【Adobe Education Forum Day2レポート】創造的問題解決能力を育むデジタルリテラシー
今年で10年目を迎えるAdobe Education Forum 2022が2022年8月2日(火)〜4日(木)に三夜連続でオンライン開催されました。8月3日(水)のDAY2「創造的問題解決能力を育むデジタルリテラシー」では、これからの教育のあり方について、社会的な背景から現場の具体的な実践事例に至るまで広く語られ、教育関係者がリアルな思いを交わしました。
社会の変化と共に変わる教育の姿
DAY2は京都精華大学メディア表現学部教授 鹿野利春先生による基調講演で始まりました。鹿野先生は、元文部科学省教科調査官として、新学習指導要領における高等学校情報科の再編等に携わった知見から、Society 5.0が描く社会の姿と学習指導要領に表現された新しい教育観を解説。ますます自動化が進む社会の中で、従来の「知識・技能」を中心とした「仕事に習熟する力」だけでなく、「思考力・判断力・表現力」を中心とした「仕事を創造する力」が重視されることを示しました。
社会の変化とともに求められる力も変化する(鹿野先生スライドより)
さらに、それらの力をつける新しい教育の形として、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させ、「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業改善を行うことが求められていると説明します。
新しい日本型の教育の姿(鹿野先生スライドより)
「こうなると、先生が一斉に授業をするということではもう不可能です。先生方の教え方も変えなければいけない。子供たちの学び方も変わっていかなければいけないというわけです」と鹿野先生。そして、GIGAスクール構想で整備された1人1台のPCは、これを実現するのに必須のツールとなり、教員の仕事は「授業設計」ではなく、子どもたちが学びを深めるためのストーリーを作る「学びの設計」になると示しました。
できるところから始めるPBL
続いて講演した株式会社情報通信総合研究所特別研究員 平井聡一郎先生は、未来の社会が求める人材像をより具体的に解説した上で、「教師主導・一斉教授型の学び」から、「探究型の学び」に移行する必要性を示しました。まずは、子どもたちのアウトプットを増やしクリエイティビティを育むことを提案します。
一斉教授型から探究型への移行イメージ(平井先生スライドより)
アウトプットの可能性を広げるのが1人1台のPCです。ただし、2021年までの活用はまだ従来型の授業スタイルに根ざしたものが多かったと指摘。2022年は「学びの質の転換」が必要であり、それこそが教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の要だとしました。
具体的な方法として、平井先生は段階的に「PBL」に取り組むことを提案します。まず問題解決型のProblem Based Learning(プロブレムベースドラーニング)を教科の中で実施することから始め、中規模、大規模なProject Based Learning(プロジェクトベースドラーニング)に挑戦するというように、できるところから取り組むのです。
大規模なPBLの例として示されたのが、アドビが2021年に開催した「SDGsクリエイティブアイデアコンテスト」です。このコンテストは、SDGsに関する課題解決アイデアを考え、Adobe Spark(現Adobe Express )で動画を含むウェブページにまとめて応募するというもの。同コンテストの評価基準には学校のPBLでおさえるべき流れがまとめられていると平井先生は紹介します。さらに入賞作品を振り返り、「こどもたちの可能性ってすごい、場を与えればこんなにも力を発揮するんだと驚いています」とコメントしました。
紹介された入賞作品の一部(左)小学生ぼくたちにできること〜エコスクール×SDGs~加西市立西在田小学校(右)高校生Connect Bottles!〜SDG12:楽しくペットボトルをリサイクル!〜渋谷教育学園幕張高等学校の作品
高等学校事例1〜映像制作を通して育まれる「生きる力」
