Lightroom&Photoshopで町とひとの“想い”が伝わる写真に仕上げる|愛媛県・内子町
さまざまなメディアを活用した情報発信が求められるいま、自治体や企業、個人経営の店舗等、多くの現場でクリエイティブが必要とされています。
デザインやレタッチ、動画制作は、プロに頼まないとできない……そう思う人も多いのではないでしょうか。しかし、こうした既成概念を打ち破り、コスト削減だけでなく、独自のコミュニケーションを作り上げることに成功した自治体があります。ここでは、Adobe Photoshop、Adobe Photoshop Lightroomを活用することで非常に高いクオリティの広報写真を作り出し、住民を巻き込みながら自治体のイメージアップにつなげている、愛媛県・内子町の事例を紹介します。
*この記事は2022年8月24日に開催された月刊『事業構想』×アドビ セミナー「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」実践講座第2回「広報誌・SNS 活用のための写真術」をもとに構成されています。
愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
“ふるさとの香りがする広報誌”を目指して
愛媛県のほぼ中央にある山あいの町・内子町は、農業や林業を基幹産業に約16,000人が生活する小さな町です。江戸時代後期から明治時代にかけて、国内有数の木蝋の産地として栄え、豪壮な屋敷や町家が残る古い町並みは「八日市護国」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されているほか、築100年以上経ったいまも現役の芝居小屋として活躍する「内子座」、棚田百選にも選ばれた「泉谷の棚田」など、古き良き日本の姿をいまなお残しています。
内子町ではおもに広報誌「広報うちこ」と、Instagram「うちコト」を中心に広報活動を展開しており、写真の撮影から広報誌の制作、Instagramアカウントの運用まですべてを内製しています。
こうした活動のなかで、町の魅力、ひとの魅力を伝える手段として力を入れているのが“写真”です。内子町では写真をどのように活用しているのか、力を入れるきっかけは何だったのか。総務課政策調整班広報広聴係長・兵頭 裕次さんに話を聞きました。
「僕は広報担当になって10年になりますが、それまで写真を撮ったこともなかったので、カメラ歴も同じ10年になります。広報活動のなかで写真に力を入れたいと思ったのは、僕がはじめて取材を担当した『広報うちこ』にある『ぼくの夢 わたしの夢』という小学生が夢を語るコーナーがきっかけでした。
そのときの取材相手は小学6年生の女の子だったのですが、当時の僕はカメラがうまく使えなかったこともあり、妥協した写真を広報誌に掲載してしまったんです。広報誌ができあがって、女の子がそれを見たとき、すごく悲しそうな顔をしていて……そのときに気づいたのは、僕にとっては何回もある取材のチャンスでも、相手にとっては一度きり、その写真がすべてなんだということ。それからはカメラの勉強をして、写真に力を入れるようになりました」
前任者からは「毎号毎号、前の号よりいいものをつくればいい」と言われていた兵頭さんですが、前任者のレベルの高さ、ほかの自治体が発行するクオリティの高い広報誌を見ては、“早くそこに到達しないといけない”という焦りがありました。それでも、カメラの技術、レタッチの技術と、ひとつずつ、着実にできることを増やしていきました。
こうした努力が身を結び、2年目に担当した特集が全国広報コンクールで特選を受賞。以降も数々の受賞を果たすようになります。
「2年目に特選をいただくことができたのは、広報誌の素材、つまり町のひとたちのおかげです。出ていただいたひとたちがすばらしかったんですね。この評価をきっかけに全国のひととも出会うことができ、その機会をくれた町のひとたちへの感謝の気持ちを込めて、もっとがんばろうと思うようになりました」
写真を通じて町の魅力を伝え、町のひとたちとも触れ合っていく。こうした出会いを通じて、兵頭さんは一層、写真に力を入れるようになったと言います。
「広報うちこ」は内子町のwebから閲覧・ダウンロードが可能 https://www.town.uchiko.ehime.jp/site/kohouchiko/
写真を効率的に管理し、魅力的に変えるLightroom&Photoshopの機能
日々、膨大な写真データを扱い、データの管理からレタッチまでをPhotoshop LightroomおよびPhotoshopで行なう兵頭さんに、写真をより効率的に選び、魅力的に仕上げる手順と方法を紹介いただきました。
1.プリセット機能を使った基本補正
