【特別コラボ】原田 智氏×アドビ|進む自治体のDX、紙の利便性を損なわず、安全な文書保管・公開を実現する唯一のPDF-Adobe Acrobat

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2026年までに国を上げて地方自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めることを表明した総務省。これを受け、急速に高まっているのが地方自治体のデジタル施策です。そうしたなか、注目を集めているのが2000年代の早くからデジタル化を進めてきた京都府です。事業構想大学とアドビが共同で開催した自治体向けセミナーでは、京都府のデジタル化を推進した公益財団法人京都産業21 DX推進監 兼 CISOの原田智氏を招き、自治体DXの取り組みや紙のデジタル化に関する課題についてお話しいただきました。

もくじ

  • 自治体のDXはなぜ必要なのか
  • 自治体業務の生産性をデジタルで向上させるには
  • 予算要求から決算までを一気通貫でデジタル化した京都府のDX
  • 紙文書のデジタル化で残る課題、「長期保管」と「情報公開」
  • PDFなら安全・安心な情報公開を実現できる
  • 紙文書のデジタル化で業務改革も実現

自治体のDXはなぜ必要なのか

これまで地方自治体や行政の現場といえば、民間に比べてIT活用や業務のデジタル化が遅れているといわれてきました。そんな地方自治体が令和2年12月に策定された「自治体DX推進計画」を踏まえ、大きく変わろうとしています。

こうしたなか、改めて注目されているのが京都府です。京都府は2004年からデジタル化を推進し、府内市町村と京都府が共同利用できるネットワーク基盤やITシステムの構築を進めてきました。このプロジェクトを統括していたのが、京都産業21 DX推進監 兼 CISOの原田智氏です。

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公益財団法人京都産業21 DX推進監 兼 CISO原田智氏

原田氏は自治体のDX化の必要性について、次のように説明します。

「1995年をピークに生産年齢人口が減少を続けています。だんだんと優秀な人材の採用が難しくなり、地方や自治体の労働力が不足するなか、現在の行政サービスを維持していくことは困難になるでしょう。とはいえ、住民の方もこれまで受けていた行政サービスがなくなることは受け入れ難いはずです。これまでと同じサービス水準を維持するために取り組まなくてはならないのがデジタル化、すなわち自治体のDX化です」

自治体業務の生産性をデジタルで向上させるには

デジタル化によってどのように生産性を向上できるのでしょうか。原田氏は(1)テレワークの推進、(2)クラウド化やペーパーレス化などの業務改革、(3)職員の意識改革と行動改革を同時進行という3つの具体策を挙げています。

原田氏が話す「テレワーク」とは、在宅勤務だけでなく、庁舎や自宅から離れたリモートワーク、サテライトオフィスなど、場所にとらわれない働き方のこと。窓口業務など、テレワークできない業務もありますが、責任と成果が明確であり、対面を伴わない業務のなかで可能な範囲でテレワークを推進すれば、移動時間を無駄にせず生産性向上が期待できます。

ただしテレワークを推進して生産性を上げるには、それに応じた環境を整備しなくてはなりません。具体的にはクラウドの活用やペーパーレスなどの業務改革です。行政の仕事は紙文書が多いことが特徴ですが、原田氏は次のように説明してペーパーレス化の意義を訴えます。

「最近の情報収集やニュース閲覧はスマートフォンが主となっていて、紙の内需量は15年以上減少し続けています。日常生活におけるペーパーレス化は急速に進んでいるので、私たち自治体の仕事もペーパーレス化を真剣に考えなくてはなりません」

そして業務改革を進めるうえで、忘れてはならないのが職員の意識改革と行動改革です。原田氏は

「民間企業では電子決裁を導入し、仕事のやり方をドラスティックに変えることで意識改革、行動改革を同時に進めています。意識が変わることで行動が変わり、行動が変わることでさらに意識改革が進むので、セットで取り組む必要があります」

と話します。

こうした改革を実地で進めた具体例が、原田氏が取り組んだ京都府の財務会計業務のDX化です。

予算要求から決算までを一気通貫でデジタル化した京都府のDX

京都府では、行政の予算編成から決算までを一気通貫でデジタル化し、財務会計業務のDXを実現しています。原田氏によると、デジタル化以前は予算要求から決算までの間に膨大な手作業と紙文書が存在し、かなり非効率なやり方だったそうです。そこで統合財務システムと文書管理システムを連携し、予算編成から執行、決算、評価までのプロセスをデジタル化しました。これに合わせ、(1)電子決裁を前提とし、紙決裁を認めないこと、(2)請求書などの添付書類はPDF化し、電子決裁に添付すること、(3)電子決裁の定着を見て会計審査組織を見直すこと、という3つのルールを制定しました。

