KU「感覚的に使える、楽しく描けるAdobe Fresco」Adobe Fresco Creative Relay 31
アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募は簡単、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートにハッシュタグをつけて投稿するだけです。
10月のテーマは「かぼちゃ」。この季節、かぼちゃと聞いてまっさきに思い浮かぶのはハロウィンではないでしょうか。大きなかぼちゃをくり抜いて顔に見立てたジャック・オー・ランタンはいまやハロウィンに欠かせないキャラクターになっています。そんなかぼちゃにまつわるシーンをAdobe Frescoで描き、 #AdobeFresco #かぼちゃ をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第31回は映像のワンシーンを切り出したような、時間、空間を感じさせる絵を作り出す、KU(ケーユー)さんに登場いただきました。
かぼちゃに乗り、夜空を舞う魔法使い
「こっちのほうが乗りやすい」(2022)
「“かぼちゃ”というテーマをいただいて、まず思い浮かんだのは“ハロウィン”のイメージです。ハロウィンといえば“魔法の世界”という印象が強かったので、魔法使いを取り入れることまではすぐに決まりました。
かぼちゃと魔法使い、ふたつのモチーフを描くにあたって、“魔法使いはホウキに乗るのがあたりまえのようになっているけれど、なぜホウキなんだろう”、“かぼちゃのほうが丸くて乗りやすそうだし、お尻が痛くなることもなさそう”……と考えをめぐらせているうちに思いついたのが、“かぼちゃに乗った魔法使いを描いたらおもしろいかもしれない”というアイデアでした。かぼちゃも普通は地面にオブジェとして置かれているだけですが、魔法でかぼちゃを空に浮かせて、躍動感のある動きを持たせることで、絵に迫力を持たせています」
「museum」(2021)
デッサンを学び、世界を見る目が変わった
奥行きのある空間構成と緻密な描写で、物語のワンシーンを切り取ったような絵を描くKUさんは、どのような環境で育ち、絵と触れ合っていったのでしょうか。幼少期の記憶を振り返ってもらいました。
「親が言うには、僕は生まれてすぐに絵を描き始め、とにかく絵ばかりを描いているような子どもだったそうです。小学校に上がっても、“学年にひとりはいる、絵がすごく上手な子”という位置付けで、みんなによく“〜を描いてよ”と頼まれては絵を描いていましたね」
KUさんが幼少期から絵に打ち込み続けることができたのは、家の中で美術やアートが身近な存在だったことも関係しているのかもしれません。
「家の中には母が描いた油絵や刺繍アートも飾ってあって。小さな頃は画家が描いたんだろうなと思っていた絵が、実は母が描いたものだったと後になってわかってびっくりしたこともあります(笑)。
家には油絵具、水彩絵具もありましたが、子どもの頃はそれに気づくこともなく、色鉛筆やコピックで絵を描いていました」
実家に飾られている母親が描いた一枚。KUさんにとって絵は日常的なものだった
KUさんにとって、母親は絵の先生のような存在でもありました。
「僕が絵を描いて母に見せると、必ず褒めてくれました。それだけではなく、“ここがうまく描けない”と質問すると描きかたを教えてくれましたし、“ここはあまりうまく描けていないね”と言って、その解決方法を教えてくれることもありました。
保育園から小学校、中学校に上がっても、同じような感じで絵を見てくれて……それはいまでも変わっていません(笑)。これまでもこれからも、僕にとって母は絵の先生なんです」
当時描いていたのは「ONE PIECE」や「ポケットモンスター」といったマンガやゲーム、アニメのキャラクター。それまでの経験と学びで見たものをそのまま描くことができたKUさんでしたが、あるときを境に突然、絵を描くのをやめてしまいます。
「中学生になっても自分で描きたいものを描いたり、頼まれて絵を描くことは続けていたのですが、中学の終わりから高校のはじめのあたりで、急に絵を描くのがしんどいと感じるようになったんです。
美術の時間に絵を描くのは変わらず楽しむことができました。でも、空いた時間に趣味で絵を描く、頼まれて絵を描くということからは、意識的に遠ざかるようにしていました」
