Trend & Illustrations #13/木内達朗氏が描く「Prioritize Our Planet(この地球を最優先に)」Adobe Stock ビジュアルトレンド

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドレポートして毎年発表しています。2022年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。

第13回目のテーマ「Prioritize Our Planet」を、版画テイストのデジタル作品を中心に国内外で活躍する木内達朗さんに、作品について伺いました。

メガネを掛けた少年
自動的に生成された説明

木内達朗
1966年東京生まれ。 国際基督教大学教養学部生物科卒業後、渡米。ArtCenter College of Design卒業。ニューヨーク・タイムズをはじめとして雑誌、書籍、広告など仕事多数。イラストレーション青山塾講師。

https://tatsurokiuchi.com
https://www.tis-home.com/tatsurokiuchi/

2022年のビジュアルトレンド「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」、「The Centered Self(自分自身を中心に)」、「Prioritize Our Planet(この地球を最優先に)」、「in the groove」の中から、環境問題のテーマ「Prioritize Our Planet」を選んだ理由を教えてください。

迷ったのですが、自分が描けそうだということで、このテーマを選びました。他のテーマは人間の活動、自分や家族などとの関わりがテーマで、自分自身を表現することが重視されているように感じました。でも僕は自分のことを描くのが苦手なんです。

これまでも環境問題に関するものを仕事で描いたことがありますし、自分でも自然や動物には興味があるので選びました。

日頃から環境問題には意識的ということでしょうか?

真面目に考えて行動を起こしているというわけではないんですが、子供の頃から生き物に興味がありました。ザリガニやクワガタを取ったり。その延長のような感じで大学では生物を専攻したんですけど、ちょっと違うかなと思って絵の方に。

木内さんはArtCenter College of Design在学時にアメリカで暮らしていました。アメリカは環境に関して意識が高いように思われますが、住んでいた頃はどうでしたか?

在学中は今のようにネットで情報を得ることができなかった時代ですし、学校が忙しすぎて学校外の活動をやる時間はまったくなくて、肌で感じることはなかったような気がします。

今回描いてくださった作品でまず目を引くのは黄色いナメクジ。このメインモチーフの「バナナスラッグ」※は、エコロジカルなものを象徴する生き物なんですね。

まさにそうなんです。ほとんどの人は知らないと思いますが、絵を見てなんじゃこりゃと、興味を持って調べてもらうきっかけになるといいですね。

※アメリカ大陸西岸に生息するバナナ色のナメクジ。有機物を主に食べ、土壌を良質にする窒素が豊富な排泄物を出す。大きいものでは全長25センチになるものもある。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校のキャラクターに使われたり、カリフォルニアでは1980年代から知られているようです。テーマを選ばれた時、すぐに「バナナスラッグ」に行き着いたんですか?

どんな絵にしようかしばらく迷いました。10年くらい前に、仕事でサンフランシスコの「ミュアウッズ」という国定公園を描いたことがあって。その資料を見ている時に「バナナスラッグ」というナメクジがたくさんいることを知ったんです。ネットで調べるとエコのシンボル的な存在で、この黄色くて大きいやつが、アメリカではマスコットになったりしているのも面白いと思いました。気持ち悪いんだけど役に立つ。面白い生き物だし。そこに魅力を感じていたんです。

その仕事で「バナナスラッグ」を描きたかったんですが、森がメインモチーフだったので、サイズの違いもあって結局描けなくて。いつかこの黄色いナメクジを描いてみたいとずっと考えていたところ、そうだ、今回が描くチャンスだと。

森の腐葉土とかを食べて再生する。それがこのナメクジの役割なので、テーマを象徴するモチーフとしていいと思いましたし、ナメクジが人間の行く末を見ているというような感じがあります。

木内さんがSNSで上げている制作過程を見ていると、構図が途中で変わったりする場合がありますが、今回はどのように構図ができあがったんですか?