DAY2の後半では、現役の高等学校の先生方から、生徒たちのクリエイティブスキルを育てる実践の発表がありました。いずれの学校でもアドビのツールを生徒が利用できる環境が整っています。
工学院大学附属中学校・高等学校英語科教諭 中川千穂先生は、日頃から講義中心ではなく生徒が自ら活動するプロジェクトベースの授業を行っています。6年前から映像教育にも取り組んでおり、生徒たちはテーマに応じた内容の企画から取材交渉、撮影編集、スケジュール管理などをすべてチームで進めています。
映像制作に取り組む生徒たちの様子(中川先生のスライドより)
保護者からは学習の時間を映像制作に費やしていると見られがちなものの、熱心に映像制作に取り組んでいた生徒は、学習成績も非常に伸びたそうです。「生徒は自分で時間、感情をコントロールし、人の力をどうやってうまく借りるか、困難に出会ったときにとうやって克服するかということを非常にうまく学んでいたのだと思います」と中川先生。社会の変化に対応するには、学校を出てからも一生人は学び続ける必要があるとし、「その変化に対応できる基礎を築くことができたと思っています」と話しました。
高等学校事例2〜「学び方を学ぶ」を身につけPBLで経験を積む
千代田区立九段中等教育学校情報科教諭 須藤祥代先生は、高等学校1年生の情報IでPBLを複数行っています。特に情報デザインの分野では、アドビのツールをフル活用してWebデザイン、CM制作、リーフレット制作に3〜4名のグループ単位で実施。ユーザー分析から始める制作のステップや役割分担の仕方はとても本格的です。制作作業は多岐にわたりますが、ツールの使い方は基本的なことのレクチャーのみで、あまり時間をかけていません。
WebデザインのPBLの流れ(須藤先生のスライドより)
須藤先生は日頃から、「学び方を学ぶ」ということを生徒に伝え、生徒が主体的に学習に取り組むことをサポートしているそうです。「学び方を学ぶ姿勢が身につき、クリエイティビティを発揮できる環境があれば、使い方をすべて教えるよりも、『こんなソフトでこんなことができる』と伝えるだけで、自分でツールを選択して活用していきます」と須藤先生。生徒が自らクリエイティブな学びを広げていくのを感じているということです。
高等学校事例3〜ハイスペックPCがもたらすクリエイティブな環境
東京都立三鷹中等教育学校情報科教諭 能城茂雄先生は、ハイスペックPCをそろえたメディアラボについて紹介しました。2017年から1人1台のPC環境を継続してきた同校では、個人PCのおかげで個別最適な学習環境が広がった一方で、スペックの低さからクリエイティブな用途には利用できず、負荷がかかる作業はコンピューター室のPCを利用するという使い分けがされてきました。コンピューター室でしかできないことをさらに先鋭化したのが、インテルとアドビの支援によるメディアラボです。
メディアラボのPCでミュージックビデオを編集する生徒(能城先生のスライドより)
メディアラボには、ハイエンドPCと大画面の4Kモニタ、Adobe Creative Cloud製品というプロクリエイター向けの環境を備え、マシンパワーを必要とする動画編集がストレスなく高速で行えます。希望する生徒がいつでも使える環境として解放されていて、アドビが導入としておこなった講座をきっかけに、自由な活用が広がっています。能城先生は、コロナ禍の制限の中で生徒がオンライン文化祭などさまざまな映像制作に取り組んだことを紹介。「クリエイティブな環境を自由に使わせることで、生徒はさまざまな活動を行ってくれます」と、学びの環境を整える重要性を語りました。
高等学校の事例を紹介した先生方に共通していたのは、子どもたちは伝えたいことを持っていて、創造する機会や環境を与えることが大切だということです。教員がていねいに説明してツールの使い方を教えるということではなく、アイデアをより深く考え、表現し、発信する機会や環境を用意することが、新しい学びの設計の重要な要素になっているということ浮かび上がりました。
Q&Aセッションの様子。モデレーターの八木早希氏(左)
講演と高等学校の事例紹介に加え、アドビからは、小学校でも活用されているAdobe Expressの機能概要などを紹介し、大変内容の濃いDAY2となりました。大学での取り組みや調査報告をご紹介したDAY3のレポートはこちらからご覧ください。