Premiere Proで広報動画を内製し、行政をより身近な存在に変える|青森県・むつ市
さまざまなメディアを活用した情報発信が求められるいま、自治体や企業、個人経営の店舗等、多くの現場でクリエイティブが必要とされています。
デザインやレタッチ、動画制作は、プロに頼まないとできない……そう思う人も多いのではないでしょうか。しかし、こうした既成概念を打ち破り、コスト削減だけでなく、独自のコミュニケーションを作り上げることに成功した自治体があります。ここでは、Adobe Premiere Pro、Adobe AfterEffectsを活用して、市の情報や取り組みを動画配信することで行政をより身近なものにしている、青森県・むつ市の事例を紹介します。
*この記事は2022年9月21日に開催された月刊『事業構想』×アドビ セミナー「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」実践講座第3回「SNS 向け動画編集の内製化」をもとに構成されています。
左:青森県むつ市 市長 宮下宗一郎さん
右:青森県むつ市 企画政策部市民連携課広報グループ主任主査 鎌田隆夫さん
市長自ら発信する動画で、行政をより身近な存在に
青森県むつ市は本州最北端・下北半島に位置し、三方を海に囲まれ、東京23区のおよそ1.4倍の面積に対して森林が8割を占める、自然豊かな街です。ホタテやタラ、ウニ、アワビといった海の幸にも恵まれ、大間と隣接する土地柄、市内の鮨屋でも“大間のマグロ”を楽しむことができるなど、食を存分に満喫できるのもむつ市ならではの魅力になっています。
そのむつ市では自治体の情報発信のツールとしてYouTubeを積極的に活用。動画の企画、演出から動画制作までをむつ市長自らが主体となって手がけることで、行政の情報をすばやく、かつ親近感を持って伝えることに成功しています。
むつ市公式YouTubeチャンネル「むつ市長の62ちゃんねる」はどのような経緯で生まれたのでしょうか。むつ市・市長の宮下宗一郎さんに聞きました。
「YouTubeが世の中を席巻しているいま、YouTubeを通じて行政を日常化できないかと考えたのが、『むつ市長の62ちゃんねる』を始めたきっかけです。
自治体の広報の仕方は実にさまざまで、それぞれに工夫をしていますが、YouTubeには“見る人の好みに合わせて新着動画を出してくれる”というアルゴリズムがあります。これをうまく活用できれば、私たち行政の施策や政策を市民のみなさんの日常に浸透させることができるのではないかと思い、YouTubeを使った広報活動にチャレンジしようと考えました」(宮下市長)
むつ市公式YouTubeチャンネル「むつ市長の62ちゃんねる」 https://www.youtube.com/c/mayormutsu62channel/
むつ市公式YouTubeチャンネル「むつ市長の62ちゃんねる」のチャンネル登録者数は、2022年9月現在、1.07万人。むつ市の人口が5.4万人であることを考慮すると、その数の多さが実感できるのではないでしょうか。
「記者会見でも1万人、多いときには3.6万回試聴されるものもありました。みなさんが家族で見ていることも考えると、5万人くらいが記者会見を視聴してくれているとも言えます。そういう意味では“行政の日常化”という当初の目的は現時点でも達成されつつあります。
動画の最後には“いつもポケットにむつ市政”というキャッチコピーを映しているのですが、広報としてYouTube動画に取り組むコンセプトのすべてがここにこめられていると思います。
多くの人にとって市長というのは、どこでなにをしているかもわからない存在かもしれない。それなのに行政のなかで予算や権限を持っていて、市の方向性を決める立場にあります。そういう存在がすぐ側に、言わばポケットのなかにいて、今日どんな活動をしたのか、どんなことを考えているのか、今後どうしていきたいかがわかるというのは、自治体と市民という関係性においてすばらしいことではないかと。私たちがYouTube動画に取り組むのは、むつ市に住む方とそういう関係を築いていきたいからなのです」(宮下市長)
Adobe CC導入で動画編集効率と品質が大幅アップ
市長のメッセージを動画にして届ける。その動画編集実務を担っているのが鎌田隆夫さんです。しかし市長がYouTube活用を決めた時点で、鎌田さんには動画編集の経験がないばかりか、YouTube自体、なじみのないものでした。
YouTubeについて、動画編集について、独学で学びを深めるなかで「むつ市長の62ちゃんねる」開設から半年後の2020年7月にはAdobe Creative Cloud(Adobe CC)を導入。動画編集ソフトをAdobe Premiere Proへと移行しました。その理由はどこにあったのでしょうか。
「動画編集を始めたころはPremiere Proとは別の動画編集ソフトを使っていたのですが、動画編集の方法を検索しても、そのソフトに関する情報はなかなか見つけることができませんでした。YouTubeで動画編集の方法を調べても、YouTuberの多くのがPremiere Proを使っていて、動画編集の解説動画もまたPremiere Proに関するものがほとんどでした。それなら、自分もPremiere Proを使ったほうが効率がいいのではないかと考え、Adobe CCを導入することになりました」(鎌田さん)