最初からイメージが固まってすんなりいく場合もあるんですけど、描きながら考えていくことが多くて、自分なりの面白いところを模索しながら作っています。

今回はしっくりくる構図がなかなか決まらなくてかなり時間がかかりました。森の木とナメクジを一緒に描くにはサイズが違いすぎて難しいので、どうやったらナメクジを大きく見せられるのかをずいぶん悩んだんです。試行錯誤した結果、サイズの違いを意図的に強調しようと思い、装飾的な感じで手前に置きました。背景は白抜きにして、ラベルのような形にして。僕は昔のトレーディングカードとか葉巻のラベルとかが好きなんですけど、そのイメージをダブらせたんです。古い印刷物の網点を入れたりして、レトロな雰囲気も加えています。フォトショップのブラシも研究しました。

ラフ)バナナスラッグが自然環境に及ぼす効果についての考察メモと構成案

テーブル, フェンス, ケーキ が含まれている画像
自動的に生成された説明

制作過程)森林と人物の色と構図を完成させたところ

ㅤㅤㅤㅤㅤ

絵で伝えることの強さ

ドキュメンタリーの映像や写真ではなく、絵で伝える強さ、面白さはどういうところにあると思いますか?

やはりわかりやすさじゃないですかね。説明的になりすぎてもどうかと思いますけど。衝撃的な写真はインパクトはありますが、時間の経過を含めたり、一歩進んで伝えたい内容がある時に、それをわかりやすく見せるという意味では絵の方が機能することもあると思います。伝える情報を整理しやすいんでしょうね。

グリーン, テーブル, ガーデン, 水 が含まれている画像
自動的に生成された説明

ユニクロ/2020年

この作品がストックイラストレーションになるということで留意した点はありますか?

具体的にこの「バナナスラッグ」の記事があって、そこに使用されるというのは考えにくいですが、環境問題に関する記事の象徴的なイメージとして使ってもらうことはできそうだと考えています。

今後もストックのイラストレーションを描くことがあれば、自分自身が興味があって面白い絵が描けそう、かつ、ストックとしても使い道があるように考えていくと、やっぱこういう生き物や自然の絵になるんじゃないでしょうか?

他にも環境問題を想起させる、あるいは関連付けられるような生き物やモチーフがあるでしょうか?

クジラはかなりシンボリックでしょうね。捕鯨問題もありますし。以前クジラを描いた時は海上を行き交う船の騒音で生息しにくくなっている、というような具体的な記事でした。日本でシンボリックなものといえば、うなぎでしょうか? 絶滅しそうって言われてますけど、スーパーでは普通に蒲焼が売られていますね。「未来の日常」というテーマでうなぎの絵を描いたことがあったんでが、僕はいつでも生き物の方から考えていく傾向があります。普通は人間の未来を描きそうですよね。

水, 凧, 鳥, 形 が含まれている画像
自動的に生成された説明 [

The Atlantic/2018年

車, 座る, ブルー, 猫 が含まれている画像
自動的に生成された説明

王子ホールディングス/2021年

環境問題に限らず、描く時に気をつけていることはありますか?

まず、描くものを調べることです。思い込みで描いてしまうと、実は違ったということもありますから。それはモチーフの造形だったり、生態ということもありますが、一通り調べてから描くことをいつも心がけています。

イラストレーターですから自分の主張を絵にするということではなく、見る人がより理解できるように絵で伝えるということを意識しています。

ㅤㅤㅤㅤㅤ

描くことが癒しに

オリジナルの制作はされていますか?

また油絵を描き始めています。集中して描きたいんですが、仕事で中断するので途切れ途切れ。もっとまとまった時間を油絵に使いたいですね。絵具を筆につけてキャンバスに色を塗る、その行為は何か癒し効果があるなと思います。没頭して何も考えずに色を塗るのは楽しいなって、最近あらためて実感します。

油絵を描いてから、デジタルに戻った時に変化はありますか?

顕著な変化はないですけど、デジタルは色も形も自分の思い通りになりますよね。油絵でも自分の頭のイメージを想定して描きますが、なんかちょっと違うんだけどどうすればいいのかわからない、一生懸命描いても自分の理想と違うなっていう思いがあって難しい。でも偶然に面白い形ができちゃったりすることもあって、それはなるべく生かすように心がけています。

いかがでしたでしょうか?洗練された雰囲気と優しさが伝わる吉岡さん作品は「プレミアムコレクション」としてご利用いただけます。プレミアムコレクションをはじめとする写真やイラスト、ビデオ作品は、クレジットパックをご利用いただくことでお得にお求めいただけます。詳しくはこちらの購入プランを御確認ください。また、Adobe Stockでは皆様からの作品も受け付けております。コントリビュータープログラムの詳細はこちらを御覧ください。