【Adobe Education Forum Day3レポート 】 社会で活躍するためのデジタルリテラシー

今年で10年目を迎えるAdobe Education Forum 2022が2022年8月2日(火)〜4日(木)に三夜連続でオンライン開催されました。8月4日(木)のDAY3「社会で活躍するためのデジタルリテラシー」では、問題解決や探究の力を社会で発揮するためにその力をどう育むか、大学生の学びに注目しました。

学生がCollege Creative Jamのプロジェクトで得た課題解決の力

はじめに学びの過程を共有したのは、アドビが実施した社会課題解決デザインコンペ「Adobe College Creative Jam 2021」の優勝チームである日本女子大学の学生のみなさんです。同コンペには、全国から23校65チーム168名が参加し、パタゴニア社から提示された「リジェネラティブ・オーガニック(RO)農法に賛同する日本の有機農業者を増やす」という課題を解決するモバイルソリューションのアイデアを考え、Adobe XDでプロトタイプをデザインしました。

優勝チームの日本女子大学家政学部家政経済学科4年生の小沢早紀さん、嘉山絵美さん、宮嶋文子さんは、新規就農者の参入障壁を下げることを最優先課題ととらえ、農地を買いたい・借りたい人と、売りたい・貸したい人をつなぐ農地取得サービス「Norch」というモバイルアプリを提案しました。このアイデアに至るまでの道のりを3人は振り返ります。

College Creative Jam 2021優勝チームの日本女子大学小沢さん、嘉山さん、宮嶋さん

優勝したアプリアイデアは農地取得サービス「Norch」

同コンペは、数ヶ月にわたりワークショップを重ね、Adobe XDの使い方はもちろん、UI/UXデザインに必要なリサーチ、プロトタイプ作成、デザインのプロセスを実際に体験しながら手法と知識を学べるというもの。3人はこのコンペで初めてXDを触り、デザインに取り組みました。XDの使い方自体は初心者でも習得しやすかったものの、苦戦したのはアイデアの構築です。

美術系大学の参加者もいる中、「デザイン経験がない私たちは最初はとにかくアイデアで勝負しようと考え奇抜なアイデアばかり求めていました」と小沢さん。中間講評では、消費者の有機農業への理解を促進するゲームアプリを提案したものの、「どこが課題解決につながるのかわからない」という評価を受けてしまいます。

これが転換点となり、課題と向き合いリサーチを重ねていくことの重要性に気付いたという3人は、再びアイデアを練り直します。たくさんの案から議論を重ねてしぼり込み、さらに大学の授業で学んでいたSTP(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)分析でアイデアを明確にし、農地取得のためのアプリというアイデアにまとめあげました。

STP分析のポジショニングでアイデアの強みを明確にした

XDによるワイヤーフレーム、モックアップ、プロトタイプ制作では、「考えれば考えるほどたくさんの機能をつけたくなってしまいましたが、優先順位をつけて農地探しに必要な機能をかためていきました」と宮嶋さん。最後のフィードバックを受けてさらにブラッシュアップして最終プレゼンテーションに挑み、見事優勝しました。

ワイヤーフレームからモックアップ、プロトタイプに至るまですべてXDで制作

嘉山さんは、同コンペを通して「想像ではなく、社会に実在する問題をリサーチから見つけ出すことが重要だと知りました」と振り返ります。他にも、RO農法についての知識やXDでプロトタイプ化する経験など多くの学びが得られたとし、「これらの経験が社会で活かせるのではないかと思っています」と話しました。

コンペを通じて現実の課題に本格的なステップと手法で挑んだことが、学生のみなさんの力強い経験になったことが伝わってくる報告でした。なお、このコンペの内容は、College Creative Jam 2021実践パッケージとしてオンライン教材化されていて、授業や自習教材として利用することができます。

デザイン思考でビジネスプランを生み出す専修大学の学び

続いて専修大学経営学部特任教授 見山 謙一郎先生が、アドビとのコラボレーションで行ったビジネスプラン創出の講義を紹介しました。バングラデシュ人民共和国の社会課題を見つけ、デザイン思考のプロセスを経て課題解決につながるビジネスプランを考えるという内容です。学生たちはチームで取り組み、最終プレゼンテーションは、オランダでデザイン思考を研究する井上史郎先生とバングラデシュのJETRO事務所と日本の三拠点をつないで行われました。