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京都府の財務会計DXについて説明する原田氏

なぜ財務会計分野をデジタル化したのでしょうか。原田氏は次のように説明します。

「決裁の約8割が会計関係であり、紙ベースで業務を進めていたためさまざまな問題がありました。紙決裁はプロセスが見えず、時間もかかりますし、書類を順番に回議していくため意思決定速度に時間がかかります。決裁のために職場から離れられない、遠隔地から戻らないといけないといった移動の時間も必要になるうえ、物理的な保管場所も限界に来ていました。意識改革や内部統制の実行といった点でも、デジタル化が必要だったのです」

デジタル化に当たり、留意したことも多数あったそうです。たとえば電子決裁に当たっては、請求書等添付書類を電子化する環境が必要ですし、新たな添付のルールも決めなくてはなりませんでした。また決裁定義や決裁者の見直しを行ったほか、デジタル化の効果測定として意思決定速度の向上をKPIとして設定しました。これに加え、会計審査の新たなルール作りなどにも取り組みました。

紙文書のデジタル化で残る課題、「長期保管」と「情報公開」

一連の取り組みを経て原田氏は「電子決裁の実現により、DX化は進みましたが、それによって見えてきた課題もあります」と打ち明けます。

「1つは紙決裁の優位性です。紙文書はパッと見た瞬間にどれくらいの分量があるのかわかりますが、デジタルではそこが見えにくいのです。また文書の修正指示がわかりやすいのも紙の特徴です。デジタルの場合、良かれと思って上司がその場で修正してしまうと、部下はどんな理由でどのように修正したかわからなくなるので、知見が得にくいといった課題があります」

財務会計電子決裁化の懸念点として、デジタルドキュメントの長期渡る見読性があげられる

そしてこうした業務上の課題以上に懸念されるのが、情報公開への対応です。

「近年、役所の文書公開で問題が続き、改めて住民の『知る権利』がクローズアップされています。将来、デジタルの仕様変更があり公的文書が読めなくなると、知る権利を侵害することにもなりかねません。また、個人情報を含む文書については黒塗り対応で部分公開せざるを得ませんが、いい加減な黒塗り画像を重ねても、印刷すると浮き出てくる可能性もあり、意図しない情報漏えいにつながりかねません。こうした懸念を乗り越え、20年を超えて保存・公開される歴史文書を実現していくことが現在の課題です」(原田氏)

ただ、こうした課題を鑑みても、DX化はすべての自治体が取り組んでいかなくてはならないものです。「昨今、財務会計の電子決裁に取り組まれている自治体が多いと聞いていますが、ぜひともその取り組みを進めていってください」と原田氏はエールを送りました。

PDFが自治体文書の長期保管に有効な理由

原田氏の講演に続き、自治体DXにおける文書のデジタル化とその効果、セキュリティ対策について、アドビのシニア ソリューションコンサルタント・永田敦子がデモを交えながら講演を行いました。

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アドビ シニア ソリューションコンサルタント 永田敦子

永田はまず原田氏に、「自治体DXにおける紙文書のデジタル化では『長期保管』と『情報公開』という2つのポイントが明示されましたが、改めてここで留意すべきことを教えてください」と尋ねました。これに対し原田氏は、

「住民の『知る権利』を侵害せず、いかに安全に長期保管と見読性を担保するかが重要です」

と回答します。

この点について、永田は「アドビが開発したデジタル文書フォーマットのPDF、またPDF作成ツールのAdobe AcrobatやPDFビューワーのAcrobat Readerが貢献できると考えています」と述べ、その理由を以下のように説明しました。

「PDFは、環境を問わずに作成者が意図したとおりの情報を共有できる汎用フォーマットです。情報の発信者である自治体の意図通りに情報を伝えられるので、多くの官公庁や自治体で情報共有インフラとして活用されています」

PDFは紙をデジタルに置き換えることを想定し、アドビが開発した文書フォーマットですが、現在では仕様を完全公開し、 ISO32000-1として国際標準規格となっていますオープン規格のためさまざまなベンダーからPDF作成ツールが提供されており、自治体だけでなく一般企業や教育の現場でも普及していますが、注意が必要な点もあります。

