InDesignによる広報誌内製化でコスト削減+密なコミュニケーション構築を実現|埼玉県・北本市

自治体のクリエイティブ#2 メインビジュアル

さまざまなメディアを活用した情報発信が求められるいま、自治体や企業、個人経営の店舗等、多くの現場でクリエイティブが必要とされています。
デザインやレタッチ、動画制作は、プロに頼まないとできない……そう思う人も多いのではないでしょうか。しかし、こうした既成概念を打ち破り、コスト削減だけでなく、独自のコミュニケーションを作り上げることに成功した自治体があります。ここでは、Adobe InDesignによって市の広報誌づくりを内製化した、埼玉県・北本市の事例を紹介します。
*この記事は2022年8月3日に開催された月刊『事業構想』×アドビ セミナー「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」実践講座第1回「広報誌のクリエイティブ内製化」をもとに構成されています。

埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん

埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん

1年の準備期間を経てInDesignで広報誌づくりを内製化

埼玉県のほぼ中央に位置する北本市で広報を務める秋葉さんは、広報誌の制作に加えて、SNSやwebサイトの更新等、さまざまな情報発信を担当しています。
広報誌『きたもと』では、市の情報を伝える情報面と、街の魅力を伝える特集面の両面表紙の構成になっており、特集面の記事はすべて市の職員自らが企画から取材、原稿執筆を担当。さらに広報誌全体のデザイン・レイアウトを秋葉さんをはじめとした職員が行なうことで、完全内製化を達成しています。
北本市ではどのように広報誌を内製化したのか、その経緯を聞きました。

「わたしが広報担当に異動してきたときは、オフィスアプリケーションでラフやイメージを作り、印刷会社がデザイン、レイアウトをするという流れで広報誌を制作していました。そうしたやりかたを続けていると、集めた原稿を整理して印刷会社に渡すというところで、仕事が完結してしまうのですが、印刷会社とやりとりをするうちに、ただ原稿を渡すだけでなく、“誌面を通じて何を伝えるのか”“この誌面を通じて、北本に住む人たちにどうなってほしいのか”を考えて作らなければいけない、と思うようになりました。それからは見る人のことを考えて特集を作り、オフィスアプリケーションで自分なりのレイアウトをして原稿を作ることにしたんです」

「広報きたもと」の構成

「広報きたもと」2022年6月号より

誌面制作の内製化は予算の削減にもつながるため、秋葉さんが来る前までにも取り組みを検討したことはあったそうですが、“こんな難しいソフトを職員が使えるのか”“できればやりたいが難しいだろう”という意見もあり、なかなか実現できなかったと言います。
しかし、企画やレイアウト等、広報誌制作に必要なスキルを高めていた秋葉さんは、あとはソフトさえ使えれば内製化ができると考えました。

「広報協会主催のDTPセミナーやInDesignの研修に参加し、InDesignを操作して誌面を作る体験を重ねるうちに、“これなら広報誌制作は内製化できる”という確信を持つことができました。周囲からの後押しもあり、2020年にAdobe Creative Cloudグループ版を導入して環境を整え、1年間の準備期間を設けて、広報誌制作の内製化に取り組むことになりました。
準備期間を設けたのは、InDesignに慣れる必要もありましたし、オフィスアプリケーションとの作業の違い、考えかたの違いを把握する必要があったからです」

「広報きたもと」web

「広報きたもと」は北本市のwebから閲覧・ダウンロードが可能 https://www.city.kitamoto.lg.jp/shisei/koho/koho/3/index.html

北本市では2021年度から広報誌政策を完全に内製化。秋葉さんを含む2名の専任者が担当ページを変えながらすべてのページをレイアウトしています。InDesignによる内製化の効果はどのような点にあったのでしょうか。

「ひとつは予算の削減です。印刷会社にデザインをお願いしていた時期といまを比べると、ほぼ半額の予算で広報誌を制作することができました。これは行政的な成果につながったと思います。
もうひとつは広報職員としての責任、やりがいをこれまで以上に感じられるようになったことです。自分たちが誌面を作るようになったことで、受け取った原稿をただ載せるのではなく、たとえ小さい記事ひとつでも“これを読んだ人がどう思うのか”を考えたうえで、テキストの言い回しやレイアウトをより工夫するようになりました」