Premiere Pro導入の成果はめざましく、制作効率、動画品質は飛躍的に向上。それまでは1週間に2本が限界だった動画編集のペースは、Adobe CC導入直後の週から3本作れるようになり、「編集〜公開までのスピード感が全然違うものになった」と鎌田さんは話します。
動画編集環境のアップデートに合わせて、カメラやマイク、ライト、ジンバルといった撮影機材も積極的に導入し、それまで収録だった記者会見映像はライブへとシフト。必要な情報をよりスピーディに情報を届けることができるようになりました。
こうした取り組みは視聴回数、チャンネル登録者数の増加にもつながり、YouTubeでの収益化基準もクリアし、市の財源のひとつとしても活用していることも注目したいポイントです。
これまで配信した動画は300本超。その数からはむつ市が住民と真摯に向き合い、寄り添っていきたいという、市長の熱い想いを感じることができるのではないでしょうか。
記者会見映像ではスイッチャーを使ってスライド資料等に画面を適宜切り替えている
現在、鎌田さんが動画制作にかける時間は、1本あたりおよそ5時間。収録した映像を10分弱に編集し、音楽、テロップを合成して仕上げています。
撮影にあたっては綿密な撮影計画を立てているわけではなく、その場その場での判断で撮影した素材をもとに制作するケースが多いそうです。しかし、市長の行動や行政としての取り組み、思いついた企画を動画にしていち早く公開するという点から考えれば、最速の手法を採っているとも言えるでしょう。
そしてこのスピード感のある動画配信に貢献しているもうひとつのファクターが、Adobe CCによる動画制作の内製化とPremiere Proのすぐれた編集機能です。実際に鎌田さんが便利だと感じているAdobe CC、Premiere Proの機能について紹介をいただきました。
「むつ市長の62ちゃんねる」で実際に配信されている動画の編集作業画面(Premiere Pro)
1.ジャンプカットでよりテンポよく見せる
Premiere Proでは動画素材(クリップ)のうち不要な部分をカットしてつなげる“ジャンプカット”を簡単に行なうことができます。
「YouTube動画では多用される手法ですが、ちょっとした“間”の部分も切っていくことで、おもしろみが出てくると思っています」(鎌田さん)
2.会話のトーンをフォントで演出
Premiere Proならテロップのフォントや色、サイズを自由に、簡単に変更することができます。Adobe CCユーザーなら誰でも自由に使えるクラウドフォントサービス「Adobe Fonts」と組み合わせて使うことで、よりテロップ表現の可能性を広げることができるでしょう。
「その時々の映像をもとに“ここではやわらかい感じのフォントがいいんじゃないか”、“ドキュメンタリー番組のような映像だから、硬いフォントがよさそうだ”、ということを考えながら、フォントのイメージで映像を演出するようにしています」(鎌田さん)
3.オーディオ情報でクリップを同期
Premiere Proでは動画のオーディオ情報をもとに、複数あるクリップの再生位置を合わせることができます。
「以前は波形を見て、自分の耳で聞きながら合わせていました。それから比べるとものすごい進化ですね、革命的です」(鎌田さん)
4.複数台のカメラを切り替える「マルチカメラ」
シーンに合わせて複数のカメラ映像を切り替えるには、Premiere Proのマルチカメラ機能が役に立ちます。
「音声でもそうでしたが、以前は複数のクリップを合わせるために、映像を切り替えながら調整をしていました。Premiere Proのマルチカメラ機能なら複数のカメラ映像を確認しながら、使うトラックをスイッチができる。すごく簡単にマルチカム編集できるようになりました」(鎌田さん)
5.自動文字起こしとキャプション生成
Premiere Proではオーディオ情報に含まれる音声を自動的にテキストに変換する機能が搭載されています。再生位置と合わせて文字をキャプションとして表示することもでき、映像に合わせてイチからテキストを入力する必要はありません。
「映像を撮って編集を始めるタイミングで、まず自動文字起こし機能を使ってすべてのキャプションを作るようにしています。そのまま使えるところは使い、文字を動かしたいときはそのテキストをもとにテロップを作り直すというように使い分けています。
これは本当に便利で、文字起こしとしてもすぐれた機能なので、会議の議事録作成にも活用しています」(鎌田さん)
6.After Effectsと組み合わせて文字を動かす
鎌田さんがPremiere Proと組み合わせて使っているのが、Adobe After Effects。動画のオープニングアニメーション作成などに使用しています。
「アニメーション部分はイチから作っているわけではなく、無料のテンプレートを使って文字部分だけを変更し、BGMをつけて、Premiere Proに組み込んでいます」(鎌田さん)
すでにアニメーション設定が組み込まれたテンプレートやプリセットが数多く用意されているのも、After Effectsのメリットのひとつ。鎌田さんはこうしたツールを最大限に活用し、動画を魅力的なものに変えています。