当時のことを“停滞期”と言うKUさん。「自分が描きたい/表現したいものとは違うものばかり、頼まれて描き続けるうちに、“絵を描くこと”そのものに疲れてしまった」と当時を振り返ります。
「夜浴び」(2021)
しかし、高校2年のとき、KUさんに再び筆を取らせる出来事がありました。それがデッサンとの出会いです。
「母は高校に上がるときにも“美術高校に進んでみない?”と提案してくれたのですが、当時の僕は“美術だけ学ぶのはいやだな”と思って断ったんです。
高校2年になって、そろそろ大学受験を考えるタイミングになったとき、母に“一度でいいから地元の美術予備校の体験会に行ってみよう”と誘われて行ってみたのですが、そこでデッサンを教えてくれた先生がとにかくおもしろくて、教えかたもユニークで……“鉛筆デッサンっておもしろい!”と衝撃を受けました。それがきっかけになって、また美術の世界にのめり込むようになりました。
それまでは独学+母に教えてもらうことが、自分にとってのすべてでしたし、絵をそのまま写し描くことはできても、それは写真のように模写しているだけにすぎませんでした。でもデッサンを学ぶようになってからは、モノと空間を構造的に、論理的に捉えることができるようになりました。“ここから光が当たるから、この面はこう見える”“こう光が当たるときはこう描く”……そうした理屈を教えてもらったことで、世界の見えかたが変わったんです。それはまるでそれまでの常識を真っ向から打ち砕かれるような経験で、自分にとって本当に大きな変化でした」
高校3年のときに描いた鉛筆デッサン
それから一路、美大受験へと突き進む日々。“目指すなら一番の学校を”という理由で、目標を東京藝術大学に定め、学校が終わると予備校で夜まで描いて講評を受け、さらにその絵を母親にも見てもらってアドバイスを受けるという生活が始まりました。
美術予備校の先生と母親が指摘することは必ずしも同じではありませんでしたが、そうした異なる視点からの講評もまた、KUさんの力の糧となっていきました。
「美術予備校の先生は受験に向けた専門的なところから指摘するのに対して、母はより一般的な視点から意見を言ってくれました。多くの人に共感してもらえる絵を目指すなら、どちらの意見も大切だと思っていたので、言わば二段構えの講評はとても勉強になったと思っています」
受験直前には地元・宇都宮から都内の美術予備校にも出向き、講評は三段構えに。万全の準備で受験に臨み、晴れて東京藝術大学の合格を勝ち取りました。
描いては講評を受ける日々……その言葉は決して口当たりのいいものばかりではありません。それでもなお、挫けずに立ち向かい続けたからこそ、辿り着くことができた場所でした。
「講評で自分が足りない部分を言われるほど“もっと上を目指したい”、“何も言われないくらいのものを描いてやろう”という気持ちだけは持ち続けていました。いま振り返ると、自分でもよくやっていたなと思いますが、やっぱり絵を描くこと、美術を学ぶことが好きだったんですよね。そのときの経験はいまに生きていると思っています」
「夏」シリーズ…「青空」「白昼夢」「楽描き」「さらば夏」(2022)
アナログの技術を活かし、デジタルならではの表現を模索
いまでこそデジタルツールで多くの魅力的な絵を描き続けているKUさんですが、デジタルイラストの経験はまだ3年未満。絵を再開した高校2年のときから受験までの間、すべての時間をアナログで描くことに費やし、イラストの類も一切描くことはありませんでした。
「デジタルで絵を描き始めたのは、大学一年の、長い冬休みに入ったときです。イラストならパソコンとタブレットがあればできるし、それまで培ってきたノウハウはデジタルでも活かせるんじゃないかと。
ただ、実際に描こうとすると、どう描いたらいいのかすらわからない。これまで学んでいた絵と工程や意識すべきポイントがまるで違うんです。線画の有無もそうですし、写実的である必要もない。こんなにイラストって難しいんだと思いました。当時はデジタルで絵を描くことに慣れるため、そしてイラストの描きかたになれるために、とにかく絵を描いてはSNSにアップするを繰り返して。
最初の頃の絵はいまでもpixivに残っています。二次創作ばかりで画風もいろいろですが、この頃はとにかく“デジタルで絵が描けるのかどうか”を模索しながら、描きかたを試行錯誤していました。いま見ると“うわ……”と思うものばかりですが(笑)、自分の積み重ねそのものなので、消さずに残しています」
ツールにも慣れ、デジタルイラストの表現にも慣れてくると、KUさんは少しずつ、自分の好きなもの、好きなモチーフを取り入れたオリジナル作品にも取り組み始めます。