内製化は市とそこに暮らす人たちとの距離を縮めることにも一役買っています。誌面の作りかたが変わったことで、広報誌そのものの内容もまた変化していったのです。

「内製化をする以前は、特集ページでも行政に関するものが多く、“街の人の顔があまり見えないな”と感じていましたし、市民の方がたくさん登場する特集を作られているほかの自治体の広報誌を見ては、“こういうものを行政の広報誌に載せることはすごく意味がある”“街を好きになるきっかけになりそうだ”とも思っていたんです。
内製化すらできていない時点だと、誌面をどういうふうに作ったらいいかもわかりませんでしたが、内製化によって自分たちが企画から取材、執筆、レイアウトまでできるようになったことで、こうした企画も積極的に行なえるようになりました」

「広報きたもと」2022年6月号

「広報きたもと」2022年6月号より/市と住民が一緒に取り組んだ「&green market」は全国広報コンクールで最高賞の内閣総理大臣賞を受賞

広報誌制作を効率化するInDesignの機能

広報「きたもと」はInDesignでどのように作られているのでしょうか。
秋葉さんに広報誌制作を効率的に進めるために活用されている5つの機能を紹介いただきました。

1.レイアウトグリッド

レイアウトグリッドは冊子レイアウトの基本になる版面を、文字サイズ、1行の文字数、行間、行数等の情報から作成するための機能で、文字や写真をレイアウトする際の目安になります。

「特集は毎月、“この特集に合うのはどんなレイアウトだろう?”と最初に考えます。この誌面は物語のように読んでいただきたかったのでレイアウトグリッドを使って縦4段組みに設定し、上には大きく写真を載せたかったので、あえてグリッドを下に寄せて配置しました。基本的にそのページで伝えるものはないか、何をしたいのかによって、企画ごとにレイアウトグリッドを設定するようにしています」

InDesign レイアウトグリッド

2.マスターページ

マスターページは、レイアウトグリッドのような誌面の基本設計やページ内で共通する要素を登録しておくことで、構成が同様のページを効率的に作るための機能です。

「『広報きたもと』は載せる情報に応じてページの作りを変えています。さきほどの特集面は縦組みですが、情報面は横組み1段組み、3段組みなどのバリエーションがあります。記事ごとにマスターを設定しておくことで、担当する職員が変わっても、安定して誌面を作ることができます。号によってページ数が変わる、構成が変わることもありますが、マスターページがあることで臨機応変に対応することができていますね。
内製化してからは、各課から出してもらう原稿もInDesignのレイアウトにあわせて書いてもらうようにしました。たとえば情報ページなら1行16文字の書式で書いてもらいます。そうすれば原稿を受け取った時点で、InDesignでは何行になるか、ある程度の目星がつけられますから。
どういうかたちで原稿をもらえれば作業しやすいか、負担が少なくなるかがわかるようになったのは、自分たちで誌面を作っているからこそだと思います。職員同士で直接やりとりができるようになったことで、職員の想いが誌面にも反映させやすくなりました」

InDesign マスターページ

3.テキストの回り込み

テキストの回り込みは、画像に文字が重ならないようにする機能で、画像全体に対して設定できるほか、被写体等を自動判別し、そのかたちに文字を避けさせることもできます。こうした機能は広報誌制作でも活用されています。

「この誌面では、人物の顔に文字はかけたくなかったのですが、背景の緑は残したかったので、背景を生かしつつ、人物だけを避けるような設定をしました(輪郭オプション・種類:被写体を選択)。
こうした機能は、毎月発行するなかで少しづつ身につけています。“こんなこともできるんじゃないかな?”と思って検索すると、ほとんどのことができますから。あたらしい機能を覚えるごとに、少しづつ誌面もよくなっていると思います」

InDesign テキストの回り込み

4.表

表組機能はInDesignの特徴的な機能のひとつで、表計算ソフトと同じように、さまざまな表レイアウト、デザインを行なうことができます。行事等多くの情報を扱う広報誌にとっても、表は欠かせない機能のひとつです。

「情報面にある表は、各課から届くオフィスアプリケーションのファイルからコピーして、InDesignでペーストするだけです。最初はそのままペーストできることを知らなくて、原稿を見ながら手打ちをしていたのですが、あるとき試しにペーストしてみたらそのまま取り込むことができて。すごくありがたい機能ですね」