言わば、市長の鶴の一声で始まったむつ市の広報動画配信ですが、Adobe CC導入を含めた内製化により、ほかの自治体にはない、オリジナリティあふれる広報活動を展開しています。YouTubeでの広報動画配信は、むつ市にとってどのような役割を果たしているのでしょうか。宮下市長に伺いました。
「私たちはYouTubeを通じて施策や政策、イベントなどをお知らせしていますが、本当に伝えたいことは、考えかたや哲学、あるいはその温度なんです。特に温度感というのは行政が市民のみなさんに伝えるのが難しい分野です。
紙、ホームページ、LINE等を使っても、文章という非常に“冷たい”ものしか届けられません。ところがYouTube動画なら、ストーリーを持って動画を作り、景色やセリフを洗練させ、私自身が語りかけることで、“こういうふうに力を入れているんだな”ということを“熱く”伝えられるかもしれない。
YouTubeで情報発信を続けているのは、その可能性を大事にしたいからなんです」(宮下市長)
むつ市が配信する動画コンテンツ。サムネールからもそのバリエーションの豊富さがうかがえる
追加開催決定!自治体によるAdobe CC活用セミナー
埼玉県北本市、愛媛県内子町、青森県むつ市の各自治体は、Adobe CCをどのように活用しているのか。具体的かつ実践的な内容を紹介するセミナーを4回にわたって開催してきました。すでに開催済みのセミナーについてはオンデマンドで配信していますので、自治体や企業で広報誌、SNS向け写真、動画制作等の内製化を検討している方はぜひ視聴をご検討ください。
また、10月13日には内部決裁から必要なツールまで、内製化にあたって必要となるノウハウを紹介するセミナーの追加開催が決定しました。内製化をどのように進めたらいいのか、お悩みのみなさまのご参加をお待ちしております。
月刊『事業構想』×アドビ セミナー
認知度・訴求力向上の秘訣を事例ベースで解説する自治体向け実践講座
「自治体広報をクリエイティブ内製化で変革!」
緊急開催「自治体広報における内製化のはじめ方 〜内部決裁編〜」[日時]2022年10月13日(木) 13:00-13:45
[登壇者]PRDESIGN JAPAN株式会社 代表取締役 総務省 地域力創造アドバイザー・自治体広報アドバイザー 佐久間 智之さん
いざ内製化をスタートするにあたり必要となる内部決裁から、そろえるツールまで、自治体広報内製化の先駆者であり、多数の自治体の内製化を成功に導かれている、コンサルタントの佐久間氏を講師に、自治体ご担当者の新しい挑戦を支援するノウハウをご提供します。
講座概要・セミナーお申し込み・オンデマンド視聴申し込みは こちら から(参加無料)
[過去の開催情報]
オープニング「自治体広報の内製化の実態を徹底トーク」(開催済み・オンデマンド配信中/ Adobe Blog にて紹介)
[日時]2022年7月20日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]PRDESIGN JAPAN株式会社 代表取締役 総務省 地域力創造アドバイザー・自治体広報アドバイザー 佐久間 智之さん
埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん
愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
青森県むつ市 市長 宮下 宗一郎さん
自治体広報アドバイザーの佐久間氏と内製化を実践されている3自治体の広報担当者の皆様が、内製化した背景から実際のメリット・デメリット、活用されるツールなどお話しいただきます。
第1回「広報誌のクリエイティブ内製化」(開催済み・オンデマンド配信中/ Adobe Blogにて紹介)
[日時]2022年8月3日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]埼玉県・北本市 市長公室シティープロモーション・広報担当主任 秋葉 恵実さん
おもにInDesign を活用した、広報誌制作の内製化について解説。アドビツールの経験がないなかからスタートして、広報誌制作にInDesign をフル活用するまでに至った過程でのポイントや活用方法を中心にご紹介します。
第2回「広報誌・SNS 活用のための写真術」(開催済み・オンデマンド配信中/Adobe Blogにて紹介)
[日時]2022年8月24日(水) 13:00〜14:00
[登壇者]愛媛県・内子町 総務課政策調整班広報広聴係長 兵頭 裕次さん
広報誌やSNS を活性化させるための写真術について、詳しく解説。Lightroom Classic による活用方法を紹介しながら、写真に注目したことや読まれるため、見られるための工夫についてお話いただきます。
第3回「SNS 向け動画編集の内製化」(開催済み・オンデマンド配信中/本記事にて紹介)[日時]2022年9月21日(水) 13:00-14:00
[登壇者]青森県・むつ市 企画政策部市民連携課広報グループ主任主査 鎌田 隆夫さん
[スペシャルゲスト]青森県むつ市 市長 宮下 宗一郎さん
むつ市が実践しているSNS、YouTube「むつ市長の62 ちゃんねる」の取り組みや制作について、宮下宗一郎むつ市長に直接ご紹介いただきながら、SNS 発信のポイント、Premiere Pro を採用した経緯や活用方法について、詳しく解説します。