専修大学経営学部特任教授見山 謙一郎先生、同大経営学部経営学科4年生岡田有莉夏さん、アドビ井上莉沙

見山先生は「デザイン思考というのは人間中心のデザインをどう設計するかということ」と表現。自身の豊富な実務経験をふまえ、「本当にビジネスを成功させるには、人に寄り添うという視点がとても大事」であり、「デザイン思考と経営学は非常に親和性が高い」と説明します。その考えを体現したのが今回の授業です。先生は、現地とつないだインタビュー等を設定し、学生が馴染みの少ない国について徐々に解像度を上げ、最終的に自分ごと化できるよう導きました。

授業に伴走したアドビのエデュケーションエバンジェリスト井上莉沙は、学生同士のディスカッションの様子や発表会の様子を紹介し、Adobe XDが思考やプレゼンテーションのためのツールとして活用され、議論の内容を可視化してその変遷を残すのに役立ったことを示しました。

授業の様子。上段:前方のスクリーンで海外とつながることも(左)。グループディスカッション(右)。下段:見山先生が学生のディスカッションに参加することも(左)。最終発表会(右)

ディスカッションの土台となるテンプレートを用意して、XDが思考ツールの役割を果たした

受講生のひとり、経営学部経営学科4年生の岡田有莉夏さんは、チームのXDファイルを見返して、最終的なビジネスプランとは全く別の案からスタートしたことを思い出したそうです。「デザイン思考で考え抜いたことで、ひっくり返って良いプランになったのだと思います」と振り返り、「ビジネスプランを詰めていけば詰めていくほど、自分たちの固定概念が破壊されるような授業で、とても価値のある時間でした」と話しました。

見山先生はXDのメリットとして、岡田さんが振り返ったように、思考のプロセスを残しておけることをあげます。「大学での学びというのは、最終発表の成果物にあるのではなくて、どういうプロセスをたどって、その結論に達したかということが一番大事なポイントなのですが、プレゼン型の授業では、最終成果物しか残らないということが起こっていました」。XDは、視覚的に複数のアートボードを管理できて共同編集にも強いため、ディスカッションから最終プレゼン資料に至るまで一貫して活用できたのです。

また、XDのようなデジタルツールを与えることで、学生のクリエイティブな力を引き出すことも見込んでいました。「学生は自分の中にあるクリエイティビティを開花させる力を持っていると思うんですね」と見山先生はうれしそうに話します。

岡田さんのチームの発表資料。XDで動きのあるプレゼンテーションを制作した

岡田さんは、まさにそのクリエイティビティを発揮して生き生きと活躍している学生のひとり。アドビのツールを日常的に使いこなし、現在「専大アドビLab」を他の学生と共に立ち上げて、学内でさまざまなデザイン活動を行っています。卒業後は営業職での就職が決まっていて、「営業とクリエイティブをかけあわせて何か面白いキャリアを描けたらと思っています」と話します。社会人としての明るい未来とクリエイティブスキルが広げる可能性を感じさせられます。

アドビ実施の保護者対象意識調査レポート

最後に、アドビが2022年8月に発表した「子どものクリエイティブスキルに関する調査」について、アドビ エデュケーションB2Bマーケティング部長 江口美菜子が報告しました。この調査は、高校生、大学生の保護者を対象に、子どものクリエイティブ・デジタルリテラシーと進路に対する考え方の実態を把握するために行われました。

高校での学びで重視するポイントを聞いたところ、過去に行った大学生対象、企業の採用担当者対象の両調査と比較して、「デジタルリテラシー」が上がり3位に、「課題発見能力」が5位に下がるという特徴が出ました。この保護者の傾向について、「将来『課題発見能力』が重要になると見越した上で、高校段階での学びでは『情報分析能力』、『デジタルリテラシー』のふたつに代表される、課題解決のアプローチに必要なスキルをしっかり身に付けてほしいと考えているのではないか」と江口が解説を加えました。

なお、大学の学びに期待することの1位は「学んだスキルを活かして学生のうちから社会に役立てる経験をする」でした。DAY3で共有された大学生たちの学びはまさにこの通りの経験だったと言えるでしょう。

アドビからは他にも各担当者から、Creative Cloudの自習教材として活用価値の高い「デジタルクリエイティブ基礎講座オンライン版」や、受験生や学生のフォローに活用できるExperience Cloudのソリューション、契約業務などの事務処理で力を発揮するDocument Cloudのソリューションなどの紹介があり、教育DXをより広い視点で捉える機会となりました。

三夜にわたりモデレーターを務めた八木早希氏(左)と調査報告をしたアドビ江口美菜子(右)

DAY1からDAY3を通して、クリエイティブな教育を実現する登壇者の先生や学生にお話をうかがって「クリエイティブ・デジタルリタラシー」をキーワードに教育DXの具体的な姿に迫ったAdobe Education Forum 2022。アーカイブのリンクは近日公開いたします。

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