InDesign 表組機能

5.PDF書き出し

校正用から印刷用まで、さまざまな設定でPDFを書き出せるのも、InDesignならではの強みです。
あらかじめ用途に最適な設定が組み込まれたプリセットも用意されているので、スキルを問わず、印刷に使用可能なPDFを作成することもできます。

「『広報きたもと』では印刷会社からPDF書き出しプリセットをいただいて、PDFで入稿しています。
“このまま印刷される”という状態まで自分たちで作る以上責任も重大ですが、やりがいも感じています。自分たちが作ったデータで印刷された紙を受け取ったときの喜びは本当に大きかったですから。
作った誌面のデータがすべて手元にあるので、デザインをアレンジしてチラシにする、といった応用も可能になりました。これも内製化、PDF入稿のメリットですね」

こうした例からも、内製化はコスト削減だけでなく、自分たちが思い描いたコミュニケーションをより柔軟に、効率的に生み出すしくみ作りにも貢献していると言えるでしょう。それでは、内製化=いいことばかりなのか。秋葉さんがいま感じている課題についても聞きました。

「もっとよくしようと思えば、永遠によくし続けてしまうことでしょうか。触れば触るほどにあたらしい機能に気づいたり、自分なりに使いやすいようにカスタマイズしたり、いろいろなレイアウトを試してみたり。自分が触っているからこそ、アイデアも生まれてくるので、作業の止めどきが難しいですね(笑)」

内製化によって変わる自治体広報誌制作の現場。その効果は、広報誌そのものに留まらず、広報のありかた、街・市民との関わりかたにも波及しています。

「自分で誌面を作るようになってから、自分のなかで広報の仕事の捉えかた、街への向き合いかたも大きく変わりました。街に出て、市民の方々とお話しする機会もどんどん作るようになりましたね。“わたしがこれを作っています”と市民の方にも言えるようになりましたし、そう宣言するからには、本当にいい誌面をしなければという使命感も感じています。
広報誌は、ただ集めた情報を載せるだけではありません。この広報誌を通じて、市民のみなさんにもっと幸せになっていただきたいと思いながら作っていますし、そうした想いが少しづつ伝わっているという実感もあります。それもまた内製化で得られた大きな成果かなと思っています」

自治体によるAdobe CC活用法を紹介するセミナーを開催

埼玉県北本市、愛媛県内子町、青森県むつ市の各自治体は、Adobe CCをどのように活用しているのか。より具体的かつ実践的な内容を紹介するセミナーが開催されます。自治体や企業で広報誌、SNS向け写真、動画制作等の内製化を検討している方のご参加をお待ちしています。
*すでに開催済みのセミナーについてもオンデマンドで配信しています。

月刊『事業構想』×アドビ セミナー
認知度・訴求力向上の秘訣を事例ベースで解説する自治体向け実践講座
「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」

月刊『事業構想』×アドビ セミナー

講座概要・セミナーお申し込み・オンデマンド視聴申し込みは こちら から(参加無料)

第1回「広報誌のクリエイティブ内製化」(開催済み/本記事にて紹介)
[日時]2022年8月3日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん
おもにInDesign を活用した、広報誌制作の内製化について解説。アドビツールの経験がないなかからスタートして、広報誌制作にInDesign をフル活用するまでに至った過程でのポイントや活用方法を中心にご紹介します。

第2回「広報誌・SNS 活用のための写真術」
[日時]2022年8月24日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
広報誌やSNS を活性化させるための写真術について、詳しく解説。Lightroom Classic による活用方法を紹介しながら、写真に注目したことや読まれるため、見られるための工夫についてお話いただきます。

第3回「SNS 向け動画編集の内製化」
[日時]2022年9月21日(水) 13:00-14:00
[登壇者]青森県・むつ市 企画政策部市民連携課広報グループ主任主査 鎌田 隆夫さん
[スペシャルゲスト]青森県むつ市 市長 宮下 宗一郎さん
むつ市が実践しているSNS、YouTube「むつ市長の62 ちゃんねる」の取り組みや制作について、宮下宗一郎むつ市長に直接ご紹介いただきながら、SNS 発信のポイント、Premiere Pro を採用した経緯や活用方法について、詳しく解説します。