「ふだん取材で撮影する写真の枚数は100枚、200枚、多いときは1,000枚にもなり、一度見るだけでも時間がかかります。確認にかかる時間をできるだけ短縮したいので、撮影した写真をセレクトする前に、オリジナルのプリセットを使った基本補正を行なうようにしています」
2.写真のセレクトに便利なレーティング機能
「セレクトの段階ではひと通り写真を見ていくなかで、直感で“いいな”と思ったものに星をつけ、不要だと思ったものはファイルごと削除します。最初は多めに星1をつけていき、次は星1の写真だけを表示して、星2、3と絞り込みます。星2、3は誌面に使う可能性、Instagramで使う可能性があるもの、星5をつける写真は自分でもお気に入りのものですね」
3.整理に便利なコレクション機能
「これまでに撮影した大量の写真はハードディスクに日付順で保存されているのですが、それをそのまま、Photoshop Lightroom Classicで読み込み、パソコンとハードディスクを連動させています。
Photoshop Lightroom Classic上ではコレクション機能を使って写真を細かく分類していて、花のなかにさらにアジサイ、ヒマワリ……と種類で分けたり、桜であれば地域ごとに分けたりもしています。
広報誌に載せる写真以外にも、ほかの担当課から“お祭りの写真はありませんか?”というような問い合わせがよくあるので、こうして整理をしておくとすごく便利ですね」
4.クラウド同期・コレクション同期
「内子町では広報誌のほかに、Instagramもやっているのですが、Instagramを使ううえで欠かせないのが、パソコン上のPhotoshop Lightroom ClassicとiPad上のPhotoshop Lightroomのコレクションを同期する機能です。
それまでは、iPadでInstagramに写真をアップロードする際、庁舎内の共有フォルダから探した写真をパソコンからiPadに送って投稿という手順でしたが、コレクションが同期できるようになったことで、パソコンで編集した写真を直接、iPadに同期させることができるようになりました。
Photoshop Lightroom ClassicとPhotoshop Lightroomを導入したことで、こうした作業は以前より格段に早くなりましたし、管理・活用の流れがきれいにまとまるようになったと思います」
5.Photoshop Lightroomのレタッチ機能
「基本的に女性は女性らしく、やわらかい雰囲気になるように、男性は男性らしく、かっこいい感じになるようにPhotoshop Lightroomで調整を加えています。
棚田の写真は、空に合わせると棚田が暗くなりすぎ、棚田に合わせると空が白飛びするという状況でしたが、RAWデータで撮影した写真に対して、Photoshop Lightroomで露光量を上げる/ハイライトを抑える/シャドウを抜く/黒レベルを上げる/明瞭度を上げる/かすみの除去を適用して空をきれいにする/自然な彩度を上げる/中間色をオレンジに寄せるといった処理を行なうことで、Instagramでも映える印象的な写真に仕上げています。
こうしたケースの場合、以前はNDフィルターで減光していましたが、Photoshop Lightroomで調整をするようになってからはフィルターを使わなくても、RAWデータで撮ってさえいれば、目的の写真に仕上げられるようになりました。
レタッチはやりすぎると“手を入れた感”が出てしまいますが、“太陽も棚田も見えていて、水面に雲が反射している”という自分が見た景色はこのイメージなんです。それをPhotoshop Lightroomで再現しています」
6.Photoshopによる合成
「Photoshopを使って、2枚の写真から1枚の写真を作るケースもあります。
この写真では、桜を撮影したときの空の状態があまりよくありませんでしたが、当日の別カットに雲やかすみが少なく、星空が見えるカットがあったので、Photoshopで重ね合わせて仕上げています。
この桜の持ち主の方はいろいろな人に桜を見てほしいという理由でライトアップしていたのですが、2021年に亡くなられたんですね。2022年は息子さんがライトアップを続けてくださっていて、“この美しい風景を作ってくれたことに対する感謝の気持ち”を込めて演出しました」
内子町の広報活動では、広報誌だけでなく、Instagramにも力を入れています。なぜ、町でInstagramに取り組むようになったのでしょうか。
「Instagramは広報誌とすごく相性がいいんです。広報誌作りでふだんやっていることは、Instagramでもそのまま活かすことができるんじゃないかと考えています。
広報誌でもInstagramでも、住民同士、住民と町とのコミュニケーションを生み出したいと思い、#うちコト というタグを作りました。住民の方にもこのタグをつけて投稿してもらうことで、それをもとに取材に行く、写真そのものを掲載する、#内子の夏 のようなタグを追加して投稿されたものを集めて誌面を共同制作する、というような取り組みも行なっています。