「多くのベンダーからさまざまなPDF製品が出ていますが、なかにはISOに基づいておらず、要件が満たされていないものもあります。アドビが提供するAcrobatとAcrobat ReaderはISOに完全に準拠しており、長期にわたる見読性や保管性を担保しているため、長期保管と安全な情報公開を実現できます」(永田)

もし要件を満たさないPDFでやりとりがなされた場合どのようなリスクが起こるのでしょうか。文字が読めなくなったり、画像が認識されなかったり、大切な情報が正しく伝わらない、後世に残せないといったことにも繋がりかねません。永田によると、他社製のPDF作成ツールで作成したPDF文書では、フォントの埋め込みが正しくなされていなかったため、文字化けを起こして読めなくなった例もあるようです。

ISOに完全準拠したPDFで公文書の長期保管を担保

「PDFの品質は作成時に決まってしまうので、問題が起こってからでは対処のしようがありません。リスクを見越し、平時からしっかりした品質で統一しておくことが重要です」(永田)

PDFなら安全・安心な情報公開を実現できる

自治体デジタル文書のもう1つのポイントである「情報公開」に対し、PDFはどのような形で貢献できるのでしょうか。

原田氏は

「情報公開において、最も懸念すべきは意図しない情報漏えいです。すべてを公開できればいいのですが、個人情報や機密に関わる部分は出せないので、しっかりとした対処が必要です。公開した文書で意図しない情報漏えいが起こると厳しく責任を追求されますし、住民にとっても安心して情報公開できる環境は大切です。この分野は自治体が遅れているところなので、誰がやっても事故が起こらず、安心して情報を公開できる環境を準備することがとても重要になります」

と話します。

紙文書にある機密部分を黒くマーカーしてスキャンし、PDF化して公開するケースもあるようですが、よく見ると透けていたり、画像編集ソフトで文字を浮き上がらせるなどで情報漏えいが起きてしまうこともあります。Acrobatでは、PDF内の塗りつぶしたい箇所に対し「墨消し」を適用すると、文書内の文字や画像を、あとから読み取られることのないよう完全に削除します。墨消しが適用された文字は文書内検索にも引っかからず、復帰させることもできないため、公開文書でも安全に機密を守ることができます。

情報公開が必要なデジタル文書作成の注意点

PDFはさらに、二次利用や改ざん防止のためのパスワード設定や、文書ファイルに含まれる書類作成者などのプロパティデータの削除など、安心・安全な情報公開を支援する機能を備えています。講演では、WordやExcelなど異なるフォーマットの文書をまとめて1つのPDFファイル化し、プロパティの削除や墨消しを行ったり、アクションウィザードを使った1クリックのセキュリティ統制処理を実行するといったデモンストレーションがありました。

机の上のノートパソコンを見ている男性 低い精度で自動的に生成された説明

対談する永田(左)と原田氏(右)

また原田氏はPDFのテキストの読み上げ機能を高く評価し、「高齢の方や障がいを持つ方へも等しく情報公開できるので、アクセシビリティの面でもPDFは優れていると思います」と述べています。

紙文書のデジタル化で業務改革も実現

このようにISOに完全準拠したPDFを活用することで、自治体は長期保管や安全な情報公開を進めることができます。しかし、紙のほうが便利だとされる「修正指示の伝達」や「知見の共有」に対し、PDFではどのように対応できるのでしょうか。

原田氏は「紙決裁には優れた部分があるので、それを否定することなく、デジタルが紙に追いつくことを目指すのがいいのではないでしょうか」という見解を述べます。

これに対し永田は「PDFは紙と同じ見栄えで、紙と同じように使えることを意識して進化してきました。書き込みや付箋、注釈の追加も簡単にできますし、修正コメントはやり取りを保存することもできるので、なぜ修正する必要があるのか、どのような修正が適切なのかといった知見も蓄積できます」と答え、デモを交えて説明しました。

デモでは、Acrobatのスタンプ機能を用いて紙文書と同じように押印で決裁処理を進めることができるといった機能も紹介されました。決裁業務のように、これまで紙文書の承認プロセスを当たり前としていた現場では、このPDFとスタンプ機能を活用することで従来のやり方を変えることなくデジタルに移行できるのです。デジタル化しにくい業務プロセスをデジタル化できるのも、PDFの大きなメリットです。

PDFを活用すれば、紙の直感性を損なわず、紙業務を進めるイメージで業務をデジタル化できます。長期保管や安全な情報公開が担保するためにも、DX化に伴うPDFの活用に際して「疑問があれば、ぜひアドビまでお問い合わせください」と永田は話し、セミナーを終えました。

(終)