いくつか転機となった作品を紹介しましょう。
「2020年10月に描いたブーツの絵は、自分が表現したいものとモチーフがカチっとマッチした1枚です。フォロワー1万人達成を記念して描いた作品でしたが、この絵を描いたことで“この人はオリジナルイラストを描く人なんだ”と認識してもらえましたし、フォロワーが大きく増えるきっかけになったと思います」
無題(2020)
「2021年にTwitterにアップした3枚の連作『天姿』は、自分のなかでもターニングポイントになったと言える作品です。それぞれの絵が魅力的に見えることはもちろんですが、3枚をつなげたときにストーリーが浮かび上がり、投稿としても美しく見せることができました。それからは、バラバラにイラストをアップしていくのではなく、ひとつの世界観のなかで物語を紡いでいくようなイラストを描くようになりました」
「天姿」(2021)
変わっていったのは絵の見せかただけではありません。描きかたもまた着実に進化を遂げていきました。
「2020年の『羽ばたく』はイラストを描く工程、そのものが変わった作品です。それまでは自分のなかで思い描いたイメージをラフとして描いていたのですが、このときから背景、構図をまず写真に撮り、空間の構造を理解してから描くようになりました」
「羽ばたく」(2020)
写真から構造を読み取り、構図、奥行き感、陰影に反映させる……そこにはデッサンで培った空間とモノの関係を正確に把握する技術が活かされていることは想像に難くありません。
進化を続けるKUさんのイラストを見て、Twitterのフォロワーは日に日に増えていき、その数は11万を超えるまでになりました。そうしたつながりのなかで、イラストの依頼も届くようになり、現在では装画やMV、ゲームイラスト等、幅広く活動をするまでになりました。
デジタルイラストを描き始めて、わずか2年と少し。それまでに積み上げてきた基礎、絵に対する情熱はイラストの世界で大きく開花したのです。
左:夢見里 龍『死者殺しのメメント・モリア』メディアワークス文庫/発行:KADOKAWA(2021)
右:雨咲 はな『黒塔の眠れる魔術師 囚われの娘と知られざる禁術』富士見L文庫/発行:KADOKAWA(2022)
描いていて冒険感があるAdobe Fresco
KUさんのふだんの制作環境はMac+液晶タブレット(Wacom Cintiq)ですが、外出先でイラストを描くときにはiPadを使用しています。今回、iPad+Adobe Frescoでイラストを描いた感触はどうだったのでしょうか。
「Adobe Frescoの噂は以前から耳にしていて、“油彩、水彩の再現度が高い”ということは聞いていたのですが、基本的にイラスト作業はデスクトップで行なっているので、手を出せていませんでした。
今回、初めてAdobe Frescoを使ったのですが、使いかたを調べたり、説明を読んだりしなくても、すぐに直感的に描き出すことができました。水彩の色のにじみも難しいことを考えなくても、いい感じの色合いにできあがるのがよかったですね。感覚的に絵を描きたいというときに、Adobe Frescoはすごくいいツールだと思います」
KUさんの作業環境
再現度の高さゆえに、狙った色になるとも限らないAdobe Frescoの水彩表現ですが、KUさんはそれすら楽しんでいます。
「必ずしも思った通りにならないこともAdobe Frescoのよさじゃないかと思っていて。色をしっかりとコントロールしながら描くときよりも描いていて冒険感がある。楽しみながら描けたのはそれも要因じゃないかな」
プロのイラストレーターとして活躍を続けるKUさんですが、いまはまだ大学生。東京藝術大学美術学部デザイン科に在籍しながら映像やアニメーションにも取り組んでいます。卒業後はイラストレーターとして活動するのか、それ以外の道を選ぶのか。最後に伺いました。
「今後は大学院に進んで、映像分野の学びを深めつつ、引き続きイラスト制作も続ける予定です。
いつか、アニメーション作品を作ってみたいという野望もあります。アニメーションとイラストは近い分野とも言えるので、両立しながら活動していけたらいいですね。大学にいるうちに、いろいろなことを学んでいきたいと思っています」
KU(ケーユー) Twitter|https://twitter.com/KeeUUU_
pixiv |https://www.pixiv.net/users/44212620