Instagramを通じて、内子の日常を一緒に楽しむひとや、熱量・想いがあるひと、みんなで情報交換することで地域の愛着を深めるきっかけになれば、と思っていますし、ちょっとした喜び、発見を気軽に投稿することで、ファンの獲得、地域の力にもなればいいですよね。そのとき必要なのは何よりもコンテンツ=写真だと思うので、Photoshop LightroomやPhotoshopの力を借りて、町の魅力をよりよいかたちで発信しようと考えています」
広報写真において写真はどのような役割を果たしているのでしょうか。最後に伺いました。
「写真には、一枚でも人の心を動かせる力があります。
広報担当のみなさんは広報誌を作るとき、手に取ってもらいたい、ページをめくってもらいたいと思って表紙の撮影をすると思いますが、実際にその写真が読者の心を動かし、読むきっかけをつくることはあると思うんです。表紙だけではなく、中身にもそうした想いのつまったすばらしい写真があれば、それは町の輝きにもなりますし、町の歴史を残すことにもなります。一枚一枚、伝えたいことが伝わるような写真にすることで、広報誌全体もよくなっていくんじゃないかと考えています」
内子町のInstagramページ https://www.instagram.com/uchikoto_official/
自治体によるAdobe CC活用法を紹介するセミナーを開催
埼玉県北本市、愛媛県内子町、青森県むつ市の各自治体は、Adobe CCをどのように活用しているのか。より具体的かつ実践的な内容を紹介するセミナーが開催されます。自治体や企業で広報誌、SNS向け写真、動画制作等の内製化を検討している方のご参加をお待ちしています。
*すでに開催済みのセミナーについてもオンデマンドで配信しています。
月刊『事業構想』×アドビ セミナー
認知度・訴求力向上の秘訣を事例ベースで解説する自治体向け実践講座
「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」
講座概要・セミナーお申し込み・オンデマンド視聴申し込みは こちら から(参加無料)
オープニング「自治体広報の内製化の実態を徹底トーク」
(開催済み・オンデマンド配信中/ Adobe Blog にて紹介)
[日時]2022年7月20日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]PRDESIGN JAPAN株式会社 代表取締役 総務省 地域力創造アドバイザー・自治体広報アドバイザー 佐久間 智之さん
埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん
愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
青森県むつ市 市長 宮下 宗一郎さん
自治体広報アドバイザーの佐久間氏と内製化を実践されている3自治体の広報担当者の皆様が、内製化した背景から実際のメリット・デメリット、活用されるツールなどお話しいただきます。
第1回「広報誌のクリエイティブ内製化」
(開催済み・オンデマンド配信中/ Adobe Blogにて紹介)
[日時]2022年8月3日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん
おもにInDesign を活用した、広報誌制作の内製化について解説。アドビツールの経験がないなかからスタートして、広報誌制作にInDesign をフル活用するまでに至った過程でのポイントや活用方法を中心にご紹介します。
第2回「広報誌・SNS 活用のための写真術」
(開催済み・オンデマンド配信中/本記事にて紹介)
[日時]2022年8月24日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
広報誌やSNS を活性化させるための写真術について、詳しく解説。Lightroom Classic による活用方法を紹介しながら、写真に注目したことや読まれるため、見られるための工夫についてお話いただきます。
第3回「SNS 向け動画編集の内製化」
[日時]2022年9月21日(水) 13:00-14:00
[登壇者]青森県・むつ市 企画政策部市民連携課広報グループ主任主査 鎌田 隆夫さん
[スペシャルゲスト]青森県むつ市 市長 宮下 宗一郎さん
むつ市が実践しているSNS、YouTube「むつ市長の62 ちゃんねる」の取り組みや制作について、宮下宗一郎むつ市長に直接ご紹介いただきながら、SNS 発信のポイント、Premiere Pro を採用した経緯や活用方法について、詳しく解説します。