用して、自らの情報発信を行なっています。ここで紹介した3つの事例は、いずれもAdobe CCによる内製化によって、コストを削減しつつ、より街とのつながり、人との結びつきを強めた例と言えるでしょう。
自治体によるAdobe CC活用法を紹介するセミナーを開催
埼玉県北本市、愛媛県内子町、青森県むつ市の各自治体は、Adobe CCをどのように活用しているのか。より具体的かつ実践的な内容を紹介するセミナーが開催されます。
自治体や企業で広報誌、SNS向け写真、動画制作等の内製化を検討している方のご参加をお待ちしています。
月刊『事業構想』×アドビ セミナー
認知度・訴求力向上の秘訣を事例ベースで解説する自治体向け実践講座
「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」
講座概要・お申し込みは こちら から(参加無料)
第1回「広報誌のクリエイティブ内製化」
[日時]2022年8月3日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん
おもにInDesign を活用した、広報誌制作の内製化について解説。アドビツールの経験がないなかからスタートして、広報誌制作にInDesign をフル活用するまでに至った過程でのポイントや活用方法を中心にご紹介します。
第2回「広報誌・SNS 活用のための写真術」
[日時]2022年8月24日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
広報誌やSNS を活性化させるための写真術について、詳しく解説。Lightroom Classic による活用方法を紹介しながら、写真に注目したことや読まれるため、見られるための工夫についてお話いただきます。
第3回「SNS 向け動画編集の内製化」
[日時]2022年9月21日(水) 13:00-14:00
[登壇者]青森県・むつ市 企画政策部市民連携課広報グループ主任主査 鎌田 隆夫さん
[スペシャルゲスト]青森県むつ市 市長 宮下 宗一郎さん
むつ市が実践しているSNS、YouTube「むつ市長の62 ちゃんねる」の取り組みや制作について、宮下宗一郎むつ市長に直接ご紹介いただきながら、SNS 発信のポイント、Premiere Pro を採用した経緯や活用方法について、詳しく解説します。